診断特徴デザイナーでのデータの処理と特徴の調査
この例では、特徴抽出の準備としてアプリでデータを処理する方法を示します。手順を対話的に進める場合は、診断特徴デザイナーでのアンサンブル データのインポートと可視化でインポートしたデータを使用してください。[セッションを開く] を使用して、指定したファイル名でセッション データを再度読み込みます。
セッション データがない場合は、診断特徴デザイナーでのアンサンブル データのインポートと可視化のデータの読み込みとインポートの手順を実行してください。
予知保全アルゴリズムの開発における重要な手順に、状態インジケーターの特定があります。状態インジケーターは、その動作がシステムの劣化とともに予測可能な形で変化する、システム データの特徴です。状態インジケーターには、正常動作と故障動作の区別や残存耐用期間の予測に役立つ任意の特徴を指定できます。有用な特徴は、類似のシステム ステータスをクラスターにまとめ、異なるステータスを分離します。
診断特徴デザイナーで、それらの診断を提供する特徴を設計できます。
一部の特徴については、インポートした信号をそのまま使用して特徴を生成できます。
それ以外の特徴については、意味のある結果を得るために、フィルター処理や平均化などの追加の信号処理を実行する必要があります。
実行する処理は、特徴の計算上の要件とシステムおよびシステム データの特性の両方に応じて決まります。この例では、以下の方法を示します。
特徴抽出に向けたデータの処理
各種の特徴の生成
ヒストグラムでの特徴の有効度の解釈
時間同期平均化の実行
このシステムのデータは、回転子部分があるトランスミッション システムを表します。変数には、シャフトの各回転の完了を正確にマークするタコメーターの出力が含まれます。そのため、このデータは時間同期平均化の理想的な候補になります。
時間同期平均化 (TSA) は、回転機からのデータを解析する一般的な手法です。TSA では、回転をそれぞれ平均化して、回転とコヒーレントでない外乱やノイズをフィルター処理で除外します。
TSA は、ギア歯の故障による摂動のような、回転するたびに繰り返される故障シグネチャを分離するのに役立ちます。元の振動信号ではなく TSA 信号から特徴を生成することで、回転に関する故障状態の区別がより明確になります。この利点は、回転機に固有の特徴でなくても当てはまります。
振動データの TSA を計算するには、まず、平均化する信号 [Vibration/Data]
を変数ペインで選択します。次に、[フィルター処理と平均化]、[時間同期平均化] を選択します。
新しい [時間同期平均化] タブが表示されます。
タコメーター信号があるため、[タコメーター信号] と [Tacho/Data]
を選択します。[定格速度の計算 (rpm)] は選択されたままにできますが、このチュートリアルでは定格 rpm 情報は使用しません。
タブの下で、プロット タブ [データ処理: Vibration/Data] に TSA 信号 のソース信号が表示されます。
[適用] をクリックすると、アンサンブルの 16 個のメンバーのそれぞれについて、TSA の計算が開始されます。計算の進行中は進行状況バーにステータスが表示されます。計算が完了すると、アプリによって、新しい変数 Vibration_tsa
が信号リストに追加され、信号がプロットされます。
この TSA 信号プロットの時間軸は 4 秒に満たない長さになることに注意してください。元の振動データの長さは 30 秒でした。各メンバーの単一の回転の期間を反映して時間範囲が短くなっています。
これらの信号に対するメンバーのシャフト速度の発散が発生します。この発散は、回転におけるピークのずれが増えていること、およびメンバーのトレースがそれぞれ異なる時間に停止していることに明確に表れています。
TSA 信号の詳細については、[詳細] ペインを確認してください。このペインで、振動信号とタコメーター信号から TSA 信号が計算されていることがわかります。[履歴] をクリックすると、TSA 信号の処理履歴のプロットが表示されます。[パラメーター] をクリックすると、使用した処理パラメーターのリストが表示されます。
TSA の計算が完了すると、TSA 信号の [信号トレース] が、[時間同期平均化] タブと [データ処理] タブを置き換えます。[時間同期平均化] タブに戻る場合は、プロット タブ [データ処理: Vibration/Data] をクリックします。
