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信号ベースの状態インジケーター

信号ベースの状態インジケーターは、信号データの処理から求められた数量です。状態インジケーターは、システム性能の劣化とともに安定した様式で変化する信号の、何らかの特徴を捉えます。予知保全のアルゴリズムの設計では、このような状態インジケーターを使用してマシンの健全動作を故障動作と区別します。あるいは、状態インジケーターのトレンドを使用して、摩損や他の故障状態の発生を示すシステム性能の劣化を特定することもできます。

信号ベースの状態インジケーターは、時間領域、周波数領域、および時間-周波数の解析を含む、任意のタイプの信号処理を使って抽出することができます。信号ベースの状態インジケーターの例には以下が含まれます。

  • システム性能の変化につれて変化する信号の平均値

  • その存在が故障状態を示す可能性のある、信号の無秩序動作を測定する数量

  • 信号スペクトルのピーク振幅、あるいはピーク振幅が発生する周波数 (こうした周波数領域の動作の変化がマシンの状態変化を示す場合)

実際には、使用するマシン、データ、および故障状態に最適の状態インジケーターを見つけるには、データを調査し、さまざまな状態インジケーターを使って実験する必要が生ずる場合があります。信号ベースの状態インジケーターを生成するために信号解析に使用できる数多くの関数があります。以下の節ではそのいくつかの概要を示します。これらの関数は、アンサンブル データストアから抽出した信号など、配列または timetable 形式の信号に対して使用できます (状態監視と予知保全のためのデータ アンサンブルを参照)。

時間領域の状態インジケーター

単純な時間領域の特徴

一部のシステムでは、時間信号の単純な統計的特徴が、健全な状態から故障状態を区別する状態インジケーターの役割を果たすことがあります。たとえば、システムの健全性が劣化するにつれて特定の信号の平均値 (mean) またはその標準偏差 (std) が変化する場合があります。あるいは、skewnesskurtosis などの信号の高次モーメントを試すことができます。このような特徴を使って、健全動作を故障動作から区別するしきい値を特定するよう試したり、システムの状態の変化をマークする急激な値の変化を探すことができます。

単純な時間領域の特徴を抽出するために使用できる他の関数には、以下が含まれます。

  • peak2peak — 信号の最大値と最小値の差。

  • envelope — 信号の包絡線。

  • dtw — 動的時間伸縮法により計算される 2 つの信号間の距離。

  • rainflow — 疲労解析のためのサイクル カウント。

時系列データにおける非線形の特徴

無秩序な信号が見られるシステムでは、いくつかの非線形プロパティがシステム動作の急激な変化を示す場合があります。こうした非線形の特徴は、ベアリング、ギア、エンジンなどのシステムからの振動および音響信号の解析に役立つことがあります。これらは故障状態の発生前でも生ずる、基本システム ダイナミクスの位相空間軌跡での変化を反映している可能性があります。したがって、非線形特徴を使ってシステムの動的特性を監視すると、ベアリングのわずかな摩損といった潜在的な故障をより早期に特定するのに役立つことがあります。

Predictive Maintenance Toolbox™ には、非線形の信号特徴を計算するための関数がいくつか含まれています。これらの数量は、システムにおける無秩序性のレベルを特徴付けるさまざまな方法を表します。無秩序動作の増加は故障状態の発現を示している可能性があります。

  • lyapunovExponent — 最大のリアプノフ指数を計算します。この指数は隣接する位相空間軌跡の分離率を特徴付けます。

  • approximateEntropy — 時間領域信号の近似エントロピーを推定します。近似エントロピーは信号の規則性または不規則性を定量化します。

  • correlationDimension — 信号の相関次元を推定します。これは信号が占める位相空間の次元の尺度です。相関次元の変化は基本システムの位相空間動作の変化を示します。

これら非線形の特徴の計算は、関数 phaseSpaceReconstruction に依存します。この関数は、すべての動的なシステム変数を含む位相空間を再構成します。

Simulink を使用した故障データの生成の例では、さまざまな故障状態を診断するための候補として、単純な時間領域の特徴とこれら非線形の特徴の両方を使用します。例ではシミュレーション データ アンサンブルの各メンバーの特徴をすべて計算し、結果の特徴テーブルを使用して分類器に学習させます。

周波数領域の状態インジケーター

一部のシステムでは、健全状態と故障状態の区別に役立つ信号特徴をスペクトル解析によって生成できます。周波数領域の状態インジケーターの計算に使用できるいくつかの関数には、以下が含まれます。

  • meanfreq — 信号のパワー スペクトルの平均周波数。

  • powerbw — 信号の 3 dB パワー帯域幅。

  • findpeaks — 信号の局所的最大値の値と場所。信号を周波数領域に変換して前処理する場合、findpeaks でスペクトル ピークの周波数を求めることができます。

振動信号を使用した状態の監視と予知の例では、そうした周波数領域解析を使って状態インジケーターを抽出します。

周波数領域の特徴の抽出に使用できる関数のリストは、状態インジケーターの設計を参照してください。

時間-周波数の状態インジケーター

時間-周波数のスペクトル プロパティ

時間-周波数のスペクトル プロパティは、信号のスペクトル成分の経時的な変化を特徴付けるもう 1 つの方法です。時間-周波数のスペクトル解析に基づく状態インジケーターの計算で使用できる関数には、以下が含まれます。

  • pkurtosis"スペクトル尖度" を計算します。これは、周波数領域で定常ガウス信号の動作を非定常または非ガウスの動作から区別することにより、信号を特徴付けます。スペクトル尖度は静的なガウス ノイズのみが存在する周波数では小さい値を取り、過渡状態が発生する周波数ではより大きい正の値を取ります。スペクトル尖度は単独で状態インジケーターとして使用できます。kurtogram を使用して、pkurtosis で特徴を抽出する前にスペクトル尖度を可視化できます。包絡線解析のような他のツール用の前処理として、スペクトル尖度は最適な帯域幅などの重要な入力を提供できます。

  • pentropy"スペクトル エントロピー" を計算します。これは、情報量の尺度を提供することで信号を特徴付けます。スムーズなマシン動作の結果はホワイト ノイズなどの一様な信号になることが期待されますが、情報量がより多い場合は機械の摩損や故障を示している可能性があります。

転動体ベアリングの故障診断の例では、故障データのスペクトル特徴を使用して、ベアリング システムの 2 つの異なる故障状態を区別する状態インジケーターを計算します。

時間-周波数モーメント

時間-周波数モーメントは、"非定常" 信号、つまり時間とともに周波数が変化する信号を特徴付ける効率的な方法を提供します。従来のフーリエ解析で時変の周波数動作を捉えることはできません。短時間フーリエ変換や他の時間-周波数解析手法によって生成された時間-周波数分布は、時変動作を捉えることが可能です。時間-周波数モーメントは、このような時間-周波数分布をよりコンパクトに特徴付ける方法を提供します。時間-周波数モーメントには 3 つのタイプがあります。

  • tfsmoment — 条件付きスペクトル モーメント。これはスペクトル モーメントの経時的な変化です。したがって、たとえば条件付き二次スペクトル モーメントの場合、tfsmoment は各時点における周波数の瞬間的な分散を返します。

  • tftmoment — 条件付き時間モーメント。これは周波数による時間モーメントの変化です。したがって、たとえば条件付き二次時間モーメントの場合、tftmoment は各周波数における信号の分散を返します。

  • tfmoment — 時間-周波数の結合モーメント。このスカラー量は時間と周波数の両方に対するモーメントを捉えます。

instfreq を使用して、瞬間的な周波数を時間の関数として計算することもできます。

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