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RUL 推定器モデルを使用した RUL の推定

Predictive Maintenance Toolbox™ には、測定された各種のシステム データから RUL を計算するために設計された専用のモデルが含まれています。これらのモデルは次のような履歴データおよび情報がある場合に便利です。

  • 診断対象のものと類似したマシンを故障に至るまで運用した履歴

  • 故障を示す何らかの状態インジケーターの既知のしきい値

  • 類似マシンが故障に至るまでに費やした時間または使用量に関するデータ (寿命)

RUL 推定のモデルは、履歴データを使用してモデルに学習させ、これを残存耐用期間の予測を行うために使用する方法を提供します。ここで "寿命" という用語は、システム寿命の測定に使用する数量により定義される、マシンの寿命を指しています。同様に "時間発展" は、使用、移動距離、サイクル数、または寿命を表す他の数量に伴う値の変化を意味することがあります。

RUL 推定モデルを使用するための一般的なワークフローは次のとおりです。

  1. 手元のデータおよびシステム情報に最も適したタイプの RUL 推定モデルを選択します。対応するモデル オブジェクトを作成して構成します。

  2. 手元の履歴データを使用して推定モデルに学習させます。これを行うには、fit コマンドを使用します。

  3. 履歴データと同じタイプのテスト データを使用して、テスト コンポーネントの RUL を推定します。これを行うには、predictRUL コマンドを使用します。予測を正確に保つため、テスト データを再帰的に使用して、劣化モデルなどいくつかのモデル タイプを更新することもできます。これを行うには、update コマンドを使用します。

これらの手順を示す基本的な例は、データの着信に応じた RUL 予測の更新を参照してください。

RUL 推定器の選択

RUL 推定モデルには 3 つのファミリがあります。次の図に示されているように、利用可能なデータとシステム情報に基づいて、使用するファミリとモデルを選択します。

類似性モデル

類似性モデルは、履歴データベースからの類似マシンの既知の動作に基づいてテスト マシンの RUL の予測を行います。このようなモデルでは、テスト データまたは状態インジケーター値のトレンドを、他の類似するシステムから抽出された同じ情報と比較します。

類似性モデルは次のような場合に役立ちます。

  • 類似するシステム ("コンポーネント") からの、故障に至るまで実行されたデータがある。故障に至るまで実行されたデータとは、健全な動作中に開始し、マシンが故障状態またはメンテナンスに近い状態になると終了するデータです。

  • 故障に至るまで実行されたデータは、類似した劣化動作を示します。つまり、システムが劣化するにつれて何らかの特徴的な方式でデータが変化します。

したがって、データ アンサンブルから "劣化プロファイル" を取得できる場合は類似性モデルを使用できます。劣化プロファイルは、アンサンブルの各マシン (各コンポーネント) について、マシンが健全な状態から故障状態に遷移する際の 1 つ以上の状態インジケーターの変化を表します。

Predictive Maintenance Toolbox には 3 つのタイプの類似性モデルが含まれています。3 つのタイプすべてで、テスト データセットの劣化履歴と、アンサンブルにあるデータセットの劣化履歴間の類似性を判定することにより RUL を推定します。類似性モデルの場合、predictRUL はテスト コンポーネントの RUL を、大半の類似コンポーネントの寿命の中央値からテスト コンポーネントの現在の寿命値を引いたものとして推定します。3 つのモデルでは類似性の概念を定義し定量化する方法が異なっています。

  • ハッシュ特徴の類似性モデル (hashSimilarityModel) — このモデルはアンサンブルの各メンバーからの過去の劣化データを、平均、全出力、最大値または最小値、その他の数量など、固定サイズの凝縮された情報に変換します。

    hashSimilarityModel オブジェクトに対し fit を呼び出すと、ソフトウェアはこれらの "ハッシュ特徴" を計算して類似性モデルに格納します。テスト コンポーネントからのデータを指定して predictRUL を呼び出すと、ソフトウェアはハッシュ特徴を計算し、結果を履歴ハッシュ特徴の table の値と比較します。

    ハッシュ特徴の類似性モデルは、予測に必要なデータ ストレージの量が削減されるので、大量の劣化データがある場合に便利です。ただし、その正確性は、モデルが使用するハッシュ関数の正確性に依存します。データ内の良好な状態インジケーターを特定したら、hashSimilarityModel オブジェクトの Method プロパティを使って、これらの特徴を使用するハッシュ関数を指定できます。

