状態監視

状態監視とは、機器からセンサーデータを収集して解析し、稼働中の機器の健全性状態を評価するプロセスです。機器の現在の健全性状態を正確に把握することは、予知保全や状態基準保全プログラムを開発するうえで極めて重要です。

状態監視の利点

状態監視により、機器メーカーとオペレーターは以下を行うことができるようになります。

  • 想定外の故障の削減: 大きな問題になる前に、異常や故障を検出します。
  • 保守スケジュールの最適化: 必要な場合にのみサービスをスケジューリングすることで、不要なメンテナンスのコストを回避できます。
  • ダウンタイムの短縮: 故障の原因をより迅速に特定し、診断やメンテナンスにかかる時間を短縮します。

状態監視とは、単にデータを収集するだけでなく、そのデータを使用して機械の状態を評価することでもあります。実際には、1 つのセンサー値が安全しきい値を超えないようにする管理図から、数か月の履歴データを持つ数百のセンサーで学習させた機械学習アルゴリズムまで、様々なものが考えられます。

状態監視アルゴリズム

状態監視と故障予測の比較

予知保全プログラムには、状態監視と故障予測の両方のアルゴリズムが含まれている場合があります。状態監視と故障予測の主な違いは、時期です。

  時期 MATLAB コード例
状態監視 現在の状態 ベアリングの故障検出
故障予測 将来の状態 航空機エンジンの残存耐用時間の推定

状態監視では、機械の現在の状態に注目します。リアルタイムのデータを使って不具合や異常を特定し、すぐに修正のための措置を行って故障を防ぐことができます。状態監視の手法には、機械の動作が正常から逸脱すると検出する異常検出アルゴリズムと、特定のコンポーネントの不具合を特定する診断アルゴリズムがあります。

一方、故障予測は、データのトレンドやパターンを解析することで、機器の将来の残存耐用時間を推定します。こうした予測的な面は、事前にメンテナンスのアクティビティを計画し、リソースの割り当てを最適化し、ダウンタイムを短縮するうえで役立ちます。

状態監視と故障予測アルゴリズムを連携させることで、機械の信頼性と寿命を向上する包括的な Prognostics and Health Management (PHM) 戦略を構築することに役立ちます。

状態基準保全 (CBM) は、現在の機器の健全性状態に基づいて保全を行う方法です。CBM が機能する仕組みと予知保全との違いについて説明します。

MATLAB による状態監視アルゴリズムの開発

MATLAB® で状態監視アルゴリズムを開発する典型的なワークフローには、データの取得と前処理、状態インジケーターの特定、モデルの学習、アルゴリズムの展開と統合が含まれています。

データの取得から展開、統合までのステップを示す状態監視のワークフロー図。

状態監視アルゴリズム開発のワークフロー。

データの取得

データの取得は、状態監視アルゴリズムの開発において、常に最初の手順です。稼働中の機械からのストリーミングまたはアーカイブされたセンサーデータが存在する場合、さまざまな方法でそのデータにアクセスして解析できます。テスト用ハードウェアから直接データを取得したり、OPC UA、RESTful Web サービス、データベース、AWS S3、Azure Blob などのツールに接続してデータを取得したりできます。

状態監視アルゴリズムの学習に使用する適切なデータの中でも、特に不具合や故障を表すデータを取得し、整理することは困難です。Simscape™ で構築された物理ベースモデルを使用して合成データを生成することで、既存の運用データを置き換えたり、拡張したりできます。

MATLAB による状態監視アルゴリズムの開発方法について説明します。障害や異常を早期に検出できる状態監視アルゴリズムを開発して、想定外の障害や不要なメンテナンスによるダウンタイムとコストを削減します。

データの探索と前処理

データを深く理解することは、有用な状態監視アルゴリズムを設計するための鍵となります。このためにデータを前処理して外れ値、ノイズ、トレンド、その他のアーティファクトを除去する必要が生じる場合もあります。前処理によって、利用可能な最も代表的な情報に基づいて状態監視アルゴリズムの学習を確実に行うことができます。

