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最大ループ ゲイン目標

目的

制御システム調整器を使用しているときに、高周波数でのフィードバック ループのゲインを抑制します。

説明

最大ループ ゲイン目標は特定の周波数帯域に最大ループ ゲインを適用します。この調整目標は、たとえば、モデル化されていないダイナミクスへのシステムのロバスト性を高める場合などに有用です。

最大ループ ゲイン目標は、制御システムにおける特定の位置で開ループ周波数応答 (L) に最大ゲインを課します。最大開ループ ゲインを周波数の関数 (最大の "ゲイン プロファイル") として指定します。MIMO フィードバック ループの場合、指定したゲイン プロファイルは L の最大特異値の上限として解釈されます。

制御システムを調整すると、最大ゲイン プロファイルは相補感度関数 T = L/(I + L) の最大ゲインの制約に変換されます。

次の図は、一般的な指定された最大ゲイン プロファイル (破線) とその結果調整されたループ ゲイン L (青い線) を示します。影付きの領域はこの要件によって禁止されたゲイン プロファイル値を表します。この図は、L が 1 よりはるかに小さい場合、最大ゲインを T に課すことが最大開ループ ゲインの有効な代用であることを示します。

最大ループ ゲイン目標は特定の制御ループの開ループ ゲインに対する制約です。したがって、ループ ゲインは指定された位置でループが開いている状態で計算されます。制御システムの別の点にループ開始点をもつゲインを計算する場合、ダイアログ ボックスの [開ループ応答選択] セクションで [次の開ループの応答の計算] オプションを使用します。

最大ループ ゲイン目標と最小ループ ゲイン目標は特定の周波数帯域における高ゲインの制約または低ゲインの制約のみを指定します。これらの要件を使用すると、ソフトウェアは交差の近傍で最適なループ整形を決定します。交差の近傍のループ整形が単純であるか、よく知られたものである場合 (積分動作など)、ループ整形目標を使用してそのターゲット ループ整形を指定できます。

作成

制御システム調整器[調整] タブで、[新規目標][開ループ応答の最大ゲイン] を選択して最大ゲイン目標を作成します。

コマンド ラインにおける同等の操作

コマンド ラインで制御システムを調整する場合、TuningGoal.MaxLoopGain を使用して最大ループ ゲイン目標を指定します。

開ループ応答選択

ダイアログ ボックスのこのセクションを使用して、開ループ ゲインを計算する信号の位置を指定します。この調整目標を評価するために、追加のループ開始点の位置を指定することもできます。

  • 次の位置の開ループ応答の整形

    開ループ ゲインを計算および制約するモデル内の信号の位置を 1 つ以上選択します。SISO 応答を制約するには、単一値の位置を選択します。たとえば、'y' という名前の位置に開ループ ゲインを制約する場合、 [信号をリストに追加] をクリックして、'y' を選択します。MIMO 応答を制約するには、複数の信号またはベクトル値の信号を選択します。

  • 次の開ループの応答の計算

    この調整目標を評価するために、フィードバック ループを開くモデル内の信号の位置を 1 つ以上選択します。調整目標は、特定した位置でフィードバック ループを開くことにより作成される開ループの構成に対して評価されます。たとえば、'x' という名前の位置が開始点の調整目標を評価するには、 [信号をリストに追加] をクリックして、'x' を選択します。

ヒント

Simulink® モデル内で選択された任意の信号を強調表示するには、 をクリックします。入力リストまたは出力リストから信号を削除するには、 をクリックします。複数の信号を選択した場合、 および を使用してそれらの信号を並べ替えることができます。調整目標のために信号の位置を指定する方法の詳細については、対話型調整の目標の指定を参照してください。

目的のループ ゲイン

ダイアログ ボックスのこのセクションを使用して、ターゲットの最大ループ ゲインを指定します。

  • 純積分器 K/s

    ターゲットの最大ループ ゲインに純粋な積分器の整形を指定する場合はオンにします。ソフトウェアは、ターゲットの最大ゲインと周波数に対して指定した値に基づき、積分の定数 K を選択します。たとえば、交差周波数 10 rad/s をもつ積分ゲイン プロファイルを指定するには、[K を選択して次を下回るゲインを維持] テキスト ボックスに「1」を入力します。次に、[周波数] テキスト ボックスに「10」を入力します。ソフトウェアは最大ループ ゲインが 10 rad/s で 1 になる積分の定数を選択します。

  • その他のゲイン プロファイル

    最大ゲイン プロファイルを周波数の関数として指定する場合はオンにします。振幅が目標のゲイン プロファイルを表す SISO 数値 LTI モデルを入力します。たとえば、滑らかな伝達関数 (tfzpk または ss モデル) を指定できます。あるいは、frd モデルを使用して区分的なターゲットのループ ゲインをスケッチすることもできます。これを行う場合、ソフトウェアは目的の最大ループ ゲインを近似する滑らかな伝達関数にプロファイルを自動的にマッピングします。たとえば、高周波数の –20 dB/dec でロールオフする 0.1 rad/s 未満の 100 (40 dB) の最大ゲインを指定するには、「frd([100 100 10],[0 1e-1 1])」と入力します。

