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線形パラメーター変動モデル

線形パラメーター変動モデルとは

"線形パラメーター変動" (LPV) システムとは、"スケジューリング パラメーター" と呼ばれる特定の時変パラメーターの関数としてダイナミクスが変動する線形状態空間モデルです。MATLAB® では、パラメーター依存の係数を使用して、状態空間形式で LPV モデルを表現します。

数学的には、LPV システムは次のように表します。

dx(t)=A(p)x(t)+B(p)u(t)y(t)=C(p)x(t)+D(p)u(t)x(0)=xinit(1)

ここで

  • u(t) は入力

  • y(t) は出力

  • x(t) は初期値 x0 をもつモデルの状態

  • dx(t) は、連続時間システムでは状態微分ベクトル x˙、離散時間システムでは状態更新ベクトル x(t+ΔT)。ΔT はサンプル時間です。

  • A(p)B(p)C(p) および D(p) は、スケジューリング パラメーター ベクトル p でパラメーター化された状態空間行列です。

  • パラメーター p = p(t) は、モデルの入力と状態の測定可能な関数です。これらは、スカラー量またはいくつかのパラメーターのベクトルで指定できます。スケジューリング パラメーターのセットにより、LPV モデルが定義される "スケジューリング空間" を定義します。

グリッドベースの LPV モデル

LPV モデルの一般的な表現方法として、線形状態空間モデルの内挿された配列として表すことがあげられます。スケジューリング空間で特定数の点が選択され、一般的には規則的なグリッドを形成します。LTI システムが各点に割り当てられ、その点の局所的近傍のダイナミクスを表します。グリッド点間のスケジューリングの位置におけるダイナミクスは、近傍点での LTI システムの内挿によって取得されます。

たとえば、航空機の空力挙動は、多くの場合、入射角 (α) と風速 (V) の値のグリッド上でスケジュールされます。各スケジューリング パラメーターに対して、α = 0:5:20 度、V = 700:100:1400 m/s などのように値の範囲を選択します。(α,V) 値の各組み合わせに対して、航空機の動作の線形近似を取得します。ローカル モデルは、次の図に示すように接続されます。

それぞれのドーナツ形はローカル LTI モデルを表し、曲線の接続は内挿ルールを表します。表面の横座標と縦座標は、スケジューリング パラメーター (α, V) です。

この形式は、"グリッドベースの LPV 表現" と呼ばれる場合もあります。これは、LPV System ブロックで使用される形式です。システム行列の意味のある内挿に対して、すべてのローカル モデルは同じ状態ベースを使用しなければなりません。

LPV モデルのアフィン形式

LPV システム表現を拡張して、変数 dxxu および y のオフセットを使用することができます。この形式を LPV モデルの "アフィン形式" といいます。数学的には、次の式で LPV システムを表現します。

dx(t)=dx0(p)+A(p)(x(t)x0(p))+B(p)(u(t)u0(p))y(t)=y0(p)+C(p)(x(t)x0(p))+D(p)(u(t)u0(p))x(0)=xinit(2)

dx¯(p),  x¯(p),  u¯(p),  y¯(p) は、与えられたパラメーター値 p = p(t) における dx(t)x(t)u(t)y(t) の値のオフセットです。

そのような線形システム配列の表現を取得するには、操作点のバッチ上で Simulink® モデルを線形化します (バッチ線形化 (Simulink Control Design)を参照)。オフセットは、モデルを線形化した操作点に対応します。

linearize (Simulink Control Design) または getIOTransfer (Simulink Control Design) などの関数を呼び出すときに、追加の線形化情報を返すことでオフセットを取得できます。次に、getOffsetsForLPV (Simulink Control Design) を使用してオフセットを抽出できます。例については、昇圧コンバーター モデルの LPV 近似 (Simulink Control Design)を参照してください。

アフィン表現では、スケジューリング空間の特定の点 p = p* における線形モデルは次のとおりです。

dΔx(t,p*)=A(p*)Δx(t,p*)+B(p*)Δu(t,p*)Δy(t,p*)=C(p*)Δx(t,p*)+D(p*)Δu(t,p*)

この線形モデルの状態は、Δx(t,p*)=x(t)x¯(p*) によって全体の LPV モデルの状態 (式 2) と関係付けられます。同様に、Δy(t,p*)=y(t)y¯(p*) および Δu(t,p*)=u(t)u¯(p*) で関連付けられます。

規則的なグリッドと不規則なグリッド

2 つのスケジューリング パラメーター α と β を使用するシステムを考えます。α と β が単調に変動する場合、次の図のような規則的なグリッドが形成されます。状態空間配列には、α 値と β 値の各組み合わせにおける値が含まれます。規則的なグリッドは、値の間隔が一様であるという意味ではありません。

パラメーターが共に変動する場合 (つまり、α と β が一緒に増加する場合)、不規則なグリッドが形成されます。システム配列パラメーターは、パラメーター平面の対角方向に沿ってのみ使用できます。

