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Simscape Electrical を使用した電力潮流解析の実行
Simscape™ Electrical™ では、Simscape の三相の電気ドメインを使用してモデル化された AC、DC、または AC/DC 混合送電システムの電力潮流 (潮流) 解析を実行できます。電力潮流解析を使用すると、定常状態で動作している電気システムの電圧の大きさ、電圧の位相角、有効電力および無効電力を特定できます。
特定の定常状態の操作点に関して、電力潮流データによって次のことがわかります。
各母線における電圧の大きさおよび電圧の位相角
グリッドを供給する発電機ごとの有効発電量と無効発電量
グリッドに対して要求を行う各負荷に流れる有効電力と無効電力
このデータを使用して、理想的な運用条件を特定したり、仮定された状況に対するシステムの応答を推測できます。たとえば、各伝送線路における有効電力と無効電力がわかっていれば、1 つ以上の伝送線路がオフラインになったときに発生する追加の負荷を残りの線路で処理可能かどうかを判断できます。
このデータを使用すると、伝送線路やシステムの損失を計算することや、回路網の全体的な電圧特性を調べることも可能です。これらの属性を調べると、低い電圧レベルに備えた無効電力補償がシステムに必要かどうかの判断に役立つことがあります。
Simscape Electrical の電力潮流解析の回路網要件
Simscape Electrical を使用して三相回路網の定常状態での電力潮流の解を特定するには、モデルは次の要件を満たしていなければなりません。
Simscape の周波数と時間シミュレーション モードと互換性があり、このモード用に構成されている。詳細については、周波数と時間シミュレーション モードと Solver Configuration を参照してください。
負荷分散されている。電力潮流解析の近似のレベルは、システムの負荷分散の状況と、存在する高調波のレベルによって異なります。
Simscape データ ログが有効。モデルが複雑な場合やシミュレーションの実行時間が長い場合は、ローカル ソルバーの設定を使用して、選択したブロックのデータ ログを有効にすることにより、シミュレーション パフォーマンスを改善できます。電力潮流解析の場合、データ ログは Busbar ブロックに対してのみ必要です。詳細については、モデル全体のデータ ログ作成の有効化と選択したブロックのみのデータのログ作成を参照してください。
電力潮流解析に必須のブロック
母線コネクタ
送電システムで、母線コネクタ ("母線") とは、発電機、負荷、変圧器などの電力コンポーネントを接続する垂直線です。母線を表すために、[Simscape] 、 [Electrical] 、 [Connectors & References] ライブラリで Busbar ブロックと Busbar (DC) ブロックが提供されています。
三相電圧源
電力潮流解析を実行するためには、モデルに適した三相電圧源を選択する必要があります。どの電圧源を選択するかは、シミュレーションの精度とパフォーマンスのどちらを優先するかによって異なります。シミュレーションの精度とパフォーマンスのバランスは、解析モデル内で電圧源を表すために使用するブロックに一部依存します。シミュレーションの精度は、モデルの忠実度、つまり、シミュレーション結果が数学的、経験的モデルとどの程度一致しているかの尺度です。モデルの忠実度が高くなれば、シミュレーションの計算コストも高くなります。計算コストが高くなれば、シミュレーション速度は低下します。逆に、モデルの忠実度が低くなれば、シミュレーション速度は向上します。
マシン ブロックを使用してモデルの忠実度を優先させる. シミュレーション速度よりモデルの忠実度を優先するには、Induction Machine ブロックまたは Synchronous Machine ブロックを使用して電圧源を表します。誘導機をモデル化するために、[Simscape] 、 [Electrical] 、 [Electromechanical] 、 [Asynchronous Machines] ライブラリで、Induction Machine Squirrel Cage ブロックと Induction Machine Wound Rotor ブロックの両方が提供されています。同期機をモデル化するために、[Simscape] 、 [Electrical] 、 [Electromechanical] 、 [Synchronous Machines] ライブラリで、Synchronous Machine Model 2.1、Synchronous Machine Round Rotor、および Synchronous Machine Salient Pole の各ブロックが提供されています。
Load Flow Source ブロックを使用してシミュレーション速度を優先させる. シミュレーションが高速で忠実度が低いモデルでは、[Simscape] 、 [Electrical] 、 [Sources] ライブラリの Load Flow Source ブロックを使用して解析モデル内の電圧源を表します。Load Flow Source ブロックは、理想化された、または電流依存の電圧源を供給します。電圧は、直列インピーダンスを含めるか、スイング母線、PV 母線、または PQ 母線のソースの役割を果たすことができます。
