バッテリーの熱マネジメントシステム

バッテリー熱マネジメントシステムとは?

バッテリーの熱マネジメントシステムは、温度状態を制御することで、バッテリーが安全かつ効率的に動作しつづけるようにします。バッテリー温度が高いと、バッテリーの経年劣化が早く進み、安全上のリスクが生じます。一方、温度が低いと、バッテリー容量および充電/放電性能が低下します。

バッテリーの熱マネジメントシステムは、温度が高すぎる場合に放熱し、温度が低すぎる場合に熱を供給することで、バッテリーの動作温度を制御します。エンジニアはアクティブ、パッシブ、またはハイブリッドの熱伝達方式を使用して、これらのシステムでバッテリー温度を変調します。アクティブ方式には通常、ファンまたはポンプがあります。これにより、空気、水、その他の液体などの作動流体を移動させて、バッテリーの温度を低下または上昇させます。パッシブ方式では、熱伝導物質を使用したヒートシンクやパイプにより、熱伝達によってバッテリーから熱を逃がします。ハイブリッド方式では、アクティブ方式とパッシブ方式の双方の主要設計機能を組み合わせます。

熱伝達プロセスをシミュレーションするバッテリー熱のソフトウェアモデルを作成することで、エンジニアは設計パラメーターのトレードオフの分析、性能の評価、および制御アルゴリズムの実装が可能になります。MATLAB® および Simulink® を使用することで、さまざまな動作条件でバッテリーパックから安全に最適な性能が得られるようにする、バッテリーの熱マネジメントシステムを設計できます。

Simulink で新しいリチウムイオン バッテリー パックのモデルと経年劣化したもののモデルの熱解析を実行して、耐用寿命末期 (EOL) においても電力、性能、およびパッケージ化の観点で保証基準を満たすバッテリーパックを設計します。

Simulink で新しいリチウムイオン バッテリー パックのモデルと経年劣化したもののモデルの熱解析を実行して、耐用寿命末期 (EOL) においても電力、性能、およびパッケージ化の観点で保証基準を満たすバッテリーパックを設計します。

MATLAB と Simulink を使用すると、次のことが可能になります。

  • バッテリーの詳細な熱挙動をモデル化する
  • 位相を変化させる気体液体、および冷媒などの各種作動流体を使用してシステムを冷却/加熱するためのモデルを構築する
  • モデル化とシミュレーションを使用して、コンポーネントの選択およびコンポーネントのサイズ設定を実行する
  • 各種コンポーネント パラメーターを使用して設計空間を検討し、バッテリーの熱マネジメントシステムの性能を最適化する
  • 極端な温度条件をシミュレーションして、"what-if" シナリオの設計をする
  • 温度変調の監視制御ロジックおよび閉ループ制御手法を設計する
  • シナリオの調査を実施して、各種設計オプションの熱の影響を評価する
  • コストと時間を要するバッテリー ハードウェアを使用したテストを減らすことで、コストを削減する
  • バッテリー熱マネジメント制御用の量産可能な組み込みコードを自動生成し、業界標準に対する適格性を確認する

バッテリーの熱挙動の把握

Simscape™ および Simscape Battery™ を使用して、バッテリーセルレベルからモデルを作成し、周囲温度の影響、熱インターフェイスの物質、冷却プレートの接続を追加して、より典型的なモデルを作成することができます。周囲、クーラント、および冷却プレートの場所への熱経路を定義することで、セル間、セルとプレート間、およびセルと環境間の観点で熱伝達を検討できます。Simscape Battery には、並列チャネルU 字型矩形チャネル、および エッジ冷却などの各種フロー構成をサポートする事前構築済みの冷却プレートブロックがあります。

Simscape Battery の Parallel Channels ブロック

Simscape Battery の Parallel Channels ブロック

Simscape Battery の U-shaped Channels ブロック

Simscape Battery の U-shaped Channels ブロック

Simscape Battery の Edge Cooling ブロック

Simscape Battery の Edge Cooling ブロック

これらの冷却プレートを複数の要素に離散化することで、バッテリーとクーラントフロー間の動的な相互作用から生じた温度偏差を詳細に取得できます。

熱効果に応じてセルをモジュールに組み立て、パック内のモジュールを調整することで、パックレベルの熱モデルを構築できます。Simscape で構築されたバッテリー パック モデルでは、実際のシステムを反映し、セル数の増加に伴ってスケーリングされる電気回路網と熱回路網が使用されます。経年劣化レベルが異なるバッテリーバックで熱性能解析を実行することで、耐用寿命末期 (EOL) においても保証基準を満たすことができます。

