デジタルツインとは?

仕組み、事例、導入法を分かりやすく解説

デジタルツインは、実際に稼働している物理設備をモデルとして表現したものです。物理設備の情報をIoTなどを活用することでリアルタイムで収集、仮想空間に送り、仮想空間内に物理設備の環境を再現します。このように、デジタルツインではまさに物理設備の双子(ツイン)を、仮想空間上にモデルとして再現します。モデルは現在の設備の状態を反映しており、設備に関連する履歴データを含んでいます。デジタルツインは設備の現在の状態を評価するだけでなく、将来の動作予測、制御の改良、または稼働の最適化に用いることができます。

デジタルツインは、コンポーネント (ポンプなど)、コンポーネントシステム (エンジンなど)、またはシステムのシステム (発電所、製造ライン、車両群など)をモデル化したものです。デジタルツインのモデルには、物理ベースのものもあれば統計的アプローチのものもあります。これらのモデルには運用設備の現在の環境、稼働年数、および設定等を反映させることが可能で、通常は設備から直接、デジタルツインを調整するアルゴリズムへデータをストリーミングします。

デジタルツインは、異常検出、設備管理など、さまざまなアプリケーションで使用されており、ポンプ、エンジン、発電所、製造ライン、車両のフリートなどの活用事例があります。

デジタルツインが重要な理由

デジタルツインを構築・利用することで、稼働システムのインテリジェンス(勝手の良さ)が向上します。設備の実稼働状況を最新に保つことで、設備やより広範なシステムの制御や最適化が可能になります。現在の状態だけでなく、設備の運用履歴を反映させることも可能です。デジタルツインによって、最適化、効率化、自動化、将来の性能評価といったことが可能になります。これらの他に、バーチャルコミッショニング (仮想試運転) や、次世代の設計への活用いったことにも利用することができます。

デジタルツインモデルは、いくつかの分野で一般的に使用されています。

  1. 運用の最適化 - 天候、車両サイズ、エネルギーコスト、パフォーマンス要因などの変数を使用することで、何百何千もの what-if シミュレーションを実行し、現在のシステムの設定値の即応性や調整の必要性を評価できます。これにより、稼働中であっても、システムの最適化や制御を行うことが可能となり、リスク軽減、コスト削減、または様々なシステム効率の向上を達成することができます。

モンテカルロ シミュレーションによるシナリオの検討

  1. 予知保全 - インダストリー 4.0や予知保全のアプリケーション、産業用オートメーションおよび機械用アプリケーションでは、デジタルツインモデルを使用して設備が故障するまでの残存耐用時間(RUL)を見極めることや、機器の保守、修理または交換に最適な時期を把握することができます。

Baker Hughes、MATLAB による予知保全警報システム

  1. 異常検出 -現実の設備が稼働している間はモデルも並行して稼働しており、現実の設備が予想 (シミュレート) とは異なる動作をした場合に、直ちにフラグを立てます。たとえば、継続的に稼働しているオフショア石油掘削装置から、石油会社がセンサーデータをストリーミングしているとします。このとき、デジタルツインモデルは稼働中の動作を監視し、壊滅的な被害の回避を促します。

Simulink Real-Time を使用した石油掘削装置への産業用 IoT プロトタイプの実装画像提供: National Oilwell Varco

  1. 障害の特定 - 異常が起きると、エンジニアまたはシステムが適切な措置を講じることができるように、一連のシミュレーションを実行させ、障害を切り分け根本原因を特定することができます。

燃料制御システムにおける故障の切り分け

  1. スポーツ選手の分析 - 少し変わったところでは、デジタルツインを物理設備だけでなく、人の動きにおいて使用します。各スポーツ選手の動きをデータとして取得し、仮想空間での試合をデジタル上でシュミレーションすることで、例えば監督の戦略策定に活かすことができます。

デジタルツインの3つのメリット

  1. 物理設備データの履歴を蓄積できる
  2. デジタルツインは、仮想空間上に実際の物理設備の履歴を捉えていることが特徴です。現時点での設備の状況を表現するために、デジタルツインモデルは定期的に更新されます。設備に関する過去の状況やデータは、時間が経つにつれて実際に稼働した物理設備の稼働履歴を蓄積していくことに繋がっています。

