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第 1 章

医療用途に AI を活用する理由


デジタル化は医療に変革をもたらしました。電子カルテや遠隔医療から、診断用のデジタル画像やその他のスマート医療機器に至るまで、デジタルツールはあらゆる場面で使用されています。結果として、膨大な量のデータが生成されています。エンジニア、科学者、研究者は、AI を使用して大量の医用データを活用し、健康状態を改善する診断、治療、サービスを作り出しています。

その一例として、Kaiser Permanente の SureNet システムがあります。このシステムは、AI を使用して電子カルテをスキャンし、隠れた症状がある患者を特定します。例えば、65 歳から 75 歳の男性に推奨されている腹部大動脈瘤の検診を受けていない患者を、386 万人のカルテから探し出しました。スクリーニングの結果、2,062 人が動脈瘤と診断され、そのうち 87 人が手術を必要としました。このシステムにより、スクリーニング検査を受けていない患者の割合が 51.7% から 20% に減少しました [1]

AI に対応した記録スキャンシステムにより、データベース内のスクリーニング検査を受けていない患者 (黄色) の割合が 51% から 20% に減少しました。

AI は知的な動作をシミュレーションしますが、SureNet の例のように、人間が解釈するには大規模かつ複雑すぎるデータをすばやく処理することもできます。AI 駆動システムをさまざまな方法で使用して、機械学習やディープラーニングなどの AI アルゴリズムを、自動化に対応した複雑な環境に統合できます。

ヘルスケア分野では、ペイシェント エクスペリエンスを向上させ、一般的に人々の健康を改善するために、AIが重要な役割を担っている領域が数多く存在します。

  • 大規模母集団における医療判断を改善する。
  • 画像や生理的信号から直接判断する場合の診断を改善する。
  • 新しい種類の治療や医療介入を可能にする。
  • スケーラブルなスクリーニング検査と治療法の選択肢を提供し、医療へのアクセスを改善する。
セクション

AI の可能性の実現

AI は医療機器の将来を担う可能性を秘めています。その可能性を現実のものにするために、医療分野のエンジニアや科学者には次のようなことが求められています。

  • データサイエンスのエキスパートでなくても AI ソリューションを実装できる。
  • 迅速に AI ベースモデルの設計、シミュレーション、妥当性確認を行う。
  • 良質なラベルデータを生成、収集、準備する。
  • 迅速に AI を既存のアルゴリズムおよびシステムに統合する。
  • 作成した AI を認証し、規制対象の市場でリリースできるようにする。

MATLAB® および Simulink® を使用することで、医療産業向け AI の活用を簡単に始めることができます。データの準備から、モデルの作成、モデルを実行するシステムの設計、ハードウェアやエンタープライズ システムへの展開に至るまで、AI の完全なワークフローを提供します。MATLAB と Simulink には、作成した AI ベースのソフトウェアを医療機器として認証するためのワークフローも用意されています。

フロー内で左から右に、データの準備、AI モデリング、システム設計、検証と妥当性確認、展開、認証の順に矢印で接続された 6 つのボックス。

AI 実装を成功させる MATLAB と Simulink のワークフロー。

後続の各章では、患者に対する診断と治療の改善や、人々の健康の促進のために、どのように MATLAB と Simulink を使用して AI を実装したかを示すケーススタディを紹介します。

参考文献

[1] Rochman, Sue."Researchers conduct largest-ever study of abdominal aortic aneurysms."Kaiser Permanente.Updated September 20, 2021. https://divisionofresearch.kaiserpermanente.org/blog/2021/09/20/abdominal-aortic-aneurysms/