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変調精度の測定

エラー ベクトル振幅 (EVM) と変調誤差比 (MER) は、信号伝送に劣化要因があるときの変調器と復調器の性能の精度を測定します。劣化要因の詳細については、RF 損失の可視化を参照してください。

  • "EVM" は、理想的な (伝送) 信号と測定された (受信) 信号の間での、所定時間におけるベクトルの差です。これらの測定は、位相ノイズ、IQ 不平衡、振幅の非線形性、フィルター歪みなどの信号劣化の原因を特定するのに役立ちます。規格では、EVM の性能要件が規定されています。たとえば、3GPP 無線伝送規格[1]では、EVM 性能要件として RMS EVM、ピーク EVM、および第 95 百分位が規定されています。

  • "MER" は、受信機が信号を正確に復調する能力を評価するための S/N 比 (SNR) 測定の形式です。MER は、受信コンスタレーションのガウス ノイズおよびその他の修正不可能な劣化によって導入されたシンボル エラーを測定します。信号の重大な劣化がガウス ノイズのみの場合、MER と SNR は同等になります。たとえば、DVB 測定ガイドライン[4]では、最小 MER と百分位 MER の性能要件が規定されています。

変調精度を測定するには、次の Communications Toolbox™ System object およびブロックを使用できます。以下の例では、その方法を示します。

変調精度の例

Simulink を使用した EVM と MER の測定

この例では、Simulink® ブロックを使用してエラー ベクトル振幅 (EVM) と変調誤差比 (MER) の測定値を計算する方法を説明します。

doc_mer_and_evm モデルは、IQ 不平衡を 16-QAM 信号に追加します。EVM MeasurementブロックとMER Measurementブロックは、それぞれ EVM と MER の測定を劣化した信号に対して実行します。Constellation Diagramブロックは、劣化した信号のコンスタレーションと信号品質測定値を表示します。コンスタレーション ダイアグラム ウィンドウに表示された信号品質測定値は、EVM Measurement ブロックと MER Measurement ブロックによって報告された測定値を近似します。

このモデルでは、I/Q Imbalanceブロックは、振幅の不均衡を 1 dB、位相の不均衡を 15 度、DC オフセットを 0 に設定します。MER Measurementブロックは、平均 MER と第 90 百分位の MER を出力するように設定されています。EVM Measurementブロックは、RMS EVM (平均基準信号強度に正規化される)、最大 EVM、および 75 番目の百分位の EVM を出力するように設定されています。

モデルの実行と測定値の表示

モデルを実行して EVM と MER の測定値を計算し、コンスタレーション ダイアグラムを表示します。

Average MER is 16.9 dB.
90 percentile MER is 14.0 dB.
RMS EVM is 14.3%.
Maximum EVM is 20.7%.
75 percentile EVM is 17.5%.

I/Q Imbalanceブロックの振幅の不均衡設定を 2 dB に変更します。劣化の値が大きくなると変調の精度が低下するため、報告される平均 MER は小さくなり、報告される平均 EVM は大きくなります。モデルを再実行して、劣化した EVM メトリクスと MER メトリクスを確認します。

Average MER is 13.2 dB.
90 percentile MER is 10.2 dB.
RMS EVM is 21.8%.
Maximum EVM is 31.2%.
75 percentile EVM is 26.8%.

802.15.4 (ZigBee) システムの EVM 測定

この例では、シミュレートされた IEEE® 802.15.4 [ 1 ] 送信機のエラー ベクトル振幅 (EVM) を、comm.EVMSystem object™ を使用して測定する方法を示します。EVM 測定では、エラーのない変調基準波形と劣化波形の差を測定することにより、送信機の変調精度を定量化します。IEEE 802.15.4 では、ZigBee® 無線パーソナル エリア ネットワークに使用するためのプロトコルを規定しています。IEEE® 802.15.4 [ 1 ] の Section 6.7.3.1 では、次のように規定されています。"...IEEE 802.15.4 送信機は、1000 チップ測定した場合の EVM 値が 35% 未満である必要があります。エラーベクトル測定は、基準受信機システム経由で復元した後にベースバンド I/Q チップで行う必要があります。基準受信機は、測定の際、キャリア ロック、シンボル タイミング再生、および振幅調整を実行する必要があります。..."。ここでは、シミュレーションで適用される劣化が加法性ホワイト ガウス ノイズ (AWGN) のみであるため、キャリア ロック、シンボル タイミング再生、および振幅調整を受信機で処理する必要はありません。

