診断特徴デザイナーによるシャフト故障の分離
この例では、回転速度が変動するマシンのシミュレーション測定データからシャフトの故障を分離し、故障検出に役立つ特徴を作成する方法を説明します。
この例は、アプリの基本操作に習熟していることを前提としています。アプリの使用方法のチュートリアルについては、予知保全アルゴリズムの状態インジケーターの設計を参照してください。
モデルの説明
以下の図は、6 つのギアをもつドライブトレインを示しています。ドライブトレインのモーターには、振動センサーとタコメーターが取り付けられています。このドライブトレインは、以下のとおりです。
モーター シャフト上のギア 1 は、ギア 2 とギア比 17:1 で噛み合います。
最終ギア比、すなわち、ギア 1 と 2 と、ギア 3 と 4 の比は 51:1 です。
モーター シャフト上のもう 1 つのギア 5 は、ギア 6 とギア比 10:1 で噛み合います。
20 台のシミュレーション マシンがこのドライブトレインを使用します。各マシンは、設計回転速度 1800 rpm の 1% 以内の定格回転速度で動作します。したがって、各マシンの定格回転速度は 1782 rpm ~ 1818 rpm の範囲で変動します。
マシンのうち 10 台で、ギア 6 のシャフトに故障が発生しています。
測定データのインポートと確認
まず、データを MATLAB® ワークスペースに読み込み、[診断特徴デザイナー] アプリを開きます。
load(fullfile(matlabroot, 'toolbox', 'predmaint', 'predmaintdemos', ... 'motorDrivetrainDiagnosis', 'machineData3'), 'motor_data') diagnosticFeatureDesigner
データをインポートします。そのためには、[特徴デザイナー] タブで [新規セッション] をクリックします。次に、[新規セッション] ウィンドウの [変数の追加選択] で、ソース変数として [motor_data]
を選択します。
既定の構成と変数を受け入れ、インポート プロセスを完了します。このアンサンブルには、2 つのデータ変数が含まれます。Signal/vib
には振動信号が、Tacho/pulse
にはタコメーター パルスが格納されています。このアンサンブルには状態変数 Health
も含まれます。
[データ ブラウザー] で両方の信号を選択し、[信号トレース] を使用して一緒にプロットします。
回転速度の変動により、パルスごとに Tacho
パルス クラスタが広がっていっていることに注目してください。Tacho
が表示されていない場合、[信号のグループ化] を 2 回クリックして Tacho
信号を前面に移動してください。
次に、[アンサンブル ビューの基本設定]、["Health" でグループ化] を選択し、データを故障状態によってグループ化します。パナ―を使用して信号のスライスを拡大してください。
プロットには、グループのピークにわずかな差が見られますが、それを除けば、信号は同じように見えます。
時間同期平均化の実行
時間同期平均化 (TSA) は、信号を 1 回転について平均化して、回転とコヒーレントでないノイズを大きく削減します。TSA でフィルターされた信号は、特徴生成をはじめとして、多くの回転機械解析のベースとして利用できます。
この例では、回転速度が設計値の 1% 以内で変動します。TSA 処理に Tacho
信号を使用すると、この変動が自動的に取得されます。
TSA 信号を計算するには、[フィルター処理と平均化]、[時間同期信号平均化] を選択します。ダイアログ ボックスで以下を行います。
[信号] の選択を確認します。
[タコメーター情報] で [タコメーター信号] を選択し、信号の選択を確認します。
[定格速度の計算 (RPM)] をオンにします。このオプションにより、
Tacho
信号からマシン固有の定格速度、すなわち操作点のセットが計算されるようになります。この情報は、TSA 信号フィルター処理などの後続処理を実行するときに使用できます。タコメーター変数の名前がTacho
であるため、この値はアプリによって状態変数Tacho_rpm
として保存されます。その他すべての設定を受け入れます。
TSA 平均化信号は、生信号よりもクリーンです。前と同じように、ピークの高さは健全性の状態によってクラスタリングされていますが、このプロットに故障の原因を示すのに十分な情報は表示されていません。
TSA 差分信号の計算
アプリの TSA フィルター処理オプションはすべて TSA 信号から始まります。TSA 信号からさまざまな成分を除去することによってフィルター済み信号を生成します。各タイプのフィルター済み信号から、ギア列内の特定の故障を検出するのに役立つ固有の特徴が得られます。このようなフィルター済み信号の 1 つが "差分信号" です。TSA 差分信号には、関心領域外の成分について、ドライブトレインの設計に起因するすべての成分を除去した後に残る成分が含まれます。具体的には、TSA 差分信号処理では以下が除去されます。
シャフト周波数および高調波
ギア噛み合い周波数および高調波
ギア噛み合い周波数の側波帯とその高調波
この例では、ギア 5 とギア 6 の噛み合わせの不具合が関心領域です。この不具合によって生じる信号にフォーカスするため、他のギアに関連する信号をフィルターで除外します。そのため、モデルの説明に記載した、ドライブトレインの下流方向に連続するギア比を使用します。ギア 1 と 2 間の比率は 17 です。ギア 1/2 と 3/4 間の比率は 51 です。この比率が回転次数になります。
