MATLAB を使用した新興市場の金融危機の予測

「MATLAB は強力で使いやすいため、インドネシア銀行において MATLAB プログラムを実装すれば、財政危機の早期警告システムとして使用できると確信しました。」

課題

新興経済国における金融危機の予測と回避に役立つ計量経済モデルを開発する

ソリューション

MathWorks ツールを使用して、選択した期間における通貨需要のトレンドの分析に線形手法とニューラル ネットワークの両方を適用するモデルを開発する

結果

  • 予測能力が向上したモデル
  • 金融危機を回避するためのプログラム
  • 次世代向けの新しい研究ツール
ジョージタウン

アジア四小龍の経済圏で始まり、たちまち世界の多くの地域に広がった金融危機をきっかけに、経済学者の Paul McNelis 氏は、最新のツールと研究手法がそのような危機の予測に役立ち、その影響を軽減できるかどうかに取り組みました。

同氏はインドネシアに焦点を当てました。インドネシアでは、1997 年秋にインドネシアルピアの価値が急落し、国内のドル需要がパニックレベルに達しました。これは、政府が IMF から 230 億ドルの融資を受けた後にも続きました。

McNelis 氏は、インドネシアで米国国際開発庁からの技術援助助成金を受けて、インドネシア銀行で研究を実施しました。この意欲的なプロジェクト全体で、MATLAB® および一連の個人的な MATLAB ファイルを Spreadsheet Link™、Statistics and Machine Learning Toolbox™、Optimization Toolbox™、および Deep Learning Toolbox™ と組み合わせて利用しました。

課題

McNelis 氏は、危機までの期間と危機の期間を含めた 13 年間におけるインドネシアの通貨と広義の通貨 (準通貨) の両方に対する月次の需要の解析に着手しました。蓄積される膨大な量のデータを解析する最も効果的な方法を決定する必要がありました。また、危機真っただ中のドル需要のピークなど、データの大きな変動によって引き起こされる恐れのある予測誤差のリスクを軽減する必要もありました。経済学者がこれまで使用してきた線形モデルや誤差修正モデルがこのタスクには適切ではないことが McNelis 氏にはわかっていました。

ソリューション

そこで、MATLAB のプログラミング機能、使いやすさ、および膨大なデータセットを処理できる能力を理由に、MATLAB で作業することを選択しました。方法論に関しては、線形モデルとニューラル ネットワーク解析を組み合わせることで、得られる結果の精度が向上すると考えました。同氏の説明によると、ニューラル ネットワークを使用する利点は、「推定には、入力 x を使用して出力 y を予測するというデータの逐次的な処理だけでなく、入力が隠れ層の複数のニューロンによって処理されるため、同時並行処理も含まれる」ことです。

解析の中心となったのは、ピッツバーグ大学の John Duffy 教授と共同開発した遺伝的アルゴリズムでした。アルゴリズムの開発において、McNelis 氏と Duffy 氏は Statistics and Machine Learning Toolbox を広範囲に使用しました。また、処理を高速化するために MATLAB のベクトル化関数も使用しました。「アルゴリズムによって得られた係数は、より一般的な局所的検索手法の開始値として使用できます」と McNelis 氏は説明しています。検索手法として、Optimization Toolbox の非線形最小化関数を使用しました。

データ収集を完了した後、McNelis 氏は従来の線形モデルで得られる最良の結果を得ることを目指しました。次に、このモデルからの入力を使用してニューラル ネットワークを構築しました。

McNelis 氏は次のようにも述べています。ニューラル ネットワークを定義する際は、「1 つの隠れ層に 3 つまたは 4 つのニューロンが含まれているネットワークなど、単純なネットワークから始めるのが理想的です。モデルの学習はハイブリッド手法で行います。まず、遺伝的アルゴリズムを使用してニューラル ネットワークの一連の係数を求め、次にそれらの係数を使用して非線形勾配降下法に切り替えます。」

McNelis 氏は、Deep Learning Toolbox のフィードフォワード アーキテクチャを使用して、入力を出力に関連付けました。「私はさまざまな経済の用途で各種ニューラル ネットワーク アーキテクチャを使用して実験してきましたが、最良のアーキテクチャは 1 つの隠れ層をもつフィードフォワード モデルであることがわかりました」と語ります。同氏は各ニューロンの隠れ層にツールボックスの対数シグモイド活性化関数を使用しました。入力を隠れ層に送信し、対数シグモイド関数によってスカッシングしました。最後に、ニューロンを線形結合として出力層に送信しました。

時変 GARCH モデルを使用して 1997 年の 11 月と 12 月におけるインドネシア通貨の劇的な下落に対して為替レートリスクを代用することで、ニューラル ネットワークの予測能力をさらに高めることができました。

標本内および標本外の性能を取得するために Spreadsheet Link を使用しました。Spreadsheet Link により、標本外の予測を取得して Microsoft® Excel® にインポートし、標本外の予測の誤差を計算できました。その後、結果を MATLAB からプレゼンテーション スプレッドシート形式に簡単に転送できました。

結果

  • 予測能力が向上したモデル。McNelis 氏が開発したニューラル ネットワーク モデルは、線形モデルで得られるよりも全体的にはるかに高い正確性を示しました。また、GARCH モデルの予測をさらに向上させました。

  • 金融危機を回避するためのプログラム。インドネシア銀行は現在、McNelis 氏のモデルを広範囲に使用して、通貨需要の予測とコアインフレ率の予測を行っています。これにより、対処しなければならない主要なインフレ圧力に抵抗する能力が向上しています。為替レートの変動の綿密な監視は、他の銀行が危機を予測するために使用できる「金融危機の効果的な早期警告システムになり得る」と McNelis 氏は考えています。

  • 次世代向けの新しい研究ツール。McNelis 氏はジョージタウン大学の教授です。アジアと南米の中央銀行および金融コミュニティに、MATLAB に基づく最先端の経済テクノロジーをもたらしています。また、自身の学生が、不安定な財政が経済移行期の国民にもたらす恐れのある問題を軽減できるようにするため、自身の MATLAB ベースの手法も教えています。

謝辞

ジョージタウン大学は、世界に 1,300 以上ある、MATLAB と Simulink を全学で利用可能な大学の 1 つです。Campus-Wide License を使用すると、研究者、教員、および学生は、教室、自宅、研究室、現場など、どこでも最新もしくはそれに準じたリリースを共通の製品構成で使用できます。