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状態監視と予知保全のアルゴリズムの設計

予知保全により、機器のユーザーや製造元は、機械の動作状態を評価したり、故障を診断したり、機器の故障が次に発生する時期を推定したりできます。故障を診断または予測できれば、事前に保全の計画を立て、より適切にインベントリを管理し、ダウンタイムを減らし、運用効率を高めることができます。

予知保全プログラムの開発には、機械の動作状態を評価して初期故障をタイムリーに検出する、適切に設計された手法が必要になります。そのためには、利用できるセンサー測定値とシステムに関する知識の両方を効果的に使用することが求められます。次のような多くの要因を考慮しなければなりません。

  • 観測された故障の原因とそれに関連する周波数。このような原因として考えられるものには、マシンのコア コンポーネント (ポンプのインペラー ブレードや流量バルブなど)、アクチュエータ (電気モーターなど)、各種センサー (加速度計や流量計など) があります。

  • センサーによるプロセスの測定値の可用性。センサーの数、種類、位置に加え、それらの信頼性と冗長性を含むすべてがアルゴリズムの開発とコストの両方に影響します。

  • さまざまな故障の原因と観測された症状との関係。このような因果解析には、利用できるセンサーから得られるデータの大規模な処理が必要になることがあります。

  • システム ダイナミクスに関する物理的な知識。この知識は、システムとその故障の数学的モデリングや領域の専門知識の洞察から得られます。システム ダイナミクスを理解するには、機械からの各種信号の関係 (アクチュエータとセンサーの入力と出力の関係など)、マシンの動作範囲、および測定値の特性 (周期的、一定、確率的など) についての詳しい知識が必要になります。

  • 最終的な保全目標。これには、故障からの回復や保全スケジュールの作成などがあります。

状態監視と予知のアルゴリズム

予知保全プログラムでは、状態監視と予知のアルゴリズムを使用して、運用中のシステムから測定されたデータを解析します。

"状態監視" では、マシンからのデータを使用して現在の状態を評価し、マシンの故障を検出および診断します。マシンのデータは、温度、圧力、電圧、ノイズ、振動などの測定値データで、専用のセンサーを使用して収集されます。状態監視アルゴリズムでは、状態インジケーターと呼ばれるデータからメトリクスを導出します。"状態インジケーター" は、その動作がシステムの劣化とともに予測可能な形で変化する、システム データの任意の特徴です。状態インジケーターはデータから導出された数量であり、類似のシステム ステータスをクラスターにまとめ、異なるステータスを分離します。そのため、状態監視アルゴリズムでは、新しいデータを確立された故障状態のマーカーと比較することで故障の検出や診断を実行できます。

"予知" では、マシンの現在および過去の状態に基づいて故障の発生を予想します。予知アルゴリズムでは、通常、マシンの現在の状態を解析することでマシンの "残存耐用期間" (RUL) または故障寿命を推定します。予知では、モデル化、機械学習、またはその両方の組み合わせを使用して状態インジケーターの将来値を予測できます。その後、それらの将来値を使用して RUL メトリクスが計算され、保全が必要かどうかとその実施時期が判定されます。たとえば、ギアボックスの予知アルゴリズムでは、変動する振動のピーク周波数とピーク振幅を時系列に当てはめて、それらの将来値を予測します。その後、アルゴリズムで予測した値をギアボックスの健全な動作を定義するしきい値と比較して、故障が発生するかどうかとその発生時期を予測できます。

予知保全システムの実装には、予知と状態監視のアルゴリズムに加え、実際の保全タスクを実行するエンド ユーザーがアルゴリズムの最終結果にアクセスして対処できるようにする他の IT インフラストラクチャも含まれます。Predictive Maintenance Toolbox™ には、そのようなアルゴリズムの設計に役立つツールが用意されています。

アルゴリズム開発のワークフロー

次の図は、予知保全アルゴリズムを開発するワークフローを示したものです。

最初にシステムの健全状態と故障状態の範囲を示すデータを用意し、検出モデル (状態監視用) または予測モデル (予知用) を開発します。このようなモデルを開発するには、適切な状態インジケーターを特定し、それらを解釈できるようにモデルに学習させる必要があります。用途に最適なモデルが見つかるまで各種の状態インジケーターとさまざまなモデルを試すため、このプロセスはほとんどの場合は反復的に行うことになります。最後に、マシンの監視と保全のアルゴリズムを展開してシステムに統合します。

