根軌跡の設計
根軌跡の設計は一般的な制御システムの設計法であり、根軌跡図上で補償器のゲイン、極および零点を編集します。
制御システムの開ループ ゲイン k は値の連続幅に応じて変化することから、根軌跡図はフィードバック システムの閉ループ極の軌跡を示します。たとえば、次の追従システムでは
P(s) はプラント、H(s) はセンサー ダイナミクス、k は調整可能なスカラー ゲインです。閉ループの極は、次の方程式の根です。
根軌跡法は、k が変化するにつれ、複素平面上の閉ループ極の軌跡をプロットするものです。このプロットを使用して、求める一連の閉ループ極に対応するゲイン値を求めることができます。
根軌跡のグラフィカルな調整を使用した電気油圧サーボ機構の調整
この例では、根軌跡のグラフィカルな調整手法を使用して電気油圧サーボ機構の補償器を設計する方法を説明します。
プラント モデル
簡単な電気油圧サーボ機構モデルは次から構成されます。
プッシュプル増幅器 (電磁石の組み合わせ)
高圧作動油の管内のスライディング スプール
管内の作動油量を調整するバルブ
負荷を加えるためのピストン駆動ラム付きセンター チャンバー
左右対称になっている作動油の戻り管
スプールに加える力は、電磁気コイルに流れる電流に比例します。スプールが移動するにつれバルブが開き、高圧作動油がチャンバーに流れます。移動する作動油は、スプールの反対方向にピストンを移動します。このモデルの詳細については、線形化モデルの導出も含め、[1]を参照してください。
電磁石への入力電圧を使用すると、ラムの位置を制御できます。ラムの位置測定が使用可能な場合は、次に示すように、ラムの位置制御にフィードバックを使用できます。ここで、Gservo はサーボ機構を表します。
設計要件
この例では、次の閉ループ ステップ応答要件を満たすように補償器 C(s) を調整します。
2% の整定時間が、0.05 秒未満。
最大オーバーシュートが 5% 未満
制御システム デザイナーを開く
MATLAB® コマンド ラインでサーボ機構の線形化モデルを読み込み、根軌跡エディターの構成で制御システム デザイナーを開きます。
load ltiexamples Gservo controlSystemDesigner('rlocus',Gservo);
アプリが開き、既定の制御アーキテクチャ [Configuration 1] のプラント モデルとして Gservo
がインポートされます。
制御システム デザイナーで、[根軌跡エディター] プロットと入出力の [ステップ応答] が開きます。
開ループ周波数応答と閉ループ ステップ応答を同時に表示するには、プロットをクリックして目的の場所にドラッグします。
アプリにより、[ボード エディター] と [ステップ応答] のプロットが並べて表示されます。
閉ループ ステップ応答プロットで、立ち上がり時間は約 2 秒であり、設計要件を満たしていません。
根軌跡図を読みやすくするためズーム インします。[根軌跡エディター] で、プロット領域を右クリックし、[プロパティ] を選択します。
[プロパティ エディター] ダイアログ ボックスの [範囲] タブで、[実軸] と [虚軸] の範囲を -500
から 500
までに指定します。
[閉じる] をクリックします。
補償器のゲインの増加
応答速度を上げるには、補償器のゲインを増やします。[根軌跡エディター] で、プロット領域を右クリックし、[補償器の編集] を選択します。
[補償器エディター] ダイアログ ボックスで、20
のゲインを指定します。
[根軌跡エディター] プロットで、新しいゲイン値を反映して閉ループの極配置が移動します。また、[ステップ応答] プロットも更新されます。
閉ループ応答は整定時間の要件を満たさず、好ましくないリンギングを示します。
ゲインを増加させるとシステムは不足減衰となり、さらに増加させると不安定になります。このため、設計要件を満たすには、追加の補償器ダイナミクスを指定しなければなりません。補償器ダイナミクスの追加と編集の詳細については、補償器のダイナミクスの編集を参照してください。
補償器への極の追加
補償器に複素共役極ペアを追加するには、[根軌跡エディター] でプロット領域を右クリックし、[極または零点を追加] 、 [複素数の極] を選択します。片方の複素数の極を追加するプロット領域をクリックします。
アプリにより複素共役極ペアが赤色の X
として根軌跡プロットに追加され、ステップ応答プロットが更新されます。
[根軌跡エディター] で、–140 ± 260i 付近の位置に新しい極をドラッグします。一方の極をドラッグすると、他方の極は自動的に更新されます。
ヒント
極や零点をドラッグすると、その新しい値が右側のステータス バーに表示されます。
補償器への零点の追加
補償器に複素数の零点ペアを追加するには、[補償器エディター] ダイアログ ボックスで [ダイナミクス] テーブルを右クリックし、[極または零点を追加] 、 [複素数の零点] を選択します。
アプリにより、補償器に –1 ± i で複素数の零点のペアが追加されます。
[ダイナミクス] テーブルで、[複素数の零点] 行をクリックします。次に、[選択したダイナミクスの編集] セクションで、[実数部] に -170
、[虚数部] に 430
を指定します。
補償器と応答プロットは自動的に更新され、新しい零点の位置が反映されます。
[ステップ応答] プロットで、整定時間は約 0.1 秒であり、設計要件を満たしていません。
極と零点の位置の調整
補償器の設計過程には試行錯誤が伴います。設計基準を満たすまで、補償器のゲイン、極配置および零点の位置を調整します。
設計要件を満たす補償器の設計の 1 つとして以下が考えられます。
補償器のゲインは
10
–110 ± 140i に複素数の極
–70 ± 270i に複素数の零点
[補償器エディター] ダイアログ ボックスで、これらの値を使用して補償器を設定します。[ステップ応答] プロットで、整定時間は約 0.05 秒です。
正確な整定時間を確認するには、[ステップ応答] プロット領域を右クリックし、[特性] 、 [整定時間] を選択します。整定時間のインジケーターが応答プロットに表示されます。
整定時間を表示するには、整定時間のインジケーターにカーソルを移動します。
整定時間は約 0.043 秒であり、設計要件を満たしています。
参照
[1] Clark, R. N. Control System Dynamics, Cambridge University Press, 1996.