  • ペアワイズ類似性モデル (pairwiseSimilarityModel) — ペアワイズ類似性推定は、その過去の劣化パスがテスト コンポーネントのものと最もよく相関しているコンポーネントを見つけることで RUL を判定します。言い換えれば、さまざまな時系列間の距離を計算しますが、ここで距離とは、相関、動的時間ワーピング (dtw)、あるいはユーザーが指定するカスタム メトリクスとして定義されます。ペアワイズ類似性推定では、経時的に変化する劣化プロファイルを考慮することにより、ハッシュ類似性モデルよりも優れた結果が得られます。

  • 残差類似性モデル (residualSimilarityModel) — 残差ベースの推定は、使用している時間内で ARMA モデルや、線形または指数のモデルなどに事前データを当てはめます。その後、アンサンブル モデルから予測されたデータと、テスト コンポーネントからのデータの間の残差を計算します。残差類似性モデルは、残差の大きさが距離のメトリクスであるような、ペアワイズ類似性モデルのバリエーションと見なすことができます。残差類似性の方法は、システムに関する知識に劣化モデルの形式が含まれている場合に役立ちます。

RUL の推定に類似性モデルを使用する例は、類似性ベースの残存耐用期間推定を参照してください。

劣化モデル

劣化のモデルは、過去の動作を外挿して将来の状態を予測します。このタイプの RUL 計算は、アンサンブルに劣化プロファイルが与えられている場合、線形モデルまたは指数モデルを状態インジケーターの劣化プロファイルに当てはめます。その後、テスト コンポーネントの劣化プロファイルを使用して、インジケーターが何らかの指定されたしきい値に達するまでの残り時間を統計的に計算します。これらのモデルは、故障を示す状態インジケーターの値が既知である場合に最も役立ちます。利用できる 2 つの劣化モデル タイプは次のとおりです。

  • 線形劣化モデル (linearDegradationModel) — 劣化動作をオフセット項をもつ線形確率プロセスとして記述します。線形劣化モデルは、システムに累積的な劣化がない場合に役立ちます。

  • 指数劣化モデル (exponentialDegradationModel) — 劣化動作をオフセット項をもつ指数確率プロセスとして記述します。指数劣化モデルは、テスト コンポーネントが累積的に劣化する場合に役立ちます。

劣化モデル オブジェクトを作成した後、同じ仕様で製造された複数のマシンなど、類似コンポーネントのアンサンブルの健全性に関する履歴データを使ってモデルを初期化します。これを行うには、fit を使用します。その後、類似コンポーネントの残存耐用期間を predictRUL を使用して予測できます。

劣化モデルは、状態インジケーターが単一の場合にのみ機能します。ただし、主成分解析や他の融合手法を使用して、複数の状態インジケーターからの情報を組み込む融合状態インジケーターを生成することは可能です。単一のインジケーターと融合インジケーターのどちらを使用する場合でも、モデル化と外挿が信頼できるものとなるよう、増加または減少のトレンドを明確に示すインジケーターを探してください。

この方法により劣化モデルを使って RUL を推定する例は、風力タービン高速ベアリングの経過予測を参照してください。

生存モデル

生存時間分析は、イベントまでの時間データをモデル化するために使用される統計的手法です。これは故障に至るまで実行された完全な履歴がなく、代わりに以下がある場合に役立ちます。

  • 類似コンポーネントの寿命に関するデータのみ。たとえば、保守が必要となる前にアンサンブル内の各エンジンが走行したマイル数や、故障前にアンサンブル内の各マシンが作動した時間数がわかる場合などです。ここでは reliabilitySurvivalModel を使用します。このモデルは類似コンポーネントのフリートの故障時間に関する履歴情報を与えられると、故障時間の確率分布を推定します。分布はテスト コンポーネントの RUL を推定するために使用されます。

  • 寿命、および RUL と相関関係をもつ他の変数データ ("共変量") の両方。共変量は "環境変数" または "説明変数" とも呼ばれ、コンポーネントの提供元、コンポーネントが使用された領域、または製造バッチなどの情報で構成されます。ここでは covariateSurvivalModel を使用します。このモデルは比例ハザード生存モデルであり、寿命と共変量を使用してテスト コンポーネントの生存確率を計算します。

参考

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