規則的となるはずのグリッドから特定のサンプルが欠落している場合、グリッドは不規則とみなされます。

モデル配列を使用した線形パラメーター変動モデルの作成

LPV モデルを定義する、状態に整合性のある線形モデルの配列は、状態空間モデル オブジェクトの配列で表されます。モデル配列の詳細は、モデル配列を参照してください。

システム配列のサイズは、スケジューリング空間のグリッド サイズと等しくなります。航空機の例では、α は 0 ~ 20 度の範囲内の 5 つの値を取り、V は 700 ~ 1400 m/s の範囲内の 8 つの値を取ります。(α,V) 値のそれぞれの組み合わせで線形モデルを定義する場合 (つまり、グリッドが規則的な場合)、グリッド サイズは 5 行 8 列になります。そのため、モデル配列のサイズは 5 行 8 列でなければなりません。

スケジューリング パラメーターに関する情報は、SamplingGrid プロパティを使用して線形モデル配列に追加します。SamplingGrid プロパティの値は、スケジューリング パラメーターの個数と同数のフィールドをもつ構造体でなければなりません。各フィールドの値は、スケジューリング空間の対応する変数で想定されているすべての値に設定しなければなりません。

航空機の例では、SamplingGrid プロパティを次のように定義できます。

Alpha = 0:5:20; 
V = 700:100:1400;
[Alpha_Grid,V_Grid] = ndgrid(Alpha, V);
linsysArray.SamplingGrid = struct('Alpha',Alpha_Grid,'V',V_Grid);

LPV モデルを使用した非線形システムの近似

線形モデルを使用して特定の操作条件でシステム動作の近似を行うのと同じ方法で、LPV モデルを使用して操作条件の範囲で動作の近似を行うことができます。LPV モデルを作成するための一般的な手法として、バッチ平衡化および線形化を行った後、状態空間配列のローカル モデルをスタックすることがあげられます。

メモ

線形化により線形モデルを取得する場合、モデルで使用される状態変数を削減または変更しないでください。

動作領域はすべての入力および状態変数で構成されるため、通常は高次元になります。そのような高次元の空間でローカル モデルを生成または内挿することは、一般的には実行不可能です。より簡単な手法として、動作空間の変数の代わりにスケジューリング パラメーターの小さなセットを使用することがあげられます。スケジューリング パラメーターは、元のシステムの入力および状態変数から導出されます。スケジューリング パラメーターの固定値に対してシステムの動作がほぼ線形になるように、注意深く値を選択しなければなりません。このアプローチは、常に可能とは限りません。

次の方程式で記述される非線形システムについて考えます。

x˙1=x12+x22x˙2=2x13x2+2uy= x1+2

スケジューリング変数として p(t)= x˙1 を使用するとします。特定の時点 t = t0 において、以下が成立します。

x˙12x1(t0)x1+2x2(t0)x2x˙1(t0)x˙2=2x13x2+2uy= x1+2

そのため、ダイナミクスは x˙ の特定値の近傍で線形 (アフィン) になります。この近似は、x˙ がサンプリング点 t0 においてノミナル値から大きく乖離していない限り、すべての時間範囲と入力 u の値に対して成立します。入力 u あるいは状態 x1 または x2 でのスケジューリングは、システムの局所的な線形化には効果がないことに注意してください。そのため、これらはスケジューリング パラメーターの適切な候補にはなりません。

このアプローチの例については、LTI システムの配列を使用した非線形動作の近似 (Simulink Control Design)を参照してください。

線形パラメーター変動モデルの応用

マルチモード ダイナミクスのモデル化

LPV モデルを使用して、操作の複数のモード (状態) を表すシステムを表現することができます。そのようなシステムの例には、物体の衝突、オペレーター スイッチで制御されるシステム、乾燥摩擦やヒステリシス効果により影響されるシステムの近似などがあります。例については、LTI 配列を使用したマルチモード ダイナミクスのシミュレーションを参照してください。

シミュレーションを高速化するための代理モデリング

このアプローチは、高速なシミュレーションを実現し、ターゲット ハードウェア コードのメモリ フットプリントを削減し、ハードウェアインザループ (HIL) シミュレーションを行うために、元のシステムの代わりに使用できる代理モデルの生成に有用です。このような代理モデルは、ゲイン スケジュール コントローラーの設計や Simulink のパラメーター推定のタスクの初期化にも使用できます。LPV モデルによる一般的な非線形システムの動作を近似する例については、LTI システムの配列を使用した非線形動作の近似 (Simulink Control Design)を参照してください。

LPV モデルは、Simscape™ Multibody™Simscape Electrical™ Power Systems ソフトウェアを使用して作成されたシステムなど、物理コンポーネント ベースのシステムのシミュレーションの高速化に役立ちます。このアプローチの例については、昇圧コンバーター モデルの LPV 近似 (Simulink Control Design)を参照してください。

参考

| (Simulink Control Design)

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