    デジタルツインの利用用途と対象となる物理設備に応じて、物理設備の稼働履歴として蓄積していくデータは異なります。例えば、デジタルツインをポンプの異常・故障分類に利用する場合、ポンプの正常・異常それぞれの稼働データが記録されます。1台のポンプの稼働データと他のポンプのデジタルツインとの履歴を比較することで、それらが同様の障害の下でどのように作動したかを把握でき、設備効率に対する影響度合いを理解することに繋がります。

  3. メンテナンス戦略の改善に活用ができる
  4. 運用計画とメンテナンス戦略の最適化という点でも、デジタルツインを使用して設備全体を監視することはメリットをもたらします。

    ポンプの1つがもうすぐ故障しそうな場合において、デジタルツインを使用することで、これが設備全体の効率与える影響度合いと、そのコストを分析することが可能です。この分析を行うことにより、たとえば次のプランを実行することができます:

    ・プランA: 交換部品を発注し、部品の到着までポンプの稼働を準最適に調整する

 

交換部品を発注し、部品の到着までポンプの稼働を準最適に調整

    ・プランB: 新しい部品を発注し、追加料金を支払い速達で部品を届け早期のメンテナンスを行う

 

新しい部品を発注し、追加料金を支払い速達で部品を届け早期のメンテナンスを実施

  1. 未来のシナリオをシミュレートし、最適なタイミングでメンテナンスできる
  2. デジタルツインは、物理設備の履歴を把握するだけでなく、将来計画の策定においても有効です。

    デジタルツインを使用することで、未来のシナリオを数百もシミュレーションすることが可能となり、たとえば設備の規模、天気、気温、稼働条件などの変動要因が物理設備に与える影響度合いをシュミレートできます。シュミレーションにより、想定される故障や異常と、その発生時期を先んじてメンテナンススタッフに共有することで、余計なメンテナンスコストをかけることなく、物理設備の運用最適化に活かすことができます。

 

デジタルツインによる未来のシュミレーション、予知保全への適用

デジタルツインの事例:採掘用の油井ポンプ

ここでは、採掘用の井戸サイトを複数所有し、各サイトにはそれぞれ複数のポンプが存在し、ポンプを用いて地中から石油やガスを採取している企業での、デジタルツインを予知保全に適用した事例をご紹介します。ここでのデジタルツインは、ポンプの稼働データに基づいて更新されるモデルを構築することで、ポンプの最新の状況を可視化します。このモデルは常にポンプの最新の状態を捉えています。この企業では、上記のようなデジタルツインを適用することで3つのメリットを得ることができました。

物理設備におけるダウンタイムの低減

ポンプには、バルブ、シール、プランジャー等といった高価な部品が使用されています。それらの故障を事前に予測し未然に防ぐことで、実際に故障した際に発生しうるダウンタイムを低減することができます。

在庫管理の効率化

ポンプに発生した不具合の特定、修理や交換が必要な部品を瞬時に特定することで、部品の在庫管理を効率化できます。

What-Ifシミュレーションによる機器運用の全体最適化

図にある3カ所のサイトでは、同じメーカーで製造され、似た機能を持ったポンプがあります。しかし、天気、気温等の稼働条件の変動に応じて、それぞれのポンプの効率性は異なります。デジタルツインを活用することで、設備全体を監視し、稼働状況をシュミレーションで予測し、各設備の効率性を比較できます。これにより、各機械の運用を全体最適の視点で効率化できます。

採掘用の井戸3サイトが複数のポンプを有する例

デジタルツインの仕組み・作成方法

IoT のアプリケーションによって、デジタルツイン構築に必要なモデルが決まります。デジタルツインモデルには、IoT 設備のコンポーネント、動作、および動的特性が必要です。

モデル化の手法は一般的に二つに大別されます。第一原理または物理モデルに基づく手法 (例:機械的モデリング) とデータドリブンな手法 (例:ディープラーニング)です。また、デジタルツインは様々なモデル化された動作とモデリング手法の組み合わせであるため、用途が特定されるにつれて時間とともに精巧になっていきます。

