韓国エネルギー技術研究院、AI ベースの洋上風力発電向け予知保全モデルを開発

「AI の経験がほとんどなかったにもかかわらず、限られた予算と厳しい納期の中、MATLAB を使用して、風力タービン コンポーネントの故障を 90% 以上の精度で検出する診断モデルを完成させることができました。」

課題

潜在的なコンポーネントの故障をその発生前に特定し、多大なコストを伴う洋上風力タービンのダウンタイムを防止する

ソリューション

MATLAB を使用して、既存のセンサーデータによって潜在的な故障を予測する機械学習およびディープラーニングのアルゴリズムを開発する

結果

  • 開発期間を半分に短縮
  • 90% 以上の予測精度を達成
  • 厳しい納期に対応
KIER の風力タービン健全性監視システム。

KIER の風力タービン健全性監視システム。

韓国政府は「再生可能エネルギー 3020 履行計画」の一環として、2030 年までに国内のエネルギーの 20% を再生可能な資源から生成するという目標を設定しています。結果として、洋上発電の設置数が飛躍的に増加することが予想されています。洋上施設は陸上施設よりも保守が困難であるため、効果的な予知保全システムの必要性が高まっています。

韓国エネルギー技術研究院 (KIER) のエンジニアは、AI を使用して個々のタービン コンポーネントに対する構造的負荷を予測し、故障が発生する前に予防措置を講じることができる診断モデルを開発しました。MATLAB® で開発されたこのモデルは、機械学習およびディープラーニングのアルゴリズムを組み込み、IEC 61400-13 に準拠した既存のセンサーから収集したデータを使用しています。

KIER の上級研究員である Jung Chul Choi 氏は次のように述べています。「洋上発電では、センサーの設置や運用にかかるコストが予知保全の阻害要因となることがよくあります。私たちが開発した MATLAB ベースの AI モデルは、少ない数のセンサーでそうしたコンポーネントの状態を診断できるため、コストが削減されます。」

課題

KIER は、風力タービンの予知保全のために、センサーデータからタービンのブレードと他の主要コンポーネントに対する曲げモーメントおよび応力を推定する必要がありました。標準的なタービンは約 8,000 個のコンポーネントで構成されており、各コンポーネントに新たにセンサーを設置する場合、莫大なコストがかかります。KIER のエンジニアは、さまざまな運転時間帯に既存のセンサーから取得した風速、タービン回転速度、発電量などのデータを使用する必要がありました。これには、複数のタービンから 1 日あたり 1 GB のデータ量で収集される数千もの信号の解析作業が伴います。

開発チームには機械学習に関する広範な経験はありませんでしたが、さまざまな機械学習やディープラーニングの手法をすばやく評価し、利用可能なデータに最適な手法を特定しなければなりませんでした。また、厳しい納期に対応する必要もありました。タービンの運用を監視するためのダッシュボードを 6 か月以内に完成させるという任務が課せられていたのです。

ソリューション

開発チームは MATLAB を使用し、外れ値の除去やスムージングとデータ削減の実行によってセンサーデータの前処理を行いました (タービンの静止時に取得したセンサー測定値の除去など)。

Statistics and Machine Learning Toolbox™ と Curve Fitting Toolbox™ を使用することで、正則化された線形回帰、多項式の曲線近似、決定木に基づいたアルゴリズムなど、数多くの機械学習アルゴリズムを実装しました。ブレードの曲げモーメント、シャフトの傾斜モーメント、シャフトのヨーモーメントなど、主要なタービン コンポーネントの負荷値を予測する各アルゴリズムの性能を評価しました。次に、Deep Learning Toolbox™ を使用して、人工ニューラル ネットワーク (ANN) の実装と学習を行い、同様に評価しました。

エンジニアは MATLAB App Designer を使用して、アルゴリズムのグラフィカル インターフェイスを作成しました。MATLAB Compiler™ を使用して、このインターフェイスとアルゴリズムを 1 つのアプリケーションにパッケージ化しました。そのアプリケーションを、タービンの運用監視に使用するダッシュボードを介して KIER の同僚と共有しました。

KIER の健全性監視システムのユーザー インターフェイス。

KIER の健全性監視システムのユーザー インターフェイス。

KIER は、累積損傷モデルを使用して残存耐用時間 (RUL) を計算し、保守が必要なタイミングを判断しています。今後の計画として、MATLAB ベースのアルゴリズムを、済州島の KIER の洋上風力施設に設置されているタービンの健全性管理システムに導入することが予定されています。

結果

  • 開発期間を半分に短縮。Choi 氏は次のように述べています。「Python などのオープンソースの他の手法を使用していたら、データの前処理、堅牢な診断アルゴリズムの開発、ダッシュボードの作成にもっと時間がかかっていたでしょう。MATLAB を使用したことで、オープンソースの他の方法と比較して、開発期間を 50% 以上削減できたと見積もっています。」
  • 90% 以上の予測精度を達成。Choi 氏は次のように述べています。「MATLAB で開発したモデルの予測精度は、主要な 6 つの部品で 90% を超えています。このレベルの精度が確保されるため、風力タービンの予知保全システムを開発して故障を事前に診断することにより、タービン 1 基あたりのコストを年間数百万ドル削減できています。」
  • 厳しい納期に対応。Choi 氏は次のように述べています。「MATLAB を使用することで、さまざまなファイル形式の大量のデータを処理できました。MATLAB により、複数の信号の相関を解析し、データを削減して、6 か月という厳しいプロジェクト納期内にアルゴリズム開発を完成させることができました。」