Ather Energy、モデルベースデザインを使って電動二輪スクーターと充電ステーションを開発
課題
インド初のインテリジェント電動スクーターの設計および製造
ソリューション
モデルベースデザインを使って、スクーターの設計のシミュレーションおよび最適化を行い、制御ソフトウェアの量産向けコードを生成
結果
- 設計案を数か月単位ではなく、数週間単位で評価
- テスト時間を 50% 短縮
- 現場の問題を迅速に解決
バンガロールを走る車両の 70% を占める、500 万台以上の 2 輪スクーターのほとんどはガソリンを動力としているため、高レベルの騒音公害と CO2 排出を引き起こしています。よりクリーンな代替手段を求める声に応えるため、スタートアップ企業の Ather Energy はインドで初めてのインテリジェント電気スクーターを開発しました。時速 0 km から 40 km へ 4 秒以下で加速可能なうえに、Ather 450 は時速 80 km の最高速度を誇り、1 回の充電で最大 75 km まで走行できます。
Ather のエンジニアは、 MATLAB® および Simulink® のモデルベースデザイン (モデルベース開発、MBD)を使用して、スクーターおよびその制御ソフトウェアと、充電ステーションの設計および最適化を行いました。
Ather のシニア システム エンジニアである Shivaram N.V. 氏は次のように述べています。「Simulink モデルを使用してシミュレーションを実行することで、設計アイデアをテストし、さまざまな操作条件で作動する様子を理解することができました。たとえば、傾斜や複数の乗員、極端な温度、ほぼ消耗した状態のバッテリーなどでテストしました。その後、モデルベースデザインを使用して、設計から検証、コード生成にいたるまで、エンドツーエンドのアルゴリズムを開発しました。」
課題
Ather のチームが目指していたのは、ガソリン式のスクーターのオーナーが 450 に乗り換えやすいようにするということです。このことは、自宅や街中での急速充電が可能で、かつガソリン式と同じパワーと加速力を備えたスクーターを製造することを意味していました。450 のような製品は市場でもまだ数少なかったため、エンジニアリング チームは多数の未知の出来事 (運転手の使用パターンなど) に遭遇しました。
チームはシミュレーションを行い、さまざまな走行や使用シナリオに対応した設計コンセプトを評価しなければなりませんでした。また、設計パラメーターを最適化しながら、情報に基づいたトレードオフの決定を行う必要がありました。たとえば、バッテリー容量を増やせば航続可能距離は長くなりますが、コストやサイズも大きくなり、スクーターの重心にずれが生じます。
スクーターそのものの設計に加え、エンジニアはバッテリー充電や温度管理などの主要な機能向けの組み込み制御アルゴリズムを開発および実装する必要がありました。スタートアップ企業である Ather は、投資家に定期的に進捗状況を示しながら、小規模なチームで実現性の高い製品を迅速に提供する必要がありました。
ソリューション
Ather Energy は、MATLAB および Simulink でモデルベースデザインを使用して 450 のモデル化とシミュレーションを行い、制御ソフトウェア用の量産向けコードを生成しました。
まず、スクーターとその主要コンポーネントのプラントモデルの構築に着手しました。車両運動と機械部品は、第一原理を使用して Simulink で直接モデル化し、電力変換装置と電気回路は、Simscape™ および Simscape Electrical™ を使用してモデル化しました。
詳細なコンポーネントデータが無かったため、チームは経験的アプローチによりバッテリーセルをモデル化しました。さらに、さまざまなレベルの温度や充電状態でバッテリーをテストし、System Identification Toolbox™ で測定された入出力データを使用してセルの電気特性と熱特性のブラックボックス モデルを作成しました。
そして、設計のトレードオフを評価するために、プラントモデルの広範なシミュレーションを実施しました。コスト、サイズ、および温度の制約を満たしたうえで、ターゲットとする加速と航続可能距離の要件を満たすモーターとバッテリーの設定を特定するまで設計を改良しました。
次に、バッテリー充電、電力制御、および温度制御のアルゴリズムを Simulink で開発しました。また、Stateflow® で制御ロジックをモデル化し、Control System Toolbox™ を使用してコントローラーゲインを調整しました。閉ループ シミュレーションをプラント モデルで実行し、制御設計の妥当性確認を行いました。そして、Embedded Coder® を使用してコントローラー モデルからコードを生成し、スクーターの ARM® Cortex® プロセッサと充電ステーションの TI C2000™ マイクロコントローラーに展開しました。
アジャイルで反復的な開発プロセスによって、アルゴリズムのデバッグと改良を迅速に行いました。時には、1 日に 5 回も新しいコードを生成してテストすることもありました。
コード生成を行うのはこの時が初めてだったため、Shivaram 氏はまず、Embedded Coder を使用したコード生成の、MathWorks のエンジニアによる 2 日間の公開トレーニング セッションに参加しました。その後、MathWorks Consulting Services に依頼して、量産向けコード生成、モデルレビュー、およびプロセスレビューについて、さらに学びました。
Ather 450 はすでに量産体制に入り、バンガロールで販売を開始しています。充電ステーションもバンガロールに 31 箇所、チェンナイに 7 箇所整備されています。インド工科大学マドラス校で MATLAB を学び、Ather を立ち上げた創業者たちは、近日中に次の市場で先行予約を開始する予定です。
結果
- 設計案を数か月単位ではなく、数週間単位で評価。Shivaram 氏は次のように述べています。「Simulink でのシミュレーションにより、複数の設計案を比較し、最適な案を選択することができました。物理的なプロトタイプの構築とテストには通常 2 か月ほどかかりますが、Simscape モデルを使用することで 2 週間で終えることができました」
- テスト時間を 50% 短縮。Shivaram 氏は次のように述べています。「モデルベースデザインにより、制御アルゴリズムのテストを加速することができました。スクーターと充電システム全体を Simulink でモデル化してシミュレーションすることで、1 か月かかっていたテスト作業は 2 週間に短縮されました」
- 現場の問題を迅速に解決。Shivaram 氏は次のように述べています。「新製品のリリース時には、現場で問題が発生することがありますが、このような問題に対応する時間は半分に短縮されました。Simulink の量産向けモデルは自己文書化されるため、アルゴリズムを簡単に改良でき、それを無線によるアップデートによってスクーターに送信することができます。」