信号アナライザーでのスカログラム計算
スカログラムは信号の連続ウェーブレット変換 (CWT) の絶対値で、時間と周波数の関数としてプロットされます。スカログラムは、さまざまなスケールで現れる特徴がある実際の信号を解析するには、スペクトログラムよりも便利です。たとえば、急激な過渡によって中断される、ゆるやかに変化するイベントを持つ信号があります。短時間の高周波数イベントにおける時間の位置推定と長時間の低周波数イベントにおける周波数の位置推定を向上させたい場合に、スカログラムを使用します。
メモ
スカログラムの表示を使用するには、Wavelet Toolbox™ のライセンスが必要です。
スペクトログラムは、時間と周波数がシフトされた、一定の長さ (期間) の "ウィンドウ" を使用して入力信号にウィンドウ処理を適用することで取得されます。(詳細については、信号アナライザーでのスペクトログラム計算を参照)。スペクトログラムで使用されるウィンドウは偶数で、実数値であり、振動しません。スペクトログラムは一定のウィンドウを使用するため、スペクトログラムの時間-周波数分解能は固定されます。
対照的に、CWT は、時間でスケーリングおよびシフトされた "ウェーブレット" を使用して信号にウィンドウ処理を適用することで取得されます。ウェーブレットは振動し、複素数値になる場合があります。スケーリングとシフトの処理が、プロトタイプ ウェーブレットに適用されます。CWT で使用されるスケーリングでは、プロトタイプ ウェーブレットの縮小と引き伸ばしの両方が行われます。プロトタイプ ウェーブレットを縮小すると、過渡イベントの検出に適した、短時間の高周波ウェーブレットが生成されます。プロトタイプ ウェーブレットを引き伸ばすと、長時間の低周波イベントの分離に適した、長時間の低周波ウェーブレットが生成されます。
スカログラムを計算するために、信号アナライザーは以下のステップを実行します。
信号が 100 万サンプルを超える場合、信号をオーバーラップ セグメントに分割します。
各セグメントの CWT を計算して、スカログラムを取得します。
セグメントごとにスカログラムを表示します。
実装に従い、CWT は L1 正規化を使用します。そのため、信号の振動成分の振幅は、対応するウェーブレット係数の振幅と一致します。
ヒント
スカログラム表示は複素信号をサポートしていません。
スカログラム表示は不等間隔サンプル信号をサポートしていません。不等間隔サンプル信号のスカログラムを計算するには、関数
resample
を使用して等間隔グリッドに信号をリサンプリングします。スカログラム表示は、1 つの信号のみを含むディスプレイで利用できます。異なる信号のスカログラムを計算するには、個別のディスプレイを開き、各信号をそれぞれのディスプレイにドラッグします。
信号のセグメント分割
入力信号が 100 万サンプル以下の場合、信号アナライザーは関数 cwt
(Wavelet Toolbox) を直接使用します。信号が 100 万サンプルを超える場合、アプリは次のステップを実行します。
隣接するセグメント間で 50% のオーバーラップがある 100 万サンプルのセグメントに信号を分割します。
最後のセグメントが信号の端点を越えた場合は、最後のセグメントが 100 万サンプルになるまで信号にゼロ パディングします。
各セグメントのスカログラムを計算した後、次のようにエッジの影響を削除します。
最初と最後を除いて、すべてのセグメントの最初の 250,000 スカログラム サンプルと最後の 250,000 スカログラム サンプルを破棄します。
最初のセグメントの最後の 250,000 スカログラム サンプルを破棄します。
最後のセグメントで、最初の 250,000 スカログラム サンプルとゼロ パディングされた領域に対応するサンプルを破棄します。
たとえば、サンプルが 2.6 × 106 の信号について考えてみましょう。
連続ウェーブレット変換の計算
信号アナライザーは、関数 cwt
(Wavelet Toolbox) の既定の設定を使用して CWT を計算します。アプリは、一般化解析モールス ウェーブレットをガンマ係数 γ = 3 で使用します。詳細については、Morse ウェーブレット (Wavelet Toolbox)を参照してください。
信号アナライザーでは、2 つの独立した周波数分解能制御が提供されています。
[時間と帯域幅] スライダーは時間と帯域幅の積を制御します。これは、時間領域でのウェーブレット時間に比例します。時間と帯域幅の積が増加すると、ウェーブレットで中央部の振動が増え、時間内のスプレッドが大きくなり、周波数のスプレッドが狭くなります。スライダーは 3 ~ 120 の範囲で移動します。既定値は 60 です。図は、さまざまな時間と帯域幅の積 P のモールス ウェーブレットを示しています。実数部は青、虚数部は赤、絶対値は黒です。
[オクターブあたりの音の数] スライダーは、CWT の離散化に使用されるオクターブごとのスケールの数を制御します。オクターブあたりの音の数が増加すると、スケール解像度が細かくなります。スライダーは、4 ~ 16 の範囲で、4 の倍数のステップで移動します。既定値は 8 です。
スカログラムの表示
信号アナライザーは、時間と周波数の関数として CWT 係数の絶対値をプロットします。信号がセグメントに分割された場合、アプリは個々のセグメントのスカログラムを結合し、表示します。アプリは円すい状影響圏もプロットし、エッジの影響が顕著になる位置を示します。詳細については、Boundary Effects and the Cone of Influence (Wavelet Toolbox)を参照してください。
参考
アプリ
関数
cwt
(Wavelet Toolbox) |cwtfilterbank
(Wavelet Toolbox) |pspectrum