Thermal Elements ライブラリを使用した Simscape による単一のバッテリーセルの詳細な 1D 熱モデリング

Thermal Elements ライブラリを使用した Simscape による単一のバッテリーセルの詳細な 1D 熱モデリング

Simscape Battery を使用したバッテリーモジュールのクーラント熱経路の定義

Simscape Battery を使用したバッテリーモジュールのクーラント熱経路の定義

冷却/加熱システムのモデル化

アクティブ、パッシブ、およびハイブリッドの冷却/加熱ソリューションのモデル化には、気体、液体、および熱ドメインの Simscape およびSimscape Fluids™ ブロックを使用できます。また、概略図を描画してパイプバルブ熱交換器、およびタンクを配置することで、冷却/加熱システム アーキテクチャを探索することもできます。液体ループシステムの場合、予備流体を保管する拡張タンク、バッテリーセルの近くに作動流体を導く冷却プレート、ポンプ、流路、バルブを備えたモーター駆動型循環システム、および各種熱交換器 (線状発熱体、ラジエーターなど) をモデル化できます。冷却/加熱システムのモデルを作成すると、シミュレーションを実行し、コンポーネントのサイズ設定およびシステムパラメーターを確認して設計を調整し、放熱や消費電力などの要件を満たすことができます。

Simulink および Simscape を使用して作成された、電気自動車 (EV) 内のバッテリーのアクティブ液体ループ冷却/加熱システムモデル

Simulink および Simscape を使用して作成された、電気自動車 (EV) 内のバッテリーのアクティブ液体ループ冷却/加熱システムモデル

バッテリー熱マネジメントの制御設計

Simulink を使うと、フィードフォワードと PID の手法を組み合わせた閉ループ制御 (供給流 (バルブ) 制御、質量流量 (ポンプ) 制御、熱交換経路選択制御など) の循環システム制御を簡単に設計できます。Simscape Battery により、バッテリークーラント制御バッテリーヒーター制御などの事前構築済みのブロックを使用して、バッテリーの熱マネジメント制御アルゴリズムを構築できます。Stateflow を使用することで、環境温度およびバッテリー温度に応じて複数の動作モード (加熱と冷却など) 間を切り替える監視制御ロジックを設計することもできます。

バッテリーセル間の温度および周囲温度に基づいて流量を計算するクーラント制御システムの Simulink モデル

バッテリーセル間の温度および周囲温度に基づいて流量を計算するクーラント制御システムの Simulink モデル

コードの生成およびハードウェアインザループ (HIL) テストの実行

Embedded Coder®HDL Coder™ を使用することで、組み込みマイクロコントローラーFPGA/SOC ターゲットにバッテリーの熱マネジメントシステム ソフトウェアを展開する、可読性に優れた最適化済みの C/C++ コードまたは HDL コードを自動的に生成できます。プラントモデルのコードを生成して、ハードウェアインザループ (HIL) テストを実行することもできます。Simscape Battery には、バッテリーとセル監視回路間のインターフェイスとして機能するブロックが含まれています。リアルタイム ハードウェアとともにこれらのブロックを使用して、バッテリー シミュレーションを現実世界のバッテリー バランシング ハードウェアに接続できます。バッテリーシステムの HIL テスト により、時間とコストがかかるハードウェアテストをリアルタイムマシンに置き換えて、バッテリーの熱マネジメントシステムをテストできます。これにより、危険を伴うテスト条件でバッテリー ハードウェアを損傷させるリスクが低下するため、極端な温度、劣化動作、故障などのさまざまな動作条件でバッテリーの熱マネジメントシステムをテストできます。


ソフトウェア リファレンス

参考: バッテリーモデル, バッテリー マネジメント システム, バッテリーの充電状態, シミュレーション ソフトウェア, モデル化とシミュレーション, 電動化向け Simulink, PID 調整