Bluetooth 6.0

Bluetooth 6.0 とは

Bluetooth® 6.0 は Bluetooth の最新メジャーリビジョンで、近距離の電子デバイス同士が無線でデータをやり取りできるようにします。Bluetooth 6.0 は 2024 年 9 月に Bluetooth Special Interest Group (SIG) によって発表されました。Bluetooth 6.0 の主な特徴は、次のとおりです。

  • チャネル サウンディングで、正確な距離測定を実現
  • 判定型アドバタイジング フィルタリングにより、チャネルスキャンの効率を向上
  • アドバタイザー監視により、通信圏内外を行き来するデバイスのエネルギー効率を改善
  • インターフレーム スペースの更新により、より高いスループットと優れた共存管理の両方を実現

SIG によると、Bluetooth チャネル サウンディングは、より正確な距離認識、10 cm の測距精度、強化されたセキュリティを実現します。

Bluetooth チャネル サウンディングによる測距

Bluetooth 6.0 以前は、受信信号強度インジケーター (RSSI) 測定を用いて、リンク上の自由空間パス損失を仮定し、2 つの Bluetooth デバイス間の距離を推定していました。しかし、マルチパスや遮蔽効果によってさらに信号損失を受けた場合、実際よりも距離が大きく推定されてしまうことがありました。

Bluetooth 6.0 では、距離を正確に測定するために 2 つの方法が導入されています。

  • ラウンドトリップ時間 (RTT) 測定
  • 位相ベース測距 (PBR)

RTT

Bluetooth 6.0 の RTT 測定法では、2 つのデバイス間の信号の伝搬時間 (TOF) が RTT の半分であることを利用しています。したがって、距離 d は次のように正確に計算できます。

\(d=(\tfrac{RTT}{2})*c\)

ここで c は光速です。この手法では、デバイス 1 (イニシエーター) から送信信号の出発時間 (TOD)、デバイス 2 (リフレクター) への送信信号の到着時間 (TOA)、デバイス 2 からの帰還信号の TOD、デバイス 1 への帰還信号の TOA を正確に測定する必要があります。次の図は、信号の経路と時間を示します。時間 tI はイニシエーターにおける RTT を表し、時間 tR はリフレクターが信号を受信してから次に伝送するまでの時間を表します。

Bluetooth 6.0 では、2 つのデバイス間の出発時間と到着時間を使用して、信号の伝搬時間を計算します。

イニシエーターとリフレクターの間のラウンドトリップ伝搬時間を用いた距離測定。

PBR

Bluetooth 6.0 の PBR 測距法では、周波数の異なる 2 つの信号を用いて距離を測定します。これらの信号は単純なトーン、つまり正弦波です。受信した 2 つのトーン間の位相差の関数として、距離を計算できます。ある位相差の値は無限に多くの距離に対応し得るため、Bluetooth 6.0 対応デバイスは、その位相差条件を満たす最も近い距離を選択します。PBR の想定範囲は約 150 m です。また、3 つ以上の Bluetooth 6.0 ロケーターノードが RTT 法や PBR 測距法に用いられると、三辺測量によって追跡対象デバイスの位置を特定できます。

Bluetooth 6.0 では RTT や PBR による距離測定を仕様として示していますが、チャネル サウンディングにおいて特定の距離推定アルゴリズムを規定しているわけではありません。この柔軟性により、デバイスメーカーは、さまざまなユースケースに合わせてソリューションをカスタマイズすることができ、計算量と必要な精度のバランスを考慮し、さまざまな無線環境に適応させています。

Bluetooth 6.0 で強化されたセキュリティ対策

Bluetooth 6.0 デバイスは、チャネル サウンディングを利用することで、スプーフィングや中間者攻撃に対するセキュリティの恩恵を受けています。その理由は次のとおりです。

  • ビットパターンが、標準で規定された決定論的乱数ビット生成器でランダム化される。
  • 送信電力を変動させて、攻撃者の受信 S/N 比を下げることができる。
  • デバイスで攻撃検出システムを展開することができる。
  • RTT と PBR を組み合わせることで、距離測定値に冗長性を持たせ、なりすましによる結果を容易に検出できる。

Bluetooth 6.0 のその他のセキュリティ強化には、次のようなものがあります。

  • 高度暗号化基準 (AES) を使用
  • 判定型アドバタイジング フィルタリングにより、不要なデータ伝送を削減し、意図しない受信者への露出を抑える
  • 楕円曲線 Diffie-Hellman を使用して、2 つのデバイスをペアリングする際に安全にキーを生成する

Bluetooth 6.0 のユースケースと応用例

Bluetooth 6.0 チャネル サウンディングは、次のような用途に活用できます。

  • 車両用キーレスエントリー。リモコンまたは携帯電話と車両のアンカーポイント間の通信によって実行
  • スマートロック。承認されたデバイスがロックの指定範囲内にある場合にのみアクセスを許可
  • ジオフェンシング。指定地域へのアクセスを制限
  • 倉庫管理。在庫を監視して物流を管理
  • アセット追跡。ほぼすべてのものが対象

キーレスエントリー

スマートロック

ジオフェンシング

倉庫管理

アセット追跡

これらのユースケースは、スマートホーム デバイス、医療機器、サプライチェーン管理、物流などの用途に対応しています。

Bluetooth 6.0 と MATLAB

チャネル サウンディング

MATLAB® と Bluetooth Toolbox を使用すれば、測距シナリオをモデル化し、Bluetooth 6.0 で規定されている RTT や PBR の測距法を用いて距離を推定できます。任意の数の Bluetooth ロケーターノードを指定し、RTT または PBR のいずれかを用いて、2D または 3D で位置推定を実行できます。

Bluetooth 6 の手法を用いて、ロケーター位置、アセット位置と位置履歴、推定されたアセット位置と位置履歴のシミュレーションを実行した 3D プロット。

RTT または PBR を用いたロケーターノードで追跡されている移動アセットの推定位置と実際の位置を可視化しています。(MATLAB コードを参照)

インターフレーム スペーシング

Bluetooth 6.0 の可変インターフレーム スペーシングが非同期接続指向 (ACL) 接続におけるスループットやレイテンシに与える影響を調べることもできます。また、接続型のアイソクロナス ストリーム (CIS) でも、IFS を構成できます。


参考: Bluetooth Toolbox, Communications Toolbox, Bluetooth 干渉, Bluetooth mesh, 無線ネットワーク, マルチオブジェクト追跡, 超広帯域 (UWB)