ビームフォーミング

ビームフォーミングとは?

ビームフォーミングは、電波(または音波、超音波)を特定の方向に向けて送信、または特定の方向から受信する技術です。簡単に言うと、「特定の人に特定の物を」という考え方で、ビームフォーミングは、特定の状況に合わせてアレイアンテナの放射を適応させるというものです。単体のアンテナでは、アンテナの種類にもよりますが、一般的に信号は全方位に放射されます。ビームフォーミングを利用することでそのアンテナの指向性を制御することができます。特定の方向に電波を集中的に送信することにより、高品質な信号をより確実に届け、そのエリアの他の送受信機との干渉を避けられる点がメリットとして挙げられます。

ビームフォーミングは、5G、LTE、WLANなどのMIMO無線通信システムを含むセンサアレイを備えたシステムの中核をなしています。また、無線アプリケーションにおけるMIMOビームフォーミングは、基地局とユーザー端末間のデータストリーム容量の増加のために使用することもできます。近年の無線通信システムでは、最適化ベースのビームフォーミング技術がより一般的になっています。

これは、最適化技術を使用してベースバンドシステムとRFシステムの間でシステムアーキテクチャを効率的に分割してコストを削減するハイブリッドビームフォーミングも含まれます。ハイブリッドビームフォーミングとは、デジタル領域およびRF領域にビームフォミングを分割するための技術です。システム設計者はハイブリッドビームフォーミングを実装することにより、柔軟性とコストのバランスを保ちながら、必須とされる性能パラメータを満たすシステムを実現できます。

MATLAB を使用して衛星通信フェーズド アレイ システム用に生成されたビームステアリング。

MATLABを用いた、フェーズドアレイシステムのために生成されたビームステアリング

MATLABを用いた、フェーズドアレイシステムのために生成されたビームステアリング

ビームフォ-ミングの原理

ビームフォーミングを実現するためにはフェーズドアレイアンテナを使用します。複数のアンテナ素子を規則に沿って配列し、位相を調整する事により電波の指向性を制御します。ビームフォーミングを行うためのフェーズドアレイアンテナの基本構成を以下に示します。

ビームフォーミングの基本構成

ビームフォーミングの基本構成

アンテナ素子の配列の仕方は、図の様に直線に並べる直線アレイのほかにも長方形(正方形)に並べる平面アレイ、曲線上に並べるコンフォーマルアレイ等があり、用途に合わせて選択します。上記の図で左から電波がある角度で到来する場合に、素子2では、素子1よりも到達時間が少し遅れるため位相差が生じ、伝播損失と信号経路の違いにより振幅が変化します。この振幅は後段のアンプで、位相は位相器で調整され、同一方向から到達する信号は強め合うよう調整されます。この指向性の調整をアナログ(RF)信号で行なう方法は、アナログビームフォーミングと呼ばれています。

一方で、下図に示すように、RF信号をIFまたはベースバンド信号にダウンコンバートした後に、ADコンバータでデジタルに変換し、信号処理で位相/振幅を制御して、ビームを調整する方法はデジタルビームフォーミングと呼ばれています。

デジタルビームフォーミング

デジタルビームフォーミング

ビームフォーミングの活用事例

ビームフォーミングは、電波、超音波、音波で周波数は異なりますが、アレイ素子を使って、下記の表のように幅広い分野で活用されています。特に、近年の無線通信分野では、第5世代移動通信(5G)向けに、アクティブアンテナでビームフォーミングを行い、多数のユーザーの同時接続が可能となるMassive MIMO技術の開発が進んできています。

ビームフォーミングは、レーダー、ソナー、医療用の画像処理、音声認識等でも幅広く使用されています。ビームフォーマは、センサアレイからの送信信号を特定の方向に集中させるために使用することができます。センサアレイで受信した信号に対して、ビームフォーマはアレイ素子間での信号をコヒーレントに加算して検出を強化します。従来のビームフォーマは固定された重みを適用するのに対し、適応型ビームフォーマは環境に応じて重みを変更します。狭帯域信号の場合、ビームフォーミングはセンサ入力に適切な位相シフトを持つ複素指数を乗算することで達成されることが多い。広帯域信号の場合には、ステアリングは単一周波数の関数ではなく、操作は複数の周波数帯域で行われる場合があります。

