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適応フィルターとアプリケーションの概要

適応フィルター処理の紹介

適応フィルター処理では時間の経過に伴い変化するフィルター パラメーター (係数) を使用し、信号特性の変更に適応します。過去 30 年にわたり、デジタル信号プロセッサは速度および複雑度の増加と電力消費の削減において大幅に進歩しました。その結果、リアルタイムの適応フィルター処理アルゴリズムは、今後の有線と無線の両方の通信にとって、急速に実用的で重要なものとなりつつあります。

適応フィルターの詳細および適応フィルターの理論については、にリストされた書籍を参照してください。

適応フィルター処理の方法論

この節では、適応フィルターのしくみについての簡単な説明と、適応フィルターを有効活用できるいくつかの用途を示します。

適応フィルターは自己学習します。フィルターへの信号が継続する間、不明なフィルターの特定や入力信号におけるノイズ キャンセリングなどの目的の結果を得るために、適応フィルター係数はそれ自体を調整します。以下の図で、影付きボックスは適応フィルターと適応再帰的最小二乗 (RLS) アルゴリズムで構成される適応フィルターを表しています。

一般的な RLS 適応フィルターを定義するブロック線図

次の図に、入出力をもつ一般的な適応フィルターの設定を示します。

一般的な適応フィルター アルゴリズムの入出力を定義するブロック線図

DSP System Toolbox™ ソフトウェアには、それぞれ特定のニーズに利点がある幅広い形式の適応フィルターが含まれます。いくつかの共通点は次のとおりです。

適応フィルターはフィルターへの入力信号の特性と、その入力におけるフィルターの目的の動作を表す信号に基づいて設計されます。

フィルターの設計には、その他の周波数応答情報や仕様は必要ありません。フィルターで使用される自己学習プロセスを定義するには、出力信号 y(k) と目的の信号 d(k) 間の誤差を減らすために使用する適応アルゴリズムを選択します。

適応アルゴリズムの反復を経て e(k) の LMS 性能条件がその最小値を達成すると、適応フィルターは終了し、その係数は解に収束します。これで、適応フィルターからの出力が目的の信号 d(k) と厳密に一致します。入力データの特性 ("フィルター環境" とも呼ばれる) を変更すると、新しいデータに対する新しい一連の係数を生成することにより、フィルターは新しい環境に適応します。e(k) がゼロになりそこに留まると、理想的な結果である完全な適応が実現しますが、実際にその可能性はあまりありません。

このツールボックスの適応フィルター関数は図の影付き部分を実装し、適応アルゴリズムを適切な手法と置き換えます。いずれかの関数を使用するには、入力信号または信号とフィルターの初期値を指定します。

には、利用可能なアルゴリズムと MATLAB® で使用するために必要な入力の詳細が記載されています。

適応フィルターの選択

ニーズに最も適した適応フィルターを選択する際は、慎重に考慮しなければなりません。方法の選択基準に関する網羅的な説明は、このユーザー ガイドで扱う範囲を超えています。しかし、選択する際に役立つガイドラインがいくつかあります。

2 つの主な考慮事項 (フィルターの使用方法および使用するフィルター アルゴリズム) によって判断の枠組みがなされます。

ニーズに合った適応フィルターの開発を開始する際、考えられる最大の関心事は、適応フィルターの使用はフィルター処理のニーズを解決するうえでコスト競争力のある方法であるかどうかという点です。一般的に、適応フィルターの適性はさまざまな領域により決定されます (これらの領域はほとんどのフィルター処理と信号処理アプリケーションに共通です)。4 つの領域は次のとおりです。

  • フィルターの整合性 - 量子化の結果フィルター係数が若干変化した場合、または固定小数点演算に切り替えた場合、フィルターの性能は低下するかどうか。信号の過度なノイズはフィルターの性能を損なうかどうか。

  • フィルターの性能 - 適応フィルターにより十分な同定精度または忠実度が得られるかどうかや、フィルターにより要件を満たす十分な信号の識別またはノイズ キャンセリングが得られるかどうか。

  • ツール - フィルター開発プロセスを容易にするツールが存在するかどうか。優れたツールでは、より複雑な適応アルゴリズムを実用的に使用できます。

  • DSP 要件 — フィルターは用途の制約内でジョブを実行できるかどうか。推奨された適応フィルター処理方法を使用するだけの十分なメモリ、スループット、時間がプロセッサにあるかどうか。メモリとスループットをトレードし、より多くのメモリを使用してスループット要件を低減したり、より高速な信号プロセッサを使用できるかどうか。

