PMSM
正弦波の磁束分布をもつ永久磁石同期モーター
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説明
PMSM ブロックは、三相 Y 巻線固定子をもつ永久磁石同期モーターをモデル化したものです。次の図は、固定子巻線の等価電気回路を示しています。
また、[巻線タイプ] を [デルタ巻線]
または [開放端]
に設定して、それぞれデルタ巻線構成内または開放端構成内の永久磁石同期モーターをモデル化することもできます。
このブロックではさまざまな組み込みのパラメーター化を選択できます。詳細については、事前定義されたパラメーター化セクションを参照してください。
モーターの構造
次の図は、回転子に単一の極対があるモーターの構造を示しています。
永久磁石によって回転子の磁場が生成され、これにより回転子の角度に基づく正弦波の磁束変化率が得られます。
座標軸の規則で、[回転子の角度の定義] パラメーターを [A 相の磁気軸と d 軸の間の角度]
に設定すると、回転子の機械的角度 θr が 0 の場合に a 相と永久磁石の磁束が揃います。[回転子の角度の定義] パラメーターを [A 相の磁気軸と q 軸の間の角度]
に設定すると、回転子の機械的角度は a 相の磁気軸と回転子の q 軸の間の角度になります。
方程式
固定子巻線にかかる電圧は次のとおりです。
ここで、
va、vb、および vc は、固定子巻線にかかる個々の相電圧です。
Rs は、各固定子巻線の等価抵抗です。
ia、ib、および ic は、固定子巻線に流れる電流です。
、、および は、各固定子巻線の磁束の変化率です。
永久磁石と 3 本の巻線は、各巻線を鎖交する合計磁束に寄与します。合計磁束は次のとおりです。
ここで、
ψa、ψb、および ψc は、各固定子巻線を鎖交する合計磁束です。
Laa、Lbb、および Lcc は、固定子巻線の自己インダクタンスです。
Lab、Lac、Lba などは、固定子巻線の相互インダクタンスです。
ψam、ψbm、および ψcm は、固定子巻線を鎖交する永久磁石の磁束です。
固定子巻線のインダクタンスは回転子の電気角の関数で、次のように定義されます。
ここで、
θr は回転子の機械的角度です。
θe は回転子の電気角です。
rotor offset は、d 軸に対する回転子の電気角を定義する場合は
0
で、q 軸に対する回転子の電気角を定義する場合は-pi/2
です。Ls は固定子の相あたりの自己インダクタンスです。この値は、各固定子巻線の平均自己インダクタンスです。
Lm は固定子のインダクタンス変動です。この値は、回転子の角度の変化に伴う自己インダクタンスと相互インダクタンスの変動量です。
Ms は固定子の相互インダクタンスです。この値は、固定子巻線間の平均相互インダクタンスです。
巻線 a を鎖交する永久磁石の磁束は、θe = 0° のときに最大になり、θe = 90° のときにゼロになります。したがって、鎖交したモーター磁束は次のように定義されます。
ここで、ψm は永久磁石の鎖交磁束です。
簡易電気方程式
ブロックの電気方程式に Park 変換を適用すると、回転子の角度に依存しないトルクの式が得られます。
Park 変換は次のように定義されます。
ここで、θe は Nθr として定義される電気角です。N は極対数です。
固定子巻線の電圧と電流に対して Park 変換を使用すると、その電圧と電流は回転子の角度に依存しない dq0 座標系に変換されます。
最初の 2 つの電気方程式に Park 変換を適用すると、ブロックの動作を定義する次の方程式が得られます。
ここで、
Ld = Ls + Ms + 3/2 Lm。Ld は固定子の d 軸インダクタンスです。
Lq = Ls + Ms − 3/2 Lm。Lq は固定子の q 軸インダクタンスです。
L0 = Ls – 2Ms。L0 は固定子のゼロシーケンス インダクタンスです。
ω は回転子の機械回転速度です。
N は回転子の永久磁石の極対数です。
T は回転子のトルクです。トルクはモーターのケース (ブロックの物理端子 C) からモーターの回転子 (ブロックの物理端子 R) へと流れます。
PMSM ブロックは、Park 変換の元の非直交実装を使用します。代替の実装の適用を試みると、dq0 電圧および電流について異なる結果が得られます。
代替の鎖交磁束のパラメーター化
[永久磁石の鎖交磁束] パラメーターを使用して、モーターのデータシートに一般的に記載されている逆起電力定数またはトルク定数を使用してモーターをパラメーター化できます。
逆起電力定数は、各相の pu 単位での回転速度において永久磁石によって誘起されるピーク電圧です。永久磁石のピーク鎖交磁束と逆起電力の関係は次のとおりです。
1 相分の逆起電力 eph は次のとおりです。
トルク定数は、各相の pu 単位での電流によって誘起されるピーク トルクです。これと逆起電力定数の両方を SI 単位系で表した場合、それらの値は数値的に同じになります。
Ld=Lq の場合に、3 相すべての電流が平衡していると、結合されたトルク T は次のようになります。