システム パラメーターの定義

868 MHz 帯域対応の 802.15.4 システムのシステム パラメーター、チップ変調用の 2 位相偏移変調 (BPSK) があるダイレクト シーケンス スペクトル拡散 (DSSS)、およびデータ シンボル符号化用の差分符号化を定義します。

BPSK bit-to-chip マッピングは、14 チップ シーケンスで各入力ビットを拡散します。値が 0 の入力ビットは chipValues パラメーターで表現され、値が 1 の入力ビットは (1-chipValues) で表現されます。送信信号にオーバーサンプリング レート 4 を使用し、フィルター スパンに 8 つのシンボルを使用します。送信機とテスト ハードウェアにおける信号劣化をシミュレートするために、60 dB の SNR を使用します。

dataRate = 20e3;   % Bit rate in Hz
M = 2;             % Modulation order (BPSK)
chipValues = ...   % Chip values for 0-valued input bits
[1;1;1;1;0;1;0;1;1;0;0;1;0;0;0];

numSymbols = 1000; % Number of symbols required to measure EVM
numFrames = 100;   % Number of frames
nSamps = 4;        % Oversample rate
filtSpan = 8;      % Filter span in symbols
SNR = 60;          % Simulated signal-to-noise ratio in dB

1 つの EVM 測定値を取得するために必要な拡散ゲイン、チップ レート、最終サンプル レート、およびビット数を計算します。フィルター遅延を加味するために、送信シンボルのシミュレーションではビットを 1 つ多く含めます。

gain = length(chipValues);     % Spreading gain (chips per symbol)
chipRate = gain*dataRate;      % Chip rate
sampleRate = nSamps*chipRate;  % Final sampling rate
numBits = ...                  % Bits for one EVM measurement
    ceil((numSymbols)/gain)+1;

初期化

0 ~ +1 および 1 ~ -1 の簡単なマッピングを使用して、BPSK 変調されたシンボルを取得します。行列演算の使用を有効にして効率的な MATLAB® コードを記述するには、bit-to-chip 変換前に変調を適用できるようにチップ値をマッピングします。ZigBee 用に規定されたパルス整形フィルターを適用するには、ロールオフ係数が 1 のルート レイズド コサイン フィルターのペアを定義します。

chipValues = 1 - 2*chipValues; % Map chip values
rctFilt = comm.RaisedCosineTransmitFilter( ...
    RolloffFactor=1, ...
    OutputSamplesPerSymbol=nSamps, ...
    FilterSpanInSymbols=filtSpan);
rcrFilt = comm.RaisedCosineReceiveFilter( ...
    RolloffFactor=1, ...
    InputSamplesPerSymbol=nSamps, ...
    FilterSpanInSymbols=filtSpan, ...
    DecimationFactor=nSamps);

EVM 測定の構成

IEEE® 802.15.4 の 6.7.3 節で定義されている EVM の計算方法では、測定された I サンプルと Q サンプルの平均誤差をシンボルの強度で正規化します。BPSK システムの場合、両方のコンスタレーション シンボルの強度は同じであるため、ピーク コンスタレーション電力の正規化を使用するように EVM 測定オブジェクトを構成します。EVM の計算方法および正規化オプションの詳細については、comm.EVMSystem object のリファレンス ページを参照してください。

evm = comm.EVM(Normalization='Peak constellation power');

送受信のシミュレーション

ランダム データ ビットを生成し、comm.DifferentialEncoder System object を使用してこれらのビットを差分符号化し、BPSK 変調を適用します。マップされたチップ値で行列乗算を行って、変調されたシンボルを拡散します。拡散シンボルはパルス整形フィルター経由で渡します。

