Dyson 社、システムレベルのシミュレーションで新製品開発を加速

初代製品の開発にモデルベースデザインを活用


最も効果的な水拭き掃除を実現するには、従来とは異なるアプローチが求められている — そんな事実が Dyson 社の調査によって明らかになりました。これが Dyson WashG1 の開発につながりました。何世紀もの時を遡り、家事の定番アイテムだった「モップ」をヒントに設計された製品です。

この最新の取り組みにおいて、Dyson 社のエンジニアは航空宇宙など他の産業分野の複雑なシステム設計に用いられるエンジニアリング手法を応用し、日常製品の設計に活かしました。Dyson の文書ベースのワークフローは、既存製品の新バージョンの開発には適していましたが、新しい製品ラインの創出には不向きでした。代わりに、Dyson 社の先進制御システム主任エンジニアである Romain Guicherd 氏は、チームにモデルベースデザインを試してみるよう説得しました。モデルベースデザインは、システムレベルのシミュレーション モデルを活用することで、エンジニアリング システムの開発プロセスを改善します。

「この手法によって開発ワークフローを加速させ、テストに向けてより堅牢なコードを提供できるようになりました」と Guicherd 氏は述べています。

初代製品

Dyson は、掃除機などの既存製品の新バージョンを設計する際、開発プロセス期間に要件を次のチームに引き継ぐために、文書ベースのアプローチを採用しています。このアプローチは、エンジニアが過去の設計や組み込みソフトウェアを参照して反復できるため、既存の製品に適しています。しかし、この文書による引き継ぎプロセスでは、まったく新しい製品ラインの開発が混乱しかねません。

Dyson WashG1 は、液状の汚れや乾いたゴミを取り除きます。

Dyson WashG1。(画像著作権: Dyson)

「設計仕様が文書化されている場合、エンジニア間で要件の解釈にばらつきが生じる恐れがあります」と Guicherd 氏は言います。「新しい製品ラインの開発は、チーム間の行き違いを減らし、よりスムーズな連携プロセスを実現する新しい働き方を模索する良い機会となりました。」

スムーズなプロセスを実現するまでの道のり

Dyson 社は、モデルベースデザインを革新的な機能を探求できるプロセスと捉えていました。

「さまざまなコンセプトや方向性を検討する必要がありました」と Guicherd 氏は述べています。「モデルベースデザインと Simulink モデルを用いることで、文書ベースの開発プロセスに比べて 2 倍の速さで俊敏に新しいアイデアを実現できるようになりました。」

「モデルベースデザインと Simulink モデルを用いることで、文書ベースの開発プロセスに比べて 2 倍の速さで俊敏に新しいアイデアを実現できるようになりました。」

WashG1 の優れたクリーニング コンセプトには、高密度のマイクロファイバー クロスで覆われた逆回転ローラーを備えたクリーニングヘッドが組み込まれています。液状の汚れと乾いたゴミを分離するために、WashG1 は、トレイ内にすべての固形ゴミをキャッチする一連の二次ローラーを採用しています。トレイの底にはメッシュフィルターが敷かれており、液体がそのまま汚水タンクに流れ込む仕組みになっています。これらすべてを実現してあらゆる状況に対処するために、Guicherd 氏のチームは、相互に作用するシステム要素のシミュレーションを簡単に実行でき、設計からコード生成、ソフトウェアテストまでを支援するツールを必要としました。

掃除用ローラーの制御機能を開発するために、チームは Simscape Electrical™ を使用してフォームローラーのモーターとモーター ドライブをモデル化しました。チームは Stateflow® を使用して、クリーナーに搭載される 2 つのポンプのスケジューリング機能と制御機能を設計しました。1つはローラーにきれいな水を供給するため、もう1つは汚水を排出するためのものです。Stateflow は、製品のセルフクリーニング機構の実装にも使用されました。

WashG1 の洗浄性能には、複数の選択可能な給水レベルが求められ、それぞれに細かく調整できる感度設定が必要でした。こうしたさまざまな設定や負荷の変化対して、正確な電圧制御が求められました。

「Simulink モデルを使用してパラメーターを調整し、さまざまな値をテストして、モーター電圧制御の微調整と開発を迅速化しました」と Guicherd 氏は述べています。「シミュレーションにより、物理的なプロトタイプを作成しなくても設計変更の影響を把握することができました。」

相互に接続された要素とラベル付き線で構成される複雑なシステムを示す Simscape モデルの図。

Simscape でモデル化された Dyson ローラー技術。(画像著作権: Dyson)

チームは Requirements Toolbox™ を使用して、要件を Simulink® モデルに紐付けました。これにより、各要件がどのように製品の機能に反映されているかを示すことができます。「Requirements Toolbox を使用する前は、ハードウェア テストの段階に達するまで、要件が間違っているかどうかわかりませんでした」と Guicherd 氏は言います。「要件をモデルに結び付けることによって、各要件がどのように実装されているか、そして要件間の関係性を理解することができます。」