アプリは、TSA タブをアクティブに、[データ処理] タブを非アクティブにして、両方のツールストリップ タブを復元します。
別の変数について類似の処理を行う場合は、[TSA を閉じる] をクリックします。[データ処理] タブがアクティブになります。このタブから、処理対象の信号を変更することができます。次に、データ処理ギャラリーから、TSA 処理や、選択した信号に対応した他の任意の処理を選択できます。選択する処理のタブでは、セッション内で以前に指定したすべての設定が保持されます。
パワー スペクトルの計算
時間領域の特徴の生成を開始するために必要な情報は TSA 信号から提供されますが、スペクトルの特徴を調べるにはスペクトルを提供しなければなりません。パワー スペクトルを生成するには、新しい TSA 信号 Vibration_tsa/Data
を変数ペインで選択します。次に、[スペクトル推定] をクリックしてスペクトルのオプションを表示します。それらのオプションから、[自己回帰モデル]
を選択します。
[自己回帰モデル] タブには、変更できるパラメーターがあります。[適用] をクリックして既定値を受け入れます。
パワー スペクトルの処理により、新しい変数 Vibration_ps/SpectrumData
が追加されます。関連付けられたアイコンは周波数応答を表します。
スペクトルのプロットがプロット領域に表示されます。[信号トレース] と同様、[パワー スペクトル] タブにはプロットのオプションがあります。これらのオプションは [信号トレース] と同様です。スペクトルがフレームベースである (セグメント化されている) 場合を除き、[パナー] はスペクトル プロットでは機能しないため、プロットに [パナー] オプションはありません。
[Vibration_ps/SpectrumData]
を選択します。[詳細] ペインに、この信号が TSA 信号から派生したものであることが表示されます。処理パラメーターのリストは、TSA 処理パラメーターのリストよりも広範囲です。
特徴の生成
信号特徴
TSA 信号をソースとして使用して、一般的なデータの統計量に基づいて特徴を生成します。[時間領域の特徴] 、 [信号の特徴] を選択します。
データ処理の場合と同様、特徴のオプションを選択する前に、あらかじめソース信号を選択しておきます。[Vibration_tsa/Data]
を選択してから、[信号の特徴] をクリックして [信号の特徴] タブを表示します。既定では、すべての特徴が選択されています。[形状係数] と、[信号の特徴] におけるすべての位置の選択を解除します。
選択されているすべての特徴について、各アンサンブル メンバーの値がアプリで計算され、ヒストグラムに結果が表示されます。各ヒストグラムには、ビンの範囲内に入る特徴値の数を含むビンがあります。[ヒストグラム] タブには、ヒストグラムの内容と分解能を決定するパラメーターが表示されます。
ヒストグラムでは、[グループ化] の状態変数 [faultCode]
に応じてデータがグループ化 (色分け) されます。凡例に示されているように、青色のデータは健全 (faultCode = 0
) で、オレンジ色のデータは劣化 (faultCode = 1
) しています (色分けはセッションによって異なる場合があります)。健全ラベルと劣化ラベルがオーバーラップする特徴値は、青とオレンジのオーバーラップにより色が茶色になります。
青色のデータとオレンジ色のデータが明確に区別されているのはどれかを評価することで、どの特徴が効果的であるかが大まかにわかります。CrestFactor
(中央上) と RMS
(左下) はオーバーラップ領域がごく小さいため、効果的であるように見えます。一方、Skewness
(中央下) と Kurtosis
(左中央) はオーバーラップが多くなっています。これらの特徴は、このデータとこの状態変数については効果的でないように見えます。
ヒストグラムが特定の条件をどのように表しているかを確認する場合は、凡例でその条件を表すカラー ボックスをクリックします。アプリにより、その状態を表すヒストグラムの部分の概要が表示されます。この条件の概要は、2 つを超える条件についてヒストグラムを評価する場合に特に有効です。
