モデルベース システムズ エンジニアリングとモデルベースデザインを組み合わせて電動ドライブトレインの開発を加速
著者 eMoveUs GmbH、Matthias Braband 博士
「800V シリコンカーバイドを活用したインバーター (自動車推進用で最大 600kW 出力) の開発を進める中で、このワークフローとツールチェーンの有効性を検証しました。MathWorks スタートアップ プログラムへの参加により、製品の市場投入までの期間を短縮する一方でコストを抑えることができました。これはあらゆるスタートアップにとって非常に重要なことです。」
電気自動車 (EV) ならびに eモビリティ業界全体で、電動ドライブトレインの開発を担うエンジニアリングチームは、共通するさまざまな課題に直面しています。その課題には、製品の複雑化だけでなく、コストを抑えつつ高品質な製品をより迅速に提供し、ASPICE、ISO® 26262 などの各種規格へのプロセス準拠を確実に実現する必要性が含まれます。
こうした課題解決のため、eMoveUsでは、従業員が長年培ってきたeモビリティ領域の知見と、新たな会社設立というゼロベースの環境を活かす、滅多にない機会を得ました。既存の手法に見られた問題点に対応すべく、一貫性のあるツールチェーンを基盤とした効率的な開発プロセスを確立しました。
利用可能な選択肢を徹底的に評価した結果、我々はモデルベース システムズ エンジニアリング (MBSE) とモデルベースデザインを MATLAB® や Simulink® の製品、さらに Polarion™ アプリケーション ライフサイクルマネジメント (ALM) ソフトウェアと組み合わせたワークフローを採用しました。ASPICE に従ったシステム エンジニアリング プロセスは図 1 に示されています。このワークフローは、すでにいくつかの領域で利点があることが実証されています。これにより、一元管理された情報に基づいて作業できるようになり、分野やプロジェクトを超えた成果物の大幅な再利用が可能になりました。 さらに、この仕組みにより、エンジニアはプロセス対応に追われることなく機能開発に集中でき、要件からアーキテクチャ、モデル、コード、テストに至るまでのトレーサビリティを確立できます。特に重要なのは、「シフトレフト」パラダイムをシステムズ エンジニアリングに適用できる点で、システムレベルでの動的なシステムの挙動を分析し、全プロセスの初期段階で仕様上の不具合を特定できるようになることです。
System Composer によるシステム アーキテクチャのモデリング
従来の製品開発プロセスでは、システム仕様の不具合は多くの場合、プロトタイプが完成し、システム仕様に基づいてテストを実施した段階で初めて発見されます。そのため、エラー修正のコストが高額となり、プロジェクト全体に重大な遅延を引き起こすこともあります。システムレベルでの仕様の不具合によって予測不可能な追加コストが発生しないよう、我々は可能な限り早い段階で仕様の正当性を検証することを目指しています。私たちのワークフローでは、System Composer™ を使用してシミュレーション可能なシステム アーキテクチャを定義することで、テストや検証作業の「シフトレフト」を実現し、これらを CI パイプラインで自動化しています。これは図 1 にも示されています。
また、System Composer と Simulink でシステム コンポーネントとソフトウェア アーキテクチャ コンポーネント間を 1 対 1 でマッピングすることにより、システムレベルでの動的挙動の解析を可能にします。これにより、ソフトウェア エンジニアはシステムレベルの挙動モデルを設計のたたき台として活用でき、インターフェースを再利用するだけでなく、Simulink でソフトウェアの詳細設計に着手する際に、システム アーキテクチャで定義された挙動モデルを再利用することができます。さらに、部門の垣根を越えて利用されるシミュレーション モデルや環境も再利用されることが多くなってきています。たとえば、同じプラントモデルは閉ループ シミュレーションやテストのためにシステム部門、ハードウェア部門、ソフトウェア部門で使用され、さらにSpeedgoat® HIL システム上でリアルタイムに直接実行することも可能です。これらの依存関係を示す概略図は図 2 に示しています。
さらに、Requirements Toolbox™ と Polarion Connector for Simulink を使用して、Polarion で管理されている要件を System Composer モデルで定義されたアーキテクチャ要素と紐づけます。このコネクタを使用して、ソフトウェア実装の Simulink モデル内の詳細設計要素にも関連付けます。この設定により、手動で同期することなく仕様と実装間の双方向トレーサビリティが可能になり、複数分野にわたるチーム間の連携を促進し、開発サイクル全体で一貫性を確保することができます。
Simscape による物理モデリング