電力潮流解析の実行
周波数と時間シミュレーション モードと互換性のある三相 Simscape Electrical 送電システム モデルの電力潮流データを調べるには、次を行います。
Simscape データ ログを有効にします。
電圧源をパラメーター化します。
電力潮流解析の開始時は、伝送線路損失の方程式の変数は不明です。不明な変数が解かれている間に、母線は有効電力と無効電力を供給または吸収することによって損失のバランスを調整します。各母線には次の 4 つの変数があります。
P — 有効電力
Q — 無効電力
V — 電圧
θ — 位相角
変数のうち 2 つは既知で、2 つは不明です。どの変数が既知で、どれが不明かは、母線に接続された、アクティブに制御されている三相電源および三相負荷に依存します。電圧源ブロックの構成により、電力潮流解析で使用される母線タイプが決まります。モデルには複数の母線タイプを含めることができます。母線タイプのオプションは次のとおりです。
スイング母線 — スイング母線、スラック母線、または基準母線が、システム内の有効電力と無効電力のバランスを調整します。スラック母線は、システム内にある他の母線の角度の基準としての役割を果たします。スイング母線の位相角は 0 度であり、電圧の大きさが指定されます。標準値は
1
pu
です。電力潮流解析の開始時、P と Q がこの母線にとって不明な変数です。PV 母線 — PV (発電機) 母線は、一定の有効電力および電圧を供給することにより、システム内の有効電力と無効電力のバランスを調整します。電力潮流解析の開始時、θ と Q がこの母線にとって不明な変数です。
PQ 母線 — PQ (負荷) 母線は、消費される有効電力と無効電力の量を特定します。電力潮流解析の開始時、V と θ がこの母線にとって不明な変数です。
以下のブロックがモデルに複数含まれている場合は、次のようになります。
Load Flow Source ブロック — 各ブロックの [ソース タイプ] パラメーターに、次のいずれかの母線タイプのオプションを設定します。
スイング母線
PV 母線
PQ 母線
関連するパラメーターを指定します。これらは、選択する母線タイプによって異なります。
PV 母線または PQ 母線の最小値が最適でないことによるシミュレーションの問題を回避するには、[想定範囲] 設定で、[内部ソース位相の検索範囲] パラメーターに最小値と最大値を指定します。
Induction Machine ブロック — 各ブロックについて、[変数] 設定を使用して、ブロックの優先順位と開始値を指定します。[メイン] 設定で、[初期化オプション] パラメーターを
[電力潮流変数のターゲットを設定]
に設定します。[変数] 設定で、以下に関して、[優先順位] を選択し、[開始値] を指定します。滑り
生成された有効電力
消費された機械動力
[変数] 設定を使用した初期ターゲット値の設定の詳細については、ブロック変数の優先順位と初期ターゲットの設定を参照してください。
初期条件を完全に指定するには、初期化の制約として優先順位の高いターゲット値を含めなければなりません。たとえば、誘導機が Inertia ブロックに接続されている場合、初期条件を完全に指定するには、Inertia ブロックの [変数] 設定で、[回転速度] の [優先順位] を
[高]
に設定します。あるいは、Inertia ブロックの [回転速度] の [優先順位] を[なし]
に設定し、代わりに Induction Machine ブロックの [滑り]、[生成された有効電力]、または [消費された機械動力] の [優先順位] を[高]
に指定することもできます。Synchronous Machine ブロック — 各ブロックについて、[初期条件] 設定を使用して母線タイプと開始値を指定します。使用可能なパラメーター ターゲットは、スイング母線、PV 母線、PQ 母線のうちどれを対象としてブロックが構成されているかによって異なります。[初期条件] 設定で、次を行います。
[初期化オプション] パラメーターを
[電力潮流変数のターゲットを設定]
に設定します。[ソース タイプ] パラメーターに任意の母線を選択します。
関連する母線パラメーターの値を指定します。
最小値が最適でないことによるシミュレーションの問題を回避するには、[想定範囲] 設定で、[内部ソース位相の検索範囲] パラメーターに最小値と最大値を指定します。
それぞれの Busbar ブロックと Busbar (DC) ブロックを構成します。
[結合数] を
[2]
、[3]
または[4]
に設定します。Busbar ブロックでは、接続されたブロックの指定された値と一致するように電圧および周波数を指定します。Busbar (DC) ブロックでは、指定する必要があるのは定格 DC 電圧だけです。
Scope を使用して電力潮流データを表示するには、Busbar ブロック上にオプションの測定端子を表示します。
