リンクバジェットとは?
リンクバジェット (Link Budget) は、通信リンクが正常に実行されるかどうかを定量的に評価する計算方法です。伝送経路の各段階における利得と損失を考慮に入れ、パワーバジェットの詳細な解析を行います。リンクバジェットは、以下のようにリンクマージン \(LM\) を計算します。
\(LM = P_{rx} - RS\)
\(P_{rx}\) は受信電力 (dBm)、
\(RS\) は受信機感度 (dBm) です。
受信機感度は、正常な通信ができる最小受信電力です。無線設計の目標は、正のリンクマージンを確保することです。
リンクバジェットは、地上通信システムや衛星通信システムの性能を設計し解析する上で、重要な役割を果たします。MATLAB® を使用して無線システム設計のリンクバジェットを作成することで、システム性能を迅速に評価できます。
リンクバジェット方程式
リンクバジェット方程式は、リンクバジェットの計算に使用される基本方程式です。通信リンクにおけるあらゆる利得と損失を考慮することで、受信信号の電力を計算します。リンクバジェット方程式は、以下のように表現できます。
\(P_{rx} = P_{tx} + G_{tx} – L_{tx} – L_{fs} – L_{prop} + G_{rx} – L_{rx}\)
\(P_{rx}\) は受信電力 (dBm)、
\(P_{tx}\) は送信機パワーアンプの出力電力 (dBm)、
\(G_{tx}\) は送信機アンテナゲイン (dBi)、
\(L_{tx}\) は送信機損失 (ケーブル、コネクタ、レドームなど) (dB)、
\(L_{fs}\) は自由空間経路損失 (dB)、
\(L_{prop}\) は伝播損失 (アンテナ照準ミス、フェージングマージン、偏光の不一致、干渉、大気環境など) (dB)、
\(G_{rx}\) は受信機アンテナゲイン (dBi)、
\(L_{rx}\) は受信機損失 (ケーブル、コネクタ、レドーム、復調器損失) (dB) です。
MATLAB で関数 fspl
を使用して、自由空間経路損失 \(L_{fs}\) を計算できます。また、関数 fogpl
、gaspl
、rainpl
を使用すると、国際電気通信連合 (ITU) のモデルを用いて、霧、ガス、雨による伝播損失をそれぞれ計算できます。さらに、関数 cranerainpl
を使用すると、Crane 降雨モデルに基づいて伝播損失を計算できます。
MATLAB によるリンクバジェット
衛星通信システムは通常、電力が限られているため、一般的に干渉によって制限される地上通信システムよりもリンクバジェットが重要となります。
Satellite Communications Toolbox には、衛星通信システムの総合的なリンクバジェット解析を行うための使いやすいインターフェイスを備えた Satellite Link Budget Analyzer アプリが含まれています。このアプリを使用すると、必要なパラメーターと計算のガイドによりプロセスが簡略化されるため、衛星通信リンクの設計と解析が容易になります。また、ITU P.618 伝播損失モデルを使用した稼働率解析が可能で、カスタムの可視化による定性的な感度解析も行えます。
S パラメーター、インピーダンスの不整合、非線形性など、RF の影響をリンクバジェットに組み込みたい場合は、解析とシミュレーションの機能を備えた RF Budget Analyzer アプリを使用できます。
リンクバジェットの重要性
リンクバジェットが不可欠とされる理由は以下のとおりです。
- システム設計: リンクバジェットは通信システムの設計とディメンショニングの指針となるため、送信電力、アンテナゲイン、受信機感度を適切に選択し、信頼性の高い通信を行えるようになります。
- 性能評価: リンクバジェットにより、すべての利得と損失を考慮してシステムの性能を定量的に評価できるので、エンジニアは達成可能なデータレート、カバレッジ範囲、信号品質を推定できます。
- 規制遵守: リンクバジェットは、最大許容送信電力レベル、干渉制限、信号品質要件などの規制基準の遵守に役立ちます。
製品使用例および使い方
ソフトウェア リファレンス
参考: 無線通信, OFDM, Massive MIMO, RF システム, 5G 無線技術, Satellite Communications Toolbox, 5G Toolbox, LTE Toolbox, WLAN Toolbox, Communications Toolbox, Phased Array System Toolbox, DVB-S2, Bluetooth mesh, Bluetooth 干渉