ロボットシミュレーション

ロボットシミュレーションを使用すれば、ロボティクスのエンジニアおよび研究者はロボットとその環境のバーチャルモデルを作成できます。このテクノロジーにより、シミュレーションされたリスクのない設定内で、ロボットの設計、制御アルゴリズム、およびさまざまな要素との相互作用のテストと妥当性確認を行うことができます。シミュレーション ソフトウェアを使用することで、構築にコストと時間がかかる可能性のある物理的なプロトタイプを必要とせずに、さまざまな条件下でロボットの動作を予測および解析できます。

ロボットシミュレーションの仕組み

ロボットシミュレーションは、時間とリソースを節約するだけでなく、物理システムを構築する前にロボットアルゴリズムおよびシステムをテストおよび改善するための安全な環境も提供します。

ロボットシミュレーションのタイプ

ロボットシミュレーションはいくつかのタイプに分類できます。タイプごとに、ロボットシステムの開発とテストにおいて特定の目的を果たします。

  • マルチドメイン動的シミュレーションには、現実世界の条件下で制御システムをテストして環境と物理的に相互作用するロボットを設計するために、力やトルクなどの物理法則が組み込まれています。物理ベースのマルチドメイン モデリングツールを使用すると、マルチボディ動的シミュレーションを実行し、機械コンポーネント、アクチュエーター、および制御手法を微調整して、効率的かつ効果的な動作を確保できます。
  • 運動学的モーション シミュレーションはロボットの動きを可視化し、衝突を回避する効率的な経路を確実に実現します。これは、自律システム アプリケーションを設計するためにロボットの軌道を計画および検証する際に非常に重要になります。このシミュレーションでは、自律動作に不可欠な点であるロボットの AI と意思決定機能をモデル化し、ロボットがバーチャル環境をどのように知覚して応答するかをシミュレーションできます。
  • 高水準タスク シミュレーションは、複雑なタスクを実行するロボットの能力を評価し、特定のシナリオ内でのロボットの動作効率の妥当性確認に役立ちます。高水準タスク シミュレーションはゲームエンジンの高度な物理法則とレンダリング機能を活用します。このシミュレーションには、複雑で動的な環境内でのロボットの入出力のセンサーとシナリオのエミュレーションが組み込まれています。
  • ハードウェアインザループ (HIL) シミュレーションは、プログラマブル ロジック コントローラー (PLC) を含む実際のハードウェア コンポーネントをシミュレーションに統合し、リアルタイムでの産業用制御システムのテストと妥当性確認を可能にします。HIL シミュレーションは、精度と効率性の高いテストプロセスを促進します。この手法は、潜在的な問題を特定し、システムのパフォーマンスを最適化し、物理的に展開する前に信頼性を確保するために非常に重要です。

これらのシミュレーションを合わせることで、ロボットを開発、テスト、改良するための包括的なツールとなり、ロボットを現実世界に展開するための準備が充分に整います。

マルチボディ動力学的、運動学的、高水準タスク、HIL シミュレーションのシミュレーション タイプ全体でロボットの知覚、計画、制御のステップを組み込んだシステム エンジニアリング ワークフロー図。

ロボットシミュレーションのタイプ。

普及しているロボットシミュレーション ソフトウェア

シミュレーションはロボットシステムの検証と妥当性確認で大いに役立つと期待されており、労力とコストを必要とするフィールドテストのプロセスに代わる、自動化され、コスト効率の高いスケーラブルな代替手段を提供します。ロボットシミュレーション ソフトウェアの現況は多様性に富み、ロボティクス コミュニティ内のさまざまなニーズに合わせてカスタマイズされたツールが提供されています。

