RLS 適応フィルター アルゴリズムと LMS 適応フィルター アルゴリズムの比較
最小平均二乗 (LMS) アルゴリズムは、最もシンプルで簡単に適用できる適応アルゴリズムの代表です。これに対して、再帰的最小二乗 (RLS) アルゴリズムは、優れた性能と忠実度で知られていますが、複雑さと計算コストが増加しています。性能の点で、RLS は適応フィルター処理のアプリケーションではカルマン フィルターに近づいており、信号プロセッサで必要な処理能力が少し削減されています。LMS アルゴリズムと比較すると、RLS のアプローチは、未知のシステムに関して収束が高速で誤差が小さくなりますが、より多くの計算が必要です。
フィルターで RLS と LMS のどちらを使用する場合でも、信号のパスおよび同定は同じです。違いは、適応の部分にあります。
LMS フィルターは、目的の信号と実際の信号の差が最小になるまで係数を適応させます (誤差信号の最小平均二乗)。これは、フィルターの重みが最適な値に収束した状態であり、未知のシステムの実際の係数に対して非常に近い値に収束しています。この種類のアルゴリズムは、現在の時間における誤差に基づいて適応します。RLS 適応フィルターは、入力信号に関連する重み付き線形最小二乗コスト関数を最小化するフィルター係数を再帰的に求めるアルゴリズムです。これらのフィルターは、最初から計算した誤差の合計に基づいて適応します。
LMS フィルターは、勾配ベースのアプローチを使用して適応を実行します。重みの初期値は、小さい値 (ほとんどの場合、ゼロに非常に近い値) であると仮定されます。各ステップで、平均二乗誤差の勾配に基づいてフィルターの重みが更新されます。勾配が正である場合、誤差が正の方向に大きくならないようにするため、フィルターの重みが小さくなります。勾配が負である場合、フィルターの重みが大きくなります。重みを変化させるステップ サイズは、適切に選択しなければなりません。ステップ サイズが非常に小さい場合、アルゴリズムの収束が非常に遅くなります。ステップ サイズが非常に大きい場合、アルゴリズムの収束が非常に速くなりますが、最小誤差値でシステムが安定しない可能性があります。システムを安定させるには、ステップ サイズ μ が次の範囲内になければなりません。
ここで、λmax は入力自己相関行列の最大の固有値です。
RLS フィルターは、フィルター係数 w(n) を適切に選択し、新しいデータが到着したときにフィルターを更新することにより、コスト関数 C を最小化します。コスト関数は、次の方程式によって与えられます。
ここで
wn — RLS 適応フィルターの係数。
e(i) — 現在の時間インデックスにおける目的の信号 d と目的の信号の推定値 dest の間の誤差。信号 dest は RLS フィルターの出力なので、暗黙的に現在のフィルター係数に依存します。
λ — 古いサンプルの重みを指数関数的に小さくする忘却係数。0 < λ ≤ 1 の範囲で指定します。λ = 1 の場合、過去の誤差はすべて誤差の合計で同じ重みをもつと見なされます。λ がゼロに近づくと、過去の誤差が合計に寄与する割合が小さくなります。たとえば、λ = 0.1 の場合、RLS アルゴリズムによって 0.150 = 1 x 10−50 という減衰係数が過去の 50 サンプルによる誤差値に乗算されるので、現在の誤差の合計に対する過去の誤差の影響が著しく小さくなります。
誤差の値がスプリアス入力データ点に由来する可能性がある場合でも、RLS アルゴリズムでは、古いデータに忘却係数を乗算することにより、古い誤差データの有意性が小さくなります。
次の表は、2 種類のアルゴリズムの主な違いをまとめています。
LMS アルゴリズム | RLS アルゴリズム |
---|---|
シンプルであり、容易に適用できる。 | 複雑さと計算コストが増加。 |
収束に時間がかかる。 | 収束が高速。 |
適応は、最適なフィルターの重みに収束するようにフィルターの重みを更新する、勾配ベースのアプローチに基づく。 | 適応は、入力信号に関連する重み付き線形最小二乗コスト関数を最小化するフィルター係数を求める、再帰的なアプローチに基づく。 |
未知のシステムに関する定常偏差が大きい。 | 未知のシステムに関する定常偏差が小さい。 |
過去のデータを考慮しない。 | 最初から現在のデータ点までの過去のデータを考慮する。 |
目的の信号と出力の間で現在の平均二乗誤差を最小化することが目的。 | 目的の信号と出力の間で重み付き二乗誤差の合計を最小化することが目的。 |
メモリを使用しない。古い誤差値は、考慮する誤差の合計に影響を与えない。 | 無限にメモリを使用する。すべての誤差データが誤差の合計で考慮される。忘却係数を使用することにより、古いデータが与える影響は新しいデータより小さくなる。 0 ≤ λ < 1 なので、この係数を適用することは古い誤差に重みを付けることと同じである。 |
DSP System Toolbox™ における LMS ベースの FIR 適応フィルター
| DSP System Toolbox における RLS ベースの FIR 適応フィルター
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制限はありますが、アプリケーションの適応部分を新しいアルゴリズムに置き換えることにより、任意の適応フィルター アルゴリズムを使用して適応フィルター問題を解くことができます。
参考
オブジェクト
関連するトピック
- LMS アルゴリズムの使用による FIR フィルターのシステム同定
- 正規化 LMS アルゴリズムの使用による FIR フィルターのシステム同定
- 符号-データ LMS アルゴリズムを使用したノイズ キャンセリング
- RLS アルゴリズムを使用した逆システム同定
参照
[1] Hayes, Monson H., Statistical Digital Signal Processing and Modeling. Hoboken, NJ: John Wiley & Sons, 1996, pp.493–552.
[2] Haykin, Simon, Adaptive Filter Theory. Upper Saddle River, NJ: Prentice-Hall, Inc., 1996.