設計におけるシステム シミュレーションの利点

Simulink と Simscape™ を使用したモデルベースデザインにより、より体系的なアプローチが促進され、Dyson はプロトタイプの作成とテストを行う前に、さまざまな種類のインザループ テストを実施できるようになりました。モデルベースデザインを使用すると、エンジニアはマルチドメイン モデリングを実行し、他のチームと共同作業を行うことができます。たとえば、Guicherd 氏のチームは、セル/バッテリー マネジメント システム開発チームのデータを活用して、正確な 4 セル バッテリーパックのモデルを作成しました。Guicherd 氏のグループはエレクトロニクス チームと連携し、 Simscape Electrical を使用してパワー エレクトロニクス ハードウェアの動作をモデル化し、シミュレーションしました。

「Simulink のシステムレベルのシミュレーションを活用することで、より多くの設計オプションを検討し、トレードオフを比較できるようになり、プロジェクトの設計フェーズに多くの時間を費やすことができました。その利点は、設計エラーや統合の問題をより簡単に、より安価に修正できる段階で発見できたことです。」

「Simulink のシステムレベルのシミュレーションを活用することで、より多くの設計オプションを検討し、トレードオフを比較できるようになり、プロジェクトの設計フェーズに多くの時間を費やすことができました」と Guicherd 氏は述べています。「その利点は、設計上の誤りや統合上の問題を、修正がより容易かつ低コストで行える段階で発見できたことです。」

ソフトウェアアーキテクチャから組み込みコードまで

その後のプロジェクトでは、チームはソフトウェア アーキテクチャを開発するためにSystem Composer™を追加しました。Guicherd 氏は、「 System Composer を使用することで、製品チームとソフトウェア チームが連携してソフトウェア インターフェイスとスケジュールを開発し、さまざまなシナリオをモデル化できるようになりました」と述べています。System Composer を使用すると、チームは大規模なモデルを論理グループに整理し、マージの競合を回避しながらチームのコラボレーションを実現できます。

「ラピッド コントロール プロトタイピングを活用することで、翌日までに迅速にコードを生成し、製品がラボでどのように動作するかを見せることができました。」

Simulinkモデルは製品の動作を視覚的に説明し、開発プロセス全体を通じてチーム メンバー間のコラボレーションも強化しました。これらの制御システム モデルから C コードが生成されました。「モデルを調整し、いくつかの部分をコメントアウトし、いくつかの新しいブロックを追加して、クリーナーの新しい動作をソフトウェアエンジニアに示しました。ラピッド コントロール プロトタイピングを活用することで、翌日までに迅速にコードを生成し、製品がラボでどのように動作するかを見せることができました。」と Guicherd 氏は言います。

チームは手動でコーディングする代わりに、Embedded Coder® を使用して Simulink モデルから C コードを生成しました。その後、ソフトウェア チームはそれを機械の NXP™ マイクロコントローラーの主要コードベースに組み込みました。「Embedded Coder を使用すると、9 日ごとにソフトウェアをリリースできます」と Guicherd 氏は述べています。「以前、手作業でコーディングしていたときは、10 週間に 1 回程度でした。」

「当初は、ラボで動作させることに重点を置いていたため、モデルと生成されたコードが重要な部分でした。しかしすぐに、モデル、コード、テスト、カバレッジを組み合わせることで、製品がさらに改善されることに気付きました」とギチャード氏は言います。

完璧な仕上がりを実現するテスト

チームは、以前の製品に比べてデザインの改良に多くの時間を費やしました。Simulink を使用すると、シミュレーション中に発生したエラーに迅速に対処することができ、テストの際に効果がありました。この段階での作業は、以前よりもはるかに容易かつ迅速になり、チームの開発時間と労力が軽減されました。

「Embedded Coder を使用すると、9 日ごとにソフトウェアをリリースできます。以前、手作業でコーディングしていたときは、10 週間に 1 回程度でした。」

「設計した部品がモデル上で機能すれば、それを製品に取り付けたときにモデルとまったく同じように機能します。その意味ではテストは非常に簡単でした」と Guicherd 氏は言います。「これにより、ゼロディフェクトでの完成が可能になりました。」

WashG1 のモデルベースデザインとコード生成の成功により、ソフトウェア チームの当初の懐疑心は払拭されました。かつては生成されたコードが社内標準に準拠し、実行効率を維持できるかどうか不安でしたが、今ではコードに対する信頼が高まっています。ソフトウェア チームは現在、ハードウェア チームと連携して、生成されたコードの API を定義しています。モデルベースデザインに Simulink を使用することで、柔軟性と速度の両方が向上しました。

「今では、私たちにもう一度同じことをして欲しい、このプロセスを別の製品にも使えるかと最初に尋ねてくるのです」と Guicherd 氏は言います。「プロジェクトの複雑さが増すにつれて、モデルベースデザインのメリットがわかるようになります。」

ビデオの長さ 0:15

Dyson WashG1 のモップテスト。(動画著作権: Dyson)

WashG1 の今後の改良モデルに向けて、Dyson チームはモデルの要素を再利用することができ、モデルベース開発を用いた設計手法の実例は他部門でも注目を集めています。たとえば、Guicherd 氏によると、チームはヘアケア製品や床の手入れなど他の分野での活用も検討しており、Dyson 製品全体にわたるさらなるイノベーションへの道が開かれつつあります。


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