デジタルツインのモデル化手法 - 第一原理とデータドリブン

モデルは最新の状態に保たれ、稼働中の設備に合わせて調整される必要があり、通常は設備から直接、デジタルツインを調整するアルゴリズムへデータをストリーミングします。その際に、設備の環境、年数、構成などの状況を考慮することができます。

デジタルツインが構築され且つ最新の状態であれば、将来の動作予測、設備の制御改良、稼働の最適化などにさまざまに応用することができます。例えば、設備に搭載されていないセンサーをシミュレートする、将来のシナリオをシミュレートして現在と将来のオペレーションに伝達する、または現在の実入力を送信して現在の稼働状態を抽出するといったデジタルツインの使用方法があります。

モデリング手法①:物理モデリング

未来のシナリオをシミュレーションして、そのシナリオの下で物理設備がどう稼働するのかを監視したい場合、物理モデリングを使用することができます。

例としては、図のような物理モデルがあり、機械部品と油圧部品を接続して作成されます。このモデルではポンプから入力されたデータに基づきモデルが調整され、最新の状態に保たれます。

このモデルを使用して、様々な故障タイプをインプットし、複数ある故障条件の下でのポンプの動作をシミュレーションすることができます。

物理モデリング

モデリングの手法②:データドリブンな手法

データドリブンモデルを使用することで、残存耐用時間(RUL)を推定し、メンテナンススケジュールを最適化できます。残存耐用時間(RUL)とは、故障までの時間、つまりメンテナンスや交換が必要になるまでの設備の余寿命です。物理設備について、故障に至るまでの完全なデータがある場合、類似性モデルを使用することができます。故障時のデータしかない場合は、生存モデルを使用できます。故障データが入手できないが、安全性から超えてはいけないしきい値を把握している場合は、劣化モデルを使用してRULを推定することができます。

残存耐用時間(RUL)推定モデル

モデリングの手法③:物理モデリングとデータドリブンな手法を統合したカルマンフィルター

物理モデルから導出した状態空間モデルと入力の時系列データを統合したカルマンフィルタ―と呼ばれる手法でも、デジタルツインモデルを作成することが可能です。ポンプの劣化状況をモデル化し、定期的に更新することでポンプの現在の状態が表されます。

MATLAB と Simulink によるデジタルツイン

MATLAB では、ネットワークに接続された設備からのデータを使用してモデルを定義することができます。Simulink を用いれば、マルチドメインモデリングツールによる物理モデルを作成することもできます。データドリブンなモデルおよび物理ベース(理論ベース)のモデルのどちらであっても、稼働設備のデータを用いた調整は可能であり、デジタルツインとして機能させることができます。そのため、予測、what-if シミュレーション、異常検知、故障の切り分けなどに使用できます。

MATLAB で利用可能なデータドリブンな手法には、機械学習、ディープラーニング、ニューラルネットワークシステム同定などがあります。通常、モデルの学習や抽出には一連のデータセットを使用し、モデルの検証やテストには異なる検証用データを使用します。MATLAB で提供される各種アプリを用いて、自分のアプリケーションにとって最も精度の高いモデリング手法を探索することができます。

対話的に分類モデルを学習、検証、および調整する分類学習器アプリ

Simulink による物理ベースのモデリングでは、第一原理からシステムを設計します。モデルには、機械、油圧、および電気的なコンポーネントを含めることができます。Simulink によるモデルベースデザイン (モデルベース開発、MBD)を利用している場合は、モデルは設計の上流工程からおりてくることもあります。

電力系統の Simulink デジタルツインモデル。グリッドから受け取った測定データを元にパラメーター推定を行い、何千ものシナリオを実行し、エネルギー備蓄の充足度や、グリッドコントローラーの調整要否を判断

最適化手法によりデジタルツインモデルを調整し、データの受信ストリームに MQTT などの標準プロトコルを使用してモデルを最新に保つことができます。

必要であれば、デジタルツインはどこにでも実装でき、例えばエッジコンピューティングノード、OT インフラ、または IT システムなどが考えられます。Azure IoT Hub や AWS IoT などの市販システムに統合することも可能で、必要に応じて API や一般的な統合方法である共有ライブラリ、RESTFul 呼び出しも可能です。

IoT の形態 - 必要な場所にデジタルツインを実装

デジタルツインを使った IoT アプリケーション