  電波 超音波・音波
アレイ
  • フェーズドアレイアンテナ
  • 超音波センサアレイ
  • マイクロホンアレイ
業界/適用機器
  • 航空宇宙・防衛 - 各種レーダー
  • 通信、電機 - 無線基地局機器、無線LAN機器
  • 自動車 - 車載レーダー(ADAS
  • 気象 - 気象レーダー
  • 航空宇宙・防衛 - ソナー(水中)
  • 自動車 - 近距離障害物検知装置
  • 医療 - エコー(超音波診断装置)
  • 漁業 - 魚群探知機(ソナー)
  • 電機 - 自動ドアセンサ

ビームフォーミングの効果

ビームフォーマの開発とアルゴリズムの評価は、無線通信システムやレーダーシステムに求められる性能を満たすための第一歩に過ぎません。性能を評価するためには、ビームフォーミングをシステムレベルのモデルに統合し、パラメータ、ステアリング、チャンネルを組み合わせ総合的に評価する必要があります。また、無線周波数(RF)およびデジタルベースバンドドメインでビームフォーミングを実行する際のシステムレベルでのトレードオフです。これらはすべて、設計プロセスの初期段階で実施しておくことが重要です。

ビームフォーミングの課題

近年、ますます複雑化が進む無線通信システムには、アンテナ設計、デジタル通信、RFといった異なる技術要素が共存し、それぞれの要素がシステムの性能に影響を及ぼし合います。そのため、ビームフォーミングを適用した高精度なアンテナ設計を実現するには、アンテナ部分のみでなく、RF・アナログ特性の影響を十分に考慮しながら、システム全体の設計を進めていくことが重要です。

RFアナログ部とディジタル部は別々に検討されていることが一般的ですが、より高い周波数においては、コスト等の兼ね合いでハイブリッドビームフォーミングの様にRF・アナログとデジタル双方でのトレードオフの検討を実施する必要が出てきます。MATLAB®およびSimulink®は、RF・アナログおよびデジタルを同一の環境で容易に実現できる環境をご提供します。

MATLABおよびSimulinkを使ったビームフォーミング

MATLABおよびSimulinkは、デジタル信号処理のアルゴリズム開発において広く使われており、アナログ・デジタル双方の特性を盛り込んだシミュレーションをサポートします。RF/アナログからデジタル設計までを統一した環境で行うことにより、早い段階で問題点を見つけることができ、設計期間の短縮に繋がります。

アレイ設計やビームフォーミング、到来方向推定アルゴリズムを強力にサポートするPhased Array System Toolbox™は、位相シフト、MVDR、LCMVおよびFrost等のビームフォーミングのアルゴリズムおよびビームスキャン、ESPRIT、MVDR、ESPRIT、MUSIC等の到来方向推定アルゴリズムを提供しています。早期に既存アルゴリズムで試し、独自のアルゴリズムを組む場合のリファレンスとして活用することができます。また、容易にアンテナ設計が可能なAntenna Toolbox™と組み合わせることによって、アレイアンテナで利用するアンテナ素子をAntenna Toolboxで設計したより現実的なアンテナでのアルゴリズム検証に活用いただけます。

ビームフォーミングのシミュレーション例

ビームフォーミングのシミュレーション例

上記のような、デジタル・RF/アナログのシミュレーションに限らず、MATLAB/Simulinkを利用すると、アンテナ設計、アレイアンテナ設計、レーダー設計、通信設計を含むシステム全体のシミュレーションを統一された環境で行うことが可能です。システム全体のシミュレーションを実機(プロトタイプ)検証より前に行うことで、手戻りの少ない開発を実現します。下記の各製品が、無線通信システムの設計をサポートします。

レーダー、通信機器を含むシステム全体のシミュレーション

レーダー、通信機器を含むシステム全体のシミュレーション


参考: 無線通信, LTE Toolbox, WLAN Toolbox, Communications Toolbox, Phased Array System Toolbox, Antenna Toolbox, RF system, ソフトウェア無線, FPGA、ASIC、および SoC 設計, OFDM, massive MIMO, チャネルモデル, レーダーシステム, 5Gテクノロジーの開発, ローカル5G, ミリ波とは