オープン RAN (O-RAN) とは
オープン無線アクセスネットワーク (O-RAN) は、さまざまなベンダーによって開発されたセルラーネットワーク機器間の相互運用性を実現する、無線アクセスネットワーク (RAN) の一種です。O-RAN Alliance は、従来型のモノリシックなハードウェア中心の RAN 設計を、オープンな仮想化された完全に相互運用可能なアーキテクチャに変換することを目的とした業界団体です。これを実現すれば、無線ネットワーク機器プロバイダーは、RAN 全体の構築ではなく、特定のソフトウェア コンポーネントを提供することに注力できます。このコンポーネント化により、無線サービスプロバイダーは複数のベンダーから調達したコンポーネントを組み合わせて運用できます。
複数のコンポーネントを持つ無線システムネットワークを設計するエンジニアは、MATLAB® と 5G Toolbox™ を使用して、O-RAN フロントホール適合性テストのためのコントロール (C) プレーンおよびユーザー (U) プレーンメッセージを生成および解析できます。
O-RAN アーキテクチャ
従来型の RAN は、単一のベンダーから提供されたベースバンド処理部 (BBU) や無線部 (RU) などのブロックを使用します。無線アクセスネットワークの設計の柔軟性を向上させるために、O-RAN Alliance は O-RAN プロトコルを開発しました。これにより、ベースバンド処理部と無線部を以下の 3 つの別個のモジュールと 5G プロトコルレイヤーに分割できるため、各モジュールを異なるベンダーが提供できるようになりました。
- O-RU (O-RAN 無線部)。RF および物理層の下位部分 (Low-PHY) を処理します。
- O-DU (O-RAN 分散局)。物理層の上位部分 (High-PHY) のタスク、メディアアクセス制御 (MAC)、および無線リンク制御 (RLC) のタスクを処理します。
- O-CU (O-RAN 集約基地局)。PDCP (Packet Data Convergence Protocol)、SDAP (Service Data Adaptation Protocol)、および RRC (Radio Resource Control) プロトコル エンティティを管理します。
O-RAN の場合、O-CU とコアネットワーク間のインターフェイスをバックホール、O-DU と O-CU 間のインターフェイスをミッドホール、O-DU と O-RU 間のインターフェイスをフロントホールと呼びます。MATLAB および 5G Toolbox を使用すると、フロントホールやその他の O-RAN インターフェイスのデータを生成するアルゴリズムを開発できます。また、MATLAB、Simulink®、および Wireless HDL Toolbox™ を使用することで、実装の複雑度を軽減してから、モデルベースデザイン (MBD、モデルベース開発) を利用して FPGA で O-DU および O-RU のシステムの統合、テスト、妥当性確認を実行できます。
5G 規格と O-RAN
O-RAN Alliance は 5G のコンテキストで 7.2x 分割を採用しました。7.2x 分割は、物理層の下位部分 (Low-PHY) と上位部分 (High-PHY) の間に存在します。O-DU と O-RU 間のオープン フロントホール インターフェイスは、7.2x 分割で定義されます。
5G O-RAN フロントホール信号処理
5G O-RAN では、ダウンリンク (DL) 処理とその操作のシーケンスを 7.2x 分割より前の操作と 7.2x 分割より後の操作に分割できます。7.2x 分割の一方では、以下のように、リソース エレメント マッピングまでの機能が O-DU で処理されます。
- ユーザービットをメディアアクセス制御 (MAC) 層から受け取ります。
- トランスポート チャネルとして構成されたこれらのビットには、データ符号化、スクランブリング、変調、レイヤーマッピング、プリコーディングおよびリソース エレメント マッピングなどの 5G NR 上位レイヤー信号処理操作が行われます。
- 結果として取得された IQ サンプルにより、5G NR リソースグリッドが生成されます。
7.2x 分割のもう一方では、それ以降の機能が O-RU で処理されます。
- プリコーディングおよびデジタル ビームフォーミング
- 逆高速フーリエ変換 (IFFT) とその後のサイクリック プレフィックス挿入で構成される、サイクリック プレフィックス直交周波数分割多重 (CP-OFDM) 信号生成
- デジタルからアナログへの変換とアナログ ビームフォーミング
- 指定された RF 周波数での指定されたアンテナポートにおける OTA (over-the-air) アナログ信号伝送
5G O-RAN での信号フロー
オープン フロントホールにある 2 つの 7.2x 分割間での情報送信を可能にするには、次の手順に従う必要があります。O-DU 側では、High-PHY の情報をまず圧縮し、eCPRI (enhanced Common Public Radio Interface) パケット内にカプセル化し、最後にイーサネットフレーム内に埋め込んでから送信します。O-RU 側では、受信したイーサネットフレームを取得し、eCPRI パケットを抽出し、パケット内のデータを解凍してから、Low-PHY の操作を実行します。圧縮が必要なのは、オープン フロントホールの容量が限られているためです。O-RAN Alliance では、伝送の帯域幅を低減するさまざまな圧縮と解凍の手法を提案しています。
MATLAB を使用した 5G O-RAN のモデル化とシミュレーション
MATLAB と 5G Toolbox を使用すると、O-RAN フロントホールテストのためのコントロール (C) プレーンおよびユーザー (U) プレーンメッセージを生成および解析できます。適合性テストのためにそれらのパケットを生成および復号化できます。また、O-RAN CU プレーンメッセージを含むパケットキャプチャ (PCAP) ファイルの内容を解析することもできます。High-PHY と Low-PHY に属しているすべての物理層機能をこのツールボックスで使用できます。
5G Toolbox によるオープン フロントホールのモデル化とシミュレーションにより、以下を行うことができます。
- High-PHY の操作を適用してから、7.2x 分割で IQ データ (リソースグリッドからのデータ) を抽出する。
- 利用可能な圧縮法のいずれかを使用してデータを圧縮する。サポートされている圧縮法はブロック浮動小数点 (BFP)、ブロックスケーリング、および μ 則です。これらの圧縮法は、TS O-RAN.WG4.CUS Annex A.1.1、A.2.1、および A.3.1 でそれぞれ規定されています。
- TS O-RAN.WG4.CUS の規定を使用して O-RAN フロントホールの CU プレーンメッセージを作成し、そのメッセージを PCAP ファイルに書き込む。このようなフロントホールのメッセージは、O-RAN 分散局 (O-DU) から O-RAN 無線部 (O-RU) に送信されます。
- O-RAN 無線部 (O-RU) で CU プレーンメッセージを復号化する。
- リソースグリッドを復元、データを解凍し、Low-PHY の操作を続ける。
製品使用例および使い方
ソフトウェア リファレンス
参考: Communications Toolbox™, 5G Toolbox, Wireless HDL Toolbox, 無線通信向け MATLAB および Simulink