ホワイトペーパー

はじめに:初期段階のシミュレーションの重要性

電力コンバーターおよびモータードライブ設計における初期段階の意思決定は、設計基準を満たすために必要な時間とコストにおいて重要な役割を果たします。回路トポロジ、コンポーネント選定、制御手法、および故障動作に関する選択は、ハードウェアが構築される前に行われ、プロジェクト全体のコスト、性能、および再設計リスクを決定します。

デジタル シミュレーションは、エンジニアに意思決定の手段を提供するとともに、効果的な初期段階の電力コンバーターおよびモータードライブ設計の基盤を築きます。

このホワイトペーパーでは、MATLAB®、Simulink®、および Simscape Electrical™ が初期段階の意思決定に必要な環境をどのように提供するかについて紹介します。各セクションでは、初期段階のハードウェア設計における特定の課題を取り上げ、シミュレーション駆動型の解析により最初のプロトタイプの製作前にリスクをどのように低減するかを説明します。

セクション

電力コンバーターおよびモータードライブの初期設計段階におけるリスクの低減

電力コンバーターやモータードライブなどのパワー エレクトロニクスを基盤としたデバイスの回路設計の初期段階においては、エンジニアリング チームは設計空間を探索できる複数の機能を備えたソフトウェアが必要になります。初期コンセプトの反復的な変更を容易にしたり、ハードウェア テスト前にエラーを発見したり、コストと性能のトレードオフを実施したり、現実的なシステムの一部として回路を検証したりすることが求められるのです。これらの機能を備えたソフトウェアを用いて初期段階の設計を行うことで、プロジェクトのハードウェア実装フェーズに進む際の設計反復の回数とコストのかかる遅延の削減が可能になります。

モデルベースのマルチドメイン シミュレーション設計により、エンジニアは電力コンバーターおよびモータードライブ設計プロセスの初期段階で、最適かつ十分な情報に基づいた意思決定を行うことができます。シミュレーション、解析、および設計機能を単一の環境に統合することにより、この手法はエンジニアが設計空間全体を体系的に探索することを可能にします。エンジニアは、制御ループ設計、動的応答、熱効果、電力品質、コンポーネントの選択、故障解析など、複数かつしばしば競合する要件に対応するトレードスタディを、すべて単一のプラットフォーム内で実施することができます。

複数レベルのモデル忠実度とコシミュレーション機能をサポートする Simscape Electrical は、既存のワークフローに統合し、従来の EDA ツールや回路シミュレーター単独よりも包括的なアプローチを提供します。エンジニアは、トポロジおよびアーキテクチャの選択肢を検討し、コンポーネントのサイジングを行い、目的に応じたトレードスタディを実施することで、最も早い段階で重要な意思決定に必要な情報を得ることができます。ベンダー定義のライブラリ、インポートツール、および豊富な回路要素、負荷、プリビルド コンバーター、制御テンプレートのライブラリにより、初期設計の検討が迅速かつ柔軟に行えます。MATLAB との直接連携により、幅広い変数や制約を考慮しながら、設計空間を迅速に探索して絞り込むことが可能です。

電力品質、放熱、システム効率、および機械的性能 (モーター ダイナミクスを含む) などの主要な性能要因はすべて、要件追跡および故障注入機能を備えた統合環境で解析できます。この連携したアプローチにより、詳細設計に進む前に高い確信を得ることができます。

セクション

Simscape Electrical による設計プロセスの強化

Simscape Electricalは、以下のような統合された機能セットを通じて、初期段階の設計課題の幅広い問題に対応します。

  • トレードスタディ、予備解析、最適化
  • 複数レベルの忠実度
  • 熱解析と機械解析
  • 故障注入
  • 周波数ベースの解析
  • ベンダー部品ライブラリ
  • 制御ループ設計
  • 要件のトレーサビリティ
  • コシミュレーションとモデルエクスポート
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トレードスタディ、予備解析、最適化

Simscape Electrical は、体系的なコンバーター設計および初期段階のトレードスタディに対して、主に以下の 2 つの利点を提供します。第一に、MATLAB との直接連携により、スクリプト作成、設計、および最適化ツールの利用が可能となり、設計空間探索の自動化を実現します。第二に、エンジニアは熱依存のトランジスタの使用から、上位レベルの動作モデルにおけるコンバーターの抽象化まで、シミュレーションの詳細度を柔軟に制御できます。これらの機能を組み合わせることで、自動化のレベルとモデルの忠実度を各プロジェクトの特定の要件に合わせて調整可能な統合環境を実現します。 

