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セクター境界とセクター インデックスについて

円錐セクター

最も単純な形式では、円錐セクターは 2 本のライン y=auy=bu で区切られた 2 次元領域です。

影付き領域は不等式 (y-au)(y-bu)<0 で特徴付けられます。より一般的には、このようなセクターは次のようにパラメーター化できます。

(yu)TQ(yu)<0,

ここで、Q は 2 行 2 列の対称不定行列 (Q には正の固有値が 1 つと負の固有値が 1 つ含まれる) です。Q"セクター行列" と呼ばれます。この概念は高次元にも一般化されます。N 次元空間の場合、円錐セクターは次の集合になります。

S={zRN:zTQz<0},

ここでも Q は対称不定行列です。

セクター境界

セクター境界はシステムの動作に対する制約です。ゲインの制約と受動性の制約はセクター境界の特殊ケースにあたります。すべての非ゼロ入力軌跡が u(t) の場合、線形システム H(s) の出力軌跡 z(t)=(Hu)(t) は次を満たします。

0TzT(t)Qz(t)dt<0,T>0,

この場合、H の出力軌跡は行列 Q をもつ円錐セクター内に配置されます。異なる行列 Q を選択すると、システムの応答に異なる条件が課されます。たとえば、軌跡 y(t)=(Gu)(t) および次の値を考えます。

H(s)=(G(s)I),Q=(0-I-I0).

これらの値は次のセクター境界に相当します。

0T(y(t)u(t))T(0-I-I0)(y(t)u(t))dt<0,T>0.

このセクター境界は次に示す G(s) の受動性条件と等価です。

0TyT(t)u(t)dt>0,T>0.

つまり、受動性は、次で定義されるシステムにおける特別なセクター境界です。

H=(GI).

周波数領域の条件

時間領域の条件はすべての T>0 で成立しなければならないため、等価な周波数領域の境界を導出するには若干の注意が必要であり、常に可能とは限りません。以下の

Q=W1TW1-W2TW2

を、不定行列 Q をその正の部分と負の部分に (任意に) 分解したものであるとします。W2TH(s) が正方で最小位相 (不安定な零点をもたない) の場合、時間領域の条件

0T(Hu)(t)TQ(Hu)(t)dt<0,T>0

は、次の周波数領域の条件と同等です。

H(jω)HQH(jω)<0ωR.

このため、実周波数のセクターの不等式を確認するだけで十分です。Q の分解を使用すると、これは次とも等価になります。

(W1TH)(W2TH)-1<1.

W2TH が正方になるのは Q の負の固有値の数が H(s) の入力チャネルと同数の場合であることに注意してください。この条件が満たされない場合、実周波数を確認するだけでは (一般的に) 不十分です。また、W2TH(s) が正方の場合、これは、セクター境界が成立するためには最小位相でなければなりません。

この周波数領域の特性はsectorplotのベースとなります。具体的には、sectorplot(W1TH(jω))(W2TH(jω))-1 の特異値を周波数の関数としてプロットします。セクター境界は、最大特異値が 1 未満に留まる場合にのみ満たされます。さらに、プロットには、セクター境界が満たされるのか違反されるのかや、満たされる度合いまたは違反される度合いといった周波数帯域に関する有用な情報が含まれます。

たとえば、特定のセクターについて 2 出力 2 入力システムのセクター プロットを調べます。

load("sectorExampleSystem.mat","H1")
Q = [-5.12   2.16  -2.04   2.17
      2.16  -1.22  -0.28  -1.11
     -2.04  -0.28  -3.35   0.00
      2.17  -1.11   0.00   0.18];
sectorplot(H1,Q)

MATLAB figure

プロットは、(W1TH(jω))(W2TH(jω))-1 の最大特異値が、およそ 0.5 rad/s より下の帯域と 3 rad/s あたりの狭い帯域内で 1 を上回っていることを示します。したがって、HQ で表されるセクター境界を満たしていません。

相対セクター インデックス

相対受動性インデックスの概念を任意のセクターに拡張できます。H(s) を LTI システムとし、

Q=W1TW1-W2TW2,W1TW2=0

は、Q の正の部分と負の部分への直交分解とします。これは、Q の Schur 分解で簡単に取得できます。"相対セクター インデックス" R (R インデックス) は、すべての出力軌跡 z(t)=(Hu)(t) について次を満たす最小の r>0 として定義されます。

0TzT(t)(W1TW1-r2W2TW2)z(t)dt<0,T>0.

r を増やすと W1TW1-r2W2TW2 がさらに負になるため、不等式は通常 r が十分に大きい場合に満たされます。ただし、決して満たされないこともあり、その場合、R インデックスは R=+ です。元のセクター境界が満たされるのは R1 の場合のみであることは明らかです。

R インデックスの幾何学的解釈を理解するには、行列 Q(r)=W1TW1-r2W2TW2 をもつ円錐ファミリを考えます。2 次元では、円錐の傾斜角度 θr と次のような関係にあります。

tan(θ)=rW2W1

(以下の図を参照)。より一般的には、tan(θ)R に比例します。したがって、行列 Q をもつ円錐セクターが与えられた場合、R インデックス値 R<1 は、H の出力軌跡の一部が円錐セクターを離れる前に tan(θ) を係数 R で縮小 (円錐を細く) できることを意味します。同様に、値 R>1 は、H の出力軌跡をすべて含めるには tan(θ) を係数 R で増大させ (円錐を広げ) なければならないことを意味します。これにより、明らかに、R インデックスは H の応答がどの程度特定の円錐セクターに収まるかを示す相対尺度になります。

この図では

d1|W1Tz|W1,d2|W2Tz|W2,R=|W1Tz||W2Tz|,

tan(θ)=d1d2=RW2W1.

