電気自動車の熱管理
この例では、バッテリー式電気自動車 (BEV) の熱管理システムをモデル化します。このシステムは、2 つの液体冷却ループ、R-134a 冷媒ループ、車室空気 HVAC ループで構成されます。熱負荷は、バッテリー、パワー エレクトロニクス、および車室です。
2 つの冷却ループは、並列-逐次モードの 4 方向バルブを使用して、逐次モードで結合することも、並列モードで別々のままにしておくこともできます。寒い気温では、モーターからの熱でバッテリーが暖まるように冷却ループが逐次モードで動作します。必要に応じて、ヒーターから追加の熱を供給できます。過ごしやすい気温では、冷却ループは逐次モードのままで、バッテリーとパワー エレクトロニクスの両方がラジエーターによって冷却されます。環境温度または冷却液温度が 35℃を超えると、冷却ループは並列モードに切り替わり、別々になります。一方のループで、ラジエーターを使用してパワー エレクトロニクスが冷却されます。もう一方のループで、冷媒ループのチラーを使用してバッテリーが冷却されます。
冷媒ループが、車室とバッテリーに冷却機能を提供します。冷媒ループは、圧縮機、凝縮器、受液器、2 つの膨張弁、チラー、蒸発器で構成されます。チラーの膨張弁は、冷却液を冷却するように、チラーへの冷媒を調整します。蒸発器の膨張弁は、車室空気を冷却および除湿するように、蒸発器への冷媒を調整します。コントローラーは、チラーと蒸発器のいずれかまたは両方に吸収された熱を凝縮器が放散できるように圧縮機を調整します。
車室空気 HVAC ループは、送風機、蒸発器、正温度係数 (PTC) ヒーター、車室で構成されます。蒸発器は、暑い気候下で空調を提供します。PTC ヒーターは、寒い気候下で暖房を提供します。送風機は、車室温度を制御された設定点に保ちます。
このモデルには、想定されるシナリオが 3 つあります。
ドライブ サイクル シナリオでは、30℃の気候下で空調をオンにして運転条件をシミュレーションします。車両速度は New European Drive Cycle (NEDC) に基づき、それに続く 30 分の高速走行でバッテリーの熱負荷を増やします。冷却ループは、最初は逐次モードで、バッテリーで大量の熱が発生すると並列モードに切り替わります。
冷却シナリオでは、40℃の気候下で空調をオンにして静止車両をシミュレーションします。
寒冷シナリオでは、-10℃の気候下で運転条件をシミュレーションします。バッテリーと車室をバッテリー ヒーターと PTC ヒーターでそれぞれ暖める必要があります。
初期状態は異なっていますが、各シナリオの総冷媒充填量は同じです。これは、モデルが関数refrigerantChargePropertiesを使用して、目的の充填量と環境温度に対応する初期の冷媒圧力と蒸気乾き度を計算するためです。
車室暖房用のヒート ポンプを使用した電気自動車の熱管理の詳細については、Electric Vehicle Thermal Management with Heat Pumpをご覧ください。
遷臨界 CO2 ヒート ポンプを使用した電気自動車の熱管理の詳細については、Electric Vehicle Thermal Management With CO2をご覧ください。
モデル

Scenario サブシステム
このサブシステムは、選択されたシナリオに合わせて環境条件とシステムへの入力を設定します。バッテリーの電流要求とパワー エレクトロニクスの熱負荷は、表形式データに基づく車両速度の関数です。

Controls サブシステム
このサブシステムは、熱管理システム内のポンプ、圧縮機、ファン、送風機、およびバルブ用のすべてのコントローラーで構成されます。

Parallel-Serial Mode Valve サブシステム
このサブシステムの 4 方向バルブは、冷却ループが並列モードと逐次モードのどちらで動作するかを制御します。端子 "A" と端子 "D" が接続され、端子 "C" と端子 "B" が接続されている場合は並列モードです。2 つの冷却ループは分かれており、それぞれ独自の冷却タンクとポンプを使用します。端子 "A" と端子 "B" が接続され、端子 "C" と端子 "D" が接続されている場合は逐次モードです。2 つの冷却ループは結合されており、2 つのポンプが同期されて同じ流量を供給します。

Motor Pump および Battery Pump サブシステム
Motor Pump サブシステムと Battery Pump サブシステムは同じです。Motor Pump は下に示されています。モーター ポンプは、充電器、モーター、インバーターを冷却する冷却ループを駆動します。バッテリー ポンプは、バッテリーと DC-DC コンバーターを冷却する冷却ループを駆動します。

Motor、Charger、Inverter、および DCDC サブシステム
Motor、Charger、Inverter、および DCDC サブシステムは同じです。Motor は下に示されています。4 つのサブシステムはそれぞれ、モーター、充電器、インバーター、DC-DC コンバーターを囲む冷却ジャケットをモデル化したものであり、熱流量源と熱質量で表されます。