  • Gazebo シミュレーターは物理法則モデリングと幅広いセンサーを提供し、複雑なシナリオや屋外環境に焦点を当てている研究者にとって頼りになるツールとなっています。
  • CoppeliaSim は、柔軟性の高いスクリプト作成と一連の組み込み関数で知られており、単純なロボットシステムと複雑なロボットシステムの両方のシミュレーションに適しています。
  • Webots は、モバイルロボットのモデル化、プログラミング、シミュレーション用のプラットフォームを提供します。使いやすく、クロスプラットフォームをサポートしているため、教育機関や研究で広く利用されています。
  • RoboDK は産業用ロボット アプリケーション向けに特別に設計されており、製造用のロボットアームをシミュレーションおよびプログラムする手法を提供しています。
  • MuJoCo は、ロボット、生体力学的システム、および複雑な相互作用や接触を伴うその他の動的な物体のシミュレーションおよび制御のために設計された物理エンジンです。
  • Unity®Unreal Engine® は、ゲーム開発からロボティクスにまで拡大しており、ロボティクスにおける VR および AR アプリケーションに特に役立つ、高忠実度の可視化と物理法則を提供しています。
  • NVIDIA Isaac Sim® は、高度なグラフィックスと AI を活用して、非常に現実的なバーチャル環境でロボティクスおよび AI アルゴリズムの開発、テスト、学習を可能にするシミュレーション プラットフォームです。
  • MATLAB® と Simulink® は、アルゴリズム開発、テスト、システム解析のためにロボティクスの詳細なモデル化とシミュレーションを可能にするその計算機能がよく知られています。これらは統合プラットフォームとしても機能し、上記のツールを含む他のシミュレーターとのコシミュレーションも可能です。

これらの各シミュレーターは、ロボット マニピュレーター、海洋ロボット、学術研究、産業オートメーション、仮想現実の統合など、ロボットシミュレーションのさまざまな側面で役立ちます。

MATLAB および Simulink とコシミュレーションするさまざまなロボット シミュレーターとゲームエンジンを示すワークフロー図。

MATLAB および Simulink を使用した、センサーおよびシナリオ シミュレーション用のロボット シミュレーターおよびゲームエンジンとのコシミュレーション。

ロボットシミュレーションが重要な理由

ロボットシミュレーションは、ロボットシステムの開発と展開を進めるうえで重要なものであり、システムと環境のモデル化に不可欠な利点をもたらします。バーチャル空間でロボットの仕組み、エレクトロニクス、およびソフトウェアの詳細な設計と解析が可能になり、開発者は現実世界でリスクを冒すことなく設計上の欠陥を特定し、パフォーマンスを最適化できるようになります。シミュレーションには、以下が含まれます。

  • システムのモデル化。ロボットシステムの設計の作成と解析に使用されます。シミュレーションにより、バーチャル環境でのシステムのモデル化のためのコンポーネントの相互作用が理解しやすくなります。これにより、システムのパフォーマンスが最適化され、製品が意図したとおりに機能するようになります。
  • 環境のモデル化。環境のモデル化は、ロボットが動作する物理世界をシミュレーションし、さまざまな設定においてナビゲーションおよびタスクの実行をテストします。安全で効率的なこの手法では、現実世界でのテストにかかるコストをかけずに、さまざまな条件に対してロボットをテストします。
  • 仮想試運転。仮想設定で制御手法とロボティクスのシステム統合の妥当性を確認し、システム稼働時のダウンタイムを削減しつつ効率を向上させます。
MATLAB、Siemens PLC、Speedgoat リアルタイム ターゲット マシン、および Simulink 3D Animation による Unreal シミュレーションを示す仮想試運転設定。

PLC マシン、リアルタイム ターゲット、可視化などの産業用ロボットの仮想試運転設定。

ロボットを改良し、実際の動作条件に対して準備するには、ロボットシミュレーションが不可欠です。安全性を確保し、物理的なプロトタイプを最小限に抑えてコストを削減し、迅速な反復を実現して開発を加速します。

