周波数特性

周波数特性とは

周波数特性は、周波数の異なる正弦波入力に対するシステムの定常状態応答を表すものです。制御エンジニアはこれを使用して周波数領域で制御システムを解析および設計することができます。

周波数領域が重要である理由を理解するために、アコースティックギターについて考えてみましょう。マイクをサウンドボードに近づけて弦を弾くと (図 1. 左)、振動する弦がギターの空洞で共鳴して音波が発生し、それをマイクが捉えます。捉えた信号の時間波形 (図 1. 右) を見ても、起きている事象についてすぐに情報を抽出するのは困難です。

振動がギターの空洞で共鳴し、音波を発生させる。

図 1: 振動がギターの空洞で共鳴し、音波を発生させる (左)。信号の時間領域の時間波形 (右)。

スペクトル アナライザーで周波数領域内の同じ信号を確認するか、時間領域信号の高速フーリエ変換 (FFT) を行うことで、ある周波数で振幅のピークがあることがわかります (図 2. 左)。このピーク周波数は、先ほど鳴らした音を構成する基礎となる音です。チューナーを調整したり、ギターのネックで弦を押さえたりすると、その弦のプリロードや有効長が変化します。これにより、弦が共鳴する周波数が上下し、別の音を鳴らせます (図 2. 右)。このような周波数領域での簡単な解析により、弦を弾いたとき (システムへの入力) にギター (システム) がどのように反応するかがわかります。

図 3: 周波数領域で同じ信号が表示されている。

図 2: 周波数領域で同じ信号が表示されている (左)。プリロードして弦の共鳴周波数をシフト (右)。

この例は、他のシステムで環境からの入力またはスティミュラスに対するシステムの応答を確認したい場合にも適用できます。共鳴ピークの周波数、DC ゲイン、帯域幅、位相遅延、閉ループシステムの位相余裕とゲイン余裕など、システムダイナミクスに関する理解を深めることができます。

システムの周波数特性の取得

下のチャートでは、MATLAB® および Simulink® を使用してシステムの周波数特性を取得する手法 (灰色で表示) を確認できます。

図 5: MATLAB および Simulink を使用した、システムの周波数特性の取得。

図 3: MATLAB および Simulink を使用した、システムの周波数特性の取得。

  1. 伝達関数または状態空間モデルの形式でシステムの線形表現がある場合は、ボード線図ナイキスト線図、または ニコルス線図 の 3 つの線図のいずれかを使用して周波数特性をプロットすることができます。このボード線図は、振幅と位相を励起信号の周波数の関数として表示したものです (図 4)。
  2. たとえば、あるシステム \((H)\) の伝達関数表現を考えると、以下のようになります。

    $$H(s) = {s^2+ 0.1s + 7.5\over s^4+0.12s^3+9s^2}.$$

    以下のコマンドを使用して、MATLAB で周波数特性をプロットすることができます。

    \(H = {tf([1 \quad 0.1\quad 7.5], [1 \quad 0.12 \quad 9 \quad 0 \quad 0]});\)

    \(bode(H)\)

図 6: ボード線図。

図 4: ボード線図。

状況によっては、システムの線形表現を使用できない場合もあります。

  1. その場合、物理システムからの入出力テストデータにアクセスできるのであれば、System Identification Toolbox™ を用いたデータ駆動型モデリング手法を使用して、システムの伝達関数、状態空間表現、および周波数特性モデルを特定することができます。
  2. Simulink を使用してシステムダイナミクスをモデル化した場合、Simulink Control Design™ でモデル線形化器アプリを使用してモデルを線形化することで、Simulink モデルの線形状態空間近似を作成し、周波数特性をプロットすることができます。
  3. Simulink モデルが不連続性のために線形化できない場合、周波数特性の推定を使用して、周波数特性モデルを直接推定することができます。パワー エレクトロニクス モデルなど、周期的な励起や自励発振に起因する不連続性があるシステムでは、Simulink Control Design を使用して周期的な定常状態の操作点を計算できます。その後、この定常状態の周期的な操作点付近で周波数特性の推定を実行することにより、必要なシミュレーション時間を最小限に抑えられます。
図 7: Simulink での周波数特性の推定。

