核燃料デブリ除去用のロボット アームを三菱重工が開発

課題

溶融した燃料デブリを福島第一原子力発電所から取り出すための多軸ロボットの設計

ソリューション

MATLAB と Simulink を使用したハードウェアの測定テスト、およびロボットの各軸とコントローラーのモデル化およびシミュレーションの実行

結果

  • 開発期間を半減
  • 要件を上回る位置決め精度
  • 組織間で協力するための共有プラットフォームの確立

「MATLAB および Simulink を利用したモデルベース デザインは、従来の制御から新しい制御まで、幅広いオプションをサポートします。これにより、設計上の制約のあらゆる変更に簡単に対応し、このロボットに対する厳しい精度要件を満たすことができました」

村田 直史 氏、三菱重工

最大 2000kgの加工反力に耐えることができるアーム長7 メートルの三菱重工製ロボット アームのレンダリング


福島第一原子力発電所での事故を受けて、日本政府は当該施設の安定化および閉鎖に向けた長期的な取り組みを開始しました。部分的に国際廃炉研究開発機構 (IRID) の指導下にもあるこの取り組みにおいて、最大の技術的課題の 1 つは、溶融した燃料デブリと内部の炉構造を安全に取り出すことです。

デブリの取り出しを可能にするために、三菱重工 (MHI) は、最大2000kgの加工反力に耐えることができるアーム長 7 メートルのロボット アームを製造しています。Simulink® で設計および検証されたロボットの油圧制御システムは、アームの 6 個の軸を動かすことができ、ツール先端の位置決めに関してわずか 5 mm の誤差という精度を実現します。これは、IRID の要件である 10 mm を十分に満たしています。

「このようなプロジェクトでモデルベース デザインを利用しないと、多くの場合、試行錯誤しながら進めていくことになり、コストや時間的な制約がある中での大規模なリファクタリング作業につながります」と三菱重工のエンジニアである村田 直史氏は述べています。「プロジェクトの初期段階で MATLAB および Simulink を使用することで、問題を早期に特定できました。その結果、実際のデバイスの開発とデバッグに費やす時間を半減させることができました」

課題

原子力発電所内の状況は建造時から大幅に変わっていました。現在の状況に関する情報が不足していたため、ロボット アームの仕様を作成することは困難でした。初期段階では設計上の制約が明確ではなかったため、MHI チームは、制御設計の調整と検証を行うために数えきれないほど多くのシミュレーションとハードウェアインザループ (HIL) テストを実行する必要がありました。

ロボットのサイズ、およびアーム用に計画された油圧駆動システムはどちらも、MHI では前例のないものでした。建設現場で使用される掘削機のブームが 4 軸式 (1 個の回転軸と 3 個の屈曲軸) であるのに対して、このロボット アームは 6 軸式 (3 個の回転軸と 3 個の屈曲軸) で、ターゲットの 10 mm 以内にツールの先端を位置決めすることが可能です。ロボットの並外れたサイズと油圧構造、さらにこのような機器で検証不足の制御アルゴリズムをテストすることに伴うリスクも加わって、制御設計に関する大規模なモデリングとシミュレーションの必要性が浮き彫りになりました。

ソリューション

MHI のエンジニアは、MATLAB® および Simulink でモデルベース デザインを使用して、ロボット アームの制御ソフトウェアの開発と検証を行いました。

要件仕様に基づいて設計概要を作成した後、MHI チームは回転軸と屈曲軸のハードウェア テストを実施し、非線形性、応答性、および摩擦抵抗の影響といった要因を測定しました。こうした測定を自動化するために、MHI チームは MATLAB、Simulink、およびリアルタイム Linux® のプラットフォームを使用してテスト制御システムを開発しました。

Simulink を使用して、MHI チームはハードウェア テスト中に収集した測定データに基づいて、油圧シリンダーとサーボ弁を搭載した単軸モデルを作成しました。

また、MHI チームは、Simulink および Control System Toolbox™ を使用して自由度 2 の PID コントローラー モデルを開発しました。このモデルには、差圧フィードバックなどの油圧制御手法と、重力補正などのロボット制御手法が取り入れられています。

コントローラー ゲインの調整、位置を維持するために必要なトルクの決定、重力補正アルゴリズムの実装確認を行うために、Simulink でシミュレーションを実施しました。

MHI チームは、こうしたシミュレーションを実施してから完全なロボット モデルをGazeboで作成し、HIL テストを実施しました。Gazeboで作成されたロボットモデルはROSによりSimulinkのコントローラーに接続されています。次に、MHI チームはロボットの可動範囲、位置決め精度、掘削能力を検証するために MATLAB を使用して完全な機能テストを実施し、テスト結果を分析しました。

このプロジェクトは、福島での燃料摘出作業の開始スケジュールに合わせて進められています。MHI では、高精度の位置決めと重量物を運搬する能力の両方が必要になる将来的な油圧マニピュレーターに対して、今回の作業で得られたモデルとシミュレーションを再利用する計画です。

結果

  • 開発期間を半減。「国の工程表によって課された燃料摘出期限に間に合わせるため、制御開発のスケジュールは 6 か月に設定されました。最初、この期間はあまりにも短すぎると思われました」と 村田氏は話します。「実際には、モデルベース デザインを利用することで、開発期間をわずか 3 か月に短縮できました」
  • 要件を上回る位置決め精度。「このシステムは高精度で動作する必要があります。要件は、500 kg の過重をかけた状態でツールの先端を 10 mm 以内の誤差で位置決めすることです」と 村田 氏は話します。「Simulink で実施したシミュレーションとテストのおかげで、私たちはこの目標を上回る 5 mm の精度を達成できました」
  • 組織間で協力するための共有プラットフォームの確立。「プロジェクトの期間中、私たちは大阪大学の研究グループに助言を求め、有益なアドバイスをいただきました」と 村田氏は話します。「制御設計の議論においては Simulink を共通語として使用することで、全員がアルゴリズムや設計に関する共通認識を迅速に形成することができました」