ホワイトペーパー

バッテリーシステムの開発ワークフロー

電動化は、電気自動車、船舶、電気航空機、グリッドタイ エネルギー貯蔵システム、太陽光発電システムなど、さまざまな用途におけるバッテリーの使用を推進しています。これらの用途では、セルの選択、電力/エネルギー密度、ボリューム、重量、寿命の面でバッテリーシステム設計に対する要件がそれぞれ異なります。

テスト前にバッテリーシステム設計をシミュレーションすることで、バッテリーパックの動的振る舞いを把握することができます。また、以下も行えます。

  • ソフトウェア アルゴリズムを検討および比較する。
  • 運用可能なテストケースを拡張する。
  • バッテリーセルからバッテリーシステムまでの技術開発のサイクルを短縮する。

バッテリーシステムの開発ワークフローは、バッテリーセルの構築から始まります。バッテリーセル設計をバッテリーシステムに橋渡しする際には、5 つの主要なタスクがあります。その手順には以下が含まれます。

  • バッテリーパックの設計
  • 電気および熱バッテリー パック コンポーネントの設計
  • バッテリー マネジメント システム (BMS) のアルゴリズム開発
  • デスクトップ シミュレーションを実行するためのコンポーネントの統合
  • ハードウェアインザループ (HIL) テストと展開

バッテリーセルとバッテリーシステムの橋渡し

Simulink® および Simscape™ を使用して、バッテリーシステムの開発ワークフローをシステム コンポーネントの統合から開始し、コンポーネント設計とアルゴリズムの妥当性を確認するデスクトップ シミュレーションを実行できるようにします (デスクトップ シミュレーションを参照)。次の手順は、ラピッド プロトタイピングおよびハードウェアインザループ テストを使用したモデルのリアルタイム シミュレーションです (バッテリーシステムのリアルタイム シミュレーションを参照)。開発の最終段階では、ハードウェア実装、展開、およびテストを行います (ハードウェア実装を参照)。

開発ワークフローの図。左から右に、デスクトップ シミュレーション、リアルタイム シミュレーション、ハードウェア実装が示されています。

Simulink および Simscape を使用したバッテリーシステムの開発ワークフロー。

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バッテリーパックの設計

Simscape Battery™ アプリケーション プログラミング インターフェイス (API) を MATLAB® で使用して、バッテリーパックを設計できます。設計の基本的な要素には、セル設計、並列セルアセンブリ、モジュール、モジュール アセンブリ、バッテリーパック設計があります。

X 軸をセル数、Y 軸をエネルギー (kWh) とする座標平面。セル、並列セルアセンブリ、モジュール、モジュールアセンブリ、パック設計の順で線形に値が増加しています。

セルからパックまでのバッテリーパック設計。

Simscape Battery を使用して、以下を行うことができます。

  • 電熱作用をモデル化し、電荷ダイナミクス、経年劣化、温度、および熱伝達の影響をバッテリーセルモデルに含めます。
  • メーカーのデータシートに基づいてセルをパラメーター化します。
  • セルからモジュール、モジュールからパックへ、さまざまなジオメトリとトポロジを使用してバッテリーモデルを構築して可視化します。
  • バッテリーパックへのカスタマイズ可能な流体経路および熱的接続を用いた冷却プレートをモデル化します。
  • セル間の温度変動を調べ、冷却効率を測定します。
  • 特定のバッテリーパック設計用のカスタム Simulink ライブラリモデルを生成します。
  • 適切なモデル分解能を設定して、モデル忠実度とシミュレーション速度のバランスを取ります。

まとめ

  • さまざまなモデル分解能を用いてカスタマイズしたバッテリーパックを設計する。
  • 熱効果をバッテリーモデルに追加する。
  • 1 行のコードでシミュレーション用のバッテリー パック モデルを生成する。

バッテリーセルからバッテリーシステムへ

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バッテリーの熱マネジメントシステム

エンジニアは MATLAB および Simulink を使用して、バッテリーパックの温度を仕様の範囲内に制御し、多様な操作条件で最適なパフォーマンスを実現するバッテリーの熱マネジメントシステムを設計することができます。