端子 [Vt] および [ph] を表示するには、[測定端子] を
[はい]
に設定します。端子 [P] および [Q] を表示するには、[測定端子] を
[はい]
に設定します。
Busbar ブロックと Scope ブロックを接続します。
Solver Configuration ブロックを構成します。[方程式の定式化] を
[周波数と時間]
に設定します。モデルのシミュレーションを実行します。
シミュレーション後、Busbar ブロックと Busbar (DC) ブロックの注釈、およびモデルが MATLAB® ワークスペースに出力した Simscape ログ データで、潮流計算の結果を表示できます。
電力潮流解析の実行方法を示す例については、以下を参照してください。
マシンのパラメーター化と変数の初期化
電力潮流解析から得られたデータを使用すると、Three-Phase Induction Machine および Three-Phase Synchronous Machine ブロックを正しく初期化できます。例については、以下を参照してください。
潮流アナライザー アプリ
モデルが潮流計算用に構成されている場合は、潮流アナライザーを使用して、三相の AC または DC 送電システムの電力潮流 (潮流) 解析を実行することもできます。このアプリは 3 つのテーブルを生成します。AC 接続テーブルには、AC の Busbar、Load Flow Source、Synchronous Machine、Induction Machine、および Three-Phase Load の各ブロックによって表される回路網ノードのデータが含まれています。AC/DC 母線テーブルには、すべての母線のデータが含まれています。AC 接続テーブルには、Transmission Line と Transformer の各ブロックによって表される回路網接続のデータが含まれています。アプリを開くと、テーブルには、現在のモデルまたは指定したモデル内の該当するブロック用に指定されたパラメーター値が事前に読み込まれています。電力潮流解析を実行後、テーブルには、ノードおよび接続ブロックの定常状態の電圧の大きさ、電圧の位相角、有効電力、および無効電力も表示されます。
潮流アナライザー アプリでは次のことが可能です。
電力潮流解析を実行。
Busbar、Load Flow Source、Synchronous Machine、Induction Machine、および Three-Phase Load の各ブロックの電力潮流入力ブロック パラメーター値を強調表示して更新。
Load Flow Source、Synchronous Machine、および Induction Machine の各ブロックの母線タイプを変更。
モデル内のノードおよび接続ブロックを選択して強調表示。
値を増減することによるテーブル内の列の並べ替え。
スプレッドシート、MAT ファイル、またはコンマ区切りの変数 (CSV) ファイルにデータをエクスポート。
電力潮流解析および初期化の問題のトラブルシューティング
電力潮流モデルのシミュレート時に問題が発生した場合は、以下のトラブルシューティング方法を適用してください。電力潮流モデルを段階的にテストすると、非物理的な電力潮流の要件を指定せずに済む場合があります。
内部電力潮流電源インピーダンス
ブロックの [ソース タイプ] パラメーターが [スイング母線]
、[PV 母線]
、または [PQ 母線]
に設定されているときに、Load Flow Source ブロックに内部電源インピーダンスを含めると、初期化の収束を回避できます。収束の問題を解決するには、次のいずれかの方法を使用します。
[内部ソース位相の検索範囲] パラメーターに値を指定することにより、解の範囲を制限する。
電源インピーダンスを無視する。
Load Flow Source ブロックの外部でインピーダンスをモデル化する。
界磁-回路過渡状態または回転子の初期加速
電力潮流解析用に Synchronous Machine ブロックを初期化すると、ブロックは定常状態のパーク変換された磁束変数および機械変数をすべて解きます。ただし、自動電圧レギュレーター (AVR) または調速機を誤った方法で初期化すると、界磁-回路過渡状態または回転子の初期加速という結果になる場合があります。この問題を解決するには、次を行います。
トルクと界磁電圧の初期化値を特定します。
AVR および調速機の設定に近似値を使用することにより、電力潮流解析を実行します。
隣接する Busbar ブロックによって報告された電力潮流結果で以下の値を書き留めます。
電圧の大きさ
位相角
生成された有効電力
生成された無効電力
Synchronous Machine ブロックに関して、[初期条件] 設定で、[初期化オプション] パラメーターを
[有効電力、無効電力、端子電圧、端子位相を設定]
に設定します。電力潮流結果の値を使用して、以下のパラメーターを指定します。
端子電圧の大きさ
端子電圧の位相角
端子の有効電力
端子の無効電力
AVR および調速機に必要な初期条件を MATLAB ワークスペースに表示します。マシン ブロックを右クリックし、コンテキスト メニューから、[電気] 、 [関連付けられた初期条件を表示] を選択します。関連するデータは、界磁回路の電圧 si_efd0、および機械トルク si_torque0 です。
