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設定値追従と外乱の抑制のいずれかを優先するための PID コントローラーの調整

この例では、PID コントローラーを調整して設定値追従のオーバーシュートを小さくしたり、プラント入力における外乱の抑制を改善する方法を示します。PID 調整器アプリを使用して、PI 制御システムと PID 制御システムでは設定値追従と外乱の抑制との間に性能のトレードオフがあることを説明します。

単一ループ PI 制御モデル

PID Controller ブロックを含む Simulink モデルを読み込みます。

open_system("singlePILoop")

この例のプラントは次のとおりです。

Plant=0.3s2+0.1s

モデルにはまた、基準信号と、プラント入力におけるステップ外乱が含まれています。設定値追従は、基準信号 r に対する y での応答です。外乱の抑制は、加えられた外乱 dy における抑制の測定値です。"PID 調整器" を使用してコントローラーを調整する際は、設計を調整して、設定値追従または外乱の抑制のいずれかをアプリケーションでの要求に沿うよう優先できます。

初期 PI コントローラーの設計

プラントの初期コントローラーを設計します。これを行うには、PID Controller ブロックをダブルクリックして [ブロック パラメーター] ダイアログ ボックスを開き、[調整] をクリックします。PID 調整器が開き、初期コントローラー設計が自動的に計算されます。

Simulink® モデルのコントローラーは、PI タイプのコントローラーとして構成されています。したがって、PID 調整器により設計された初期コントローラーも PI タイプとなります。

入力外乱の抑制のステップ応答プロットを追加します。[プロットの追加][入力外乱の抑制] を選択します。

PID 調整器は、外乱の抑制プロットを新しいタブに並べて表示します。

ヒント

タブをクリックしてドラッグすることでプロットを配置します。

既定では、特定の帯域幅と位相余裕に対し、設定値追従と外乱の抑制との間でバランスが取れるように PID 調整器がコントローラーを調整します。この場合、コントローラーにより、設定値追従応答でいくらかのオーバーシュートが発生します。コントローラーはまた、最初のピークの後、設定値追従より長い整定時間で入力外乱を抑制します。

をクリックして、この初期コントローラー設計によって Simulink モデルを更新します。また、こうすることにより PID 調整器の [ブロックの応答] プロットが更新され、コントローラーの設計を変更するたびに、その結果を初期設計と比較できるようになります。

過渡動作の調整

アプリケーションによっては、設定値追従と外乱の抑制とのバランスを変え、一方を他方より優先させることが望ましい場合があります。PI コントローラーでは、[過渡動作] スライダーを使用してこのバランスを変更できます。[過渡動作] スライダーを左へ動かすと、外乱の抑制機能が高まります。初期コントローラーの設計による応答が Block response (点線) として表示されるようになります。

過渡動作係数を 0.45 に下げると外乱の抑制が加速しますが、設定値追従応答でのオーバーシュートも大きくなります。

ヒント

設定値追従プロットを右クリックして [特性][ピーク応答] を選択すると、オーバーシュートの数値を取得できます。

[過渡動作] を、設定値追従応答でのオーバーシュートが最小になるまで右に動かします。

過渡動作係数を 0.70 まで上げるとオーバーシュートはほとんどなくなりますが、その結果、外乱の抑制が遅くなります。アプリケーションにおいて設定値追従と外乱の抑制との間の最適なバランスが見つかるまで、[過渡動作] スライダーを動かしてください。スライダーがどの程度バランスに影響するかは、プラント モデルごとに異なります。プラント モデルによっては、この例で示したほど効果が大きくない場合があります。

PID 調整の設計フォーカスの変更

これまでのところ、過渡動作係数を変更しても、制御システムの応答時間は固定されたままになっていました。こうした操作は、帯域幅を固定し、システムのターゲット最小位相余裕を変化させるのと同じです。帯域幅とターゲット位相余裕の両方を固定する場合でも、設定値追従と外乱の抑制との間のバランスを変更できます。外乱の抑制と設定値追従のいずれかを優先するようコントローラーを調整するには、PID 調整アルゴリズムの "設計フォーカス" を変更します。

制御システムに調整可能なパラメーターが多くあるほど、PID 調整器の設計フォーカスを変更する効果は高まります。したがって、PI コントローラーで使用しても大きな効果は得られません。その効果を確認するには、コントローラーのタイプを PID に変更します。Simulink モデルで、PID Controller ブロックをダブルクリックします。ブロック パラメーター ダイアログ ボックスの [コントローラー] ドロップダウン メニューで [PID] を選択します。

[適用] をクリックします。次に、[調整] をクリックします。このアクションにより、PID 調整器が新しいコントローラー設計 (ここでは PID コントローラー) で更新されます。この初期 PID コントローラー設計をもつ Simulink モデルに対し をクリックすることにより、設計フォーカスが変更されたときに結果を比較できるようになります。

PI の場合のように、初期 PID 設計では設定値追従と外乱の抑制とのバランスを取ります。この場合も、コントローラーは設定値追従応答でいくらかのオーバーシュートを示し、比較的長い整定時間で入力外乱を抑制します。

応答時間も過渡動作係数も変更せずに設定値追従を優先するには、PID 調整器の設計フォーカスを変更します。そのためには、 [オプション] をクリックし、[フォーカス] メニューで [設定値追従] を選択します。

PID 調整器はコントローラー係数を、設定値追従の性能に重点を置いて自動的に再調整します。

バランス重視のコントローラーでの応答は Block response として表示されています。設定値追従の性能に重点を置いて調整されたコントローラーは Tuned response です。プロットでは、結果として得られたコントローラーが基準入力の追跡において、バランス重視のコントローラー設計よりもオーバーシュートがずっと小さく、整定時間も速くなっていることが示されています。ただし、この設計の結果、外乱の抑制は大幅に劣化しています。

最後に、設計フォーカスを、外乱の抑制を優先するよう変更します。 [オプション] ダイアログ ボックスの [フォーカス] メニューで、[入力外乱の抑制] を選択します。

このコントローラー設計の結果、外乱の抑制は改善しますが、設定値追従応答でのオーバーシュートはいくらか大きくなります。

設計フォーカス オプションを使用している場合でも、[過渡動作] スライダーを調整することで、性能についてのこれら 2 つの測定間のバランスをさらに微調整できます。設計フォーカスとスライダーを併用すると、設計要件を最もよく満たす性能バランスが実現されます。システムの性能に対するこの微調整の効果は、プラントの特性に強く左右されます。プラントによっては、[過渡動作] スライダーを動かしても [フォーカス] オプションを変更しても、ほとんどあるいはまったく効果がありません。

設定値追従および外乱の抑制に対し別個の制御を行うには、1 自由度のコントローラーの代わりに 2 自由度のコントローラー PID Controller (2DOF) を使用できます。

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