バッテリーの充電状態

バッテリーの充電状態 (SOC) とは

バッテリーの充電状態 (SOC) は、現在のバッテリーの充電レベルを示す 0 から 1 の間で正規化された値です。SOC が 1 の場合はバッテリーが満充電、0 の場合は完全放電の状態を意味します。

電気自動車の SOC は、従来の内燃エンジン車両の燃料計に相当します。バッテリー内のエネルギー残量をドライバーに表示し、SOC が高いほど走行距離が長くなります。バッテリーのSOCを知ることで、ドライバーはより効率的に旅行や充電の計画を立てることができます。バッテリーの SOC は、次のように計算されます。

\( SOC({t_1}) = SOC({t_0}) + {{\frac{1}{C_{total}}}{\int_{t_0}^{t_1}{\frac{{\eta}i(t)}{3600}}dt}} \)

定義は次のとおりです。

  • \( SOC({t_1}) \) は時刻 \( t_1 \) 秒におけるバッテリーの SOC です。
  • \( SOC({t_0}) \) は時刻 \( t_0 \) 秒におけるバッテリーの SOC です。
  • \( i(t) \) はバッテリー電流 (A) で、放電時はマイナス符号となります。
  • \( η \) はクーロン効率 (単位なし) です。
  • \( C_{total} \) はバッテリーの総容量 (Ah) です。これは、満充電状態 (SOC=1) から完全放電状態 (SOC=0) になるまでに取り出される充電量として定義されます。バッテリーの総容量は、経年劣化により徐々に減少します。

バッテリー充電状態の正確な推定の重要性

バッテリー マネジメント システム (BMS) は SOC 推定を用いて、次回の充電までの予想使用量を通知し、バッテリー動作を安全範囲内に保ち、制御手法を実装し、最終的には電気自動車 (EV) やエネルギー貯蔵システムなど多くの用途でバッテリー寿命を向上させます。たとえば、バッテリーの健全性状態 (SOH) を正確に推定するには SOC 情報が必要となります。BMS は、推定された SOC をセル バランス アルゴリズムに使用します。

バッテリー充電状態の正確な推定における課題

正確な SOC 推定は、バッテリー電源システムの効果的な管理と運用に不可欠です。しかし、これには次のような課題があります。

  • 非線形放電曲線: バッテリーは多くの場合、非線形放電の特徴を持っているため、電圧測定だけで SOC を推定するのは困難です。
  • 電流測定の誤差: 正確な SOC 推定には、常に正確な電流測定が必要です。電流検出の誤差は、特にクーロンカウント法などの手法では、SOC 推定の累積誤差につながる可能性があります。
  • 経年劣化、劣化、SOH 依存: SOC は常にバッテリーの健全性状態に依存しています。バッテリーは時間の経過とともに劣化し、容量や内部抵抗が変化します。この劣化を適切に考慮しないと、SOC 推定で誤差が生じる可能性があります。
  • 自己放電: バッテリーは未使用の状態でも徐々に放電します。これを考慮しないと、SOC 推定で矛盾が生じる可能性があります。
  • 動的な負荷プロファイル: 負荷が変動すると、バッテリーの電圧や電流が急激に変化するため、SOC 推定が複雑になる可能性があります。その結果、実際の充電状態の追跡が困難になります。
  • バッテリーモデルのパラメーター化: バッテリーモデルは、一般的な等価回路モデルです。カルマンフィルターを使用する場合、正確な SOC 推定には正確なモデルの当てはめと共分散の調整が必要になります。モデルのパラメーター化には、多くの時間と労力がかかる場合があります。

バッテリー充電状態の計算方法

SOC を推定する方法は、単純な電流積分 (クーロン カウンティング) や電圧監視から、カルマンフィルターやニューラル ネットワークのような高度なモデルベースおよびデータ駆動型の手法まで多岐にわたります。

正確なバッテリーモデルは、バッテリー マネジメント システムにおけるモデルベースの SOC 推定アルゴリズムの開発に不可欠です。開回路電圧 (OCV) ルックアップや電流積分 (クーロン カウンティング) など、バッテリー マネジメント システムにおける従来の SOC 推定手法は、実装が容易で、場合によっては十分な正確性が得られます。ただし、OCV ベースの手法では、OCV 測定に先立ち、長時間の休止期間を設ける必要があります。クーロン カウンティングには、初期化がうまくいかず、電流測定ノイズが蓄積されるという問題があります。拡張カルマンフィルター (EKF) 手法とアンセンテッド カルマン フィルター (UKF) 手法は、現実世界での BMS の実装において、妥当な計算量で正確な結果が得られることが実証されています。

Simscape Battery™ はバッテリーやエネルギー貯蔵システムの設計・シミュレーション向けモデリング ソフトウェアです。次のような BMS 開発用の SOC 推定器を提供し、コード生成にも対応しています。

カルマンフィルター SOC 推定器と比較して、適応型カルマンフィルター SOC 推定器には、追加の状態として端子抵抗が含まれています。適応型カルマンフィルター SOC 推定器とカルマンフィルター SOC 推定器にはともに、SOC 推定用のオブザーバーを開発するための EKF または UKF を選択するオプションがあります。バッテリー マネジメント システムのこのようなオブザーバーには通常、BMS によってバッテリーで測定された電流と電圧を入力として使用する、非線形バッテリーシステムのモデル、および 2 ステップの予測および補正のプロセスに基づいてシステムの内部状態 (特に SOC) を計算する再帰的アルゴリズムが含まれています。

6 時間のタイムラインにわたって、実際のバッテリー充電状態と推定値が密接に追従している様子を示すグラフ。

組み込み BMS ブロックがある EKF を使用した、実際の SOC と推定値の比較。(Simscape Battery の例を参照)

ディープラーニング ネットワークを使用したバッテリー充電状態の推定

バッテリー マネジメント システムは、カルマンフィルターの代わりにニューラル ネットワークのようなデータ駆動型の手法を使用して SOC を推定できます。この手法は、バッテリーやその非線形動作に関する広範な情報を必要としません。代わりに、電流、電圧、および温度のデータと応答としての SOC を使用してネットワークの学習を行います。射影を使用してニューラル ネットワークを圧縮できます。これは、CPU 上で実行する場合や、またはライブラリを使用しない C コードまたは C++ コード生成を使用して BMS 組み込みハードウェアに展開する場合に、より高速なフォワードパスを示します。

温度、電圧、電流をニューラルネットワークに入力し、バッテリー充電状態を推定する様子を示した図。

バッテリー マネジメント システムにおける SOC 推定のためのニューラル ネットワークの使用。(Deep Learning Toolbox™ の例を参照。)

4 時間のタイムラインにわたり、10℃ と 25℃ の気温下で実際のバッテリー充電状態と推定値が密接に追従している様子を示す 2 つのプロット。

2 つの異なる温度下でディープラーニング ネットワークを使用した、バッテリー マネジメント システム内の実際の SOC と推定値の比較。(MATLAB コードを参照)


製品使用例および使い方

ビデオ

学会論文: SAE World Congress

ユーザー事例


参考: バッテリー マネジメント システム, Simscape Battery, バッテリーモデリング, バッテリーシステム, バッテリーパックの設計, パワーエレクトロニクス (パワエレ)

Simscape Battery

バッテリーおよびエネルギー貯蔵システムの設計とシミュレーション