Sパラメータ

Sパラメータとは

Sパラメータとは、S行列とも呼ばれ、高周波の電子回路や電子部品の特性を表すパラメータです(図1)。DUT(Device Under Test : 測定対象物)の入射波に対する反射波、伝送波の変化を振幅と位相で表現し、ネットワークアナライザで測定します。Sパラメータの反射波(反射係数)から、リターンロスや入出力インピーダンス、伝送波(伝送係数)からはゲイン(図2)、損失、位相など(図3)を計算により求めることができます。

通常の回路網(ネットワーク)には、任意の数ポートがありますが、ネットワークパラメータを考えるときには、図1のネットワークのように入力ポートと出力ポートからなる2ポートのネットワークで考えると、単純化され理解しやすくなります。各種デバイスおよび回路の入出力応答を4つの線形パラメータによってブラックボックスモデルを単純化します。

集中定数モデルでは、Y、ZおよびHパラメータでインピーダンス、インダクタンスを表し、分布定数モデルでは、Sパラメータで伝送、反射を表します。

図1. 測定対象物を表現するSパラメータのイメージ

図2. Sパラメータ : ゲイン特性

図3. Sパラメータ : 位相特性

Sパラメータを使うメリット

高周波回路、高周波部品の特性にSパラメータが適している理由として、以下の3つが挙げられます。

  • 高周波回路では全電流、全電圧を取得するのが困難:高周波回路では、反射や損失は比較的測定が容易なため、等価回路を求める方が効率的です。
  • 他パラメータへの変換が容易:Sパラメータは、Zパラメータ(入出力電流に対する電圧)、Yパラメータ(入出力電圧に対する電流)へも変換可能なため、必要に応じて変換し利用できます。
  • 解析やシミュレーションに柔軟に利用可能:Sパラメータは解析ツールやシミュレータに取り込んで、回路網の解析や、デジタル信号処理と組み合わせてのシミュレーションにも使用でき、高周波回路の客観的な解析や、実際の物がない場合でも回路や部品の評価が可能です。

図4では、入出力のマッチングが取れていないアンプ回路において、Sパラメータデータの入出力のマッチングを取る処理の解析の一例を示しています。

図4. Sパラメータを使用した解析例(入出力条件の最適値検出)

Sパラメータの基本概念

上述の通り、Sパラメータとは、DUTの入射波に対する反射波、伝送波の変化を周波数毎に測定したもので、図5のような関係式が成り立ちます。

各行列の要素は以下を意味します。
S11 : ポート1の反射係数
S21 : ポート1からポート2への伝送係数
S22 : ポート2の反射係数
S12 : ポート2からポート1への伝送係数

図5. Sパラメータの関係式

図6では、Sパラメータによる反射と伝送のイメージを表しています。

図6. Sパラメータの反射と伝送のイメージ

MATLAB/Simulink環境におけるSパラメータの活用

MATLAB®/Simulink®のRFに特化したオプション製品では、フィルタ、伝送路、アンプ、ミキサといったRFコンポーネントを使用したネットワーク設計、モデル化、解析、可視化が行える豊富な関数やオブジェクトを提供しています。また、Sパラメータの標準フォーマットであるTouchstoneフォーマットのファイルの読み込みなど容易に扱うことができます。これにより、Sパラメータを上記に記す各コンポーネントと同様に回路の一部として各種RF回路を設計して解析が可能になります。最終的に解析したSパラメータをTouchstoneフォーマットに書き込む事も可能です。

Sパラメータ、Zパラメータ、Yパラメータ、ABCDパラメータ、hパラメータ、gパラメータ、Tネットワークパラメータ間での変換やSmithチャート、極座標プロットなど、RFデータの可視化も容易に実行できます。

アプリとして提供しているRF Budget AnalysisはRFバジェット解析をサポートします(図7)。RFシステム設計者は、通常、システム全体のゲイン、ノイズフィギュア(NF)、非線形性(IP3)などの仕様を指標に設計を始めますが、RF Budget Analysisでは信号の周波数全体にわたり複数の周波数でゲイン、NFおよびIP3の結果を容易に確認できます。また、GUI上で解析した結果をSimulinkブロックに自動で変換し、シミュレーションに利用したり、Simulinkで利用できる測定テストベンチの生成などが行えます。このRFバジェット機能では、アンプ、ミキサ(モジュレータ、デモジュレータ)はもちろん、Sパラメータは、Touchstoneファイルをそのままコンポーネントとして読ませることが可能です。フィルタ等のパッシブデバイスは、振幅・位相特性をその物を設定されている必要な周波数を自動的に使用します。また、TouchstoneのデータにNFのデータがあれば、そのNFの値もそのまま活用します。

図7. RF Budget Analysisを利用したバジェット解析

さらに、MATLAB/Simulink環境では、評価指標の異なる無線通信システムのベースバンド処理や、プロトコルモデルと接続し、システム全体をシミュレーションすることで、各コンポーネントを接続した際の問題点を開発の初期段階で確認でき、手戻りの少ない開発を効率的に行うことができます。(図8)

図8. RFの特性を含めた周波数特性


Sパラメータに関連する製品使用例およびリソース

参考: 無線通信, RFシステム, 第5世代移動通信(5G), ビームフォーミング, RF Toolbox™, RF Blockset™

MATLABでスマートRFシステムを構築するための4つのステップ