既定では、アプリは、特徴テーブルのすべての特徴についてのヒストグラムをプロットします。[特徴の選択] を選択すると、ヒストグラムのサブセットに絞り込むことができます。[特徴の選択] を使用して、ヒストグラム プロットを特徴テーブルの最初の 4 つに制限します。まだ特徴をランク付けしていないため、名前で特徴が並べ替えられます。ランク付けした後に [特徴の選択] を使用する場合は、ランク付け順 (既定) か名前順かを選択できます。
ヒストグラムのビューに、選択した特徴のみが含まれるようになります。
[ヒストグラム] タブのパラメーターを使用してヒストグラムの外観を制御します。このタブは、ヒストグラムを生成すると有効になります。CrestFactor
の特徴では、健全と不健全のデータがほぼ完全に区別して表示されています。この結果に分解能が影響するかどうかを調べます。[ヒストグラム] タブで、ビンの幅が [自動]
に設定されています。これにより、CrestFactor
の分解能は 0.1 になっています。ビンの幅「0.05」を入力し、[適用] をクリックします。
この分解能では、CrestFactor
と ImpulseFactor
の両方で健全データが劣化データから完全に分離して表示されます。ClearanceFactor
には混在したデータがまだ一部ありますが、その度合いはビンの幅が大きいときに比べれば小さくなっています。Kurtosis
は、ビンの幅の設定が [自動]
のときの方が、ビンの幅が 0.002 と小さくなっています。ビンの幅を 0.05 に変更したことで、Kurtosis
のすべてのデータが単一のビンに含まれる結果になっています。
ヒストグラムは、特徴の健全データと不健全データを区別する能力を可視化します。"グループ距離" を使用して数値による評価も確認できます。グループ距離は、健全データと不健全データの分布間の分離を表します。[グループ距離の表示] をクリックします。ダイアログ ボックスの [特徴のグループ化を表示] で [CrestFactor]
を選択します。
[KS 統計量] で表されるグループ距離は 1 です。この値は完全な分離を表します。
次に、[Kurtosis]
を選択します。[尖度]
のヒストグラムには、混在がかなり見られます。
ここでの [KS 統計量] は約 0.6 で、ヒストグラムにおける混在を反映しています。
[ビンの幅] を [auto]
に戻します。
回転機の特徴
回転機があるため、回転機の特徴を計算します。変数ペインで、TSA 信号を選択します。次に、[時間領域の特徴] 、 [回転機の特徴] を選択します。
[回転機の特徴] タブでは、TSA 信号のほか、TSA 差分信号や TSA の規則的な信号からも特徴を作成できます。TSA 信号しかないため、アプリは異なった信号タイプを必要とする選択肢を無効にします。
[適用] をクリックして既定の選択を受け入れます。
新しい特徴が特徴テーブルと [特徴の選択] リストにアプリで自動的に追加され、新しいヒストグラムがヒストグラム表示の一番上にプロットされます。CrestFactor
と Kurtosis
のヒストグラムは、信号の特徴として計算されても回転機の特徴として計算されても TSA 信号がソースとして計算に使用されるため、本質的には同じです。
スペクトルの特徴
前に生成したパワー スペクトルからスペクトルの特徴を計算します。[Vibration_ps/SpectrumData]
を選択します。次に、[周波数領域の特徴] 、 [スペクトルの特徴] を選択します。
最小と最大の帯域値を設定することで、使用する周波数帯域を指定します。パワー スペクトルのピークを効率的に取得するには、周波数範囲を 0.001
Hz から最大値 10
Hz までに制限します。プロットでこの帯域は、周波数プロットの背景にオレンジ色の四角形として表示されます。
3 つのいずれの特徴のヒストグラムにおいても、1 つ以上のビンに健全データと不健全データの混在がかなり見られます。
これで、さまざまな特徴のセットが得られました。
セッション データを保存します。このデータは、診断特徴デザイナーでの特徴のランク付けとエクスポートの例を実行するために必要になります。
次のステップ
次のステップでは、これらの特徴をランク付けして、システムの状態を最も適切に示すものを特定します。詳細については、診断特徴デザイナーでの特徴のランク付けとエクスポートを参照してください。