国際リニアコライダーの制御システム設計を向上

Parallel Computing Toolbox を利用して、分散実行のための大きなグループのクラスター上に Simulink モデルを展開しました。我々は、数百に及ぶシナリオへのカバレージを提供するシミュレーションを同時に実行しました。結果として、このタスクに対して、数千倍の線形なスピードアップを達成しました。MATLAB プロダクトファミリは、以前は不可能だったことを成し遂げるのを可能にしました。

課題

国際リニアコライダー内で、粒子ビームを確実に 正面衝突させるコントロールシステムの設計

ソリューション

加速器および位置調整制御システムの設計 、モデリング、 シミュレーションに 、MATLAB 、Simulink、Parallel Computing Toolbox を使用

結果

  • シミュレーション時間の大幅な短縮
  • 開発の統合
  • 既存の作業の活用
Queen Mary high-throughput cluster.

国際リニアコライダー(International Linear Collider : 以下 ILC)は、質量の起源や、宇宙の中の新たな次元の存在、重力の性質についての疑問を、 研究者や粒子物理学者が解くことを可能にすることを期待されています。

ILCは、長さ20キロメートルの2つの線形加速器で構成され、 電子と陽電子のビームを互いに向かい合わせて加速させ、最高で1000ギガ電子ボルトの衝突エネルギーを発生させます。 2つのビームの位置を正確に合わせるためには、 ILCを非常に正確に設計する必要がありました。

国際設計チーム(ILC Global Design Effort)は大学や研究機関において、数百名の科学者や技術者によって運営されています。この活動の中で、ロンドン大学クイーンメアリー校の研究者達は MATLAB プロダクトファミリを用いて、 ILC 設計の効果を確実にしました。

「ビームの大きさを小さくしながら、粒子ビームを相互作用点に配置させるには、フィードバックシステムに正確な位置合わせとチューニングのアルゴリズムが必要。粒子ビームが加速器に沿って飛行しているかを追うために、MATLAB プロダクトファミリを利用してコントロールシステムを設計し、ILC全体をモデリング、分散コンピューティング環境で数千のシミュレーションを実行させました。」

課題

ILC粒子ビームは、厚さ5ナノメートルで光の速度で飛ぶため、わずかな外乱が起きても照準がずれてしまいます。それゆえ、ILCは地震の発生や月の引力による潮の満ち引きといった地球の自然な動きや、電車や自動車の交通による地面の振動を計算する必要があります。

粒子ビームを確実に正面衝突させるために、研究者はリアルタイムなビームの位置調整コントロールシステムを開発する必要がありました。この開発の取り組みは、ILC全体の完全なモデルの正確なシミュレーションにかかっています。各シミュレーションは加速器を通る数百万もの粒子の一つ一つをトラックし、地面の動きの影響と連携させる必要がありました。最適な設計に辿り着くために、様々なマシンの構成で数百回のシミュレーションを実行する必要があったため、チー
ムは同時に、コンピュータクラスタ上で並列にシミュレーションを実行できる簡単な方法を探していました。

ソリューション

White 氏と彼の同僚は、MATLAB® と Simulink® を用いてILCと位置調整コントロールシステムのモデリングとシミュレーションを行いました。次に、Parallel Computing Toolbox™ を用いて、100以上のシミュレーションを同時に実行させ、開発を速めました。

グループはまず MATLAB を用いて、コライダー(加速器)の既存モデルを単独の構成に結合させました。そして次に Simulink を用いて、ビームの位置調整コントロールシステムをモデリングしシミュレーションしました。コントロールシステムを調整し、ILCの設計を評価するために、完成したシステムの複雑なシミュレーションを実行しました。各シミュレーションは80,000個の独立した粒子としてモデリングされた600以上の粒子の束が、コライダーの両面にある20kmの加速器の中を飛んでいく様子をトラックします。加速器のランダムな欠陥や、異なる地動レベル、様々なマシン構成をモデリングするために、当初は2日~3日間かけてシミュレーションを実行していました。White 氏は Parallel Computing Toolbox を用いて、バッチキューシステムの Maui スケジューラが起動しているコンピュータクラスタ上で100以上のシミュレーションを並列に実行することにより、より高速に結果を得る事ができました。

フィードバックシステムのハードウェアのテストは、日本の筑波にある先端加速器試験装置(ATF:Accelerator Test Facility)で開始されました。これらのテストの間、White 氏は Instrument Control Toolbox™ を用いて、信号発生器のコントロールや、ビーム位置とハードウェアの診断情報をテクトロニクス社のオシロスコープTDS7154Bから取得しました。また取得したデータの解析に MATLAB を用い、フィードバックシステムのハードウェアを評価しました。「MATLAB と Instrument Control Toolbox によって、ハードウェアのコントロール、データの収集から結果の解析までを1つのツールで行う事ができました。」

White 氏はまた、Simulink、Simulink Coder™、Xilinx® System Generator を用いて、ザイリンクス社の FPGA と、テキサス・インスツルメンツ社の DSP を実装したLyrtech 社のボード上で、ビームコントロールシステムのリアルタイム実装のために、モデリングとコードの自動生成を実現させました。White 氏は、国際設計チーム内の他の研究者と共に、 ILC の設計図のリリースに向けて動いています。

結果

  • シミュレーション時間の大幅な短縮. 「ハイパワー PC で、1つのシミュレーションを実行するのに3日間かかります。通常、パフォーマンスを評価するために、マシン構成毎に100セットの入力パラメータを用いてシミュレーションする必要があります。Parallel Computing Toolbox を用いることにより、これらの100のシミュレーションを1つのシミュレーションをする時間で実行できてしまいました。このことにより、シミュレーション時間を数百日、短縮する事ができました。」
  • 開発の統合. 「MATLAB プロダクトファミリにより、アルゴリズム開発、計測データの収集、データ解析、計測器のコントロール、リアルタイムコントロールシステムのモデリングのための統合環境が提供され、アルゴリズムを再利用する事ができ、別々の言語を習得する必要がありませんでした。」
  • 既存の作業の活用. 「MATLAB と Simulink を用いる事によって、CやC++のコンポーネントを統合し、共通のフレームワークのもとでモデルに統一する事ができ、開発の高速化に大きく貢献しました。」