ここで、Ipk は 3 本の巻線いずれかのピーク電流です。
係数 3/2 は、これが全相のトルクの定常状態の和であることに基づいています。したがって、トルク定数 kt は次のようにもなります。
ここで、T はピーク線電圧での平衡三相電流 Ipk を使用してテストする場合に測定される合計トルクです。実効値線電流は次のとおりです。
鉄損の計算
鉄損は 2 項に分けられます。一方は主磁化路を表し、もう一方は弱め界磁操作中にアクティブになるクロス歯路を表します。鉄損モデルは Mellor の研究に基づきます[3]。
主磁化路を表す項は、固定子の誘起された実効値線-中性点電圧 によって異なります。
これは無負荷状態における主要項です。k は、実効値電圧 V/Hz を使った逆起電力定数です。これは として定義されます。ここで、f は電気周波数です。右辺の第 1 項は磁気ヒステリシス損失、第 2 項は渦電流損失、第 3 項は過剰損失です。分子にある 3 つの係数は、開回路のヒステリシス損失、渦損失、および過剰損失に指定した値から導出されます。
クロス歯路を表す項は、反磁界が設定されている場合に重要となり、有限要素解析の短絡テストで特定できます。クロス歯磁束に関連付けられた実効値起電力 によって異なります。
3 つの分子項は、短絡のヒステリシス損失、渦損失、および過剰損失に指定した値から導出されます。
事前定義されたパラメーター化
PMSM ブロックでは複数の組み込みのパラメーター化を使用できます。
この事前にパラメーター化されたデータを使用すると、特定のサプライヤーのコンポーネントを表すようにブロックを設定できます。これらの永久磁石同期モーターのパラメーター化は製造元のデータ シートと一致しています。事前定義されたパラメーター化を読み込むには、PMSM ブロックをダブルクリックし、[選択したパーツ] パラメーターの [<クリックして選択>] ハイパーリンクをクリックして、ブロック パラメーター化マネージャーのウィンドウで、利用可能なコンポーネントのリストから使用するパーツを選択します。
メモ
Simscape™ コンポーネントの事前定義されたパラメーター化では、パラメーターの値に入手可能なデータ ソースを使用しています。工学的判断と仮定の簡略化を使用して、欠損データが埋められます。その結果、シミュレーションと実際の物理的動作にずれが生じることが想定されます。精度を確保するために、シミュレーションの動作を実験データに対して検証し、必要に応じてコンポーネント モデルを調整します。
事前のパラメーター化の詳細と利用可能なコンポーネントのリストについては、事前にパラメーター化されたコンポーネントのリストを参照してください。
熱効果のモデル化
熱端子を表示して、電力を熱に変換する損失の影響をモデル化できます。熱端子を表示するには、[モデリング オプション] パラメーターを次のどちらかに設定します。
熱端子なし
— ブロックには、固定子巻線に関連付けられた展開された電気量保存端子が含まれますが、熱端子は含まれません。熱端子を表示
— ブロックには、固定子巻線に関連付けられた展開された電気量保存端子と、各巻線および回転子用の熱保存端子が含まれます。
アクチュエータ ブロックにおける熱端子の使い方の詳細については、回転アクチュエータおよび並進アクチュエータでの熱効果のシミュレーションを参照してください。
変数
シミュレーションの前にブロック変数の優先順位と初期ターゲット値を設定するには、ブロックのダイアログ ボックスまたはプロパティ インスペクターの [初期ターゲット] セクションを使用します。詳細については、ブロック変数の優先順位と初期ターゲットの設定を参照してください。
ノミナル値は、モデル内で予想される変数の大きさを指定する方法を提供します。ノミナル値に基づくシステムのスケーリングを使用すると、シミュレーションのロバスト性が向上します。ノミナル値は、ブロックのダイアログ ボックスまたはプロパティ インスペクターの [ノミナル値] セクションなど、さまざまなソースを使用して指定できます。詳細については、ノミナル値によるシステムのスケーリングを参照してください。
端子
保存
パラメーター
参照
[1] Kundur, P. Power System Stability and Control. New York, NY: McGraw Hill, 1993.
[2] Anderson, P. M. Analysis of Faulted Power Systems. Hoboken, NJ: Wiley-IEEE Press, 1995.
[3] Mellor, P.H., R. Wrobel, and D. Holliday. “A computationally efficient iron loss model for brushless AC machines that caters for rated flux and field weakened operation.” IEEE Electric Machines and Drives Conference. May 2009.