ケーブル不要: 電気自動車の新しい充電方法
マクラーレン史上最速のロードカーをワイヤレスで充電
英国の自動車メーカーであるマクラーレンの Speedtail Hyper-GT は、マクラーレン史上最速のロードカーです。フロリダ州にある NASA の滑走路であるジョニーボマー試験場で行われたテスト走行の終わり間近に、ガソリンと電気のハイブリッドであるこの流線型のスポーツカーは時速 403 キロメートル (時速 250 マイル) を記録しました。2020 年の量産モデルの諸元表では、13 秒で時速 0 キロメートルから 300 キロメートル (186 マイル) に到達できると記載されています。
マクラーレンは、この空気力学を応用した 3 人乗り自動車の軽量バッテリーを未使用時に充電するため、Lumen Freedom との提携により、同社の電気自動車ワイヤレス充電 (WEVC) システムを使用しています。Speedtail は、このシステムを組み込んだ世界初の自動車です。
電話やスマートウォッチなどの小型デバイスでは、電磁誘導 (ワイヤレス) 充電が一般的になりつつありますが、Lumen Freedom の Speedtail 用無線システムは、電気自動車向けの独自のソリューションであると、Lumen Freedom のジェネラル マネージャー Rod Wilson 氏とソフトウェア チーム リードの Radek Pesina 氏は述べています。
ワイヤレス充電は、電気自動車の利用者、特に障害者にとって使いやすいものとなっています。また、このシステムには、都市の美観を向上させ、既存のプラグイン充電ステーションよりも狭いスペースに設置できるという利点があります。
将来的に、このワイヤレス充電システムは、信号で停止中の車両や高速道路を走行中の車両への充電を可能にし、走行可能距離に対するドラバーの不安を払拭します。Wilson 氏は次のように述べています。「将来的には、多岐にわたる充電形態が提供されるでしょう。当社では現在、静的充電を提供していますが、半動的充電への対応も始めています。最終的には、完全な動的充電を提供し、時速 100 キロメートル以上の速度で走行中でも充電できるようになります。」
Lumen Freedom にとって Speedtail のプロジェクトは開始点にすぎません。この量産対応システムは、自動車の設計、輸送、さらには現在の電力網を変革する可能性を秘めています。
充電性能のテスト
コードやプラグ、場所を取る充電ステーションの代わりに、WEVC システムでは電磁誘導による磁界共鳴結合を使用します。電源からの電流は、車両下の地面に設置された送電パッドから、エアギャップを介して車両に取り付けられた受電パッドに移動します。送電効率は 92% 以上です。
地面と車両に設置されたこれらの機器は無線で相互に通信します。ドライバーは、10 インチの車載タッチスクリーンまたはスマートデバイスのアプリを使用して、充電システムを監視できます。さまざまな車高空間に対応できるため、このシステムは、ハイパフォーマンスのスポーツカー、家庭向けセダン、SUV などのあらゆる種類の車両との互換性があります。
2016 年の創業以来、Lumen Freedom は WEVC の概念を向上させ、世界初のシングルボックス 11 KW システムを開発しました。Lumen Freedom は現在、Witricity から完全な認定を受けたライセンシーです。
Lumen Freedom では、物理試験用の多くのレジームを採用しています。ガントリーと呼ばれる大きなアルミニウムのフレームを高電圧の Regatron 電源システムに接続して、現実世界での運用および電力要件のシミュレーションに役立てています。Pesina 氏は次のように述べています。「周囲に漏れている電力量、および実際に結合されている送電量を把握できる必要があります。」
電気自動車のワイヤレス充電では、高度なハイブリッド測位技術がシステムに組み込まれているため、ベースパッド上で車両の位置がずれていても問題はありません。Lumen チームは、コンピューターで制御されたステッピングモーターを使用して位置合わせをテストし、位置合わせ試験の高さ、X 位置、Y 位置を調整しました。
シミュレーションを利用することで、チームは、極端な位置のずれがパッドセンサーで検出された場合に充電システム全体を自動的にオフにする安全プロトコルをシステムソフトウェアに組み込むことができました。WEVC システムには、地面のパッド上にあるペーパークリップほどの小さい金属体も検出できる異物検出システムが組み込まれています。ドライバーには、アプリを介して障害物に関するアラートが通知されます。異物が取り除かれるまで、システムはシャットダウン状態になります。
モデルベースデザインによる開発の加速
Wilson 氏は、自動安全制御は、Lumen Freedom の製品だけでなく、すべてのシステムの標準機能であると早くから指摘しています。ただし、モデルベースデザイン (MBD、モデルベース開発) を導入することで、制御の開発プロセスを加速させました。
コアとなるソフトウェア モデル、そして地面に設置した機器と車両側を含むシステム全体のメインロジックは、MATLAB® および Simulink® を使用して設計したと Pesina 氏は述べています。
