レーダー

レーダーの仕組み?

レーダーは無線周波数 (RF) センサーで、視野内のオブジェクトを検出し、オブジェクトの距離、速度、方位角と仰角の方向を判断します。天候状況の判断、オブジェクトの画像の生成、オブジェクトタイプの特定にもレーダーが使用されています。MATLAB®Radar Toolbox を使用すると、システム エンジニアリングから信号処理、データ処理に至るまで、レーダーのライフサイクル全体で、解析、モデル化、シミュレーションを行えます。

図 1: MATLAB で Radar Toolbox を使用して、多機能レーダーシステムを設計、シミュレーション、およびテスト。

図 1: MATLAB で Radar Toolbox を使用して、多機能レーダーシステムを設計、シミュレーション、およびテスト。

レーダー方程式とは

レーダーシステムの性能は、多くの場合、特定の検出確率 (Pd) の検出範囲、または特定範囲の Pd によって定義されます。レーダー方程式は、システム設計パラメーター、レーダーの視野内のオブジェクト、環境に基づいてレーダーシステムの性能を予測する関数です。

受信機で受信電力を判断するリンクバジェット解析も、レーダー方程式に基づいています。このタイプの解析は、慣習的にスプレッドシートを使用して行います。あるいは、対話形式のツールである Radar Designer アプリにより、可視化を使用してリンクバジェット解析を実行できます。ユーザーはこのアプリによって設計のトレードオフを把握し、一連の性能要件に基づいてレーダーシステムを設計できます。

図 2: MATLAB の Radar Designer アプリを使用して、可視化によるリンクバジェット解析を実行。

図 2: MATLAB の Radar Designer アプリを使用して、可視化によるリンクバジェット解析を実行。

レーダーの仕組み

レーダーは、その視野内のオブジェクトや環境からの反射と RF エミッションを捉えて解析します。独自の送信機を使用するか、パッシブレーダーの場合は利用できる別の RF エネルギー源を使用して、監視領域を照らします。このエネルギーは環境内に伝播し、環境内でオブジェクトに当たるか環境内で変化が生じると、さまざまな方向に散乱します。レーダーが受信するこの信号には、ノイズ、他の RF エネルギー源からの干渉、クラッターなど、環境からのその他の信号が含まれます。検出は、信号処理の手法を使用して生成されます。レーダーでは、検出時にデータ処理アルゴリズムを適用してオブジェクトの軌跡と画像を生成し、オブジェクト分類を実行できます。

レーダーの種類

レーダーシステムは、用途に応じて異なる幅広いシステムレベル アーキテクチャで実装できます。以下はその例です。

モノスタティック レーダーおよびバイスタティック/マルチスタティック レーダー

モノスタティック レーダーは最も一般的なレーダーで、送信アンテナと受信アンテナが同じ場所に設置されているという特徴があります。バイスタティック/マルチスタティック レーダーでは、送信アンテナアレイと受信アンテナアレイが、オブジェクトの推定距離に相当する距離だけ離して設置されています。このタイプのレーダーは、送信アンテナの方向に反射するエネルギーが非常に小さく、検出不可能な場合に使用します。Radar Toolbox の統計レーダーモデル、radarDataGenerator を使用すると、モノスタティック モードとバイスタティック モードの両方で確率的検出を行うことができます。

図 3: Radar Toolbox の統計レーダーモデル、radarDataGenerator で使用可能な検出モード。

図 3: Radar Toolbox の統計レーダーモデル、radarDataGenerator で使用可能な検出モード。

パッシブレーダー

バイスタティック レーダーの特殊なケースであるパッシブレーダーには、レーダーシステムに統合されている送信機の代わりに、商業放送または通信信号をエネルギー源として使用するという特徴があります。レーダーシステムが受信した信号を処理、解析し、オブジェクトの検出と追跡を行います。このタイプのレーダーは、エミッションを生成しないため、簡単には検出できません。また、干渉と電波妨害からの回復力があります。Radar Toolbox を使用すると、パッシブレーダーをシミュレーションし、既存の送信機を利用してオブジェクトを特定できます。

図 4: エミッターからパッシブレーダーのセンサーへのエミッションの伝播。

図 4: エミッターからパッシブレーダーのセンサーへのエミッションの伝播。

偏波レーダー

このタイプのレーダーシステムでは、垂直偏波と水平偏波の両方を送信チェーンや受信チェーンで使用し、オブジェクトの検出と分類を行います。偏波レーダーのデータを使用して、オブジェクト検出を改善したり、天気予報のための降水状況や大気状態の分類を行ったりすることができます。偏波レーダーのモデル化には、両方の偏波のシミュレーションと解析が必要です。Radar Toolbox では、直交偏波によってターゲットを検出する場合の偏波レーダーの性能を解析できます。

画像処理レーダー

このタイプのレーダーシステムでは、広い帯域幅の信号を使用し、オブジェクトの高分解能画像を生成します。必要となる広い視野は、フェーズド アレイ アンテナとビームフォーミング手法を使用するか、または合成開口レーダー (SAR) を使用して、監視領域にわたって移動している間に反射エネルギーを捉えることにより実現できます。距離次元と交差距離次元の両方で高分解能を実現するには、距離移動と逆投影を含めて、パルス圧縮技術で距離分解能を改善し、交差距離圧縮法で交差距離分解能を高めます。