W2TH(s) が正方で最小位相の場合、R インデックスは周波数領域で次を満たす最小の r>0 として特徴付けることもできます。

H(jω)H(W1TW1-r2W2TW2)H(jω)<0ωR.

初等代数学ではこれは以下になります。

R=maxω(W1TH(jω))(W2TH(jω))-1.

言い換えれば、R インデックスは (安定した) 伝達関数 Φ(s):=(W1TH(s))(W2TH(s))-1 のピーク ゲインであり、Φ(jw) の特異値は各周波数の "主成分" R インデックスと見なすことができます。これにより、R インデックスと周波数のプロットが特異値のプロットのように見える理由もわかります (sectorplotを参照)。相対セクター インデックスとシステム ゲインの間には完全な相似があります。ただし、この相似は W2TH(s) が正方で最小位相の場合にのみ成立します。

方向セクター インデックス

同様に、方向受動性インデックスの概念を任意のセクターに拡張できます。行列 Q をもつ円錐セクターがあり、方向が δQ の場合、方向セクター インデックスはすべての出力軌跡 z(t)=(Hu)(t) で次が満たされるような最大の τ になります。

0TzT(t)(Q+τδQ)z(t)dt<0,T>0.

システム G(s) の方向受動性インデックスは次に相当します。

H(s)=(G(s)I),Q=(0-I-I0).

方向セクター インデックスは、H の出力軌跡の周囲にぴったり合わせるために、セクターを方向 δQ にどれだけ変形させる必要があるかで測定されます。セクター境界は方向インデックスが正の場合にのみ満たされます。

共通のセクター

セクター境界を指定する方法は多数あります。次に、よく使われる式を検討し、それに対応するシステム H およびセクター行列 Q を、getSectorIndex および sectorplot で使用される標準形式に対し指定します。

0T(Hu)(t)TQ(Hu)(t)dt<0,T>0.

簡単にするために、これらの説明では次の表記を使用します。

xT=0Tx(t)2dt,

また、T>0 の要件を省略します。

受動性

受動性は次で表されるセクター境界です。

H(s)=(G(s)I),Q=(0-I-I0).

ゲインの制約

ゲインの制約 G<γ は次で表されるセクター境界です。

H(s)=(G(s)I),Q=(I00-γ2I).

距離の割合

次の "内部" の制約を考えます。

y-cuT<ruT

ここで、c,r はスカラーで、y(t)=(Gu)(t) です。これは次で表されるセクター境界です。

H(s)=(G(s)I),Q=(I-cI-cI(c2-r2)I).

基礎となる円錐セクターは y=cu に対して対称です。同様に、"外部" の制約

y-cuT>ruT

は次で表されるセクター境界です。

H(s)=(G(s)I),Q=(-IcIcI(r2-c2)I).

二重不等式

静的な非線形性を扱う場合、次の形式の円錐セクターを検討するのが一般的です。

au2<yu<bu2,

ここで、y=ϕ(u) は非線形出力です。この関係自体はセクター境界ではありませんが、明らかに次を示します。

a0Tu(t)2dt<0Ty(t)u(t)dt<b0Tu(t)2dt

これは、すべての I/O 軌跡に沿って、またすべての T>0 について成り立ちます。この条件は次で表されるセクター境界と同等になります。

H(s)=(ϕ(.)1),Q=(1-(a+b)/2-(a+b)/2ab).

乗算形式

次の形式の一般化されたセクター境界

0T(y(t)-K1u(t))T(y(t)-K2u(t))dt<0

は次に相当します。

H(s)=(G(s)I),Q=(2I-(K2+K1T)-(K1+K2T)K1TK2+K2TK1).

前述のように、次の静的セクター境界

(y-K1u)T(y-K2u)<0

は上記の積分セクター境界を示します。

QSR 散逸

次を満たす場合、システム y=Gu は QSR 散逸です。

0T(y(t)u(t))T(QSSTR)(y(t)u(t))dt>0,T>0.

これは次で表されるセクター境界です。

H(s)=(G(s)I),Q=-(QSSTR).

参照

[1] Xia, M., P. Gahinet, N. Abroug, C. Buhr, and E. Laroche. “Sector Bounds in Stability Analysis and Control Design.” International Journal of Robust and Nonlinear Control 30, no. 18 (December 2020): 7857–82. https://doi.org/10.1002/rnc.5236.

参考

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