データの収集

予知保全アルゴリズムの設計では、最初に一連のデータを用意します。多くの場合、異なる時間に異なる動作状態で動作する複数のセンサーや複数のマシンのデータなど、大量のデータを管理して処理しなければなりません。次の種類のデータの 1 つ以上にアクセスすることがあります。

  • 標準のシステム動作の実データ

  • 故障状態で動作しているシステムの実データ

  • システム故障の実データ ("故障に至るまで実行された" データ)

たとえば、システム動作のセンサー データには、温度、圧力、振動などがあります。このようなデータは、一般に信号または時系列データとして格納されます。また、保全レコードからのデータのようなテキスト データやその他の形式のデータもあります。このデータは、ファイル、データベース、または分散ファイル システム (Hadoop® など) に格納されます。

多くの場合、マシンからの故障データは利用できないか、定期保守によってそのような状況の発生が比較的まれであるために、限られたわずかな数の故障データセットしか存在しません。この場合、Simulink® モデルから、さまざまな故障状態におけるシステム動作を表す故障データを生成できます。

Predictive Maintenance Toolbox には、ディスクに格納されたそのようなデータを整理し、ラベルを付けたりアクセスしたりできる機能があります。また、予知保全アルゴリズムの開発用に Simulink モデルからデータを簡単に生成できるツールも用意されています。詳細については、状態監視と予知保全のためのデータ アンサンブルを参照してください。

データの前処理

多くの場合、状態インジケーターを簡単に抽出できる形式にデータを変換するために、データの前処理が必要になります。データの前処理には、外れ値や欠損値の削除などの簡単な手法に加え、短時間フーリエ変換や次数領域への変換などの高度な信号処理の手法も含まれます。

対象のマシンおよびデータの種類について理解することで、使用する前処理の方法を決定しやすくなります。たとえば、ノイズを含む振動データをフィルター処理する場合、有用な特徴を示す可能性の最も高い周波数範囲がわかっていると、前処理の手法の選択に役立ちます。同様に、ギアボックスの振動データを次数領域に変換すると便利なことがあります。後者は、回転速度が経時的に変化する場合の回転機に使用されます。ただし、この同じ前処理は、剛体である車両のシャーシからの振動データには役立ちません。

予知保全アルゴリズム用のデータの前処理に関する詳細については、状態監視と予知保全のためのデータの前処理を参照してください。

状態インジケーターの特定

予知保全アルゴリズムの開発における重要な手順に、状態インジケーターの特定があります。状態インジケーターは、その動作がシステムの劣化とともに予測可能な形で変化する、システム データの特徴です。状態インジケーターには、正常動作と故障動作の区別や残存耐用期間の予測に役立つ任意の特徴を指定できます。有用な状態インジケーターは、類似のシステム ステータスをクラスターにまとめ、異なるステータスを分離します。状態インジケーターの例には、以下から求めた数量が含まれます。

  • 経時的なデータの平均値などの、単純な解析

  • 信号スペクトルのピーク振幅の周波数、スペクトルの経時的な変化を記述する統計モーメントなどの、より複雑な信号解析

  • データを使用して推定された状態空間モデルの最大固有値などの、モデルベースのデータ解析

  • 複数の特徴から単一の効果的な状態インジケーターを求める組み合わせ (融合)

たとえば、ギアボックスの状態は振動データを使用して監視できます。ギアボックスが損傷すると、振動の周波数と振幅が変わります。そのため、ピーク周波数とピーク振幅は、ギアボックスで生じている振動の種類に関する情報を提供する有用な状態インジケーターになります。ギアボックスの健全性を監視するために、周波数領域の振動データを継続的に解析して、それらの状態インジケーターを抽出できます。

故障状態の範囲を表す実データまたはシミュレーション データがあっても、そのデータの解析方法がわからなければ、有用な状態インジケーターを特定できないことがあります。用途に適した状態インジケーターは、システムのタイプ、システムのデータ、システムに関する知識によって異なります。そのため、状態インジケーターの特定には試行錯誤が伴い、多くの場合はアルゴリズム開発ワークフローの学習手順の反復が必要になります。状態インジケーターの抽出には、一般に次のような手法が使用されます。