図 5: Simulink での周波数特性の推定。

Simulink Control Design には、システムの周波数特性モデルを推定するための 2 つの手法が用意されています。

オフラインでの周波数特性の推定
モデル線形化器アプリは、シミュレーション時に、指定した周波数で入力摂動信号を使用してシステムを励起し、モデル出力で応答のログを作成します (図 5)。シミュレーション後、記録された入出力信号を処理して、モデルの周波数特性を計算します。

オンラインでの周波数特性の推定
Frequency Response Estimator ブロックを使用して、リアルタイムで稼働中の物理プラントの周波数特性を推定します。このブロックは、正弦波のテスト信号を定格操作点でプラントに挿入し、出力信号データを収集しながら周波数特性を継続的に調整します

次の表は、周波数範囲、精度、および推定速度の推定ニーズに基づいて挿入できる摂動信号を示しています。

入力信号のタイプ オフライン推定またはオンライン推定の可否 周波数範囲 (狭帯域/広帯域) 精度 推定速度 役立つ状況
      1 (低) から 5 (高) までの 5 段階  
Sinestream オフライン、オンライン 狭帯域 ★★★★★ システムの非線形性が強い場合や、非常に正確な周波数特性モデルが必要な場合。
重ね合わせ オンライン 狭帯域 ★★★ ★★ 複数の周波数を同時に励起して実験時間を短縮し、オンラインまたはリアルタイムでの周波数特性の推定の高速化を図りたい場合。
チャープ オフライン 広帯域 ★★ ★★★ 周波数範囲でシステムがほぼ線形の場合。また、多くの周波数点についてすばやく応答を取得することが必要な場合に役立つ。
PRBS オフライン、オンライン 広帯域 ★★ ★★★ システムに、通信システムやパワー エレクトロニクス システムなど、高周波数スイッチング コンポーネントが含まれる場合。
ステップ オフライン 広帯域 ★★★ ナイキスト周波数までの全周波数でシステムを一様に励起する場合。
ランダム オフライン 広帯域 ★★ ★★★ 推定するシステムに対して、あまり知識がない場合。

まとめると、システムの周波数特性の計算は、制御の解析および設計で重要です。MATLAB および Simulink には、システムの周波数特性を取得するために使用できるさまざまな手法が用意されています。これらの手法の詳細については、以下の例や関連資料を参照してください。


製品の使用例と使い方

ワークフロー

データ駆動型モデリング

Simulink モデルの線形化

オフラインでの周波数特性の推定

オンラインでの周波数特性の推定


ソフトウェア リファレンス


周波数特性に関するよくある質問 (FAQ)

周波数特性は、周波数の異なる正弦波入力に対するシステムの定常状態応答を表すものです。制御エンジニアはこれを使用して周波数領域で制御システムを解析および設計することができます。

周波数領域を使用すると、共鳴ピーク、DC ゲイン、帯域幅、位相遅延など、システム動作に関する有意義な情報を抽出しやすくなります。これらは時間領域の信号では、すばやく特定することが困難です。

ボード線図は、システムの周波数特性の振幅と位相を励起信号の周波数の関数として表示するグラフ表現です。

System Identification Toolbox を使用したデータ駆動型モデリング手法を活用すれば、入出力テストデータから周波数特性モデルを特定することができます。Simulink を使用してシステムダイナミクスをモデル化している場合は、Simulink Control Design を使用して周波数特性の推定を実行できます。

オフライン推定では、シミュレーション中に摂動信号でシステムを励起し、シミュレーション後に記録データを処理します。一方、オンライン推定では、Frequency Response Estimator ブロックを使用して正弦波信号を挿入し、リアルタイムで稼働中に周波数特性を調整します。

Sinestream 信号は一般的に、周波数特性の推定において最も高い精度が得られるため、システムの非線形性が強い場合や、非常に正確なモデルが必要な場合に特に役立ちます。

Simulink モデルが不連続性のために線形化できない場合や、リアルタイムで稼働中の物理プラントの応答を推定する必要がある場合には、周波数特性の推定を使用します。

いいえ。周波数特性は制御工学の中心的な概念ですが、信号処理、振動解析、音響、パワー エレクトロニクス、その他の多くの工学分野でも使用されます。これらの分野では、システムがさまざまな周波数にどのように反応するかを理解することが不可欠です。


参考: 制御システム