MATLAB による最適化およびトレードスタディは、Simscape Electrical モデルを活用して複数の目標および要件に同時に対応します。コスト、電力品質、帯域幅といった目標を優先順位付けおよび重み付けすることができ、最小効率や必要なゲイン・位相余裕といった厳密な制約は自動的に適用されます。これらの制約はカスタマイズ可能であり、個別または集合的に探索して、コンバーター設計への影響を理解することができます。

MATLAB は、局所的、大域的、および AI ベースの最適化をサポートしており、設計空間を体系的にカバーする実験計画の生成ツールを提供しています。

この種の解析における主要な技術的利点は、離散および整数ベースの最適化、ならびに機械学習手法をサポートしていることです。これにより、実際の市販のコンポーネント (例えば、非現実的な 1004.2 Ω の抵抗器ではなく標準的な 1000 Ω の抵抗器) が選択可能となり、最終設計が最適かつ製造可能であることが保証されます。制約と最適化目標を用いれば、連続・離散を問わず、アーキテクチャ、コンポーネント値、制御方式などを自動探索できます。MATLAB は、局所的、大域的、および AI ベースの最適化をサポートしており、設計空間を体系的にカバーする実験計画の生成ツールを提供しています。

豊富な動作モデル、サンプルプロジェクト、および制御テンプレートにより、探索用モデルの構築が加速され、不要な詳細を省くことで初期設計段階での有意義な解析と比較が容易になります。このアプローチにより、システム要件全体を考慮した質の高い意思決定が可能となり、設計成功の確度が高まります。重要な点として、これらと同様の手法は、より成熟した設計の微調整やさらなる最適化にも適用できます。

Simscape Electrical における IGBT-ダイオード コンポーネントのモデリング ワークフローを示すフローチャート。データシート パラメーターからテストハーネスを経て三相コンバーターモデルまでの流れを示す。

三相高電力コンバーターの設計・解析ワークフロー図。

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複数レベルの忠実度: モデル作成および保守の効率化

Simscape Electrical の柔軟なモデリング機能により、エンジニアは不要な詳細を抽象化しつつ、特定の設計基準に対応できます。ユーザーがカスタマイズ可能なこの柔軟性により、同一のワークフロー内でシステムレベルの設計と詳細設計の両方の意思決定が可能になります。例えば、低レベルの制御ループをモデル化せずに電力分配システムのコストと効率を分析したり、ゲートドライブ抵抗を評価して効率とEMI のトレードオフを検討したりできます。Simscape Electrical ライブラリには、さまざまな忠実度レベルの事前構築済みモデルが含まれており、多数の例やテンプレートとともに、タスクに合わせたシミュレーションを迅速に構築できます。

Simscape Electrical の中核は、熱依存パラメーターと複雑な非線形性を持つ詳細なトランジスタモデルから、コンバーターの制御ループさえ抽象化できる高レベルの動作モデルまでスケールすることにあります。一般的な忠実度レベルは以下のとおりです:

  • 詳細な非線形スイッチ (SPICE 相当モデル)
  • スイッチド線形デバイス (スイッチング効果と損失は保持するが、ターンオン ダイナミクスは無視)
  • 平均化モデル (不連続モードを含む高次のシステム ダイナミクスに焦点)

このアプローチは、トランジスタだけでなく、バッテリー、モーター、IC などにも適用されます。適切な忠実度を選択できることは、利用可能なデータで実用的なモデルを構築するうえで重要であり、一部の詳細が不明な場合でも反復的な設計をサポートします。さらに、不要な複雑さを抽象化することで、モデルの作成、保守、シミュレーションを効率化します。

入力電圧 V1、ゲート信号 G、および出力電圧 V2 を備えた詳細なトランジスタレベル回路モデルの Simscape Electrical 回路図。

ゲートドライバーの詳細な回路図。

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熱解析と機械解析:損失および冷却手法の評価

コンバーター設計において、パッケージングとレイアウトは非常に重要な考慮事項です。Simscape Electrical は、すべての忠実度レベルごとに詳細な損失計算を提供します。従来のトランジスタモデルでは、スイッチング損失と導通損失の両方が常に計算されます。高速シミュレーション用に区分線形モデルを使用する場合、損失はベンダー提供のテーブルから設定するか、ソフトスイッチング シナリオを含む詳細なスイッチモデルから Simscape で自動生成できます。平均化モデルおよび動作モデルは、効率マップを組み込むことで熱挙動および回路効率の精度を確保できます。

