協働ロボット (コボット・Cobot) とは
協働ロボット (コボット、Cobot、Collaborative Robot) とは、人間との直接的なインタラクションを通して共同で各種作業を行うことができるロボットです。従来の産業ロボットはロボットの作業スペースに作業者が立ち入らないような安全柵が必要です。そのため、産業ロボットと人間が協調して作業することはできませんでした。一方、協働ロボットは人間と同じ作業スペースで動作させることで、以下のことが可能になるメリットがあります。
- 複雑で柔軟なタスクの安全な実行
- 少量多品種生産への柔軟な対応可能
- 位置制御・力制御による安全性の確保
- 省スペースで設置の自由度が高い
- ロボットに触れながら直感的にティーチング (教示) およびプログラミングが可能
協働ロボット という概念は、自動車業界の研究プロジェクトや企業から生まれました。その当時、協働ロボットは直接的なインターフェイスを通して、人間による制御下で重量物を動かす動力を提供していました。このシステムにより、協働ロボットの支援機能を安全に使用することができました。長年にわたり、協働ロボットには、以下のようなタスク実行のための開発がなされてきました。
協働ロボット (コボット)を選ぶ理由
従来の産業オートメーションでは、人間の作業者に危害を加えることなくロボットの機能を確実に発揮させるために、人間との物理的な接触を避ける必要がありました。このようなシステムでは、産業ロボットは完全に無人の場所や安全柵、ケージの中で運用します。
柔軟性の高いオートメーション
現在のマーケットでは、リードタイムの短縮や効率的な多品種少量生産やマスカスタマイゼーションが必要とされています。このような需要により、人とロボットが共同作業を行い、作業者を危険にさらすことなく、柔軟で多目的な生産システムへの関心が高まっています。柔軟かつ協調的なオートメーションでは、協働ロボットがエンドユーザーである人間の能力を、強度、精度、データ解析機能の面で補強および強化し、付加価値を提供します。協働ロボットの開発は、以下の目的で行われます。
- マスカスタマイゼーションもトレンドとして入れておいた方がよろしいかと思います。現在製造業ではプラットフォームを統一化して、それ以外をオプションとしてカスタムする流れが主流かと思います。共存 — 人間の作業者とのワークスペースの共有によるプロセスの最適化
- 共同作業 — 人間が関与するさまざまなタスクに合わせた柔軟性の高い自動化
安全システム
安全柵は、セル生産方式で作業者が介在する環境へのロボット導入障壁となることがあります。協働ロボットとそのワークスペース内のオブジェクトとの間で安全な作業を可能にする安全設計により、安全要件を満たすように設計されています (例: ISO® 10218-1 規格)。協働ロボットは、衝突の危険性がある場合には減速し、不意の衝撃によるエネルギーを吸収するために、関節トルクセンサーなどの規格に準拠したコンポーネントを搭載しています。さらに、協働ロボット開発者は、(カメラ、レーザー、LiDAR、深度センサー、RGB-Dセンサーなど) 多岐にわたる外部センサーを採用し、取得したデータを統合することで、人間とロボットの接近やジェスチャーを確実に認識できるようにしています。
高度なアルゴリズムおよび AI を使用したコボットのプログラミング
あらゆる要件を満たすコボットを開発する妨げとして、技術不足が課題となっています。少量多品種の実稼働環境での製造において、コボットが持つ可能性を発揮するためには、高度なアルゴリズムが必要です。コボットは、不慣れな状況下でも、ディープラーニングを使用して独自に環境を知覚することにより、明示的な指示なしで作業ができなければなりません。コボットのモーションプランナーは、コボットが目標位置に到達できるようにし、衝突回避アルゴリズムは、コボットが移動する場合にセンサーから提供される局所的な知識に基づいて、動的環境における反応動作を実現します。
協働ロボットシステム設計・導入の流れ
協働ロボットを生産システムに導入する際には、以下の8つの段階を踏むことが重要です。このプロセスでは、自社の生産技術の専門家やシステムインテグレーターと連携して進めていく必要があります。また、生産システムに詳しいエンドユーザーも、要件を定義する段階で積極的に関わるべきです。協働ロボットが生産ラインで計画通りに作動するかを、実際に作業を行う人々の視点から確認することが大切です。人との協働作業によって生産性を向上させるためには、生産設備を使うエンドユーザーの知識を取り入れた統合が必須です。