    離散時間で調整を行う場合、調整に使用するのと同じサンプリング時間をもつ離散時間モデルとして最大ゲイン プロファイルを指定できます。ゲイン プロファイルを連続時間で指定すると、調整ソフトウェアはこれを離散化します。プロファイルを離散時間で指定すると、ナイキスト周波数付近でプロファイルをより詳細に制御できます。

オプション

ダイアログ ボックスのこのセクションを使用して、最大ループ ゲイン目標の追加の特性を指定します。

  • 周波数範囲の目標を適用

    調整目標の適用を特定の周波数帯域に制限します。周波数帯域をモデルの周波数単位で表した形式 [min,max] の行ベクトルとして指定します。たとえば、1 ~ 100 rad/s のみに適用される調整目標を作成する場合は、[1,100] と入力します。既定では、調整目標は連続時間の場合はすべての周波数、離散時間の場合はナイキスト周波数以下の周波数に適用されます。

  • 閉ループ システムの安定化

    既定では、調整目標は、ゲインの制約に加えて指定した入力から出力への閉ループ伝達関数に安定性要件を課します。安定性が不要または実現できない場合は、[なし] を選択して安定性要件を削除します。たとえば、不安定な開ループ伝達関数にゲインの制約が適用される場合、[なし] を選択します。

  • ループの相互作用のイコライズ

    マルチループまたは MIMO ループ ゲインの制約の場合、フィードバック チャネルは自動的に再スケーリングされ、開ループ伝達関数の非対角項 (ループ相互作用の項) が均等化されます。このようなスケーリングを無効にし、スケーリングされていない開ループ応答を整形するには、[オフ] を選択します。

  • 目標を適用

    たとえば、Simulink モデルを異なる操作点またはブロックパラメーター値で線形化することによって得られるモデルの配列などの複数のモデルを同時に調整している場合、このオプションを使用します。既定では、アクティブな調整目標がすべてのモデルに適用されます。調整要件を配列内の一部のモデルに適用するには、[モデルのみ] を選択します。次に目標を適用するモデルの配列インデックスを入力します。たとえば、モデル配列の中の 2 番目、3 番目、4 番目のモデルに調整目標を適用する必要があると仮定します。要件の適用を制限するには、[モデルのみ] テキスト ボックスに 2:4 と入力します。

    複数モデルの調整の詳細については、Robust Tuning Approaches (Robust Control Toolbox)を参照してください。

アルゴリズム

調整目標の評価

制御システムを調整するときに、各調整目標は正規化されたスカラー値 f(x) に変換されます。ここで x は、制御システムの自由 (調整可能な) パラメーターのベクトルです。その後、ソフトウェアはパラメーター値を調整して f(x) を最小化するか、調整目標が厳密な制約値の場合、f(x) が 1 より小さくなるようにします。

[最大ループ ゲイン目標] の場合、f(x) は次のようになります。

f(x)=WT(D1TD).

ここで、D は対角スケーリング (MIMO ループ用) です。T は指定した位置での相補感度関数です。WT は、指定する最大ループ ゲイン プロファイルから導出された周波数重み付け関数です。この関数のゲインは、–60 dB から 20 dB の範囲の値に対して指定したループ ゲインの逆にほぼ一致します。数値的な理由から、指定されたゲイン プロファイルの勾配がこの範囲の外で変化する場合を除き、重み付け関数はこの範囲の外では平坦になります。この調整は、"正則化" と呼ばれます。WT の極は s = 0 または s = Inf の近くで調整の数値的条件が劣化する可能性があるため、周波数が極度に低い、あるいは極度に高いダイナミクスでゲイン プロファイルを指定することは推奨されません。正則化とその効果の詳細については、調整目標の可視化を参照してください。

T は閉ループ伝達関数ですが、f(x) < 1 に駆動することは L のゲインが 1 未満の周波数帯域で開ループ伝達関数 L に上限を適用するのと同じです。その理由を理解するには、T = L/(I + L) であることに注意してください。SISO ループの場合、|L| << 1 のとき、|T| ≈ |L| となります。したがって、開ループの最大ゲイン要件を適用すると、|L| < 1/|WT||WTT| < 1 を適用するのとほぼ同じになります。MIMO ループの場合、同様の理由が ||T|| ≈ σmax(L), where σmax is the largest singular value. で当てはまります。

暗黙的な制約

この調整目標は、指定された位置で測定され、指定されたループ開始点でループが開いた状態で評価される、閉ループ感度関数に暗黙的な安定性の制約を課します。この暗黙的な制約に影響を受けるダイナミクスは、この調整目標の "安定ダイナミクス" です。[最小 decay 率][最大固有振動数] の調整オプションは、これらの暗黙的に制約されるダイナミクスの下限と上限を制御します。最適化が既定の制限を満たしていない場合、または既定の制限が他の要件と競合している場合、[調整] タブで [調整オプション] を使用して既定の設定を変更します。

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