ロボットシミュレーションの主な利点

  • 安全性とリスクの軽減: バーチャル環境でテストすることで潜在的な危険を防ぎます。
  • コスト効率: 仮想テストを使用することで、材料と試行回数を削減します。
  • ラピッド プロトタイピングとテスト: 迅速な評価と反復が可能になります。
  • アルゴリズム開発と妥当性確認: アルゴリズムを微調整するための制御された設定を提供します。
  • 設計最適化: 産業設定における効率的な量産レイアウトの構成に役立ちます。
  • 環境テスト: さまざまな条件下でロボットを評価し、動作機能を確認します。

ロボティクス テクノロジーが複雑化するにつれて、ロボットシミュレーションの使用が増えています。安全でコスト効率が高く、効率的な開発手法が提供されるため、ロボットを展開するための準備を十分に整えることができます。

ロボットシミュレーションの機能と課題

ロボットシミュレーションは、ロボティクスの分野における実用性と有効性を高めるいくつかの主な機能によって特徴付けられます。これらの機能は、シミュレーションが可能な限り現実的で有用なものになるように設計されており、物理ベースのモデル化からフォトリアリスティックな環境に至る幅広い範囲をカバーしています。ただし、このような進歩にもかかわらず、開発者はロボットシミュレーションの効果的な使用を妨げる可能性のある数多くの課題に直面しています。

組み立てラインにおける 2 台のロボットアームのシミュレーションを示すスクリーンショット。

Simulink 3D Animation の Unreal Engine インターフェイスを使用した、2 台のロボットによるワークセルを持つバーチャル組み立てラインの自動化。

ロボットシミュレーションの主な機能

  • 物理法則ベース。シミュレーションには物理法則が組み込まれており、現実世界の物理的相互作用を模倣した現実的なロボットの動作が保証されます。
  • センサーモデル。ロボットと環境の相互作用に不可欠です。ロボットシミュレーションには、さまざまなセンサー入力をシミュレーションする機能が含まれています。これにより、開発者はロボットが周囲の状況をどのように知覚するかをテストできます。
  • フォトリアリズム。高度なシミュレーションにより、正確なビジュアルデータ処理と意思決定アルゴリズムに不可欠である、フォトリアリスティックな環境を提供します。
  • 接続性。シミュレーションは他のソフトウェアツールやシステムと接続できるため、包括的なマルチシステムの統合が可能になります。この機能は、ロボット オペレーティング システム (ROS) とのシームレスな統合のために特に重要です。
  • マルチドメイン シミュレーション。電気システムや機械システムなどの環境をシミュレーションする機能により、複雑な条件におけるロボットのシミュレーションが可能になります。
  • 速さ。効率的な設計により、複雑なロボットシナリオを迅速に反復およびテストできます。
  • ユーザー インターフェイス (UI)。ユーザーがシミュレーション ソフトウェアを簡単に操作し、設定を管理し、動作や相互作用を可視化するには、直感的な UI が不可欠です。

Unreal Engine でのビンピッキング コボットのシミュレーション。

ロボットシミュレーションの課題

ロボットシミュレーションには多くの利点がありますが、開発者はその有効性を限定してしまうおそれのある複数の課題に直面しています。

  • 拡張性と複雑性。パフォーマンスを低下させることなく複雑なシステムのシミュレーションをスケーリングするのは困難です。
  • リアリズムと忠実度。物理的な相互作用やロボットの動作のシミュレーションにおいて高いリアリズムを実現するには、高度なモデルが必要です。
  • 計算上の要件。高度なシミュレーションには大量の計算リソースが必要となるため、速度と利用しやすさが制限される可能性があります。
  • センサーのノイズと不確かさのモデル化。ロボットセンサーに固有のノイズと不確かさを正確に再現することは困難ですが、堅牢性の高い知覚アルゴリズムを開発するためには不可欠です。
  • シナリオと環境の作成。テスト用の多様で現実的なシナリオと環境の設計には時間がかかり、多くの場合、専門知識が必要になります。
  • 継続的インテグレーションを使用した統合。継続的インテグレーション パイプラインにシミュレーションを組み込むのには困難が伴い、シミュレーションを開発サイクルの一部にする必要があります。

