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パワー アンプの非線形性を補正するデジタル プリディストーション

この例では、送信機でデジタル プリディストーション (DPD) を使用して、パワー アンプの非線形性の影響を打ち消す方法を説明します。この例では、パワー アンプの特徴付けの例から取得したパワー アンプ モデルを使用して、2 つのケースをシミュレートします。最初のシミュレーションでは、RF 送信機が 2 つの tone を送信します。2 番目のシミュレーションでは、RF 送信機が 100 MHz の帯域幅で 5G のような OFDM 波形を送信します。

2 つの正弦波テスト信号での DPD

次の Simulink RF Blockset モデルを開きます。システムレベル モデル PA + DPD (2 つの tone を使用)

モデルには、システムの出力基準の 3 次インターセプト ポイントのテストに使用される 2-tone シグナル ジェネレーターが含まれます。モデルには、I-Q 変調器、PA モデル、PA の出力を傍受するカプラー、およびアンテナ負荷の影響を表す S パラメーター ブロックを使用した RF 周波数へのアップコンバージョンが含まれます。受信機チェーンは、低中間周波数へのダウンコンバージョンを実行します。このシステムのシミュレーション帯域幅は 107.52 MHz であることに注意してください。

トグル スイッチが上の位置にある場合、モデルは DPD なしでシミュレートできます。

model = 'simrfV2_powamp_dpd';
open_system(model)
sim(model)

この手動スイッチは、DPD アルゴリズムを有効にするために切り替えられます。切り替えると、TOI (3 次インターセプト ポイント) が大幅に改善されます。スペクトル アナライザーで歪み測定を検査してそれらの結果を検証し、DPD 線形化によって高調波のパワーがどのように減少するかを確認します。

2-tone 信号は、DPD ブロックまたはパワー アンプに入る前に、FIR 内挿器 (PA の特徴付けの際に使用されるのと同じ FIR 内挿器) を通過します。これが必要なのは、パワー アンプ モデルが、2-tone 信号の元のサンプル レートではなく内挿後のサンプル レートに対して得られたものであり、パワー アンプによって導入される高次の非線形性をモデル化するために信号をオーバーサンプリングしなければならないためです。

全体的な目標は線形化だけでなく、DPD 入力からパワー アンプ出力までの総合ゲインを可能な限り想定ゲインに近づけることであるため、DPD Coefficient Estimator の目的の振幅ゲインは、パワー アンプの想定ゲイン (PA の特徴付けの際に取得される) に基づいて設定されます。DPD 係数を正しく推定するには、DPD Coefficient Estimator ブロックへの入力信号である PA In および PA Out が時間領域で整列していなければなりません。これは、RF システムによって発生した遅延が 0 であることを示す Find Delay ブロックによって検証されます。さらに、PA In と PA Out は、パワー アンプの入力信号と出力信号の正確なベースバンド表現なければなりません。すなわち、超過ゲインや位相シフトがあってはなりません。そうでない場合、DPD Coefficient Estimator ブロックはパワー アンプを正しく観測せず、正しい DPD 係数を生成しません。これは、アップコンバージョンとダウンコンバージョンの両方のステップのゲインが 1 になるようにし、フィードバック信号が PA Out に到達する前にカプラーによる損失と位相シフトが適切に補正されるようにすることで解決できます。

FIR 内挿器の前にあるスケール係数の目的は、線形化されたパワー アンプを有効活用できるようにすることです。DPD を有効にしても、2 つの望ましくないシナリオが発生する可能性があります。線形化されたシステムの入力範囲に対して 2-tone 信号が非常に小さいと、線形化されたシステムの増幅機能を十分に活用できない場合があります。あるいは、2-tone 信号が非常に大きいと、PA の特徴付けの際に観測された範囲外でパワー アンプ モデルが動作し、パワー アンプ モデルが物理デバイスの正確なモデルにならない場合があります。ここでは、次のヒューリスティックなアプローチを使用して、スケール係数を設定します。

DPD ブロックがパワー アンプを完全に線形化して想定振幅ゲインを達成すると仮定すると、DPD ブロックが許容する最大入力振幅は、PA の特徴付けの際に観測される最大パワー アンプ出力振幅を想定振幅ゲインで除算した値になるはずです。それで、DPD ブロックの前のスケール係数は、DPD ブロックで許容される最大入力振幅を PA の特徴付けの際に観測された内挿信号の最大振幅で除算したものである必要があります。

このシステム モデルには、正規化された PA の最大入力振幅を計算するブロックがあります。それが 1 に等しい場合、RF システムに入るベースバンド信号の最大振幅が、PA の特徴付けの際に観測された PA の最大入力振幅に等しいことを意味します。したがって、正規化された PA の最大入力振幅が 1 より小さい場合、上記のヒューリスティックなアプローチによって設定されたスケール係数が増加する可能性があります。正規化された PA の最大入力振幅が 1 より大きい場合は、スケール係数を小さくする必要があります。

set_param([model '/Manual Switch'], 'action', '1')
sim(model)

DPD Coefficient Estimator ブロックで定義された次数とメモリの深さを変更することにより、パフォーマンスと実装コストの間の最適なトレードオフを見つけることができます。

close_system(model,0)
close all; clear

5G のような OFDM 波形での DPD

次の Simulink RF Blockset モデルを開きます。システムレベル モデル PA + DPD (5G のような OFDM 波形を使用)

この Simulink モデルの構造は、前述の Simulink モデルの構造と同じです。増幅される信号が、2-tone 信号ではなく、5G のような OFDM 波形になります。オーバーサンプリングは、ベースバンド信号生成ブロック内の OFDM 変調器で行われます。スペクトル アナライザーは TOI の代わりに ACPR を測定します。また、増幅された OFDM 波形の EVM と MER を測定するサブシステムを追加しています。

コンスタレーション プロット測定が示すように、システムは DPD 線形化なしで平均変調誤差比 24.4 dB を達成します。

model = 'simrfV2_powamp_dpd_comms';
open_system(model)
sim(model)

この手動スイッチは、DPD アルゴリズムを有効にするために切り替えられます。切り替えると、平均 MER が大幅に向上します。

set_param([model '/Manual Switch'], 'action', '1')
sim(model)

close_system(model,0)
close all; clear

参考文献

  1. Morgan, Dennis R., Zhengxiang Ma, Jaehyeong Kim, Michael G. Zierdt, and John Pastalan. "A Generalized Memory Polynomial Model for Digital Predistortion of Power Amplifiers." IEEE® Transactions on Signal Processing. Vol. 54, No. 10, October 2006, pp. 3852–3860.

  2. Gan, Li, and Emad Abd-Elrady. "Digital Predistortion of Memory Polynomial Systems Using Direct and Indirect Learning Architectures." In Proceedings of the Eleventh IASTED International Conference on Signal and Image Processing (SIP) (F. Cruz-Roldán and N. B. Smith, eds.), No. 654-802. Calgary, AB: ACTA Press, 2009.