バッテリーモデリングとは
バッテリーモデリングとは、さまざまな条件下におけるバッテリーの動作を数学的または計算論的に表現するプロセスです。バッテリーモデリングは、電気自動車、再生可能エネルギーシステム、家電製品など、さまざまな用途においてバッテリーの設計、制御、最適化を行うために不可欠です。
Simulink と Simscape Battery を使用したバッテリーモデリング
バッテリーモデルには、等価回路モデル (ECM)、電気化学モデル、データ駆動型モデルの 3 種類があります。Simscape Battery™ や Simulink® 製品を使用すると、これらのモデルを作成して、シミュレーションを実行することができます。
等価回路モデル
バッテリー ECM は、抵抗、コンデンサ、電圧源などの電気回路素子を使用して、バッテリーセルの動的挙動を再現します。そのシンプルさと計算効率の高さから、ECM はバッテリー マネジメント システム (BMS) の設計やシステムレベルのシミュレーションに利用されています。Simscape Battery には、Battery Equivalent Circuit ブロックというあらかじめ用意された ECM ブロックがあり、バッテリーの電気-熱動特性をモデル化できます。Battery Equivalent Circuit ブロックの回路要素は、温度、充電状態 (SOC)、電流に依存するルックアップテーブルです。
開回路電圧、内部抵抗、時定数特性を含むバッテリー等価回路モデル。(Simscape Battery の Battery Equivalent Circuit ブロックについては、ドキュメンテーションを参照)
さらに、Battery Equivalent Circuit ブロックは、開回路電圧 (OCV) におけるバッテリーのヒステリシス、バッテリーの機能低下 (サイクル劣化や経年劣化)、故障シミュレーションをサポートしています。このブロックは、抵抗増加、内部短絡、発熱反応といった 3 種類の故障に対応しています。発熱反応故障を注入することで、熱暴走のシミュレーションや加速熱量測定 (ARC) による熱暴走の特性評価が可能になります。
電気化学バッテリーモデル
電気化学バッテリーモデルは、充電/放電時に内部で発生する物理プロセスと化学プロセスを表現する数学モデルです。ECM と比べて、電気化学バッテリーモデルはバッテリー内部のプロセスに関する詳細な挙動を把握できるため、セル設計、劣化解析、急速充電電流の最適化、極端な動作条件下における性能予測精度の向上などに役立ちます。
Simscape Battery には、電解質ダイナミクスを考慮した単一粒子モデル (SPMe) を用いてバッテリーを表現する Battery Single Particle ブロックが用意されています。
Simscape Battery を使用した単一粒子バッテリーモデルで電極と電解質の抵抗過電圧とセル断面全体の濃度分布をモデル化。(ドキュメンテーションを参照)
データ駆動型バッテリーモデル
データ駆動型バッテリーモデルは、システム同定、機械学習、ディープラーニングなどの手法と実測データを組み合わせて、バッテリーの挙動をシミュレーションして予測します。たとえば、バッテリー劣化メカニズムのように、解析的に内部ダイナミクスを捉えることが難しい場合に有効です。データ駆動型バッテリーモデルは、大規模なデータセットが利用可能な電気自動車のフリート管理、予知保全、高度な診断などの用途に適しており、バッテリー寿命の予測精度を高めることができます。
ディープラーニングを使用して、低次の非線形状態空間モデルを作成することも可能です。この種のモデルの学習データには、実験データや高詳細度モデル (FEA バッテリーモデルなど) から得られるシミュレーション データを利用できます。
セルの特性評価
セルの特性評価とは、バッテリーモデルと実験データを適合させるプロセスです。この作業を行うことで、モデルのパラメーターによって、さまざまな運用条件下での実際のバッテリーの挙動を確実に再現できるようになります。パラメーターは、製品の世代、セルの供給元、バッテリーの使用年数によって変動する傾向があります。
セル特性評価は非常に重要です。なぜなら、BMS アルゴリズムはバッテリーモデルを用いて、SOC 推定用カルマンフィルターのパラメーター設定や、低電圧や過電圧を回避するための SOC や温度に基づく出力制限などの制御パラメーターを決定するからです。BMS 開発の後工程では、エンジニアは同じバッテリーモデルを用いて、システムレベルの閉ループ デスクトップ シミュレーションやリアルタイム システム シミュレーションを行うことができます。
セル特性評価プロセスでは、バッテリー試験室で実施する試験内容を決定し、モデルの予測電圧が実測電圧と一致するようにモデルパラメーターを最適化します。試験では、ハイブリッド パルス パワー特性評価 (HPPC) などの電流プロファイルを使用して、バッテリーシステムを適切に励起し、バッテリーモデルのパラメーター同定に十分な情報を得る必要があります。
同定されたパラメーターを用いたバッテリーモデルの精度を検証するには、ドライブサイクル電流プロファイル下での電圧予測値と実測電圧を比較する検証の実施が推奨されています。同定されたパラメーターを用いたバッテリーモデルの精度を検証するには、ドライブサイクル電流プロファイル下での電圧予測値と実験で測定した電圧を比較する検証の実施が推奨されています。
MATLAB® と Simulink 製品を使用して、ECM モデルの特性評価を行うことができます。
- Simscape Battery には、HPPC データから取得した、パラメーター推定用のオブジェクトや関数が含まれており、ECM パラメーター推定のための基本的な最適化手法を備えています。また、System Identification Toolbox™ の
tfest関数など、他のツールボックスの手法を選択することも可能です。こうした代替手法は、既定の最適化手法よりもロバストなパラメーター推定の方法を提供します。これらの最適化手法を使用するには、該当するツールボックスのライセンスが必要です。 - Model-Based Calibration Toolbox™ の MBC Optimization アプリ (CAGE) は、パラメーター推定を効率化し、3RC ECM モデルの場合でも数分で処理が完了します。
SPMe バッテリーモデルの特性評価には、Simulink Design Optimization を使用して、影響度の高い順にパラメーターをグループごとに推定することができます。
製品使用例および使い方
ビデオ
ユーザー事例
記事
参考: バッテリーモデリングのワークフロー, バッテリー マネジメント システム (BMS), バッテリーの充電状態, バッテリーパックの設計, バッテリー熱マネジメントシステム, バッテリーシステム