  • 次数分析

  • モード解析

  • スペクトル解析

  • 包絡線スペクトル

  • 疲労解析

  • 非線形時系列解析

  • 残差計算、状態推定、パラメーター推定などのモデルベースの解析

Predictive Maintenance Toolbox には、Signal Processing Toolbox™ などの他のツールボックスの機能の補完として、測定または生成されたデータから信号ベースやモデルベースの状態インジケーターを抽出する関数が用意されています。詳細については、状態インジケーターの特定を参照してください。

検出モデルまたは予測モデルの学習

予知保全アルゴリズムの中心となるのは、検出モデルまたは予測モデルです。このモデルは、抽出された状態インジケーターを解析して、システムの現在の状態を特定するか (故障の検出と診断)、将来の状態を予測します (残存耐用期間の予測)。

故障の検出と診断

故障の検出と診断では、1 つ以上の状態インジケーターの値を使用して、健全状態と故障状態を判別し、故障のタイプを特定します。簡単な故障検出モデルとしては、状態インジケーターがその値を超えると故障状態であることを示すしきい値があります。また、状態インジケーターをインジケーターの値の統計的分布と比較して、特定の故障状態の尤度を判定するモデルもあります。さらに複雑な故障診断方法として、1 つ以上の状態インジケーターの現在の値を故障状態に関連する値と比較して、何らかの故障状態が存在する尤度を返す分類器に学習させる方法もあります。

予知保全アルゴリズムを設計する際、異なる状態インジケーターを使用して故障の検出と診断のさまざまなモデルをテストすることがあります。したがって、設計プロセスのこの手順では、状態インジケーターの抽出手順を反復して、各種のインジケーター、インジケーターの組み合わせ、および決定モデルを試す場合が多くなります。Statistics and Machine Learning Toolbox™ および他のツールボックスには、分類器や回帰モデルなどの決定モデルの学習に使用できる機能が含まれています。詳細については、故障の検出と診断のための判定モデルを参照してください。

残存耐用期間の予測

予測モデルの例には以下が含まれます。

  • 状態インジケーターの時間発展に当てはまり、故障状態を示す何らかのしきい値を状態インジケーターが超えるまでの所要時間を予測するモデル。

  • 状態インジケーターの時間発展を、故障に至るまで実行されたシステムからの測定またはシミュレートされた時系列と比較するモデル。このようなモデルは、現在のシステムについて最も可能性の高い故障寿命を計算できます。

動的システム モデルまたは状態推定器を使用して予想することで、残存耐用期間を予測できます。また、Predictive Maintenance Toolbox には、類似度、しきい値、生存時間分析などの手法に基づく RUL の予測に特化した機能もあります。詳細については、残存耐用期間を予測するモデルを参照してください。

展開と統合

新しいシステム データの扱いに対して機能する、データを適切に処理して予測を生成できるアルゴリズムを特定したら、そのアルゴリズムを展開してシステムに統合します。システムの仕様に基づいて、アルゴリズムをクラウドまたは組み込みデバイスに展開できます。

クラウド実装は、クラウド上に大量のデータを集めて保存している場合に便利です。クラウドと、予知および健全性監視のアルゴリズムを実行しているローカル マシンの間でデータ転送の必要性をなくすことで、保守のプロセスがより効果的になります。クラウドで計算された結果をツイート、電子メール通知、Web アプリ、ダッシュボードを介して利用できるようにすることも可能です。

あるいは、実際の装置にさらに近い組み込みデバイスでアルゴリズムを実行することもできます。これを行う主な利点は、必要な場合のみデータが転送されるため情報の送信量が削減されること、および装置の健全性に関する更新と通知が遅延なしで直ちに使用できることです。

3 つ目のオプションは、上記の 2 つを組み合わせての使用です。アルゴリズムの前処理と特徴抽出の部分を組み込みデバイスで実行し、予測モデルをクラウドで実行して、必要に応じて通知を生成することができます。連続的に運用され膨大な量のデータを生成する石油掘削や航空機エンジンなどのシステムでは、セルラーの帯域幅やコストに制限があるため、データすべての実機への保存や転送がいつも可能なわけではありません。ストリーミング データやバッチ データを操作するアルゴリズムを使用することで、必要な場合にのみデータを保存し送信できるようになります。

ワークフローのこの手順には、MathWorks® のコード生成製品や配布製品が役立つことがあります。詳細については、予知保全アルゴリズムの展開を参照してください。

参照

[1] Isermann, R. Fault-Diagnosis Systems: An Introduction from Fault Detection to Fault Tolerance. Berlin: Springer Verlag, 2006.

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