超広帯域 (UWB) とは?
ultra-wideband (UWB) は、高解像度かつ近距離の位置推定および測距や、データ通信に関して最も広く使用されている無線規格です。UWBは、日本においては、3.4~4.8 GHz (ローバンド)、および 7.25~10.25 GHz (ハイバンド) が利用できる、最小帯域幅が 500 MHz のパルス無線テクノロジーです。
また、あらゆる周波数での最大パワースペクトル密度が -41.3 dBm/MHz であり、WiFi、Bluetooth®、Zigbee®、GPS よりも大幅に低いため、それらの無線信号との干渉を回避して短距離通信をサポートします。伝送には短パルス (2 ns 未満) を使用するため、マルチパス フェージングの影響を受けることなく、位置推定や測距の用途をサポートします。
UWB がサポートするその他の用途:
- 安全なアクセス制御
- 安全な無線決済
- 無線健康センサー
- デバイス間通信
これらの機能を可能にする UWB の特性:
- 帯域幅の範囲: 500 MHz から 1.3 GHz、パルス幅: 2 ns 未満
- 安全な通信のためのスクランブル タイムスタンプ シーケンス (STS)
- さまざまなチャネル条件に対する平均パルス繰り返し周波数 (PRF) が 3.9 MHz から 249.6 MHz、ピーク PRF が 499.2 MHz
- 干渉とマルチパスの影響を回避するためのカスタム変調スキームおよびガードインターバル
- PHY ヘッダーはシングルエラー訂正、ダブルエラー検出 (SECDED) 符号、ペイロードにリードソロモン符号化後、1/2 レート、拘束長は 3 または 7 で畳み込み符号化
MATLAB を使用した UWB
MATLAB® の Communications Toolbox™ Library for Zigbee® and UWB を使用すると、オープンな MATLAB コードとして提供されている参照例を使用して UWB の機能の実装やテストをすることができます。また、MATLAB を使用すると、ultra-wideband の最新の修正規格 (15.4z) または以前の 15.4a の実装が可能です。さらに、MATLAB では、UWB 波形生成、エンドツーエンドの UWB トランシーバーのシミュレーション、および位置推定と測距の例を使用して、さまざまな位置推定や測距のアルゴリズムをシミュレーションすることができます。
UWB の仕様
ultra-wideband の仕様は、IEEE 802.15.4a 規格の修正規格 15.4a で初めて提案されました。この修正規格は、高レートパルス繰り返し周波数 (HRP) 用の物理レイヤー (PHY) について規定しています。その後、修正規格 15.4f で低レートパルス繰り返し周波数 (LRP) 用の PHY が導入されました。さらに、修正規格 15.4z で最新の機能強化が提案され、既存の HRP および LRP 用の PHY に、強化された測距対応デバイス向けのモードと、セキュリティ機能が追加されています。
MATLAB は、以下のモードを実装する例を提供しています。
- 平均 PRF が 62.4 MHz のベースパルス繰り返し周波数 (BPRF)
- 平均 PRF が 124.8 MHz または 249.6 MHz の高パルス繰り返し周波数 (HPRF)
スクランブル タイムスタンプ シーケンス (STS) フィールドは、データ完全性の強化のために IEEE 802.15.4z 規格によって導入されたセキュリティ機能です。STS フィールドの伝送は、BRPF および HPRF モードでは任意です。
図 1 は、802.15.4a のシンボルおよび変調スキームを示しています。畳み込み符号化器のシステマティック ビットが、潜在的な 2 つのバースト位置変調インターバル (TBPM) のいずれかを特定するために使用されます。伝送が発生しうるのは 1 番目または 3 番目の区間です。 NCPB (バーストあたりのチップ数) による拡散の後、二位相偏移変調 (BPSK) によって ultra-wideband パルスを変調するためにパリティビットが使用されます。バースト位置は、拡散シーケンスから構築される整数値を使用して特定されます。どの伝送もガードインターバルによりパディングされます。MATLAB の例 HRP UWB IEEE 802.15.4a/z 波形生成 では、信号のそれらの側面をモデル化しています。
![図 1 IEEE 802.15.4a 規格におけるバースト位置変調と BPSK。](https://jp.mathworks.com/discovery/ultra-wideband/_jcr_content/mainParsys/image_copy.adapt.full.medium.jpg/1737708104009.jpg)
図 1. IEEE 802.15.4a 規格におけるバースト位置変調の特定と BPSK。
表 1 では、IEEE 802.15.4 規格の UWB 修正規格を比較しています。
UWB 修正規格 | データレート | 周波数帯 (GHz) | 変調 | 使用例 |
---|---|---|---|---|
15.4a | 27 Mbps 未満 | 3.4-4.8 & 7.25-10.25 | バースト位置変調 (BPM) と BPSK | 家庭および産業でのオートメーション、測距 |
15.4f | 1 Mbps 未満 | 7.25-10.25 | パルス位置変調 (PPM)、オンオフ変調 (OOK) | 測距、アクティブな無線周波数識別 (RFID)、省エネ型の IoT (Internet of Things) アプリケーション |