このデータ探索段階では、データセットの一部の可視化が役立つ場合があります。データが表す内容を理解できる特定分野の専門家であれば、目視で簡単に異常や不具合を発見できる場合があります。この場合、findchangepts管理図のように単純な状態監視アルゴリズムで十分なこともあります。

データに多くのセンサーや識別しにくい複雑なパターンが含まれている場合、データセットから意味を抽出するには、より高度な手法が必要になります。ここで役立つのが、機械学習やディープラーニングのような AI ベースの手法です。

冷却ファンのモーター電圧、ファン回転数、温度データの MATLAB プロット。簡単に見つけられる異常を示している。

この MATLAB プロットが示すように、時にはセンサー読み取り値で簡単に異常が見つけられることがあります。この場合、単純な状態監視アルゴリズムで十分といえます。

状態監視アルゴリズムの設計

状態監視アルゴリズムの設計における最初の手順は、通常、状態インジケーター (正常な動作と異常な動作の違いを示す特徴量) を特定することです。状態インジケーターの特定は、簡単な場合もあれば、多数のセンサーから派生した数量を抽出および解析することで意味のあるパターンを探し出すという反復プロセスが必要になる場合もあります。このプロセスは、特徴量エンジニアリングとして知られています。

Predictive Maintenance Toolbox™ には、最も関連する特徴量を対話的に抽出、解析、ランク付けして、故障を検出できる診断特徴デザイナーアプリが含まれています。このアプリを使用すると、生データを有用な派生特徴量に変換する作業を簡略化し、効果的な状態監視アルゴリズムの開発が容易になります。

重要度別にランク付けされたポンプ流量特徴量を表示する、診断特徴デザイナーアプリを使用して学習中の状態監視アルゴリズム。

診断特徴デザイナーアプリを使用すると、特徴量を対話的に抽出してランク付けし、状態監視アルゴリズムの学習を行えます。

適切な状態インジケーターを特定した後の次の手順は、それを使用して状態監視アルゴリズムを作成することです。これには、選択した特徴量から学習し、障害や異常を正確に検出できる、機械学習やディープラーニング アルゴリズムの学習が含まれます。分類学習器アプリでは、さまざまな機械学習モデルの比較を通じて、異なる故障分類方法を対話的に試行して、最適な状態監視アルゴリズムを探すことができます。

学習済みの機械学習アルゴリズムによる結果の混同行列を示す、分類学習器アプリのスクリーンショット。

分類学習器アプリを使用すると、状態監視用のさまざまな分類モデルを学習できます。

状態監視アルゴリズムの展開と統合

ビジネス価値を提供するには、状態監視アルゴリズムを、オンプレミスのサーバーやクラウドなどの運用環境に展開し、統合する必要があります。状態監視アルゴリズムを組み込みシステムに展開することで、応答時間を短縮し、ネットワーク経由で送信されるデータ量を削減することもできます。

展開では、開発環境から、機器の監視を開始できる実際の動作設定にアルゴリズムを移します。この手順では、アルゴリズムが機械のセンサーやデータ収集システムとシームレスに連動するよう、慎重に計画を立てる必要があります。一方、統合では、運用ワークフローの中にアルゴリズムを組み込み、他のメンテナンスシステムや監視システムと効率的に通信できるようにします。これには、アルゴリズムが潜在的な問題を検出した場合にメンテナンスチームに通知を出す設定や、機械の健康インジケーターをリアルタイムで表示するダッシュボードとの統合などが含まれます。

Coca-Cola では、MATLAB および Simulink を使用して、Freestyle 飲料ディスペンサーに展開する機械学習ベースの仮想圧力センサー用の組み込みコードを開発しました。

展開と統合の段階では、理論的な設計から実用的な応用への移行が行われ、機器の故障を予測し、防止するというアルゴリズムの有効性が本格的に試されることになります。状態監視アルゴリズムは、予知保全の重要なツールとなる場合があり、機器の寿命を延ばし、運転効率を向上させるのに役立ちます。

状態監視に関連するツールや例については、Predictive Maintenance Toolbox を参照してください。