トヨタにおける包括的なエンジンモデルおよび SIL+M を使用したエンジン制御システムのフロントローディング開発

「Simscape を使うことで、全てのチームが理解しやすい、当社の設計作業に最適な包括的なエンジンモデルを作成できます。当社のフロントロー ドした開発プロセスにとって、Simulink で実行される ECU およびエンジンの閉ループ シミュレーションを、できるだけ早く完了させることが重要です。」

課題

複雑なエンジン制御システムソフトウェアの開発を促進すること

ソリューション

包括的なエンジン モデルを開発し、それを SIL+Mテストに組み込むことで開発プロセスをフロントローディング化

結果

  • 包括的なエンジンモデルを開発
  • 開発初期段階でデザインを検証
  • テストが困難な状態をシミュレーション

トヨタのエンジン。トヨタでは、Simscape モデリングによりターボチャージャーや後処理システムなどの高度なエンジンコンポーネントをさらに細かく制御しています。

自動車メーカーが燃費の向上、排出ガスの低減およびより良い運転環境の提供に取り組むにつれて、エンジン制御ユニット (ECU) ソフトウェアは次第に高度化しています。特に、排出ガスに関する規制がさらに厳しくなることで、混合気および燃焼のタイミングを正確に制御することが必要です。

このような複雑なシステムと厳しい要求のため、欠陥または設計上の不具合が開発の終盤で発見されると、大幅な作業のやり直しが発生したり、コスト増をまねくことになります。これらを回避するには、ECU 開発プロセスのできるだけ早期にエンジンの正確なシミュレーションモデルを用意することが不可欠です。トヨタの技術者は、開発プロセスをフロントローディングするために使用されるエンジン モデルを開発し、車両の量産プログラムでのモデルインザループ (MIL) およびソフトウェアインザループ (SIL) テストを可能にしました。

「モデルベースデザインを用いたフロントローディング開発により、開発サイクルを短縮化して、作業のやり直しを最小限に抑えることができました。これにより、競合他社より早く製品の提供を行うことができます。」と、トヨタの伊藤久弘氏は述べています。「MATLAB、Simulink および Simscape を利用して、制御ソフトウェア、プラントモデルおよび閉ループ シミュレーターを同一環境で作成することで、制御システム開発を大幅に簡略化しています。」

課題

これまでトヨタの技術者は、比較的単純なプラントモデルを使用して、ECU 機能の小さいサブセットのみをテストしていました。そのため、制御ソフトウェアのテストおよび最適化ができませんでした。また新しいエンジンを最適に稼働させるために、燃料、燃焼および排気ガスの再循環 (EGR) システムを含めたエンジン全体をカバーするエンジンモデルや、これらのシステムを記述する方程式を直接実装することで、システムの動作をモデリングする必要がありました。

トヨタの技術者は、ECU をより効率的に開発するために、自身の SIL および MIL テクノロジーの柔軟性と拡張性を向上させることを必要とし、さらに、ECU 間の CAN バス通信のシミュレーション、制御コードのソースレベルでのデバッグおよび割り込みサービスルーチン (ISR) とタイマータスクの正しい順序での実行をサポートする SIL 環境を必要としていたのです。

ソリューション

トヨタの技術者は Simscape™ を使用して、数千もの方程式からなるエンジンモデルを開発しました。このモデルにより、ECU ソフトウェアのモデルベースデザインに基づくフロントロードされた開発プロセスが可能となりました。

技術者は空気、気化燃料および既燃ガスなど、複数のガスの種類を含む物理ドメインをカスタムで作成するためにSimscape言語を使用し、さらに燃焼シリンダーおよび空気経路 (EGR を含む) を表すためのカスタムのコンポーネントモデルを作成しました。これらのモデルと Simscape で提供されているコンポーネントモデルを組み合わせることで、トルクコンバーター、オートマチックトランスミッションおよびその他のドライブトレインコンポーネントのモデリングを行うことが可能になったのです。

彼らは、物理ネットワークの手法を使用し、Simscape のこれらのコンポーネントを組み合わせて、非因果モデルを作成しました。これらの非因果モデルは、Simulink® および Model-Based Calibration Toolbox™ を使用して開発された燃焼ダイナミクスのデータ駆動型因果モデルと結合されました。

ECUアルゴリズムの実行可能な仕様書を Simulink および Stateflow® で開発するために、接続されたプラントのダイナミクスを考慮する一方で、Simulink では MIL シミュレーションを導入して新しい制御ロジックの設計を分析しました。

Simulink Coder™ を使用して制御モデルからコードを生成し終わると、トヨタの技術者は SIL テストを使用して、低レベルのドライバー、ISR およびタイマーの正確な実行順およびその他の MIL シミュレーションではテストできない詳細項目について検証しました。またSILにおいては、制御コードのソースレベルのデバッグのために Microsoft® Visual Studio® を使用しました。コードに設定されたブレークポイントで Simulink のシミュレーションが一時停止することで、技術者は実行を再開する前に制御変数の状態を調査できました。

モデル + ソフトウェアインザループ (SIL+M) シミュレーションを使用して、技術者は新しい制御モジュールをモデルとして開発し、それを制御ソフトウェアに統合しています。

このSIL+M によって、技術者は新しい制御ロジックを完全な制御システムに組み込むことができるようになり、ECU 開発のフロントローディングをさらに推進することが期待されています。

MATLAB® を使用して、技術者はパラメーターを最適化している間のシミュレーションを自動化して、シミュレーションとテスト結果に対するデータ分析を実行しました。

トヨタは現在、エンジン制御、トランスミッション制御およびハイブリッド電気制御システムの開発で、モデルベースデザインのフロントローディング開発を適用しています。

結果

  • 包括的なエンジンモデルを開発. 「因果モデリングの手法と比較して、Simscape で利用できるプラント モデリングのワークフローはより迅速でありロバストです。そして Simscape を使用して構築したプラントモデルは直感的で簡単に物理システムを表します。」と、伊藤氏は述べています。「Simscape のおかげで、数千の方程式からなる包括的なエンジンモデルを作成し、シミュレーションを実行できました。これは、因果的な手法では不可能だったでしょう。」
  • 開発初期段階でデザインを検証. 「モデルベースデザインおよび SIL シミュレーションを使用して、新しい制御デザインをさらに早期に検証できます。」と、伊藤氏は述べています。「たとえば、エンジン制御およびトランスミッション制御ソフトウェアを、閉ループシミュレーションにて CANの設定を用いて検証しましたが、こうすることで自信を持って車載テストに進むことができました。」
  • テストが困難な状態をシミュレーション. 「Simulink で作成した SILプラットフォームによって、技術者は実際の車両やプロトタイピングのテスト環境で調整するのが困難な、さまざまな運用条件で、制御ソフトウェアの細かな調査を実行できます。」と、伊藤氏は述べています。