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第 1 章

AI の無線通信システムへの統合


モバイル無線技術は、5G から 5G-Advanced、そして 6G へと進化し続けています。これらの技術により、自律型車両、スマートファクトリー、仮想医療など、新しい産業分野での用途や社会的トレンドが生まれています。その結果、無線システム設計の複雑度が増すとともに、ネットワークの品質、信頼性、柔軟性に対する期待も高まっています。

技術が進歩することで、無線システムとネットワークの複雑度が増しました。これは、システム全体の品質を確保するために導入し、継続的に監視して調整する必要があるパラメーターの範囲が広がったためです。

以下はその例です。

  • Massive MIMO (多入力多出力) の登場によるアンテナの増加
  • mmWave など、スペクトル周波数の増加
  • 場所によって異なるさまざまなチャネル条件
  • ユーザーの数と密度の増加
  • M2M (machine-to-machine)、H2M (human-to-machine)、H2H (human-to-human)、および有向通信のユースケースの増加
新しい技術を表すアイコン。

トレンドとして、自律型車両、V2X、スマートファクトリー、自律型ロボット、無人航空機、スウォームドローン、仮想手術ロボット、高速衛星データ転送などがある。

このような新しい無線技術を確かなものとして提供するには、エンジニアはこれらのシステムを最適化してパラメーターを構成する方法を見つけ出す必要があります。しかし、このような設計上の課題の解決には複雑さが伴うため、人間の頭脳では限界があります。従来型のルールベースの数学的手法では不十分です。

従来型の手法にとらわれず、人工知能 (AI) 手法の利用を検討する段階になっています。

AI は、複数の次元や複雑なダイナミクスが関係する問題の解決に適しています。AI モデルを使用して無線ネットワークで重要な機能を実行することで、以下のことが可能になります。

  • 無線システムの効率を向上させる。
  • 計算量とリソースの使用量を削減する。
  • 環境の変化 (太陽フレアからアンプの過熱まで) に合わせて継続的に補正する。
  • さまざまなチャネル条件を考慮する。

AI を使用して解決できる設計上の課題は多数あります。たとえば以下のようなものです。

AI は、以下のような位置推定の高まるニーズへの対応にも役立ちます。

他にも、AI を使用して以下をモデル化できます。

この ebook では、AI ベースの 5G チャネル推定モデルの開発を例にとり、AI モデルによって全体的なネットワーク性能が向上する仕組みを説明します。

MATLAB で AI の活用が容易に

MATLAB® を使用することで、機械学習やディープラーニングの経験がなくても、AI ベースのソリューションを作成できます。MATLAB により、ワークフローへの AI ベースのシステム設計の統合が容易になります。

MATLAB では反復設計、テスト、展開プロセスがサポートされているため、AI モデルを継続的に改善し、テストと妥当性確認用にシステムに統合し、運用環境のネットワークに展開できます。

データの準備

データのクレンジングおよび準備

人間による洞察

シミュレーション生成

AI モデリング

モデルの設計および調整

ハードウェア アクセラレーション

相互運用性

シミュレーションとテスト

複雑なシステムとの統合

システム シミュレーション

システムの検証と妥当性確認

展開

組み込みデバイス

エンタープライズ システム

エッジ、クラウド、デスクトップ

MATLAB を使用すると、以下を行うことができます。

  • データの準備
    • サポート対象のハードウェアを使用して無線で信号を取得し、AI モデルの学習用のデータを作成する。
    • 無線波形発生器アプリを使用して、5G、LTE、WLAN、Bluetooth などのテクノロジー、および DVB、CCSDS、GPS などの各種衛星通信規格に対応した規格固有のデータ/波形およびカスタム波形を生成する。
    • 生成した信号に RF 劣化要因とチャネルモデルを追加して信号空間を拡張し、データセットを現実的かつ堅牢なものにする。
    • 信号ラベラーアプリを使用して、自身の専門知識を適用して信号をラベル付けすることで、無線システムから収集したデータに人間の知能を加える。
  • AI モデルの作成
  • シミュレーションとテスト
    • AI モデルが含まれたエンドツーエンドの無線システムをシミュレーションする。
    • AI モデルがシステムの動作に与える影響を迅速に評価し、反復プロセスで設計を改善する。
    • 無線信号を使用して AI モデルとシステムの妥当性確認と調整を行う。
  • モデルの展開
    • 特定のターゲット ハードウェア用のコードを自動的に生成する。
    • 組み込みハードウェアまたはクラウドに展開する。