EVM オブジェクトでは、受信シンボルおよび基準シンボルは同期されており、かつ同じレートでサンプリングされると想定されています。受信信号はダウンサンプリングされ、基準信号と同期されなければなりません。

十分な平均化を確保するために、各フレームに 1000 個のシンボルを含む 100 個のフレームをシミュレートします。最大 EVM 測定値を保存し、EVM 35% の要件を満たしているかチェックします。

送信フィルターと受信フィルターは同一であり、各々の遅延はフィルター スパンの半分に等しいため、合計遅延は 1 つのフィルターのスパンと等しくなります。

refSigDelay = rctFilt.FilterSpanInSymbols;
diffenc = comm.DifferentialEncoder;

simNumSymbols = numBits*gain; % Number of symbols in a frame
peakRMSEVM = -inf;            % Initialize peak RMS EVM value

for- ループを使用して、伝送フレームを処理します。送信側では、ランダム データを生成し、差動符号化を適用し、BPSK 変調を適用し、チップを拡散し、パルス整形を適用し、送信信号にノイズを付加します。受信側では、信号をダウンサンプリングしてフィルター処理し、信号遅延を加味し、EVM を測定し、ピーク EVM を更新して、測定された最大値を保存します。データのすべてのフレームを処理した後、最大 EVM 値を表示します。

for p=1:numFrames
    % Transmit side
    b = randi([0 M-1],numBits,1);
    d = diffenc(b);
    x = 1-2*d;                                  % Modulate
    c = reshape(chipValues*x',simNumSymbols,1); % Spread data
    cUp = rctFilt(c); 
    r = awgn(cUp,SNR,"measured");
    % Receive side
    rd = rcrFilt(r);                            % Downsample and filter
    rmsEVM = evm( ...
        complex(rd(refSigDelay+(1:numSymbols))), ...
        complex(c(1:numSymbols)));
    % Update peak RMS EVM calculation
    if (peakRMSEVM < rmsEVM)
        peakRMSEVM = rmsEVM;
    end
end

% Display results
fprintf(' Worst case RMS EVM (%%): %1.2f\n',peakRMSEVM)
 Worst case RMS EVM (%): 0.19

その他の調査

関数iqimbal2coefを使用して、IQ 不平衡などの劣化要因を送信信号に追加できます。他の例と詳細については、変調精度の測定およびRF 損失の可視化のトピックを参照してください。

参考文献

1.IEEE Standard 802.15.4, Wireless Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications for Low-Rate Wireless Personal Area Networks, 2003.

Simulink での EDGE 伝送の EVM 測定

この例では、EVM 測定を使用して EDGE 送信機設計における変調誤差の劣化を測定する方法を示します。EVM Measurementブロックは、理想的な基準信号と測定信号を比較してから、RMS EVM、最大 EVM、および百分位 EVM 値を計算します。

doc_evm モデルには、EDGE 送信機、劣化、および EVM 計算が含まれています。

  • 送信機 --- doc_evm_init 補助ファイルは、モデルが EDGE 送信バーストを生成するために使用するパラメーター構造を初期化します。Random Integer Generatorブロックは、ランダム データ生成をシミュレートします。EDGE 規格に沿って、送信機はバーストの有効時 (テイル ビットを除く) に少なくとも 200 点を超えるバーストの測定を実行します。このモードでは、送信機はバーストあたり 435 個のシンボルを生成します (9 個の追加シンボルはフィルター遅延を考慮します)。Phase/Frequency Offsetブロックは、信号に連続的な $3\pi/8$ 位相回転を与えます。同期目的で、Upsampleブロックは信号を係数 4 でオーバーサンプリングします。Discrete FIR Filter (Simulink)ブロックは、GMSK 変調のローラン分解において主要なコンポーネントである GMSK パルス線形化を提供します [3]。補助関数はフィルター係数を計算し、直接型 FIR フィルターを使用してパルス整形の効果を作成します。フィルターの正規化は、メイン タップ部で 1 のゲインを提供します。I/Q Imbalance Compensatorブロックは送信機障害をシミュレートします。このブロックは、信号に回転を加え、テスト中の送信機の欠陥をシミュレートします。