- 生産工程での課題や改善点などの要件定義
- 導入までの工程定義
- 協働ロボット選定
- 協働ロボットを含めた生産工程設計
- 協働ロボット自体の安全性の確認
- 作業者の導線を含めた環境の確認
- 協働ロボットやセンサー含めたソフトウェア設計
- 生産ラインでの運用・保守
MATLAB による Universal Robots 製コボットのサポート
UR コボット アプリケーションの設計、シミュレーション、テスト、および展開
ロボットの用途
コボットは、人間の作業者、高度なロボティクス アルゴリズム、AI と連携して動作することにより、生産性を向上し、コストを削減することで、さまざまな業界に変革をもたらしています。その適用分野は以下のとおりです。
- 自動車業界: コボットは、組み立て、ビンピッキング、検査を支援し、生産品質と速度を向上できます。
- 倉庫および工場の自動化: コボットは、仕分け、ピッキング、梱包作業を自動化し、受注処理の効率を高めます。
- 電子機器の製造: コボットは、精巧な部品を組み立て、精密なテストを行い、少量多品種生産に適応します。
- 食品、飲料加工: コボットを使用することで、製品の損傷を最小限に抑えながら、梱包、パレタイジング、デパレタイジング、品質管理ができます。
- 医薬品製造: コボットによって繊細な原料を扱い、包装作業をサポートし、確実に規制基準を遵守できます。
これらの用途は、コボットの柔軟性と、製造および生産プロセスを進めるうえでのコボットの役割を示しています。
協働ロボットの活用事例
協働ロボットが特に役立つ代表的な活用事例を紹介します。
- 組み立て作業の半自動化
協働ロボットを導入することで、セル生産方式で人が介在する工程の一部を効率化することができます。人間が得意な精密な作業はそのまま担当し、ロボットは人間には難しい作業を代行します。この協力により、生産性が向上します。また、ロボットにビジョンシステムを組み込むことで、部品の正確な位置決めが容易になります。
- ネジ締め作業の自動化
協働ロボットは、既存の作業スペースに導入するなど、ねじ締め工程へのフレキシブルな導入が可能です。異常検知センサーを組み合わせることで、ねじ穴のつぶれや、ねじのつまりを自動で検出し、品質の向上に貢献します。また、この作業は体に負担がかかるため、ロボットによる作業分担は作業者の健康を守る効果もあります。
- 検査作業の自動化
協働ロボットを使用すれば、従来の産業用ロボットのように安全柵を設置する必要がなくなり、限られたスペースでも検査作業の自動化が可能になります。検査機へのワーク供給と回収を自動化し、必要に応じて人の介入を許容することで、効率的な半自動化の検査ラインを構築できます。
- 完成品の箱詰め作業の自動化
協働ロボットは、多品種を生産する生産ラインにおいても、作業者と協調しながら柔軟な運用が可能です。画像認識技術を活用して品種を識別し、作業者の正確な箱詰めを支援します。
- 食品加工の自動化
食品加工分野では、協働ロボットの進化により、食材の形状や状態に応じた加工が可能になりました。規制緩和により人とロボットが共に作業できるようになり、食品の3次元的情報を推定する技術の発展もあり、食品加工を人と協調しながら実施することが現実的な選択肢となっています。
生産ラインに協働ロボットを導入するメリット
今まで作業者の介在が不可欠でロボットによる自動化が困難であった工程に協働ロボット導入することで、さまざまな業務を自動化し、生産性の向上や作業者の負担軽減に寄与しています。以下に、生産ラインに協働ロボットを導入するメリットを紹介します。
- 人と同じ生産ラインで柔軟な運用が可能
生産ラインに協働ロボットを導入することで、品質の向上が期待できるという点がメリットの一つです。人間の作業者に起因する品質のバラツキは、経験や集中力、習熟度によって変動することがあります。しかし、協働ロボットを活用することで、人為的なミスを減らし、製品の品質を一定の水準に保ちつつ、熟練作業者は付加価値の高い作業に集中することができ、安定した高品質の製品を連続して生産することができるのです。
- 効率と生産性の飛躍的な向上
協働ロボットを導入することによるもう一つのメリットは、生産性の向上です。人間が行う作業は、作業者の技能や集中力に左右されることが多いですが、ロボットを用いることで一定水準以上のパフォーマンスを維持できます。さらに生産ラインの各工程におけるデータを分析し、人間の作業者を追加するかロボットの導入を増やすかを判断することで、生産効率を最適化することが可能です。また、人間の作業者を他の業務に配分することで、全体の生産性をさらに高めることができます。
