低次元化モデリング

低次元化モデリングとは

低次元化モデリング (ROM) とモデルの低次元化 (MOR) は、許容できる誤差の範囲内で必要な忠実度を維持しながら、高次元かつ高忠実度のモデルの計算量を削減する手法です。低次元化モデル (ROM) 使用して作業することで、解析と制御設計を簡略化できます。

エンジニアは、システムレベルのシミュレーション、バーチャルセンサーの作成、制御システムの設計、製品設計の最適化、デジタル ツイン アプリケーションの構築などに、ROM 関連の手法を使用しています。MATLAB®、Simulink®、アドオン製品により、さまざまな計算的手法を用いて正確な ROM を構築できます。

低次元化モデリングを使用する理由

忠実度の高いサードパーティの FEA/CAE/CFD モデルでは、シミュレーションに数時間から数日かかることもあります。このようなモデルで、ハードウェアインザループ テスト、制御設計、システムレベルの解析などを行うと、計算上の大きな課題が伴い、時には実行不可能なこともあります。また、複雑なモデルを線形化すると、忠実度が高くても、アプリケーションの対象のダイナミクスに寄与しない状態を含むモデルになる可能性があります。

このような課題に対処するには、高忠実度のコンポーネントレベルのモデルを、精度と引き換えに計算量を削減した低次元化モデルに置き換えることができます。精度の引き下げは、精度の許容誤差、周波数範囲のほか、そのアプリケーションの重要な特性に基づいて決定します。また、低次元化モデリングは、物理的なセンサーを使用して目的の信号を測定することが現実的でない、または実行不可能な場合に、それらの信号を推定または予測するバーチャルセンサーを作成する際にも有用です。

また、低次元化モデリングを使用することで、運用資産の現在の状態を表すデジタルツインを、高い計算効率、かつ定期的な更新に適した状態で作成できます。

低次元化モデリングの手法

低次元化モデルを構築する手法は、主にモデルベースとデータ駆動型の 2 つに分類されます。

低次元化モデリングの分類と手法

モデルベース データ駆動型
静的 ROM 動的 ROM
  • クレイグ-バンプトン
  • 線形化
  • 平衡化打ち切り
  • 零点-極打ち切り
  • 従来の機械学習モデル
  • ニューラル ネットワーク
  • 曲線近似
  • ルックアップテーブル
  • 長・短期記憶 (LSTM)
  • ニューラル ODE
  • フィードフォワード ニューラル ネットワーク
  • 非線形 ARX
  • Hammerstein-Wiener

モデルベースの ROM 手法では、基礎となるモデルを数学的または物理的に理解していることが必要です。適切な ROM 手法は、モデルの構造と規模に応じて異なります。たとえば、構造力学分野で用いられるクレイグ-バンプトン法のように、特定の PDE ベースのモデル向けに設計された ROM 手法もあります。線形化のような手法では、スパースモデルと非スパースモデルの両方を利用できるため、さまざまなシステム規模に対して汎用性があります。それに対して、平衡化打ち切りは非スパースモデル、零点-極打ち切りはスパースモデルに適しています。モデルベース ROM 手法の種類や選択基準の詳細については、こちらをご覧ください。

データ駆動型は、忠実度が高い元の第一原理モデルから取得した入出力データを使用して、基礎となるシステムを正確に表現する、動的または静的 ROM を構築する手法です。動的 ROM の作成には、低次元化モデリング向け Simulink アドオンを利用して、実験計画法の設定や入出力データの生成、さらには各 ROM 手法に対応したテンプレートで低次元化モデルの学習や評価を行うこともできます。Deep Learning Toolbox™LSTMフィードフォワード ニューラル ネットニューラル ODE などのディープラーニング手法を用いて、動的 ROM を開発することも可能です。動的 ROM を構築する他の手法としては、System Identification Toolbox™ を使用した非線形 ARXHammerstein-Wiener モデルが挙げられます。非線形 ARX モデルでは、Statistics and Machine Learning Toolbox™ で利用可能な機械学習アルゴリズムに基づく回帰関数を使用できます。適切な静的 ROM の作成には、従来の機械学習モデル曲線近似ルックアップテーブル、ニューラル ネットワークを利用できます。

モデルベースやデータ駆動型の低次元化モデルを作成する際には、何を犠牲にするかを判断する必要があります。たとえば、モデルベース ROM を作成する場合、低次元化モデルで特定の周波数を超える系の動的特性を省略しなければならないことがあります。その極端なケースは、低次元化モデルが定常状態のシステム挙動だけを捉え、過渡的で動的な影響を無視する場合です。データ駆動型 ROM を作成する場合は、モデルの物理的な解釈を犠牲にすることになります。どの ROM 手法を用いて、何を犠牲にするかは用途によって異なります。


ソフトウェア リファレンス

モデルベースの低次元化モデリング

データ駆動型の低次元化モデリング


参考: Simscape Multibody, Control System Toolbox, Simulink Control Design, Partial Differential Equation Toolbox, LSTM の例と用途, サポート ベクター マシン (SVM), Physics-Informed Neural Networks