In Silico Medicine とは
In Silico Medicine とは、医療機器や治療法の開発に計算モデルやシミュレーションを活用する技術や手法を指します。このシミュレーション モデルは、人体の解剖学的構造や生理学的機能、さらには医療機器に対する反応を再現することを目的としており、新たな医療機器や治療法を設計して、テストや検証を行うことができます。全体として、In Silico Medicine は、医療機器メーカーが品質や安全性を損なうことなく、新しい医療機器や治療法の開発サイクルを短縮できるよう支援します。
主なポイント
- In Silico Medicine で、計算モデルとシミュレーションを使用し、人体の解剖学的構造や生理学的機能を再現
- 新たな医療機器や治療法の設計、テスト、検証にバーチャル人体モデルを活用
- In Silico Medicine を採用するメーカーが、そのメリットを活かして製品の品質と安全性を確保しながら研究開発サイクルを加速
In Silico Medicine モデルの種類
In Silico Medicine モデルは、大きく分けて知識駆動型、データ駆動型、サロゲートの 3 つに分類できます。
- 知識駆動型モデルは、物理学や生物学などの確立された科学的原理に基づいて構築されており、偏微分方程式などの手法が含まれます。このモデルは解釈性が高い一方で、複雑になりやすく、未知の挙動を捉えきれないことがあります。
- データ駆動型モデルは、機械学習や統計的手法を用いて大規模データセット内のパターンを識別します。予測やパターン認識に優れた強力な手法ですが、膨大な量のデータを必要とし、透明性に欠けることがあります。
- サロゲートモデルは、複雑なシミュレーションを簡略化して近似することで、最適化や感度解析などの計算を高速で処理しますが、精度を多少犠牲にしなければならないことがあり、通常はパラメーターの限られた範囲内でのみ有効です。
In Silico Medicine における計算モデリングとシミュレーションのワークフロー。
MATLAB と Simulink を使用した In Silico Medicine アプリケーションの開発
MATLAB® と Simulink® を使用して、新しい医療機器や治療法の研究開発に In Silico Medicine を活用することができます。医療機器分野では、Simulink と Simscape™ を用いることで、肺、腎臓、心臓などの臓器に加えて、心血管系や心肺系のバーチャルモデルを作成できます。これらのモデルを使用すると、人工呼吸器、透析装置、ペースメーカー、インスリンポンプ、輸液ポンプ、気腹装置、麻酔器といった医療機器の生理学的閉ループ制御を設計して、テストや検証を行うことができます。同様に、MATLAB では、知識駆動型モデルのほかに、実際の患者データに基づいたバーチャル人体や臓器のデータ駆動型 AI モデルや統計モデルの作成が可能です。それぞれの手法の適性については、利用する具体的な状況や目的によって異なります。
Simulink でシミュレーションされた生理学的閉ループ制御システム (患者モデルを含む医療用人工呼吸器) の In Silico Medicine モデル。(モデルを参照)
In Silico Medicine の課題と限界
In Silico Medicine は、医療機器の設計、テスト、検証に強力なツールを提供しますが、いくつかの課題と限界を抱えています。主な課題の 1 つは、人体の生理機能の複雑さや個人差を正確にモデル化することが難しい点です。そのため、過度に単純化されたり、一般性を欠いた結果につながる可能性があります。また、代表性を欠くデータでモデルの学習を行った場合、多様な患者集団に対して十分な性能を発揮できないことがあります。このことから、In Silico Medicine モデルには、実験データや臨床データに照らした厳密な検証が求められます。しかし、実測データの不足が原因で、検証が不十分であったり、一貫性を欠くことも少なくありません。さらに、膨大な計算リソースの必要性や既存のワークフローとの統合が技術的障壁となることもあります。In Silico 手法に対する規制の枠組みは依然として確立されていませんが、FDA による信頼性評価のガイドライン策定など、近年には進展も見られます。
In Silico Medicine の今後の展望
医療機器分野における今後の In Silico Medicine では、急速な技術革新と医療現場への統合の拡大が期待されています。新たな動向として、個別化医療や In Silico 臨床試験の普及も進んできています。こうした分野では、バーチャル患者モデルを活用することで、従来の試験への依存を軽減することを目指しています。AI、機械学習、マルチスケール モデリングといった技術の進歩がシミュレーションにおける精度の向上と適用範囲の拡大をもたらす中、クラウドベースのプラットフォームやデジタルツインの発展によって、シミュレーション ツールがさらに利用しやすくなり、動的な変化にも対応できるようになってきています。規制当局も新たなテクノロジーに対応できるよう体制を整えており、今後のさらなる普及に向けた道が拓かれつつあります。こうした進展が、医療機器分野における技術革新の加速、臨床試験コストの削減、安全性と有効性の向上、そして最終的には、より効率的で個別化された医療の実現につながると期待されています。既に数々の大手医療機器メーカーが、MATLAB や Simulink を活用し、次世代の医療機器や治療法の開発に In Silico 手法を取り入れて成果を上げています。
ユーザー事例
シミュレーション モデル
FDA 関連リソース
製品使用例および使い方
参考: 医療機器