Simscape Electrical は、すべての忠実度レベルごとに詳細な損失計算を提供します。

熱損失と熱効率を理解することは重要ですが、効果的な放熱を確保するためには、しばしばシステム全体の視点が必要です。Simscape Electrical は、Cauer および Foster ネットワークなどの従来の熱モデリング手法をサポートしており、熱領域内での伝導、対流、放射による熱伝達のシミュレーションを可能にします。これらのモデルには、液冷や二相冷却、熱交換器などの高度な詳細を含めることができ、設計者はアクティブ冷却システムの追加の電力需要を考慮しながら、放熱手法を評価することが可能です。

モーターやソレノイドなどの機械部品も、複数の忠実度レベルでモデル化することができます。これらは、単純な集中パラメーターモデルから、空間高調波や飽和などの効果を捉えた、FEA ツールからインポートされた詳細な非線形モデルまで多岐にわたります。必要に応じて熱挙動を含めることで、電気および機械の両面にわたる包括的な解析を支援します。

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組み込みのプロアクティブな故障注入

Simscape Electrical には、故障のモデル化、注入、および解析のための組み込みツールが備わっています。個々のコンポーネントにはあらかじめ定義された故障が含まれており、専用の故障ブロックを使用することで、システムの任意の箇所に開回路や短絡を注入できます。故障は、シミュレーション条件、ユーザー入力、または特定のシミュレーション時間によって引き起こされます。シミュレーション環境では、こうした挙動が故障として識別されるため、すべての故障シナリオを専用の故障ウィンドウで管理することで、体系的かつ徹底した仮想故障評価が可能になります。この機能は、必要に応じて仮想の故障モード影響解析 (FMEA) をサポートするように拡張可能です。

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電気性能および制御特性に関する周波数ベースの解析

Simscape Electrical は、電力品質、入力インピーダンス、ノイズ抑制、制御ループ設計の研究に不可欠な、時間領域シミュレーションに加えて周波数ベースの解析をサポートしています。Simscape Electrical ライブラリにあらかじめ用意されているコンバーターブロックを使用する場合、平均化モデルが内部で導出・統合されているため、解析的な周波数応答や伝達関数が手軽に利用できます。これらの機能は、忠実度に関係なく、組み込みの周波数応答解析ツールを使用して、すべてのカスタムモデル化されたトポロジに拡張されます。これにより、小信号解析や平均化モデルの導出を手作業で行う必要がなくなります。

周波数応答データは、制御や最適化のアルゴリズムと連携させることができ、またシステム同定ツールと組み合わせて低次元の時間領域モデルを生成することが可能であり、手動による数学的解析は不要です。

Simscape Electrical の昇圧コンバーターモデルと、時間領域の出力電圧波形およびデューティサイクルから出力への大きさと位相応答を示すボード線図。

昇圧コンバーターの周波数解析。

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ベンダー部品:日立、Infineon、Wolfspeed などのベンダーが提供するモデルの統合

Simscape Electrical は、複数の連携方法を通じてベンダー定義のコンポーネントモデルの統合をサポートしています。

  • データシートに基づくモデル:ベンダー提供のシミュレーションモデルが利用できない場合でも、システムレベルの解析に十分な値がデータシートに含まれていれば、ベンダーのデータシートから得られるパラメーターを用いてあらかじめ定義されたコンポーネントブロックを構成できます。
  • シミュレーションからのパラメーター抽出:ベンダーの SPICE モデルをシミュレーションして、スイッチング損失、容量特性、熱特性などの主要なパラメーターを抽出し、それらを動作モデルのルックアップテーブルに反映させることができます。
  • SPICE ネットリストのインポート:Simscape Electrical は、非線形性や寄生を含む SPICE ネットリストを用いて、ベンダーの詳細なデバイスモデルをインポートできます。

Simscape Electrical には日立、Infineon、および Wolfspeed などのメーカーのコンポーネントデータが含まれており、適切なベンダーデータがあれば、任意のディスクリート デバイスの代表モデルを構築できるツールも提供されています。これにより、電気、熱、制御の各領域にわたり、一貫性のある検証済みモデルが可能になります。

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制御ループ設計:初期段階からの制御帯域幅の最適化

Simulink は、モデル予測制御や機械学習を含む、古典的および高度な制御手法をサポートしています。これによって同時制御設計と最適化が可能となり、エンジニアは相反する基準に対応しつつも、高度に最適化された性能を達成することができます。