計算された初期条件値を使用して、AVR および調速機の初期条件を指定します。
例として、次に示す表は、 ee_loadflow_sm_initialization
(例電力潮流を使用した同期機の初期化のモデル) 内の Synchronous Machine Salient Pole ブロックの隣にある Busbar ブロックの注釈付きデータを示しています。Synchronous Machine Salient Pole ブロックを開き、[初期条件] 設定をクリックして、[初期化オプション] パラメーターを [有効電力、無効電力、端子電圧、端子位相を設定]
に設定すると、指定したパラメーター値が電力潮流シミュレーションの値と等しいことを確認できます。
メモ
このモデルの電力潮流結果と一致するよう、指定したパラメーター値が既に入力されています。
物理量 | 電力潮流シミュレーションの値 | Synchronous Machine ブロックの [初期条件] パラメーター名 | Synchronous Machine ブロックの [初期条件] パラメーター値 |
---|---|---|---|
電圧の大きさ | 1.020 pu | 端子電圧の大きさ |
|
位相角 | 0.00 度 | 端子電圧の位相角 |
|
生成された有効電力 | 31.2 MW | 端子の有効電力 |
|
生成された無効電力 | 10.4 Mvar | 端子の無効電力 |
|
データをコマンド ラインに表示する場合、si_torque0 と si_efd0 のデータは Initial conditions required for steady-state (SI)
の下に表示されます。
Initial conditions required for steady-state (SI): si_efd0 = 85.4468 : V % Field circuit voltage si_ifd0 = 1168.87 : A % Field circuit current si_torque0 = 828709 : Nm % Mechanical torque si_Pm0 = 3.12416e+07 : W % Mechanical power
正しく初期化するには、85.4468
V
を界磁電圧源の値として指定し、828709
Nm
を、[シャフトのトルク] の Constant ブロック (Ideal Torque Source ブロックに接続) の値として指定します。
電力潮流シミュレーションの複数の解
AC 電気回路網を初期化するときに指定される一連の電力潮流ターゲットには、多くの場合、複数の解があります。たとえば、有効電力と電圧を指定する PV 母線ソースの場合、無効電力には 2 つの解があります。望ましい解の場合、無効電力の大きさは、通常は指定した有効電力の大きさより小さくなります。望ましくない解の場合、無効電力の大きさは、有効電力の大きさより大幅に大きくなります。
初期化によって望ましくない解が返された場合は、Load Flow Source ブロックまたは Synchronous Machine ブロックを再構成して、[内部ソース位相の検索範囲] パラメーターの最小境界の値を大きくします。Load Flow Source ブロックについては、このパラメーターは [想定範囲] 設定にあります。Synchronous Machine ブロックについては、このパラメーターは [初期条件] 設定にあります。
最適でない局所的最小値
有効電力と無効電力の需要を満たすために、最適化によって Busbar ブロックの電圧が、望ましい電力潮流の解ではなく、母線電圧がゼロ前後の望ましくない局所的最小値に解が近付く点まで下げられた場合、シミュレーションが停止してエラーが生成される可能性があります。この種の問題を回避するには、Load Flow Source ブロックまたは Synchronous Machine ブロックを再構成して [最小電圧 (pu)] パラメーターの値を大きくします。Load Flow Source ブロックについては、このパラメーターは [想定範囲] 設定にあります。Synchronous Machine ブロックについては、このパラメーターは [初期条件] 設定にあります。
周波数と時間シミュレーション モードの非互換性
電力潮流解析は、周波数と時間シミュレーション モードを使用する場合にのみ実行できます。周波数と時間シミュレーション モードと互換性のないブロックはすべて置き換えてください。詳細については、周波数と時間シミュレーション モードを参照してください。
参考
Simscape ブロック
- Busbar | Busbar (DC) | Induction Machine Squirrel Cage | Induction Machine Wound Rotor | Load Flow Source | Synchronous Machine Model 2.1 | Synchronous Machine Round Rotor | Synchronous Machine Salient Pole