バッテリーおよびバッテリーパック冷却システムのブロック線図。

Simscape Battery を使用した新しいリチウムイオン バッテリーと経年劣化したリチウムイオン バッテリーの熱解析の比較

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バッテリー マネジメント システムのアルゴリズム

適切に設計されたバッテリー マネジメント システム (BMS) は、さまざまな充放電や環境の条件下で最大の性能、安全な動作、および最適な寿命を確保します。Simulink および Simscape を使用すれば、バッテリーバックの動的振る舞いを把握して、ソフトウェア アーキテクチャを検討し、運用ケースをテストし、ハードウェアテストを早期に開始することで、設計エラーを減らすことができます。エンジニアは、Simscape Battery の組み込みの BMS 制御ブロックを使用して、設計したバッテリーパックの性能評価、熱マネジメントシステムの開発、システムレベルのシミュレーションを実行できます。

これらの目標を達成するため、BMS は、バッテリーパックの動作および性能を制御するアルゴリズムで構成されます。

バッテリー マネジメント システムのコンポーネントを示した図。

バッテリー マネジメント システムの機能。

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デスクトップ シミュレーション

Simulink のデスクトップ シミュレーションを使用すると、バッテリーシステム設計の機能的な側面を検証できます。デスクトップ上で、動作モデルを使用してバッテリーシステム、環境、およびアルゴリズムをシミュレーションします。たとえば、アクティブとパッシブのセルバランスの構成とアルゴリズムを比較検討し、特定の用途における各バランス手法の適合性を評価できます。デスクトップ シミュレーションを使用することで、新しい設計アイデアを検討し、複数のシステム アーキテクチャをテストしてから、ハードウェア プロトタイプの作成に注力することができます。また、デスクトップ シミュレーションでは要件のテストも実行できます。たとえば、絶縁故障が検出されたときに接触器が開閉しなくなることを検証できます。

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バッテリーシステムのリアルタイム シミュレーション

デスクトップ シミュレーションで妥当性を確認した Simulink モデルを使用して、ラピッド プロトタイピング (RP) またはハードウェアインザループ (HIL) テスト用の C および HDL コードを生成し、BMS アルゴリズムの妥当性をリアルタイムでさらに確認できます。RP では、リアルタイムテスト用の制御ソフトウェアのコードを手書きするのではなく、コントローラーモデルからコードを生成し、量産マイクロコントローラーの機能を実行するリアルタイムのコンピューターに展開します。自動コード生成により、数日ではなく数時間のうちにモデルに加えたアルゴリズムの変更を、リアルタイムのハードウェアでテストできます。さらに、Simulink 内からリアルタイムの制御ハードウェアを操作して、アルゴリズムのパラメーターを変更し、テストデータをロギングできます。

ラピッド プロトタイピングと同様に、HIL テストでは、Simulink モデルからコードを生成し、リアルタイムのコンピューターに展開します。HIL テストの場合、コードは制御アルゴリズムのモデルではなく、バッテリーシステムのモデルから生成されます。これにより、バッテリーパック、アクティブおよびパッシブの回路素子、負荷、充電器、その他のシステム コンポーネントを表す、リアルタイムのバーチャル環境が得られます。このバーチャル環境を使用することで、ハードウェア プロトタイプを開発する前に、ハードウェアに損傷を与えない環境で、BMS コントローラーの機能の妥当性をリアルタイムに確認できます。

デスクトップ シミュレーション時に開発したテストを HIL テストに引き継いで、BMS 設計の進行に合わせて要件を満たしていることを確認できます。HIL テストは、主にマイクロコントローラーまたは FPGA で実行されるコードのテストに利用されますが、代わりに量産コントローラー ハードウェアを選択する前に Simulink Real-Time™Speedgoat® ターゲット ハードウェアなどのラピッド プロトタイピング システムを使用して、HIL セットアップに接続できます。

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ハードウェア実装

ハードウェア実装段階では、デスクトップ シミュレーション、RP、および HIL で検証した Simulink 制御モデルを使用して、BMS 用の効率的で量産可能なコードを生成します。必要に応じて、自動車、航空、およびその他の規制産業で使用される正式な認証規格に準拠したワークフローに量産コード生成を組み込むことができます。