TSA 差分信号を計算するには、[フィルター処理と平均化]、[時間同期平均化信号のフィルター処理] を選択します。ダイアログ ボックスで以下を行います。
[信号] を TSA 信号である
[Signal_tsa/vib]
に設定します。[生成する信号] で [差分信号] を選択します。
[速度の設定] で [定格回転速度 (RPM)] にし、
[Tacho_rpm]
を選択します。[領域] が
[次数]
になっていることを確認します。[回転次数] を
[17 51]
に設定します。
プロット データを [Health]
によってグループ化する場合、オプション リストに状態変数 [Tacho_rpm]
も表示されます。
結果のプロットには、明らかな発振が見られます。データを healthy
および faulty
のラベルでグループ化します。発振は faulty
マシンのみに表れています。データ カーソルを使用すると、この発振の周期が約 0.0033 秒であることが確認できます。この発振に対応する周波数は約 303 Hz、つまり 18,182 rpm です。この周波数は、プライマリ シャフト速度である 1800 rpm とおよそ 10:1 の比率であり、ギア 5 とギア 6 間のギア比 10:1 と一致しています。したがって、差分信号によって、シミュレートされた故障の原因が分離されます。
タコメーター信号なしの故障分離
前のセクションでは、タコメーター パルスを使用して TSA 信号と差分信号を正確に生成していました。タコメーターの情報がない場合、一定の rpm 値を使用してこれらの信号を生成することができます。ただし、結果の精度は劣ります。
Tacho
信号を使用せずに欠陥を分離できるか確認してみましょう。TSA 信号と差分信号の両方を、アンサンブル全体の回転速度である 1800 rpm で計算します。
新しい TSA 信号の名前は Signal_tsa_1/vib
です。プロットから分かるように、タコメーター情報なしで生成された TSA 信号は、タコメーター情報から生成されたものより不明瞭です。
Signal_tsa_1/vib
と [一定の回転速度 (RPM)] の設定を使用して差分信号を計算します。
結果のプロットでは、マシンの faulty
セットにまだ発振が見られますが、TSA 信号同様、前の差分信号と比べるとかなり不明瞭です。考慮されなかった 1% の rpm の変動が結果に大きな影響を与えています。
回転機の特徴の抽出
TSA 信号 Signal_tsa/x
と差分信号 Signal_tsa_tsafilt/x_Difference
を使用して、時間領域の回転機の特徴を抽出します。
これらの特徴を計算するには、[時間領域の特徴]、[回転機の特徴] を選択します。ダイアログ ボックスで、[TSA 信号] および [差分信号] に使用する信号を選択し、TSA 信号または差分信号を使用するすべての特徴オプションを選択します。
結果のヒストグラム プロットでは、TSA 信号ベースの特徴すべてと差分信号ベースの特徴の FM4 (尖度) について、healthy
グループと faulty
グループがうまく分離しています。
スペクトル特徴の抽出
差分信号は faulty
グループに限られた明確な発振を示すため、スペクトルの特徴によっても healthy
グループと faulty
グループをうまく分別できると考えられます。スペクトル特徴を計算するには、まず、スペクトル モデルを計算する必要があります。そのためには、[スペクトル推定]、[次数スペクトル] をクリックします。前と同様に、[信号] として差分信号を選択し、[タコメーター信号] としてタコメーター信号を選択します。
結果のプロットでは、次数が約 10 の辺りで、欠陥の発振がプロット内の最初のピークとして表れます。
[スペクトルの特徴] をクリックしてスペクトル特徴を計算します。ダイアログ ボックスで以下を行います。
[スペクトル] の選択を確認します。
次数範囲スライダーを動かして 0 ~ 200 の範囲に設定します。スライダーを動かすと、次数スペクトル プロットに変更が反映されます。
結果のヒストグラムから、BandPower
のグループと PeakAmp
のグループがよく区別されていることが分かります。PeakFreq1
は、グループのわずかなオーバーラップを示しています。
特徴のランク付け
既定の T 検定ランク付けを使用して特徴をランク付けします。そのためには、[特徴のランク付け] をクリックし、[FeatureTable1]
を選択します。アプリにより自動的に特徴がランク付けされ、スコアがプロットされます。
スペクトル特徴である
BandPower
およびPeakAmp
が、他の特徴より大幅に高いスコアで上位 2 位を占めています。回転の特徴である
Kurtosis
およびCrestFactor
は 3 位と 4 位を占めています。これはスペクトル特徴よりはかなり低いですが、他の特徴よりは大幅に高いスコアです。残りの特徴は、このタイプの故障を検出するのに役立ちそうにありません。
これらの高ランクの特徴を使用することで、特徴を分類学習器にエクスポートして学習したり、MATLAB ワークスペースにエクスポートしてアルゴリズムに組み込んだりすることが可能になります。
参考
診断特徴デザイナー | tsa
| tsadifference
| gearConditionMetrics