システム、ソフトウェア、またはハードウェアレベルでの閉ループ シミュレーションには、電気自動車のパワートレインの物理モデルが必要です。我々は、このモデルを Simscape™ と Simscape Electrical™ 内で作成しました。図 3 にその全体像を示します。このマルチドメインモデルには、ドライブトレインのバッテリー、DC ケーブル、電磁干渉 (EMI) フィルター、インバーター、AC バスバー、電動ドライブ、負荷モデル、冷却などのモジュール式コンポーネントが含まれています。このモデル内では、Ansys Maxwell のような CAE ツールからの熱や電磁効果の低次元化モデルも組み込むことで、意図したシミュレーション時間を維持できるようにしています。
エンジニアが実行中のシミュレーションのユースケースに応じて各コンポーネントのモデルの忠実度を選択できるように、モデルバリアントを活用したバリアント管理システムを実装しました。たとえば、Variant Manager for Simulink を使用して、チームはバッテリーを単純な定電圧源としてモデル化したバリアントブロックで基本的なシミュレーションを実行することができます。その後、バッテリーの RC 回路や RL 回路のバリアントに切り替えることで、それぞれ低周波数領域の容量性挙動や高周波数領域の誘導性挙動を詳細に解析することが可能になります。同様に、当社のエンジニアはシミュレーションの高速化のためインバーターに単純な制御電圧源バリアントを使用することもあれば、PWM 効果を評価するためにより高い忠実度で実際のスイッチング挙動を再現するバリアントを選択することも可能です。バリアント マネージャーで、こうしたバリアントを扱う一例を図 4 に示します。
閉ループ シミュレーション、コード生成、リアルタイム HIL テスト
System Composer でシステム アーキテクチャを定義し、詳細なプラントモデルを構築することで、図 5 に示すように、システム挙動モデル、ソフトウェア アーキテクチャ モデル、あるいは Simulink の詳細設計モデルを用いて、複数のレベルで閉ループ シミュレーションの実行が可能になります。
これにより、すでにシステムレベルで行われている検証作業を「シフトレフト」できるため、複雑なドライブシステム機能における仕様の不具合を最小限に抑えることができます。
この環境内では、MATLAB やデータ インスペクターを使用して、システムレベルで製品の挙動を解析し、信号、性能指標、タイミング関係を可視化することができます。図 6 に、ベクトル制御器の電流制御動作を解析するシステム アーキテクチャの閉ループ シミュレーション結果の一例を示します。この閉ループ構成では、システムレベルまたは特定のアーキテクチャ コンポーネントに対して、Simulink Test™ を使用して自動テストを実行できます。さらに、これらのテスト結果は自動的に Polarion へ同期され、テストケース仕様に基づいた最新のプロジェクト追跡やレポート作成が可能になります。
この一貫した開発手法はドメインの境界で終わることなく、さらに先へと継続されます。V 字型開発モデルに沿って、システム仕様からソフトウェア仕様、アーキテクチャ、モデルベースデザイン、そして実装へと進み、ワークフローの次段階では、コード生成に加えてMIL、PIL、HILの各テストも実施されます。ここでは、Simulink で作成したソフトウェア アーキテクチャや詳細設計モデルから Embedded Coder® を用いてコードを自動生成し、そのコードを AUTOSAR® スタックに統合した上で、Infineon® AURIX™ TC3xx マイクロコントローラーに実装します。既に提示されたプラントモデルは、HDL Coder™ とSimulink Real-Time™を用いて、Speedgoatリアルタイムターゲットマシン上の FPGA にデプロイされます。この構成により、最終製品のソフトウェアが HIL 上で正しく動作するかどうかを検証できます。さらに、シナジーを活用し、設備や開発コストを削減するために、同じ HIL プラットフォームを用いて、テストリグでの最終試験前にシステム統合・検証テストも実施しています。
実現したメリットと継続的な統合の改善
このワークフローとツールチェーンのアプローチにより、800V シリコンカーバイドを活用したインバーター (自動車推進用で最大 600kW 出力) の開発を進める中で検証を行うことができました。MathWorks スタートアップ プログラムへの参加により、製品の市場投入までの期間を短縮する一方でコストを抑えることができました。これはあらゆるスタートアップにとって非常に重要なことです。
我々は継続してワークフローの拡張と改善を行っています。たとえば、すでに Jenkins® や Bitbucket® といった CI を用いて、ソフトウェアの単体、統合、検証の各テストを継続的に実施しています。また、この CI ベースの自動化ワークフローを V 字サイクルの上流にも拡張し、CI を活用したシステム アーキテクチャ検証の自動化にも取り組んでいます。
公開年 2025