前述の考慮事項のうち、フィルターの整合性またはロバスト性を特徴付けることがおそらく最も困難です。

DSP System Toolbox ソフトウェアでのシミュレーションには、これらの問題を開発研究するうえで効果的な最初のステップが用意されています。LMS アルゴリズムのフィルターにより、比較的簡単に実装できるフィルターと、適応フィルター処理が問題に役立つかどうかを評価するための十分に強力なツールの両方が提供されます。

また、LMS の手法から開始することにより、ツールボックスで使用できるより複雑な適用フィルターを調べて比較できる安定したベースラインを形成できます。最後に、開発プロセスでアルゴリズムと適応フィルターを実データでテストしなければならない場合があります。正確に作業の値をテストする場合、実際のデータに代わるものはありません。

システム同定

一般的な適応フィルター アプリケーションの 1 つは、適応フィルターを使用して不明な通信チャネルの応答や大会議室の周波数応答といった未知のシステムを同定し、相当数の種々に異なるアプリケーションを選択します。その他のアプリケーションには、エコー キャンセルやチャネルの識別などがあります。

次の図では、未知のシステムが適応フィルターと並列に配置されています。このレイアウトが表しているのは、可能性のある多数の構造の 1 つにすぎません。影付き領域には適応フィルター システムが含まれています。

適応フィルターを使用した未知のシステムの同定

明らかに、e(k) が非常に小さい場合、適応フィルター応答は未知のシステムの応答に近くなります。この場合、同じ入力が適応フィルターと未知である対象の両方に送られます。たとえば、未知のシステムがモデムの場合、入力はホワイト ノイズを表すことがよくあります。これは、インターネット サービス プロバイダーにログインするとモデムから聞こえる音声の一部です。

逆システム同定

未知のシステムを適応フィルターと直列に配置することで、e(k) が非常に小さくなるとフィルターは未知のシステムの逆になるように適応します。図に示すように、プロセスには、加算時のデータが同期されるように目的の信号 d(k) パスに挿入された遅延が必要です。遅延を追加することでシステムの因果性が維持されます。

未知のシステムへの逆応答の決定

遅延を含めて未知のシステムにより生じる遅延を考慮することで、この条件が回避されます。

Plain Old Telephone Systems (POTS) は一般に逆システム同定を使用して銅の伝達媒体を補正します。データまたは音声を電話回線で送信する場合、銅線は、高周波数 (またはデータ転送速度) でロールオフする応答と、他の異常も含んでいるフィルターのように機能します。

有線応答の逆である応答をもつ適応フィルターを追加し、リアルタイムで適応するようにフィルターを設定して、フィルターでロールオフと異常を補正させ、電話システムで使用可能な周波数出力範囲とデータ転送速度を増大させます。

ノイズまたは干渉キャンセリング

ノイズ キャンセリングでは、適応フィルターにより信号からリアルタイムでノイズを除去できます。ここでは、クリーンアップするための目的の信号は、ノイズと目的の情報を結合します。ノイズを除去するには、目的の信号から除去するノイズに相関している適応フィルターに信号 n'(k) を送ります。

適応フィルターを使用した未知のシステムからのノイズの除去

フィルターへの入力ノイズが目的の信号を付随する不要なノイズに相関している限り、適応フィルターはその係数を調整して y(k)d(k) 間の差の値を減らし、ノイズを除去して e(k) にクリーンな信号を出力します。このアプリケーションでは、誤差信号はゼロに収束するのではなく、実際に入力データ信号に収束することに注目してください。

予測

信号を予測するには、いくつかの重要な仮定を行わなければなりません。信号が定常であるか、時間の経過に沿って緩やかに変化するかのいずれかで、時間に伴い周期的でもあると仮定します。

周期信号の将来値の予測

これらの仮定を受け入れる場合、適応フィルターで、過去の値に基づき目的の信号の将来値を予測しなければなりません。s(k) が周期的で、フィルターが前の値を記憶するのに十分な長さである場合、入力信号に遅延をもつこの構造は予測を実行できます。この構造を使用して、確率的ノイズ信号から周期信号を除去する場合もあります。

最後に、ほとんどの対象システムに、4 つの適応フィルター構造のうち 1 つ以上の要素が含まれていることに注目してください。実際の構造を慎重に確認するために、適応フィルターの適応対象を特定しなければならない場合があります。

また、この図でわかりやすくするために、アナログ デジタル (A/D) コンポーネントとデジタル アナログ (D/A) コンポーネントは表示されません。適応フィルターは本質的にデジタルであると仮定されており、多くの問題によってアナログ データが生成されるため、アナログ領域に対する入力信号の変換がおそらく必要になります。

参照

[1] Hayes, Monson H., Statistical Digital Signal Processing and Modeling, John Wiley & Sons, 1996, 493–552.

[2] Haykin, Simon, Adaptive Filter Theory, Prentice-Hall, Inc., 1996