第 3 章
AI による医用画像処理の促進
医用画像処理は、AI の臨床用途の中で最も有望なものと考えられます。がんの診断や骨折の検出でも、神経や胸部の状態の特定でも、AI は迅速な診断に役立ち、必要な治療法の選択肢を示して医師を支援します。
課題
コンピューター断層撮影 (CT) 画像処理から受ける放射線被ばく量は、1 回の X 線照射の約 350 倍であり、がんなどの複数のリスクを伴います。医療研究者は、超低線量 CT スキャンを使用することで、放射線被ばく量を抑えたいと考えています。しかしこの手法では、画像が低解像度になり、ノイズレベルも高くなるため、医師がスキャンを解釈するのが難しくなります。
ソリューション
京都にある立命館大学の研究者である中山良平氏は、MATLAB を使用して、超低線量 CT スキャンにより取得された高解像度画像を再構築するディープラーニング畳み込みニューラル ネットワーク (CNN) を作成しました。
- 同氏はまず、MATLAB を使用して CT 画像を小さな局所領域に分割し、低線量の領域と通常線量の領域をペアにしました。ペアの数が多くなると、検索に時間がかかりすぎるようになりました。そこで中山氏は、学習時間はかかるものの結果をはるかに高速で生成できる、畳み込みニューラル ネットワーク (CNN) の使用を検討しました。
- 中山氏は MATLAB を使用して、入力サイズやフィルターを変えたり、畳み込み層の数を変えたりしながら、約 128 種類の CNN を評価しました。
- 学習プロセスを高速化するために、Parallel Computing Toolbox™ を使用して複数の NVIDIA® GeForce シリーズの GPU で並列学習を行いました。
- また、学習の進行状況を監視するために、中山氏は Deep Learning Toolbox™ の監視可視化オプションを使用して精度と損失をプロットしました。
結果
CNN ベースのシステムは、患者の放射線被ばく量を最大で 95% も低減しながら、医師に対して同等レベルの診断情報を提供しました。
課題
通常、甲状腺に生じる小さなしこりや腫瘍は良性ですが、ごく一部は悪性である可能性があります。医師は超音波検査を使用して甲状腺結節を診断しますが、診断の正確性は放射線科医の経験に左右されます。同じ結節でも、複数の放射線科医が評価した場合、診断結果が異なることがあります。
ソリューション
韓国ソウルの延世大学校とセブランス病院の研究チームは、MATLAB を使用して、悪性の甲状腺結節と良性の甲状腺結節を識別する畳み込みニューラル ネットワーク (CNN) の設計と学習を行いました。研究者は、複数の病院からのデータセットを用いて CNN の妥当性を確認し、ユーザー インターフェイスとともにパッケージ化し、Web アプリケーションとして展開しました。これらはすべて MATLAB を使用して行われました。
- まず、Statistics and Machine Learning Toolbox を使用して特徴量エンジニアリングを実行し、サポート ベクター マシン (SVM) やランダムフォレスト分類などの複数の機械学習モデルの学習を行いました。
- 次に、チームは Deep Learning Toolbox を使用して CNN の検討を開始し、MATLAB で AlexNet、SqueezeNet、ResNet、Inception など 17 種類の事前学習済みのネットワークを使用して作業しました。
- 17 種類のネットワークでは、14,000 枚を超える画像で学習を行いました。特徴量ベースの組み合わせについては、各 CNN の最終的な全結合層の出力を使用して、SVM やランダムフォレスト分類器の学習を行いました。各 CNN で生成された分類確率の加重平均を計算し、推論を行いました。
- 学習済みの CNN は、SERA という Web アプリを作成して MATLAB Web App Server™ で展開することにより、Yonsei University が提携している病院で利用できるようになりました。
結果
診断テストにより、これらの CNN の性能はエキスパートの放射線科医の能力と同等であることが示されました。医学生が研修の一環として、また、診断について客観的なセカンドオピニオンを必要とする経験豊富な放射線科医がこのアプリケーションを使用しています。
課題
COVID-19 のパンデミックの初期には、コロナウイルス感染症の検出が困難でした。特に、全世界で患者数が急増していたことが事態を悪化させていました。
ソリューション
検出と診断のツールは、貴重なセカンドオピニオンを医師に提供し、スクリーニング プロセスを支援します。デイトン大学研究所 (UDRI) の研究者は、MATLAB と Deep Learning Toolbox を使用して、COVID-19 に罹患している胸部 X 線写真を検出するためのディープラーニング アルゴリズムを開発しました。また、COVID-19 の異なる症例ごとに学習させたニューラルネットワークによる判定結果に、 CAM (クラス活性化マッピング)を用いることで、各々のAIの判断根拠を医師に提供できるようにしました。
参考文献
[4] Bruno, Michael A., Eric A. Walker, and Hani H. Abujudeh."Understanding and Confronting Our Mistakes:The Epidemiology of Error in Radiology and Strategies for Error Reduction."Radiographics 35, no. 6 (2015): 1668–1676. https://doi.org/10.1148/rg.2015150023.
[5] Center for Devices and Radiological Health."Artificial Intelligence and Machine Learning (AI/ML) Enabled Medical Devices."U.S. Food and Drug Administration.FDA.Updated October 5, 2022. https://www.fda.gov/medical-devices/software-medical-device-samd/artificial-intelligence-and-machine-learning-aiml-enabled-medical-devices
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