特に、車両と地面の機器間の通信を管理する電気自動車通信コントローラーの開発では、MATLAB および Simulink が大きな効果を発揮しました。このコントローラーは、重要なメッセージを車両充電パッドおよび車両の内蔵バッテリー マネジメント システムに送信します。Pesina 氏の説明によると、この通信では、物理的に接続されたコントローラーから Wi-Fi ベースのコントローラーに移行する必要がありました。
Lumen の開発者は、メインのステートマシンをモデルに迅速に組み込むことができました。Pesina 氏は次のように述べています。「3~4 日ほどで初期ドラフトが完成しました。完全に機能し、ステートマシンが C コードで実行していたものと同じアクションが実行されました。」
新たな一連の要件変更が生じたときは、ステートマシンを全面的に再モデル化する必要がありました。開発者はそれを 1 日で完了しました。「C コードでの記述と比べて桁違いに高速でした。」と Pesina 氏は続けます。「シミュレーションとテストがはるかにシンプルであったことは言うまでもありません。」
通信モデル、パワー エレクトロニクス、ステートマシンをモデルに組み込むことで、システムの動作全体のシミュレーションが容易かつ安全になりました。開発者は、送電することなく、テストベンチでサイクル全体を通してワイヤレス充電システムを実行できました。これにより、ガントリーなど、高電圧および通電電流レベルを使用した個別の制御されたテスト用の機器が不要になりました。
ワイヤレスによる革新
Lumen Freedom のチームは、OEM およびインフラストラクチャ プロバイダーで WEVC システムを導入し、革新的な変化を起こすことを目指しています。メリットの 1 つとして、電気自動車のバッテリーサイズが最終的に小型化します。「ワイヤレス充電が普及し、ますます利用しやすくなっていくにつれ、車に多くのエネルギーを搭載する必要がなくなるため、バッテリーサイズが小型化していくものと見込まれます」と Wilson 氏は言います。
ワイヤレス充電により、V2H および V2G の実現に近づくことも考えられます。EV は家庭への電力供給の補助となったり、電気を電力網に販売するルートになったりするようになると Wilson 氏は予測しています。ユーザーは、バッテリーストレージを必要な保持レベルに設定し、車または家からボタンを押すだけで、エネルギーを移動できます。満充電された車両から、照明、テレビ、小型家電に電力が供給されます。電力使用量の大きい家電については、システムは電力網からの電力の使用に切り替えます。
Wilson 氏は次のように述べています。「そのテストおよび概念実証はすべて無事終了し、プラグインシステムが導入されている多くの国で実際に展開されています。当社のシステムは、その移行の需要が生じたときに対応できるでしょう。」
このようなシステムによって電力網が安定化し、エネルギー企業が、停電のよく起こる地域に配電するための追加のエネルギー供給を得られると Pesina 氏は予想しています。
V2G は、再生可能エネルギーの導入を促進する可能性があります。電力網からの電力供給がなくなっても Tesla Powerwall が家庭に電力を供給できることを Pesina 氏は示しました。電気自動車も同様に機能します。地域的な停電が生じたときに家庭の太陽光発電システムを充電できます。
WEVC システム自体もさまざまな場所で使用されるようになってきています。「屋外でアスファルトの下に埋め込まれていても、充電パッドは車両に送電し続けます。雪や雹に覆われても問題ありません」と Wilson 氏は言います。
Lumen Freedom は、英国のゼロエミッション対応タクシーや小型商用車向けの半動的な充電を開発しています。半動的な充電により、車両を停止して接続する必要がなくなります。代わりに、このシステムにより、タクシーが待ち行列を進む間にタクシーが充電されます。タクシー乗り場の列にある各スポットに進むたびに少しずつ充電されます。
完全に動的な充電も実現に近づいています。ヨーロッパで実施された Fabric と呼ばれる複数年にわたるプロジェクトでは、標準的な運転速度で移動している EV に対する動的な無線送電を分析しました。2018 年に完了したこのテストでは、フランスにある長さ 100 メートルの試験場を使用してシステムをテストしました。このテストにより、動的な無線送電は、家庭用乗用車はもちろん、都市バスおよび長距離貨物鉄道で中期的に実現可能であることが示されました。動的な充電により、走行可能距離の不安が取り除かれ、州間高速道路で長距離走行中に止まることなくシームレスに充電できるようになります。
EV のワイヤレス充電は、自律型車両のテストの増加に伴い台頭してきています。2020 年 8 月、ミシガン州は、アナーバーとデトロイトの間に自律型車両専用の 64 キロメートル (40 マイル) の車道建設を検討する計画を発表しました。複数の大手自動車メーカーが情報を提供することに合意しました。共有車から始め、個人乗用車や貨物車に拡大することが想定されています。
Wilson 氏は、走行中に充電できる自律型電気自動車用に、世界中の都市でこのような地域が指定されるようになると予想しています。同氏は次のように述べています。「その時は突然やってくるでしょう。大きく広がる輝かしいワイヤレスの未来を楽しみにしています。」