15.4z | 27 Mbps 未満 | 3.4-4.8 & 7.25-10.25 | 拡散の組み合わせ。BPSK およびガードインターバル | ハンズフリーアクセス制御、位置情報サービス、ピアツーピア通信 |
表 1.UWB の規格。
UWB トランシーバー
図 2 は、UWB トランシーバーを示しています。送信機のチェーンは、データレート、フレーム長、プリアンブル期間などの情報を含む PHY ヘッダーで構成されています。PHY ヘッダーは SECDED により符号化されます。上位レイヤーが受信するペイロードは、リード・ソロモン符号化により符号化されます。802.15.4z 規格により、データ完全性のための任意の STS フィールドが追加されました。レート ½、拘束長 3 または 7 の畳み込み符号化器の別のブロックにより、連結されたビットストリームが符号化されます。その後、シンボルマッパーにより複雑なシンボルへの変換が行われ、これにより拡散シーケンスとチップ長を使用してビットが拡散されます。パルス整形の後、ultra-wideband 信号が無線で送信されます。これらのステップの実装は、HRP UWB IEEE 802.15.4a/z 波形生成でご確認いただけます。
UWB 受信機はシンプルなエネルギー検出器であり、送信機の鏡像として実装されます。最初のブロックは積分およびダンプフィルターとして実装されます。全体的なトランシーバーの実装は、HRP UWB IEEE 802.15.4a/z PHY のエンドツーエンドのシミュレーションでご確認いただけます。
![図 2 UWB トランシーバー](https://jp.mathworks.com/discovery/ultra-wideband/_jcr_content/mainParsys/image_copy_559078859.adapt.full.medium.jpg/1737708104037.jpg)
図 2. UWB トランシーバーの使用。
UWB 位置推定と測距
MATLAB は、IEEE 802.15.4 規格と IEEE 802.15.4z 修正規格に対応するメディアアクセス制御 (MAC) および PHY フレームを使用した位置推定および測距のテクノロジーをサポートしています。以下は、広く実装されている 3 つの測距テクノロジーです。
- 片側双方向測距 (SS-TWR): 2 つのデバイス間の距離を、片方のデバイスが無線 802.15.4z リンクの双方向でフレーム伝送を使用して推定します。
- 両側双方向測距 (DS-TWR): 2 つのデバイス間の距離を、両方のデバイスが無線 802.15.4z リンクの双方向でフレーム伝送を使用して推定します。
- 単方向測距: 1 つのデバイスが同期されたノードの組と通信してデバイスの位置を推定するネットワーク支援型位置推定です。
MATLAB の SS-TWR の例は IEEE 802.15.4z を使用した UWB 測距 で、OWR/TDOA の例は IEEE 802.15.4z を使用した UWB 位置推定でご確認頂けます。
OWR/TDOA では、位置推定されるデバイスが定期的にブリンクと呼ばれるショートメッセージをブロードキャストします。定期的なメッセージ間の TDOA により、同期されたノードの各ペアに対して 1 つの双曲面上にデバイスが配置されます。(同期されたノードの各ペアの) すべての双曲面の交差点がデバイスの推定位置となります。
図 3 は、MATLAB での OWR/TDOA のシミュレーション結果を示しています。
![図 3 MATLAB での OWR/TDOA による位置推定のシミュレーション結果](https://jp.mathworks.com/discovery/ultra-wideband/_jcr_content/mainParsys/image_copy_559078859_703012799.adapt.full.medium.jpg/1737708104061.jpg)
図 3. MATLAB での OWR/TDOA による位置推定のシミュレーション結果の表示。
UWB が重要な理由
- UWB は、日本においては、ISM (産業科学医療用) バンドよりも混雑が少ない 3.4~4.8 GHz および 7.25~10.25 GHz の帯域で主に機能し、パーソナル エリア ネットワークおよびボディ エリア ネットワークの代替となる物理レイヤーを提供します。
- マルチパス フェージングの影響を受けにくく、低い S/N 比への対応が可能で、安全な通信のためのサポートが追加されています。
- スーパーヘテロダイン トランシーバーのアーキテクチャと比べて、UWB にはシステムの単純性があり、高周波数により実現した小型アンテナをチップ内に構築することができます。
- UWB のパルス幅は他のテクノロジーのシンボル時間よりもはるかに短く、表 2 で示されているように、測距と位置推定における高い精度と低いレイテンシをサポートします。
テクノロジー | UWB | Bluetooth | WiFi | RFID | GPS | 5G |
---|---|---|---|---|---|---|
精度 | 1 cm | 1–5 m | 5–15 m | 1 m | 5–20 m | 10 m |
レイテンシ | 1 ms 未満 | 3 s 超 | 3 s 超 | 1 s | 100 ms | 1 s 未満 |
表 2.測距と位置推定に使用されるテクノロジーの比較。
製品使用例および使い方
ソフトウェア リファレンス
参考: 無線通信, チャネルモデル, 無線トランシーバー, RF システム, Communications Toolbox, Massive MIMO, ビームフォーミング, OFDM, ローカル5G, Bluetooth 干渉