Amplitude imbalance = 0.25 dB
    Phase imbalance = 0.75 degrees

  • 受信機 --- Receiver Thermal Noiseブロックは、受信機における劣化を表現します。このモデルでは、熱ノイズが 290 K であると仮定します。つまり、テスト中のハードウェアに欠陥があると仮定します。

  • EVM 計算 --- EVM Measurement ブロックは理想的な基準信号と劣化した信号との間のベクトルの差を計算します。FIR フィルターの出力は、EVM ブロックの基準入力を提供します。Noise Temperature ブロックの出力により、EVM ブロックの入力端子で劣化信号が提供されます。ブロックではさまざまな正規化オプションを利用できますが、EDGE 規格では平均基準信号強度を使って正規化する必要があります。この例では説明目的のため、EVM ブロックは RMS、最大、および百分位測定値を出力します。

  • EDGE 規格の EVM 仕様 --- EDGE 規格 [1] によれば、送信波形に対して計算された受信信号のエラー ベクトル振幅は、次の値を超えてはなりません。

T =

  3x4 table

                           MS Normal    MS Extreme    BS Normal    BS Extreme
                           _________    __________    _________    __________

    RMS EVM                   9%           10%           7%           8%     
    Peak EVM                  30%          30%           22%          22%    
    95th Percentile EVM       15%          15%           11%          11%    

EVM の計算

構成された EDGE 送信機の計算された EVM は次のとおりです。

Measured values
RMS EVM = 10.03%
Peak EVM = 19.77%
95th percentile EVM = 15.19%
Number of symbols processed = 85626

次の表において、true は設定された EDGE 送信機がテストにパスしたことを示し、false は送信機がテストに失敗したことを示します。

T =

  3x4 table

                           MS Normal    MS Extreme    BS Normal    BS Extreme
                           _________    __________    _________    __________

    RMS EVM                  false        false         false        false   
    Peak EVM                 true         true          true         true    
    95th Percentile EVM      false        false         false        false   

劣化の調整と EVM の再計算

IQ 不平衡を増やして EVM を再計算すると、このシミュレートした EDGE 送信機は、すべての条件下で移動局の EVM テストに失敗します。再構成された EDGE 送信機の計算された EVM は次のとおりです。

Amplitude imbalance = 2.0 dB
    Phase imbalance = 0.75 degrees
Measured values
RMS EVM = 16.06%
Peak EVM = 34.63%
95th percentile EVM = 25.52%
Number of symbols processed = 85626

以下も同様に、true は再構成された EDGE 送信機がテストにパスしたことを示し、false は送信機がテストに失敗したことを示します。

T =

  3x4 table

                           MS Normal    MS Extreme    BS Normal    BS Extreme
                           _________    __________    _________    __________

    RMS EVM                  false        false         false        false   
    Peak EVM                 false        false         false        false   
    95th Percentile EVM      false        false         false        false   

参照

[1] 3GPP TS 45.004 V7.2.0 (2008–02). "Radio Access Networks; Modulation".

[2] 3GPP TS 45.005 V8.1.0 (2008–05). "Radio Access Network: Radio transmission and reception".

[3] Laurent, Pierre. "Exact and approximate construction of digital phase modulation by superposition of amplitude modulated pulses (AMP)." IEEE Transactions on Communications. Vol. COM-34, #2, Feb. 1986, pp. 150–160.

[4] ESTI TR 101 290. Digital Video Broadcasting (DVB): Measurement guidelines for DVB systems. June 2020.

[5] IEEE Standard 802.15.4, Wireless Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications for Low-Rate Wireless Personal Area Networks, 2003.

参考

ブロック

オブジェクト

関数

関連するトピック