Battery サブシステム
バッテリーは、冷却ジャケットで囲まれた 4 つの別々のパックとしてモデル化されます。バッテリー パックは電流要求に基づいて電圧と熱を生成します。モデルは、冷却液はバッテリー パックの周囲の狭い経路を流れるものと仮定します。

Pack 1 サブシステム
各バッテリー パック モデルには、熱モデルと結合されたリチウムイオン セルのスタックが含まれています。セル内の電力損失は、生成される熱に対応します。

Radiator サブシステム
ラジエーターは、冷却液の熱を環境空気に放散する矩形のチューブ-フィン型熱交換器です。空気の流れは、ラジエーターの前に凝縮器を通過します。車両速度とラジエーターの後ろにあるファンが空気の流れを駆動します。

Radiator Bypass Valve サブシステム
この 3 方向バルブは、冷却液をラジエーターに送って熱を放出します。寒い気候下では、パワー エレクトロニクスからの熱でバッテリーを暖められるように、バルブはラジエーターをバイパスします。

Chiller Bypass Valve サブシステム
チラーは、バッテリー温度に応じてオンオフ方式で作動します。これは、3 方向バルブにより、冷却液をチラーに送るかチラーをバイパスすることで制御されます。

Heater サブシステム
バッテリー ヒーター モデルには、熱流量源と熱質量が含まれています。バッテリー ヒーターは寒い気候下でオンになり、バッテリー温度が 5℃を超えるようにします。

Compressor サブシステム
圧縮機は、冷媒ループ内の流れを駆動します。チラーと蒸発器の内部の圧力を 0.3 MPa に保つように制御されます。これは、約 1℃の飽和温度に対応する圧力です。

Condenser サブシステム
凝縮器は、冷媒からの熱を環境空気に伝達する矩形のチューブ-フィン型熱交換器です。車両速度とラジエーターの後ろにあるファンが空気の流れを駆動します。受液器は冷媒の貯蔵場所を提供し、過冷却液体のみを膨張弁に流します。

Chiller Expansion Valve サブシステム
この膨張弁は、チラーに流入する冷媒を気化させるために必要な圧力降下を提供します。これは、計測されたチラーの出口温度に基づいて冷媒の流量を調整する、単純なサーモスタット膨張弁です。

Chiller サブシステム
チラーは、冷却液からの熱を冷媒に伝達するシェル-チューブ型熱交換器です。

Evaporator Expansion Valve サブシステム
この膨張弁は、蒸発器に流入する冷媒を気化させるために必要な圧力降下を提供します。これは、計測された蒸発器の出口温度に基づいて冷媒の流量を調整する、単純なサーモスタット膨張弁です。

Evaporator サブシステム
蒸発器は、車室空気からの熱を冷媒に伝達する矩形のチューブ-フィン型熱交換器です。湿度が高いときは空気の除湿も行います。

Blower サブシステム
送風機は、車室の HVAC ループ内の空気の流れを駆動します。車室温度設定点を保つように制御されます。空気源は、環境または再循環される車室空気のいずれかになります。

Recirculation Flap サブシステム
再循環フラップは、環境空気または車室空気のいずれかを送風機に送るように反対の働きをする 2 つの制限としてモデル化されます。

PTC サブシステム
PTC ヒーター モデルには、熱流量源と熱質量が含まれています。PTC ヒーターは、寒い気候下でオンになり、車室の暖房を提供します。

Cabin サブシステム
車室は、大きな体積の湿り空気としてモデル化されます。車両の中にいるそれぞれの人が、熱、水分、CO2 のソースになります。

Cabin Heat Transfer サブシステム
このサブシステムは、車室内部と外部環境の間の熱抵抗をモデル化したものです。

Scope からのシミュレーション結果
次のスコープは、ドライブ サイクル シナリオの車両速度、放熱、車室温度、コンポーネント温度、および制御コマンドを示しています。並列モード、逐次モードのバルブのコマンドは次のとおりです。
0 = 並列モード
1 = 逐次モード
冷却ループは、最初は逐次モードになっています。約 1100 秒後に並列モードに切り替わり、バッテリーを 35℃未満に保つためにチラーが使用されます。チラーのバイパス弁が定期的に冷却液をチラーに送る際に、圧縮機はバッテリーの熱負荷に合わせて出力を増減させます。

Simscape ログからのシミュレーション結果
次のプロットは、車両コンポーネントと車室を冷却するために熱管理システムによって消費される電力を示しています。チラーのバイパス弁が冷却液をチラーに送ってバッテリーを冷却するときに、冷媒圧縮機で消費電力が最も高くなります。
