第 2 章
衛星接続
衛星通信は、ユビキタス接続を実現する重要なテクノロジーとして注目を集めています。現在、地球周回軌道上には 2,000 基を超える通信衛星が存在しており、テレビやラジオの放送、ナビゲーション、テレメトリ、画像処理、リモートセンシングなどの用途に利用されています。通信衛星は通常、静止軌道 (GEO)、中軌道 (MEO)、低軌道 (LEO) という 3 種類の軌道分類のいずれかに分類されます。
LEO 衛星コンスタレーションを利用した無線接続は、新たなトレンドとなっています。軌道高度が地表から 160~1,000 km のこれらのシステムによって、地球上のどこにいても高速インターネット接続が可能になる予定です。
高速衛星通信リンクの設計には、複数の固有の課題があります。
シナリオモデリング
重要な要件は、衛星軌道の設計、解析、可視化です。GEO 衛星とは異なり、MEO 衛星と LEO 衛星は、地球上の定点から常に上空に見えているわけではないため、継続的な通信には、高速移動する衛星の大規模なコンスタレーションが必要になります。この手法では、次の衛星が地平線上に見えるようになると、ある衛星からこの次の衛星に地上局のリンクを引き継ぐ必要があります。多くの場合は、2 つの地上局間で接続できるよう、複数衛星間でマルチホップが必要です。
軌道の伝播および可視化
衛星の挙動を調査するには、正確な軌道伝播モデルが重要です。最も単純な軌道伝播モデルは、地球の球形重力場を想定した相対二体モデルに基づく二体ケプラー伝播法則です。より正確な軌道伝搬を行うには、SGP4 (Simplified General Perturbations) 伝播モデルをはじめとする複数の伝播モデルがあり、地球の扁平率による軌道の変動、太陽と月の重力の影響、単純な抗力モデルを使用した軌道減衰など、さまざまな効果をモデル化します。
リンクバジェット解析
長距離送信では、リンクが被るさまざまな損失を考慮しながら、送受信電力と必要なマージンを算出する必要があります。こうした計算には多くの場合、複雑な伝播損失モデルとチャネルモデルが必要になります。そのような伝搬損失モデルの一つに、地球-宇宙間通信システムの設計を目的とした国際電気通信連合 (ITU) の P.618 モデルがあります。
モビリティとドップラー解析
LEO 衛星は地球から遠く離れた距離にある高速移動物体であるため、送信信号に対する遅延とドップラー歪みの影響を調査することも重要です。
波形生成とリンクレベルのシミュレーション
衛星リンクが被る大きな遅延とドップラーシフトを補正できる波形、送信機、受信機の設計は不可欠です。衛星通信規格には、DVB-S、DVB-S2X、CCSDS、GPS などがあります。衛星リンクの最新規格は、3GPP 標準化団体が 5G NR 非地上ネットワーク (NTN) の仕様として開発したものです。こうしたシステムの性能を調査するには、波形、衛星固有のチャネルモデル (陸上移動チャネルモデルを含む)、リファレンス受信機の設計が簡単にできることが重要です。