- 人的コストの最適化とリソースの有効活用
協働ロボットの導入がもたらす最大の利点の一つに、作業者が付加価値の高い作業に集中できるという点があります。人間と協調しながら作業することで、ロボットが最大24時間連続して稼働することによる稼働率向上も見込めます。人間の作業者には労働時間の制限やリソースの問題がありますが、ロボットにはそのような制約がないため、より効率的な運用が可能です。さらに、急な欠員や人材不足といった問題にも柔軟に対応でき、総合的な人的コストの最適化に寄与します。
協働ロボット (コボット) を導入する際の障壁
協働ロボットの本格的な展開を妨げるものとして、協働ロボットのアプリケーションと技術格差があります。少量多品種の実稼働環境での製造において、協働ロボットが持つ大きな可能性を発揮するためには、高度なアルゴリズムが必要です。協働ロボットは、不慣れな状況下でも、AIやディープラーニングを使用して環境を認知することにより、明示的な指示なしで作業ができなければなりません。協働ロボットのモーションプランナーは目標位置に到達できるような経路を障害物への衝突を回避しながら達成する必要があります。また、協働ロボットが動作する場合にセンサーから提供される認知に基づいて、動的な障害物に柔軟に対応する必要もあります。
MATLAB と Simulink による協働ロボットのシステム設計
協働ロボットのシステム開発には、多岐にわたる高度な技術を組み合わせる必要があります。これには、ロボット工学だけでなく、画像認識、信号処理、経路計画、軌道計画、シーケンス制御といった専門分野の知識が求められます。これらの技術を性能と安全性を考慮しつつ一体化し、協働ロボットのアプリケーションを設計することが重要です。
このプロセスでは、C言語、C++言語、ロボット専用言語、ROS(Robot Operating System)、ROS2、Pythonなど、様々なプログラミング言語を駆使して技術コンポーネントを開発します。実際の生産現場への導入に先立っては、多くのシナリオに対するテストと検証が欠かせません。しかし、実際のロボットを使ったテストでは、機械の故障や事故などのリスクが伴います。
そのため、リスクを最小限に抑えるために、仮想環境でのシミュレーションを利用してロボットの動作を検証する方法が取られています。これにより、安全で信頼性の高い協働ロボットの開発が可能になるのです。
MATLAB® および Simulink® は協働ロボットアプリケーションの開発に活用可能な統合開発環境です。ロボット工学や画像認識、信号処理、経路計画、軌道計画、シーケンス制御などの複合的な技術を統一環境で取り扱うことが可能です。具体的には、次のことを可能にするアドオン製品を提供しています。
- カメラ、LiDAR、深度センサー入力を使用した、協働ロボットによる環境感知のプロトタイピング。
- AI、ディープラーニングおよびコンピュータービジョンを使用した、協働ロボットアプリケーションの環境の認知。
- 逆運動学デザイナーとモーション プランニングを使用した、コボットの動きの教示。
- 協働コボットとの安全な相互作用のための、モーション コントローラーの設計、反復、および最適化。
- ロボットハンド含めたロボットアームの運動学、逆運動学、動力学、逆動力学、接触、摩擦のシミュレーション
- 協働コボット アプリケーション向けシステム制御ロジックのモデル化と自律アルゴリズムの評価。
- MATLAB を使用した Kinova® 製および Universal Robots 製コボットの接続および制御。
- 協働コボット コントローラーやオンボード コンピューターへの展開のための量産向けコードの自動生成。
- 3Dシミュレーター連携によるカメラ、LiDAR、深度センサーなどの各種センサーシミュレーション
参考: ロボティクス向け MATLAB および Simulink, ロボット マニピュレーター向け MATLAB および Simulink, Robotics System Toolbox™, Navigation Toolbox™, ROS Toolbox, Simscape Multibody™, Deep Learning Toolbox™, ロボット プログラミング
「MATLAB、Simulink、および Deep Learning Toolbox の統合により、MBSE デジタルツインのプロジェクトを確信をもって前に進めることができました。」