ロボットシミュレーションは、デジタル プロトタイピングから運用、メンテナンスに至る、開発プロセスのすべての段階および製品ライフサイクル全体で不可欠です。システムを構築および展開する前にテストと改良を行うためのバーチャル環境が提供されるため、設計上の欠陥の早期検出とシステム パフォーマンスの検証を行うことができます。ロボティクス開発においてシミュレーションの潜在能力を最大限に引き出すには、上記の課題を克服することが重要です。

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MATLAB を使用したロボットシミュレーション

MATLAB を使用してロボットをシミュレーションするには、モデルベースデザイン (MBD、モデルベース開発) を中心とした包括的な手法が必要です。この設計プロセスにより、ロボティクスシステムのデジタルツインを作成できます。モデルベースデザインを利用することで、MATLAB は潜在的な課題を早期に特定し、システム機能を最適化し、現実のシナリオでロボットが予想どおりに確実に動作するようにします。これにより、開発の道筋が合理化されます。MATLAB を使用してロボットをシミュレーションする方法の詳細を以下に示します。

  • デジタルツインの作成。まず、Simscape™Robotics System Toolbox™ を使用して MATLAB でロボティクスシステムをモデル化し、デジタルツインを作成します。このデジタル表現がシミュレーションのコアとなり、詳細な解析と検証が可能になります。
  • マルチドメイン シミュレーション。MATLAB と Simscape を使用して、単一の環境内でさまざまなドメインをシミュレーションします。このステップには物理モデリングと動的シミュレーションが含まれており、統一された空間でロボット機能のさまざまな側面をテストできます。
  • ロボットの自律性の設計。Robotics System Toolbox を使用すると、ロボットの自律性をシミュレーションしてテストできます。これにより、物理的なプロトタイプを必要とせずに、ロボットがさまざまなシナリオや環境にどのように応答するかを調べることができます。
  • 自動テスト。MATLAB はモデルベースデザイン内での自動テストをサポートしており、システム要件に対してロボットの妥当性を効率的に確認できます。この手法により、ロボットのすべてのコンポーネントが必要な基準を確実に満たすようにできます。
  • フォトリアリスティックなシミュレーション。MATLAB と Simulink 3D Animation™ は、Unreal Engine のフォトリアリスティックなシミュレーション機能と連携して、非常に現実的で複雑なバーチャル環境内で AI モデルの学習を行うための強力なプラットフォームを提供します。このプラットフォームにより、現実世界の条件を厳密に模倣するシナリオで高度なアルゴリズムを開発、テスト、および改良でき、さまざまなアプリケーションで AI システムの有効性と信頼性を向上させることにつながります。
  • コード生成。デジタルツインは、コード生成の基盤としても機能します。この機能により、早期および継続的なテストと検証が促進され、シミュレーションから現実世界の展開への移行が加速します。
  • 統合とコシミュレーション。Simulink は、強力な統合プラットフォームとして機能します。Simulink 環境内で C/C++ または Python® で記述した社内コードを組み込んだり、サードパーティのソフトウェアやシミュレーターを使用したりできます。ROS Toolbox™ は、さまざまなシミュレーターやハードウェアとのコシミュレーションに特に役立ち、ロボットシミュレーションのリアリズムと深度が強化されます。

MATLAB を使用すると、ロボットの物理的なダイナミクスから自律的な動作に至るまで、ロボットを効果的にシミュレーションできます。この手法により、開発プロセスが迅速化するだけでなく、最終的なロボットシステムの信頼性とパフォーマンスも向上します。

ROS Toolbox と ROS ネットワークを介して、Gazebo、Unity CARLA、NVIDIA Isaac Sim と接続されたMATLAB と Simulink を示す図。

MATLAB および Simulink とさまざまな外部シミュレーターとのコシミュレーション用の ROS。

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