レーダーの活用分野

レーダーシステムの設計は、さまざまな産業分野にわたって各種の機能と用途に合わせて調整できます。一般的なレーダーの用途は次のとおりです。

航空管制

空港の航空管制システムの一部として空港監視レーダー (ASR) を使用し、空港付近の航空機を検出して位置を推定します。航空管制では、レーダーシステムを使用して、悪天候の際の最終進入で航空機を支援する場合もあります。

図 5: Sensor Fusion and Tracking Toolbox を使用し、空港の滑走路への最終進入を行っている航空機の逸脱と異常を自動的に検出 (例を参照)。

自動車

車両に搭載したレーダーを使用し、障害物と他の車両、その位置と速度を検出します。自動車には、2 種類のレーダーを使用します。死角の監視と駐車支援には短距離レーダー (SRR) を使用し、アダプティブ クルーズ コントロール、衝突回避、死角検出などの用途には長距離レーダー (LRR) を使用します。Radar Toolbox を使用すると、マルチパスの影響を含む確率的なレーダー検出、クラスター、軌跡を生成できます。

図 6: MATLAB でマルチパスレーダー反射を使用した高速道路車両追跡 (例を参照)。

気象

気象レーダーでは、大気からの反射を捉えて解析し、降水の検出、測定、位置推定を行います。ドップラーレーダーと偏波レーダーは、天気予報に使用される 2 つの一般的なレーダー技術です。ドップラーレーダーは、降水移動の方向と速度の判断に使用されます。偏波レーダーは、降水のタイプの検出や乱気流の測定に使用されます。Radar Toolbox では、気象レーダーの同相/直交位相 (IQ) 信号を生成し、せん断や乱気流などのパラメーターを測定できます。

図 7: Radar Toolbox で速度分散 (せん断または乱気流) を評価するため、測定したスペクトル幅とシミュレーションしたスペクトル幅を比較 (例を参照)。

図 7: Radar Toolbox で速度分散 (せん断または乱気流) を評価するため、測定したスペクトル幅とシミュレーションしたスペクトル幅を比較 (例を参照)。

リモートセンシング

画像処理レーダーをリモートセンシングの用途に利用し、環境や地理空間の情報を提供します。たとえば、衛星通信における合成開口レーダーでは、地表の画像を生成し、水位、樹高、生息域変化などの情報を提供します。地中レーダー (GPR) も画像処理レーダーの 1 つであり、合成開口レーダーに基づき、地質学、考古学、ユーティリティ マッピング、コンクリート検査などの用途のために、表面下の画像を生成します。Radar Toolbox の radarTransceiver では、リモートセンシングの信号処理および画像処理手法の開発に役立つ IQ 信号を生成できます。

航空宇宙、防衛

航空宇宙と防衛におけるレーダーシステムの主な用途は、長距離かつ広い方位範囲でのオブジェクトの探索および追跡です。これらのレーダーは、探索環境に基づいて、対空監視レーダー、海洋監視レーダー、地上監視レーダーにさらに分類されます。これらの用途には、探索、確認、追跡など、複数のタスクを実行できる多機能レーダーを使用します。Radar Toolbox では、周波数およびパルス繰り返し周波数 (PRF) などの設計パラメーターを使用して、柔軟に多機能レーダーシステムをモデル化できます。

MATLAB と Simulink を使用したレーダー

MATLAB と Simulink を使用すると、統計モデリングから物理ベースモデリングまで、さまざまな抽象化レベルで各種レーダータイプの設計、解析、モデル化ができます。Radar Toolbox では、アプリ、関数、アルゴリズムのライブラリが提供されており、これらを利用して次のことが可能です。

  • システム コンポーネントと環境損失を Radar Designer アプリに組み込み、リンクバジェット解析の忠実度を高める
  • 環境クラッターおよびマルチプラットフォームの動きを含めて、現実的なシーンとシナリオをモデル化する
図 8:Radar Toolbox と Mapping Toolbox を使用した、地形上でのレーダー性能解析 (例を参照)。

図 8:Radar Toolbox と Mapping Toolbox を使用した、地形上でのレーダー性能解析 (例を参照)。

  • 統計モデルと物理ベースモデルの両方を使用して、多重反射によるゴーストターゲットの検出と追跡をシミュレーションする

図 9:MATLAB で統計モデルと波形レベルモデルを使用し、多重反射によるレーダーゴーストをシミュレーション (例を参照)。

  • 多機能レーダーシステムの閉ループ レーダー シミュレーションを実行し、適応追跡手法をモデル化してリソース管理の効率を高める

図 10:マネージドレーダーを使用した操縦ターゲットの適応追跡 (例を参照)。

  • 合成開口レーダーの画像を生成し、ターゲット認識のためにディープ ラーニング アルゴリズムを学習させる
図 11:SAR 画像における自動ターゲット認識 (ATR) (例を参照)。

図 11:SAR 画像における自動ターゲット認識 (ATR) (例を参照)。

  • ディープ ラーニング モデルのためのレーダーのデータを合成し、オブジェクトと受信信号を分類する

図 12:ディープラーニングを使用した歩行者と自転車運転者の分類 (例を参照)

参考: Phased Array System Toolbox, 航空宇宙および防衛用レーダー ソリューション, 電子走査アレイ (ESA) レーダー, Antenna Toolbox, RF Toolbox, RF Blockset, Signal Processing Toolbox, Sensor Fusion and Tracking Toolbox, ビームフォーミング, Mapping Toolbox, MATLAB Coder, Embedded Coder, HDL Coder, Fixed-Point Designer