Simulink は、S 領域および Z 領域の両方でループ設計をサポートしており、ボード線図、ナイキスト線図、ステップ応答プロットなどの標準的な可視化や、極零解析および配置のためのツールを提供しています。従来の制御基準は、追加の定量的性能指標と組み合わせることができ、例えば、制御器を安定性と帯域幅のために調整しながら、起動時の電流オーバーシュートを制限することが可能となります。

Simulink は、S 領域および Z 領域の両方でループ設計をサポートしており、ボード線図、ナイキスト線図、ステップ応答プロットなどの標準的な可視化や、極零解析および配置のためのツールを提供しています。

Simulink は、ロバストなコントローラーやファジィ論理コントローラーをはじめ、高度なモータードライブ技術(例:位相同期回路、Clarke 変換および Park 変換、ベクトル制御、直接トルク制御、ブラシレス DC 整流)まで、さまざまな制御手法を提供しています。公共事業および電力網接続システム向けに、Simulink は最大電力点追従、インバーター資源管理、アドミタンスベースの安定性、グリッド形成などのツールを提供しています。

モデル予測コントローラーと Clarke 変換および Park 変換を使用した PMSM のブロック図。

ベクトル制御にモデル予測コントローラーを統合することで、電動モーター制御を強化できます。

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要件のトレーサビリティ:ISO 26262 および IEC 61508 準拠

要件のトレーサビリティは、特に要件から実装までの追跡を義務付ける ISO 26262 や IEC 61508 といった規格の下で、体系的なハードウェア設計ワークフローにおいて不可欠です。初期段階で要件が欠落すると、後の段階でコストの高い手戻り作業が発生する可能性があります。

Simulink 製品ファミリと連携する Simscape Electrical は、包括的な要件管理と検証をサポートします。エンジニアは回路モデルをテキスト要件に直接リンクし、形式的な要件ベースのテストを実施することができ、定義された仕様に対する適合性および検証を支援します。

この統合環境は、モデル化、シミュレーション、およびテストにわたるトレーサビリティを実現し、要件を設計アーティファクト、シミュレーション結果、およびテストカバレッジに結び付けます。このアプローチは、設計レビュー、認証プロセス、および変更による影響分析を支援し、コンセプトから実装に至るまで堅牢で標準準拠の設計を可能にします。

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HIL テストのためのコシミュレーションとモデルエクスポート

Simscape Electrical は、既存のハードウェア設計ワークフローに適合しており、その多くは最終設計ファイルの生成に EDA やレイアウトツールを使用します。こうした連携を支援するために、MathWorks ではコシミュレーションとモデルエクスポート機能を提供し、さまざまな設計環境での利用を可能にしています。

プラントモデルは、電力システムおよびコンバーターのハードウェアインザループ (HIL) テスト向けに、C 言語および HDL/Verilog コードにエクスポートすることができます。

Simscape Electrical は、PSpice® や SIMetrix などの回路シミュレーション ツールとのコシミュレーションをサポートしており、エンジニアは異なるプラットフォームの強みを同時に活用できます。この機能は、必要に応じて FEA 解析などの高忠実度モデリングのために、多物理エンジンや EDA ツールとの連携にまで拡張します。

エクスポート側では、プラントモデルを C および HDL/Verilog コードにエクスポートして、電力システムおよびコンバーターのハードウェアインザループ (HIL) テストを行うことができます。これらのモデルは、EDA ツールでの利用のためにエクスポートすることもでき、SystemVerilog と統合して Simscape Electrical で作成されたモデルを EDA 環境内で実行できるようにします。

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まとめ

電力コンバーターおよびモータードライブの初期設計段階におけるリスク低減は、設計上の意思決定の結果がコスト高、不可逆、または安全上の問題になる前に、それを可視化し把握することに尽きます。本ホワイトペーパーで説明したワークフローは、モデルベースのマルチドメイン シミュレーション環境によって、エンジニアがより多くのアイデアを検討し、仮定を早期に検証し、より高い確信を持って堅牢な設計に収束することにどのように役立つかを示しています。MATLAB、Simulink、および Simscape Electrical を使用することで、ベンダーの精度の高いコンポーネントを用いてトレードスタディ、熱解析、故障解析、機械解析、周波数ベースの評価、および制御ループの開発を行うことができます。